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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第05話「集え、獣耳学園」
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四時限目『集う者達』

 ~ 四時限目『集う者達』 ~


 私立獣耳学園体験入学二日目。

 その日は料理部主催による新入生歓迎の料理が振る舞われ、後に獣耳学園の恒例となる大宴会が開かれていた。

「いやしかし、聞きしに勝るフリーダムっぷりだなこの学園は」

 手元の紙コップを見ながらエゼルは驚きの表情を見せていた。

「まぁまぁ、良いじゃないか。ジュースが振る舞われるぐらいは大目に見ようぜ」

 相槌を打つようにエオルがそんな言葉を述べながら紙コップの中身を口にする。

「ジュース、ねぇ」

「炭酸入りの麦茶だと思えよ」

 彼等が持っているの紙コップの中身はジュースである。

 公式にはそう言う事になっている。

 少なくともこの場に居る者は全員そう言う事にして置こうと考えていた。

「エゼルはこう言うの嫌いか?」

「いいや、別に嫌いって訳じゃないぞ」

「だったら楽しもうぜ、この学園は楽しんだ者が勝者らしいからな」

「郷に居れば郷に従えってか」

 そう述べながらエゼルも手にしている紙コップの中身を飲み干すのであった。

「ところでエゼルさん」

「何だいエオルさん?」

「俺達は一ヵ月ほど一緒につるんで来た訳だが、ここらで仲間を増やさないか?」

 二人よりも三人の方がやり易い事もあるだろうとエオルは述べる。

「誰か宛てがあるのか?」

「ああ、昨日新聞部の部室で知り合った奴が居てな。こいつがこれまた面白い奴で組むなら今の内だと思うんだ」

 組織に置けるグループと言うのは一度組んでしまえば後で抜けたり加わったりするのは難しい場合が多い。

 そのためエオルは今の内にその面白い奴と組んでしまおうとエゼルに提案する。

「エオルが面白い奴って言うなら本当に面白い奴なんだろうな。俺は全然オッケーだぜ」

「おー、決まりだな。んじゃ早速そいつを探して来るからちょっと待っててくれ」

 エゼルは解かったと返事をするとエオルは校舎の中へと姿を消す。

「(……んー、一人になると流石に暇を持て余すな)」

 未だ親しい交友関係を持っているのがエオルぐらいしか居ないエゼルは途端に場の疎外感の様なものを感じるのだった。

「エゼル」

 そんなエゼルに声を掛ける者が居た。

「エリザ?」

 虎人エリザベート。

 つい先日大温室で顔見知りとなった白髪の美少女である。

「一人か?」

「ああ、今連れが席を外した所なんだ。そっちは?」

「私には協調性と言う物が無い。よって連れも居ない」

「そうなの?」

 断言にもエリザのその言葉にエゼルは苦笑しながら相槌を打つ。

「でも、その割には声を掛けて来たよね?」

 言葉のキャッチボールとして渡されたボールを返す程度の気持ちでそう問い掛けるエゼルだったが

「……そう、だな」

 エリザは驚きの表情と共にそのボールを受け止めるのだった。

「いや、そんな反応されるとこっちが困るんだけど」

「ああ、すまない。……どうにも、お前には迷惑ばかり掛けて居るな」

「別に迷惑って訳じゃないけどね」

 エゼルがエリザに抱いた第二印象、それは「マイペースな女の子」だった。

 それがおそらくエリザの長所である事を感じ取ったエゼルはエリザに対してマイペースで対応する事にした。

 エゼル自身が割とマイペースな性格であるため、そうした方が彼女と合うであろうと考えたからだ。

 そう考えては居たのだが

「迷惑ついでに頼みがある」

「何?」

「私と一緒に寝てはくれないか?」

「……はい?」

 その一言はエゼルを戸惑わせるに十分であった。

「えーっと、説明が欲しいんだけど……」

「他意は無い。昨日と同じ様に傍に居てくれるだけで良い」

 説明を求めた筈なのだが、エリザのその言葉はエゼルの頭の上に更にクエスチョンマークを乱舞させるのであった。

 そんなエゼルを余所に

「エリザッ!!」

 怒号に近い声を上げる者が居た。

「シロウか、何の用だ?」

 そこには件の戦場帰りの少年、狼人シロウが立っていた。

「事情は良く解からないが人に迷惑を掛ける行動は控えろ」

「お前には関係あるまい」

「俺は園長よりお前の事を頼まれている。よって俺には園長の信頼に応える義務と責任がある」

「母上にか……」

 シロウが園長と呼ぶ人物がエリザの母親である事は読み取れたが、そこには何かしら複雑な事情があるらしくエリザは暫し考え込むが

「如何に母上の頼みとは言えお前に指図される覚えは無い。私が何処で誰と何をしようと私の勝手だ」

 そんな結論を導きだす。

「度が過ぎる様であれば無理にでも止めて良いとの許可を得ている」

「面白い、やってみろ」

 一触即発。

 これが漫画であれば二人の間には火花が飛び散っていた事だろう。

「えーっと、俺はどうすれば良いのかな?」

 当事者である筈のエゼルは一人蚊帳の外に放り出され、今にも激しいバトルが展開されそうな雰囲気を見守る事しか出来なかった。

「おーい、エゼルー」

 そんなエゼルの元にエオルが姿を現す。

「シロウの奴何やってるんだ?」

「あー、もしかしてエオルが言ってた面白い奴って……」

 一人で現れたエオル、そして発せられたその疑問の声を聞き、エゼルは目の前の狼人の少年がエオルが述べていた人物である事を察するのだった。

「おう、面白い奴だろ」

「んー、まだ良く解からん」

 いきなり現れて知り合いと険悪なムードになられてはそんな感想を述べる事しか出来なかった。

「とりあえず止めるか」

「異議無し」

 このままバトルをされても困ると言う事でエゼルはエリザを、エオルはシロウを止めに入るのだった。

「こいつは狼人シロウ、さっきも言ったけど昨日新聞部で知り合った面白い奴だ」

「シロウだ」

「こっちは虎人エリザベート、昨日大温室で知り合いになったちょっと変った子だよ」

「エリザで構わない」

 互いに軽く紹介を済ませた後で

「それで、エリザとシロウは知り合いなのか?」

 エゼルはエリザにそんな問い掛けをする。

「私とシロウは西部にある同じ施設の出身だ。見ての通りの堅物で昔から私のやる事に口出しをしてくる口うるさい奴だ」

 エリザのそんな皮肉交じりの言葉をシロウは黙って聞き続ける。

「と、エリザさんは言ってるがどうなんだ?」

 今度はエオルがシロウにそんな問い掛けをする。

「前半は相違無い。だが、俺は頼まれて口出ししているだけだ」

 問われるのを待ち反論が無い所を見る限り堅物である事は本人も自覚しているらしい。

「なるほど、エオルが言う様に面白そうな奴だな」

 始めは戸惑いもあったが、エゼルのシロウに対する第一印象はそれ程悪いものではなかった。

「所でエゼル君、君はそちらのエリザさんとどう言う関係なんだい?」

「は?」

 エオルの突然の問い掛けにクエスチョンマークを浮かべるエゼルであったが

「お前まさか体験入学で彼女が出来たとかそんな漫画みたいな事言い出さないだろうな!?」

 問い詰めるエオルの表情は鬼気迫るものだった。

「お、落ち着け、さっきも言ったが昨日大温室で知り合っただけの仲だよ」

「本当か!? 何かあったりしないだろうな!?」

「昼寝していた所を起こした程度だよ」

 何をそんなにむきになっているんだと言わんばかりにエオルを宥めるエゼルであったが

「待て、今の話は本当か?」

 その言葉に反応したのはシロウだった。

「え、何が?」

「エリザが昼寝をしていたと言う話だ」

「ああ、うん。近付いても起きなかったから具合が悪いんじゃないかと思ったぐらいだよ」

「近付いても起きなかった?」

 エゼルの言葉を聞きシロウは険しい表情を見せる。

「え、何? 俺何か悪い事言った?」

 シロウに問い掛けてもおそらく答えては貰えないだろうと考え、エゼルはエリザに問い掛ける。

「エゼルは何も悪く無い。いや、寧ろ良い」

「……あー、何かさっきも似た様な話があったけど、エリザが寝ると何かあるの?」

 エリザの睡眠には何か訳がある。

 絶妙な空気の読み方でその事を察したエゼルはエリザではなくシロウにその答えを求める。

「エリザは不眠症なんだ」

「不眠症?」

 不眠症とは平常時と比較して睡眠時間が短くなり、身体や精神に不調が現れる病気の事を指す。

「通常とは違い、彼女の場合は単純に眠れないだけで身体や精神に不調は見られない。だが周囲に人が居ると極端に眠りに落ちる事が出来なくなる。人が居ないからと言って眠れる訳でもないがな」

「え、でも……」

 昨日は自分が近付いても起きる気配が無かったとエゼルは問おうとするが

「極々稀に誰かが居てくれた方が眠れる場合がある。医者が言うには人と人の脳波だの何だのの相性があるらしい。エゼルはその極々稀な相手なのだろう」

「あー、それで一緒に寝てくれって言ってたのか」

 ここに至りエゼルはエリザの言動に合点が行った。

 眠れない辛さがどれ程のものかは解からないが、不眠症の人達にとっては眠ると言う行為はとても重要な事なのだろう。

「なるほど、そう言う事情なら出来るだけ協力するよ」

 事情が事情だ。

 まだ昨日今日の知り合いではあるが、今後三年間同じ学園に通う仲間として出来るだけの協力はするとエゼルは述べる。

「助かる」

 そのエゼルの心遣いにエリザは感謝の言葉を述べるのだった。

「だが一方的な関係は私の望む所ではない。私に出来る事があれば何でもしよう、遠慮なく言ってくれ」

「え? んー、そうだな」

 エゼルとしては善意で述べた言葉であったために初めから見返りなど求めてはいなかったのだが、見返りを求めた方がエリザが納得すると言うのであればとその見返りを考える。

「……あー、じゃあ」

 ここで潜めていた悪意、もとい悪戯心が僅かに芽生える。

「俺の彼女になってくれ、とか」

 笑いながらこれは冗談だと言わんばかりにそんな言葉を述べるエゼルだったが

「……すまない、私はお前の恋人にはなれない」

 沈痛な面持ちでエリザは申し訳なさそうに答えを返す。

「うう、そう言った反応の方が微妙に傷付くんだけど……」

 冗談を真面目に取られてその上でお断りされたのでは面目がなく、エゼルは悲しみの涙を流すのだった。

「いや待て、私はお前の恋人にはなれないが、代わりに私が寝ている間はこの体を好きに使ってくれて構わない」

「……はい?」

 本日何度目になるだろう大きなクエスチョンマークがエゼルの頭上に姿を現す。

「男の欲求は理解しているつもりだ。無闇に傷付けないと約束してくれるなら私はこの体を差し出そう」

「エリザ、何を言っている」

 エリザのその言葉に真っ先に反応を見せたのはシロウだった。

「他意は無い、言葉通りの意味だ」

「それこそ問題がある。見ろ、彼も困っているじゃないか」

 シロウが向ける視線の先には今だクエスチョンマークを浮かべるエゼルの姿があった。

「考え直せ、何時からお前はそんなに軽率な行動を取る様になった」

「軽率? ふん、女に誘われて入る部活を決めたお前に言われる筋合いは無いな」

「なっ!?」

 エリザのその言葉に絶句するシロウ。

 その反応を見る限り、どうやらエリザのその言葉は図星であり真実であるらしい。

「兎に角、エゼルが善意で私に協力してくれる以上、私は彼に取って何らかの有益な見返りを彼に渡したいだけだ」

 どうやらエリザの意思は固いらしくその一点だけは譲りそうに無かった。

「……うーん」

 そんなエリザの申し出に悩むエゼル。

「エーゼールー、お前まさか美味しく頂きますとかそんな羨ま怪しからん事は言わんよな」

 笑顔で血管を浮かべながら嫉妬の表情を見せるエオルであったが

「言わないよ」

 そんなエオルを他所にエゼルは冷静な反応を返す。

「エリザ。悪いけど今エリザが言った見返りを俺は貰うつもりは無い」

「私では不服か?」

「いや、男としては結構かなり願ったり叶ったりな見返りなんだけど、その交換条件を飲んだら俺とエリザは対等な関係じゃなくなると思うんだ。俺は三年間の学園生活をより楽しむためにこの学園に来た。だから三年間の学園生活はエリザとも仲良くやって行きたいし、交換条件を出すなら等価値じゃないと駄目だと思う」

「……そうか」

 この取り引きの主導権はエゼルにある。

 そのエゼルがこの条件は不当だと言うのであればエリザには何も言う事は出来ない。

「解かった。では他の条件、他の方法を考える」

「そうしてくれると助かる。でも眠れなくて辛いなら何時でも言ってくれ、協力するから」

 エゼルのその言葉を聞き、「良案を携えて出直してくる」と述べエリザは皆の前から姿を消す。

「何と言うか、噂以上に変わった子だな。でも、くっそー、エゼルばっかりずるいぞ」

 立ち去るエリザを横目にエオルは悔しそうな表情を見せる。

「お前はさっきから何なんだよ」

 執拗に嫉妬心を見せるエオルにエゼルは半ば呆れ気味だった。

「お前こそ何言ってるんだ。こんな美味しい話漫画かアニメでしかありえねぇよ」

「お前ね……」

 この時点で半ばを通り過ぎ完全に呆れたとエゼルは語るのだった。

「……エゼル」

 そんなエゼルにシロウが話し掛ける。

「君が善良な人で良かった。エリザの件、感謝している」

「別に感謝されるような事はしてないと思うけど、まぁ、どう致しまして」

 本人が述べた様にエゼル自身は特に深い考えがあってした事ではなかったが、どうやら感謝された様なので相槌を打つのだった。

「エオルから話は聞いている。俺としても君の様な人物とパーティを結成する事は吝かではない。よろしく頼む」

「何か微妙な言い回しが気になるけど、こちらこそよろしく」

 こうして結成されたこのパーティは後に異色の三馬鹿トリオと称され、生徒会長ハヤトを支え生徒達を代表する面々となるのだった。


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