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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第05話「集え、獣耳学園」
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三時限目『眠れる大温室の美少女』

 ~ 三時限目『眠れる大温室の美少女』 ~


 三月中旬、日曜日。

 私立獣耳学園の校庭に未だ着慣れぬ学生服を身に纏った若者達が集まっていた。

 来年度、獣耳学園の生徒となる新入生達である。

 その日は先達て獣耳学園に慣れて貰おうと学園側が体験入学と言うイベントを開催していた。

「知らない奴が結構居るな」

「寮に入ってない奴も居るからな」

 エゼルとエオルも新入生としてそのイベントに参加していたのだが、同じ新入生とは言えこれが初顔合わせの者も多く、寮生と地元でさらに壁が生まれどうしても互いに一歩距離を置いてしまう。

「あー、テステス……」

 そんな新入生達の前にスピーカーを手に持つ一人の男子学生が現れる。

「みんな、今日は体験入学に良く来てくれた。すでに見知った者も居るかと思うが一応自己紹介しておく、俺は私立獣耳学園生徒会長の人族ハヤト」

 人族ハヤト。

 その名を聞き新入生達の中でざわめきが起こる。

 長くなるので割愛するが、新入生でその名を知らぬ者は極々僅かであろう。

 壇上にてハヤトは簡潔に今日の要点を説明して行き

「ではこれにて一先ず解散とする」

 その言葉を持って新入生体験入学の一日目がスタートするのであった。

「やっぱり印象は大して変わらないな」

 壇上から降りるハヤトの姿を見てエゼルはそんな感想を述べる。

「ん、エゼルはハヤト生徒会長と知り合いなのか?」

「いや、道を尋ねた程度だよ」

 この街を訪れて道を尋ねた相手がハヤトであった事をエゼルは説明する。

「印象が変わらないって事は裏表があんまり無い人なのかな?」

 普通は私的な場と公的な場では人の印象が変わるものだがとエゼルは述べるが

「裏表ねぇ。裏と表が離れ過ぎてて解からないだけじゃないかな」

 エオルは小さくそんな事を呟くのだった。

「エオルはこれからどうするんだ?」

「俺は新聞部を見てみようと思ってる」

「新聞部?」

「人が集まれば組織が生まれ派閥が生まれる。組織に所属する以上は何処かの派閥に加わらないと上手く立ち回れなくなる。なら俺は少しでも情報が得られる派閥に属したい」

「なるほど」

 エオルは常に選択肢が多くなる選択を選ぶ傾向がある。

 約一ヵ月程度の友人関係だが、エゼルは何度もそう言ったエオルの行動を目撃しており、その性格もある程度掴め始めていた。

「エゼルはどうするんだ?」

「生徒会長が言ってた様に折角だから一年があまり足を踏み入れる事がなさそうな場所を見て回るよ」

 先のハヤトの説明にもあったが、いざ学園生活が始まれば行かない場所や行き辛い場所は多々出来て来るだろう。

 ならばそうなる前にそう言った場所を見て回った方が面白そうだとエゼルは語る。

「オッケー、じゃあとりあえず昼までは別行動だな」

「ああ」

 そんな言葉を述べ合い二人は別行動を取るのだった。



 同刻。

「失礼、少々お聞きしたいのですが」

 一人の新入生女子が生徒会員が在中するイベント本部を尋ねていた。

「どうかしましたか?」

 そんな新入生女子を生徒会長ハヤトと生徒会副会長コゥは何時もと変わらぬ態度で対応する。

 それは二人だからこそ出来た対応だと言えただろう。

 何故ならば尋ねてきた新入生女子の容姿には特筆すべき特徴が多々あったからだ。

 新入生女子は虎人であり、身長は女子である事を考えればやや高めでスタイルはどちらかと言えば細身に部類していた。

 年齢を踏まえた上で見ても美少女と言うよりは美人と言えただろう。

 だが真に特筆すべきはその髪の色。

 真白である。

 まるで雪を被っているのかと見間違うばかりの白い髪。

 容姿と相成ってその姿はまるで人形ではないかと見間違う程であった。

「この学園には大温室があると聞いたのですが、何処にありますか?」

「ああ、それなら……」

 ハヤトは予め用意してあった校内マップを新入生女子に見せ場所とそこまでの道順を教える。

「植物に興味がおありですか?」

 新入生との親睦を深めるのが目的の体験入学、コゥは気さくに新入生女子にそう尋ねるが

「いえ、久しぶりに眠くなったので暖かい場所で仮眠を取ろうかと……」

 新入生女子の返事は予期せぬものであった。

「ありがとうございました。失礼します」

 新入生女子は丁寧にお辞儀をした後、大温室を目指して歩き始める。

 そんな新入生女子の後ろ姿を見送りハヤトとコゥは顔を合わせる。

「……ハヤト君はあの子の事どれぐらい知ってる?」

「校長から一通りは聞いてるよ」

 二人とも初対面ではあったが知らない相手では無かったらしい。

「彼女、聞く所によると相当優秀らしいけど、生徒会に引き入れないの?」

「本音を言えば引き入れたい所だが、入る入らないは本人の自由だ。それに……俺達みたいなのが関わって良い相手じゃないだろ」

「そう、ね……」

 二人はそう述べ合いその新入生女子とは積極的に関わろうとはしなかった。

 だが、奇しくもその新入生女子は二人の手によって生徒会の門を叩く事になるのだった。



 三時間後、大温室。

「(さて、どうしたら良いかな……)」

 エゼルは件の新入生女子と奇妙な出会いを果たしていた。

 エゼルが大温室に足を踏み入れたのは約一時間程前、校内を一通り見て回り最後にこの大温室を訪れ集合場所に向かおうとしていた。

 そんな中、件の新入生女子が眠っているのを発見する事となる。

「(起こすのも悪いし……)」

 当初、エゼルは新入生女子の具合が悪いのではないかと懸念した。

 新入生女子が余りに静かに、まるで死んでいるかの様に眠っていたからだ。

 近寄りただ眠っているだけである事を確認すると、今度はその眠りを妨げる事が憚られた。

 新入生女子の寝顔が余りに安らかだったからだ。

 その眠りはちょっとした周囲の変化で妨げられ様な気がして、エゼルは動くに動けない状態となっていた。

 仕方なく、エゼルは新入生女子の隣に座り彼女が起きるのを待つ。

「(……何か、静かだな)」

 大温室の一歩外では新入生達が学園の中を走り回っている筈なのに、大温室の中はまるで時が止まっているかの様に静かだった。

 その静かさにエゼルは時を忘れる。

 そして気付けば一時間の時が流れていた。

「(もうすぐ昼の点呼が始まる頃かな。……まぁ、良いか)」

 取り立てて規則を破る方ではないエゼルであったが、この時ばかりはそんな気分になっていた。

 規則を守るより、隣で眠るこの少女の眠りを妨げない選択をエゼルは選んだのだ。

「ん……」

 やがて少女が眠りから目覚める。

「……誰だお前は?」

 少女の第一声はそんな問い掛けだった。

 無理も無い。

 寝て起きたら横に見知らぬ男子が座っていたのだ。

 問い掛けたくもなるだろう。

「俺は新入生の犬人エゼル」

 そんな心中を察したのかエゼルは自身の名を名乗る。

「……今何時だ? 私はどれぐらい寝ていた?」

「今は午後一時ぐらいかな。俺が知る限りじゃ一時間以上は寝てたよ」

「一時間以上、そんなに眠れたのか……」

 予期せぬ睡眠時間であったのか、エゼルの言葉に少女は驚きの表情を見せる。

「……お前は、その間ずっとそこに居たのか?」

「え、ああ、まぁ、悪いとは思ったけど何か動くに動けなくてさ」

「そうか……」

 少女はエゼルの顔を暫しじっと見つめ、何かを納得したかの様に頷く。

「礼を言うぞエゼル、久しぶりに良く眠れた」

 エゼルの名を呼ぶと共にそんな感謝の言葉を述べるのだった。

「良く解からないけど、どう致しまして」

 本人が述べた様に良く解かってはいないがどうやら感謝された様なので相槌を打つエゼル。

「私は虎人エリザベート、お前と同じ新入生だ。長い名前だから気軽にエリザと呼んでくれ」

「エリザか、うん、じゃあそう呼ばせて貰う」

「短い付き合いになると思うが宜しく頼む」

「うん?」

 こう言う場合は長い付き合いと言うんじゃないだろうかと疑問を抱くエゼルであったが、聞き返すのも何なので問わない事にするのだった。


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