二時限目『戦場から来た少年』
~ 二時限目『戦場から来た少年』 ~
三月中旬のとある土曜日、生徒会室。
未だ発足されていない生徒会の拠点、その部屋にて一人の男子生徒が黙々と書類を作り続けていた。
私立獣耳学園生徒会長人族ハヤト。
私立獣耳学園で起こった様々な事件の中心に常に存在し続ける色々と異例な経歴を持つ人物であり、現在では校長に次ぐ権限を得た生徒会長をやっている。
コンコン……
「どうぞ」
ガラ……
ハヤトの入室許可の声と共に生徒会室の扉が開かれる。
「失礼します」
入ってきたのは黒髪の狼人族の少年だった。
背筋を伸ばし、カツカツと靴を鳴らしながらハヤトの前に足を進め
「お初にお目に掛かります。自分は狼人シロウ、ジークフリード校長の召集を受け本日より獣耳学園に配属となりました」
ビシッっと敬礼しながらそう名乗る。
「以後はハヤト生徒会長に従えとの指示を受けています」
「……」
ハヤトはそんなシロウの言動にポカンとした表情を見せる。
「どうかなさいましたか?」
「いや、何でも無い」
ハヤトはすぐに表情を元に戻し「なるほど、校長から聞いていた通りの人物の様だ」と苦笑する。
「話は校長から聞いている。これから色々と協力して貰う事になると思うが、とりあえず何点か訂正を述べて置こう。君はこの学園に配属されたのではなく入学した。そして入学は四月からだ。後、校長から俺に従えと言われている様だが俺と君は立場は違えど同列の立場に居て上下関係は無い。異論があったり文句があるなら遠慮なく言ってくれ」
「了解しました」
何を了解したのかは解らないが、シロウは未だに肩幅に足を開き手を後に組んで姿勢を正したままであった。
「(まぁ、いきなり打ち解けろって方が無理な話か)」
校長から聞いた話ではシロウは一般人では無く戦場を生き抜いてきた兵だ。
一般教養は学んでいてもすぐに順応しろと言うのは不可能だろう。
「四月になって生徒会が発足されるまで俺は君に何かをして貰うつもりは無い。だが生徒会が発足されたからと言って君の行動を拘束するつもりも無い。指示が無い間の学園での生活は自由に送って貰って構わない。明日は新入生達を歓迎するための体験入学が開かれる予定だ。もし部活動などに入る気があるなら見学すると良いだろう」
そう促すハヤトであったが、現状でシロウにはその意思が無いだろうと考え、望み薄く口にした言葉だったが
「はい、既に加入する部は決めております」
「そう、なのか?」
その一言にハヤトは驚きの表情を見せるのだった。
同時に自分が余りに先入観に囚われた考え方をしている事に気付き、シロウと積極的にコミュニケーションを図ろうとする。
「俺は君の事を校長から聞いているが、君は俺の事を良く知らないだろう。何か質問があれば答えよう」
それはシロウの反応を見る為に投げ掛けた言葉であったが
「……ではお聞きしたい事があります」
「何だ?」
「ハヤト会長は人族、日本人とお聞きしました。それは本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「では会長は……日本に行った事がありますか?」
シロウのその一言にハヤトは目を見開く。
「詳しい事はお聞きしません。イエスかノーかで構いません。お答え下さい」
「……イエスだ」
険しい表情を見せ、しばし考え込んだ後にハヤトは日本に行った事があると答える。
「ありがとうございます」
シロウは背筋を伸ばし感謝の言葉を述べる。
「会長、自分はまだ会長の事を信頼している訳ではありません。ですが自分は今の答えを聞き今後会長に着いて行く覚悟が出来ました」
「どう言う意味だ?」
「自分にはある目的があります。その内容を話す事は出来ませんが、会長に着いて行く事でその目的が達成できると自分は考えています」
その目的は自分一人では達成する事は困難だとシロウは付け加える。
「自分としても願わくば会長が信頼に足る人物であり、全てをお預けできる方である事を望みます」
「……期待に答えられる様に努力するよ」
戦場帰りの少年。
当初ハヤトはシロウの事を冷徹で感情の起伏が少ない人物であると想像していたが、こうして相対する事によってその印象は大きく変わっていた。
彼は戦場で戦士として戦っていたが、それは全て彼自身の意思によって行われた行為であり、彼は感情や目的を持った確かな一人の人間であった。
その事実を前にハヤトはこれまでの先入観を捨てさる事にする。
「長い付き合いになりそうだ。兎に角これからよろしく頼むよ」
勝手な先入観で対応していた謝罪の気持ちを込め、席を立ち手を差し伸べ挨拶を交わそうとするが
ヒュッ!!
シロウの手はハヤトの手ではなく懐のある物を取り出そうとする。
「おっと……」
「っ!?」
その動きを読んでいたのか、ハヤトはシロウの腕を掴みその動きを制止する。
「物騒だな。学園では出来るだけこう言う物は取り出さないでくれよ」
ハヤトが掴むシロウの腕、その腕の先、手に握られていた物、それは拳銃であった。
「クィックドロウに自信があるようだが、近距離だと相手に押さえられる可能性があるから気を付けた方が良い」
「……」
ハヤトの言葉にシロウは顔色一つ変えず微動だにしなかったが
フッ……
ハヤトが力を緩めた瞬間に次の行動に移る。
バッ!!
空いている片方の手を腰の後ろに伸ばしもう一丁の拳銃を手に取る。
次の瞬間にはその銃を引き抜きハヤトに突き付けていた筈だったが
ジャキッ!!
何時の間にか、ハヤトのもう片方の手には拳銃が握られておりその銃口はシロウの眉間を捉えていた。
「なっ……」
スリーブガン。
衣服の袖の下に隠した銃及びその銃を手の位置まで瞬時に射出するギミックの事、ハヤトはこのスリーブガンを使いシロウが腰に手を伸ばし銃を引き抜こうとする二動作の間に銃を取り出し突き付けると言う一動作を行ったのだった。
「良い反応だ。……だがここが戦場なら二回死んでいるな」
ハヤトによって戦場帰りであり優秀な戦士である筈のシロウは二度も手玉に取られるのだった。
「……気は済んだか?」
チャキ……
ハヤトは銃を下ろしそう問い掛ける。
「はい、失礼致しました」
自分の負けを認め、謝罪するシロウ。
「負けん気の強い所と言うか、黙って相手に従わない所は好感が持てる。俺が信頼に足る人物かどうかは気の済むまで試して構わない」
「はい、ありがとうございます」
シロウはハヤトを試していた。
ハヤトが真に着いて行くに値しない人物であれば彼はおそらく本気で銃を放っていた事だろう。
「じゃあ改めて。シロウ、これからよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。ハヤト会長」
何とも緊迫感のある顔合わせとなってしまったが、兎にも角にもこうして人族ハヤトと狼人シロウは互いに納得の行く形で顔合わせを終えたのだった。




