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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第05話「集え、獣耳学園」
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一時限目『導かれし者』

 ~ 一時限目『導かれし者』 ~


 二月末。

 百獣市の中央駅に16両編成の新幹線が停車する。

「ふぅ、やっと着いた」

 中から出てきたのは一見して極々平凡な犬人族の少年だった。

 少年の名はエゼル、今年の春より私立獣耳学園に通う事となる新入生だ。

 余程長い間新幹線に乗っていたのか、エゼルは降りるなり大きく背筋を伸ばす。

「……おっ、やっぱお仲間が乗ってたか」

 ホームを見渡すエゼル。

 見れば彼の他にも同じように背筋を伸ばす同年代の少年少女達が何人かいた。

 エゼルが言ったお仲間というのは、同じように新幹線に乗っていた者達と言う意味ではない。

 彼等もまた、自分と同じく私立獣耳学園の新入生なのだろうと言う意味だ。

「(さて、ここはどう行動するべきだろう……)」

 1.旅は道連れ世は情け、気軽に声をかけてみる。

 2.こちらの勘違いだったら赤っ恥だ。ここは相手の出方を見よう。

 3.とりあえず自分の目的を優先させる。

「(などと言う選択肢が頭に浮かんだが、ここは無難に2か3を選ぶべきだろうな)」

 1の選択を選ぶほど自分は行動的な人間ではない事を自覚しつつ、エゼルは荷物を手に取り改札口へ向かう事にした。



 駅を離れ中央通りを真っ直ぐ歩くエゼルだったが

「(……さて、困ったな。パンフレットじゃ真っ直ぐと書いてあったんだけど)」

 途中で道に迷ってしまう。

 パンフレットでは確かに中央駅から中央通りを抜けた所に獣耳学園の男子寮があると記載されていたが、往々にしてパンフレットの地図は簡易的な場合が多く、地元の人間ではないエゼルにとって不親切極まりない代物だった。

「(人に聞くのが一番早いか……)」

 先程エゼルは自分の事を行動的な人間ではないと評価していたが、自己分析ほど宛てにならないものはなく、実際には彼はなかなかに行動派な方だと言えた。

「あの、すみません」

 その証拠に次の瞬間には近くを通る同い年ぐらいの少年に話し掛けていた。

「はい?」

 話し掛けられた少年は少し驚いた表情を見せる。

「(しまった、彼女連れか……)」

 見れば少年の隣には背は小さいが同い年ぐらいの少女の姿があり、容易にその関係が想像出来た。

 だが話し掛けた手前で会話を中断する事も出来ず

「道を教えて欲しいんですが……」

 エゼルは続けて地図を見せ道を尋ねる。

 少年は親切にも男子寮までの道のりを説明してくれ

「ああ、なるほど。ありがとうございました」

 エゼルは頭を下げて礼を言い、その場を後にするのだった。

「(何か感じの良い人だったな。ちょっと不安だったけど良い街みたいだ)」

 街の風紀は人に現れる。

 偶然かもしれないが、先程の少年を見る限りこの街の風紀は良い様に思われた。

「(……ん、あれ?)」

 先程の少年と少女の姿を思い返しふと疑問を感じる。

 少女の方には確かに兎人である特徴の耳があったが、少年の方には特徴となる耳が無かったのではないだろうか。

「(……あー、って事はあれが噂の人族ハヤトか)」

 人族ハヤト。

 獣耳学園で起こった騒動に必ずと言って良い程その名が絡んでおり、おそらく獣耳学園に入学しようと言う者でその名を知らぬ者は極々少数であろう。

「(まぁ、良いか)」

 平々凡々を絵に描いた様な犬人エゼルであったが、彼には特筆すべき二つの特徴が存在する。

 一つは楽観思考、彼は自分の周りで起こった様々な出来事を前向きに受け入れる傾向があり、大抵の場合は「まぁ、良いか」で済ませ受け入れてしまう。

 もう一つ彼にはある特徴があるのだが、それはまた後程語る事にしよう。



 私立獣耳学園、男子寮。

 寮に着いたエゼルは早速入寮手続きを行う。

 この入寮手続きは私立獣耳学園に通う事を誓う誓約書の様な意味があり、この書類手続きが終わると同時に彼は名実共に獣耳学園の生徒として扱われる様になる。

「……書き終わりました。どうぞ」

 書き終えた書類を寮の管理人に手渡すエゼル。

 これでもう引き返す事は出来ない。

 その事自体に後悔は無いが、こうも簡単に手続きが終わってしまったのは少々拍子抜けだった。

「寮の規則に関しては夕方頃に説明会がありますので、それまでは自由にしていて下さい」

「はい」

 一人暮らしに必要そうな荷物を既に実家から宅急便で送っているが、荷物の整理もしなければならないのでとりあえずこれから三年間お世話になるであろう部屋に足を向ける事にした。



 ガチャ……

「……おー」

 扉を開けるとキッチンとトイレ付きのフローリングの六畳間があった。

「男子寮って話だからもっと汚いかと思ったけど、まるで新築だな」

 エゼルはそんな感想を述べるが、獣耳学園は去年出来たばかりの新設校でありこの男子寮もそれに合わせて作られた築一年目、まるで新築なのではなく本当に新築なのだ。

「さて、夕方までどうするかな……」

 荷物を整理と言っても必要最低限の物しか送ってないため荷解きにそれ程の時間が掛かる訳ではない。

「さっきの中央通りを探索するのも悪くないが、先に寮内を見て回った方が良いかな?」

 これから三年間お世話になる場所だ。

 中央通りもそう言う意味では同じなのかもしれないが、重要度で言えば寮が優先される。

「よし、さっさと整理して見て回ろう」

 そうと決まればと言わんばかりにエゼルは手早く荷物を紐解いて行くのだった。



 寮、大広間。

「(……さて、見て回ろうと部屋を出てきた訳だが)」

 玄関から入ってすぐの場所に存在する大広間。

 大広間とは言っても大きな机が数台置かれている程度で特に何かあると言うわけではない。

 だが、それでも寮内で一番大きな空間であるためか大広間にはそれなりに人が居た。

「(流石に先輩方の手前で探索ってのは気が引けるなぁ……)」

 大広間でくつろいでいるのは来年度には二年になる先輩達だった。

 人が居る場所をうろうろするのは勿論の事、先輩の周りをうろうろする程の度胸をエゼルは持ち合わせてはいなかった。

「(せめて顔見知りか同期の人間が居れば交流し易いんだが)」

 残念ながらエゼルは一人でこの街に訪れたため知り合いなど居る筈もなかった。

「(しまった、こんな事なら駅でお仲間かもしれない人達に話し掛けとけば良かった)」

 後悔先に立たず、済んだ事は仕方が無い。

「(……まぁ、良いか)」

 持ち前の楽観思考が数秒でエゼルの中の後悔の念を消し去る。

 そんなエゼルの気配を察したのか

「こんちわ」

 一人の寮生が声を掛けてくる。

 鼠人、自分よりも背が小さいため年下かとも思えったが、ここに居る以上は同い年か先輩である可能性が高かった。

「あ、どうも、こんにちわ」

 そのためエゼルは当たり障りの無い挨拶を返す。

「間違ってたら悪いんだけど、君も新一年?」

「『も』って事はそっちも新一年?」

 質問に質問を返す形となってしまったが、今の答えでエゼルが新一年である事は相手にも伝わる事となる。

「そうそう、俺も新一年。付け加えるなら今日入寮したばっかの超新一年」

「ははは、何だよそれ」

 鼠人の言葉に笑い、砕けた喋り方をするエゼル。

 お互いに新一年と解かった今、変に丁寧な態度を取るのは今後の障害にしかならないと判断したからだ。

「話し相手が居なくて退屈してたんだ。良かったらつるまないか?」

「オッケー、同じ事考えてた所だ」

 同じ立場の者同士が手を組むのは自然な流れと言えただろう。

「俺は鼠人エオル、よろしく」

「お、一文字違い。俺は犬人エゼル」

 互いに軽く名乗りあった所で情報交換と共に会話は更に盛り上がる。

 そんな中

「一つ聞いて良いか?」

「ん?」

「何で俺に声かけたんだ?」

 エゼルはエオルにそんな質問を投げ掛ける。

 一番初めに抱いた疑問だからこそ、一番初めに聞いておきたい疑問であった。

「理由は無い。何と無くだ」

「オッケー、解かり易い答えだ」

 その答えが本当であるかどうかなどこの際どうでも良い事だった。

 ただそう言う答えを真っ向から返せる相手だと言う事が解かっただけで十分、そしてそれは相手にとっても同じ事が言えた。

 その後二人が同じ結論に達するのにそう長い時間は必要なかったと言う。

「それじゃあ旅は道連れ世は情け、今日からダチって事で良いか、エオル?」

「ああ、問題無い。よろしくな、エゼル」

 学生生活に友の存在は欠かせない。

 特に楽しく過ごすためには気の良い仲間は必要不可欠だ。

「エオルは何か特技とかあるのか?」

「おう、特技は盗みだ」

「犯罪だろそれは」

「平気平気、俺は主に金持ち専門だから。まぁ、たまーに趣味や仕事で盗む事もあるけどな」

「駄目だろそれは」

「そう言うエゼルは何か特技あるのか?」

「俺か? 俺はまぁ、特技と言うのは何だが……」

 エゼルは少し考え込んだ後に自身の特技を口にするのだった。

「人より少し運が良いかな」

 強運、それこそが犬人エゼルが持つもう一つの特徴だった。

 その能力が世に知れ渡るのはまだまだ先の話となるが、後に彼の存在は人族ハヤトと共に獣耳学園にとって必要不可欠な物となるのだった。


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