二十八時限目『大宴会にて桜花満開』
~ 二十八時限目『大宴会にて桜花満開』 ~
朝。
春と呼ぶにはまだ早い時期ではあるが、太陽の日差しは暖かく、冬の寒さはもう感じない。
世間一般から見れば小春日和、実に気持ちの良い朝と言った所だ。
そんな朝
「スズカ、後の戸締りは頼んだぞ」
自宅の玄関口でハヤトはそう声を上げていた。
「はい、お任せ下さいませ」
その声にそう返事をするスズカ。
「念のために言っとくが、二度寝して寝坊なんかしたりするなよ」
「そんな事はしませんよ」
今日は体験入学二日目。
スズカも新入生の一員であるため当然その参加資格を有している。
特に記載はされていなかったが、一日目もちゃんと参加していた。
「まぁ、食い物が絡むと寝起き良いからな、お前は」
「確かにキユ先輩率いる料理部の方々の花見料理には大変興味を持っておりますが、流石にそれは侮辱と取れる発言です」
料理部の腕前は昨日の昼食会にて既に解っている。
その腕前はスズカのみならず新入生達の舌を唸らせるに十分であったと言う。
「事実を言ったまでだ。別に侮辱などしていない」
「いいえ、言葉に棘があります。普段の兄様であればそこまでは仰りません。ご自分の機嫌が悪いからといって人に当たらないでください。兄様の悪い癖ですよ」
「……」
反論の余地は無かった。
一見して普通であるように見えるハヤトであったが、その心の内は穏やかではなかった。
それもこれも昨日、体験入学一日目の出来事が原因である。
「……はぁ、悪かった」
自覚はあるらしく、ハヤトは素直に非を認める。
「解ってくださればいいんです。それよりそろそろ行かれた方が良いのでは?」
体験入学の司会進行役である生徒会長ハヤトは多忙の身である。
今日のスケジュールを考えればこの時間に出ても遅いぐらいだ。
「ああ、そうだな。じゃあまた後でな」
「はいな」
そう言い残し、ハヤトは自宅を後にする。
自宅を発ち、約二十歩程足を進めたぐらいの所で
「ハヤト君」
そう、呼び止められる。
声の方を見ると
「……おはよう、キユ、ミユ」
兎人の双子が立っていた。
普通を装いながら、そう挨拶を返すハヤト。
「二人共早いな」
「それはお互い様でしょ」
「うん……」
「違いない」
今更述べるまでも無く、二人はそれぞれ新聞部と料理部の部員だ。
今日の体験入学に参加する身であれば、朝が早いのはハヤトと同じ理由である。
だから、ここで出会ったのも偶然だと思えばそう思える。
だが
「……」
二人を前に、ハヤトは足を止める。
別段、二人に変わった所があった訳ではない。
ただ、何となく二人が何時もと違って見えたのだ。
本当に何となくだが、ここで二人と会ったのは偶然ではない。
二人はハヤトが来るのを待っていた……そう思えたのだ。
「……その、何かあったのか?」
何かあった事は解っている。
昨日、昼食時にミアと共に現れたキユは明らかにおかしかった。
どこがどうと言えないが、雰囲気が違ったのだ。
それはミアにも言える事だった。
事前に二人の間に何かがあった事を聞いており、再び空白の時間を経て二人の様子が変わっていた。
二人の間に再び何かがあった事は明白である。
「……あったよ」
ハヤトの問いに一呼吸置いた後
「ちょっとばかりミアちゃんに脅されちゃった」
キユは平然とした顔でそう答える。
「な……」
その言葉を聞いて、ハヤトの表情は一変する。
「あ、勘違いしないでね。今回の一件悪いのは私なんだから」
「……そう、なのか?」
「うん」
そう答えるキユに迷いは無かった。
「だから間違ってもミアちゃんを責めないでね」
「あ、ああ?」
ハヤトは違和感を感じていた。
こう言っては何だが、キユは追い詰められる事に弱い。
特に精神的に逆境に立たされた場合、何らかの自虐的行動に移る事がある。
これまでハヤトはそんなキユの姿を幾度か見てきた。
だが、今目の前に居るキユからは自虐さは感じられず、寧ろ
「今日、私ミアちゃんに呼び出されてるの。ミユと一緒にね」
強さを感じる。
「呼び出されてるって……」
その言葉のニュアンスから連想されるイメージにあまり良いイメージが浮かばなかった。
ミアが二人を呼び出す。
その状況が何を意味しているのか。
ミアの意図は解らないが、不穏な空気を感じる事は確かである。
「大丈夫なのか? 俺に出来る事があったら……」
昨日、釘を刺されたばかりとは言え今回のこれはあまりにも目に余る状況だった。
だからハヤトは自己の責任を果たす意味を込めてそう申し出ようとしたのだったが
「大丈夫だよ。ハヤト君」
「これは私達とミアちゃんの問題だから、寧ろハヤト君が間に入るとこじれちゃうかな」
ミユとキユの言葉にハヤトは言葉を失う。
「……昨日、ミアにも同じような事言われたよ」
頭に手を当て、深い溜息をつくハヤト。
そして、三呼吸ほど考え込んだ後
「……解った」
結論を出す。
二人の意思は固いようだ。
何が起こるにしろ、この状況では男が割り込めるはずが無い。
「俺は口出ししない。けど、何かあったらすぐに止めに入るからな」
この状況でハヤトが出来る事はそう多くはなかった。
「うん、それでいいよ」
キユはそう答えると学園に向かって足を進め始める。
それを追うように、ハヤトも歩き始めようとするが
「……ねぇ、ハヤト君」
「ん?」
「私、ハヤト君に会えて本当に良かった」
キユはハヤトの少し前で立ち止まり、振り返ってそう言う。
「……キユ?」
「私も、ハヤト君に会えて良かった」
「ミユ?」
その隣に並ぶように、ミユもハヤトの前に立つ。
そんな二人の姿にハヤトは戸惑った。
「二人とも、いきなり何を言い出すんだよ……」
縁起でもない。
それではまるで死に別れの言葉、遺言のようではないか。
そう感じたハヤトは二人にその言葉を真意を問おうとするが
「んー、こういうの何て言うのかな」
「宣戦布告だよ」
「ちょっと物騒な言葉だけど、うん、そうだね。そんな感じ」
二人の言葉にハヤトは言葉を失う。
同時に、ハヤトは今朝から感じていた違和感の正体に気づいた。
「私達、逃げない事にしたの」
「ミアちゃんに負けないよ」
私達の覚悟は出来たから。
そう、ハヤトは聞こえたような気がした。
二人から感じていた違和感の正体、それは覚悟。
危険な事、不利な事、困難な事を予想して、それを受けとめる心構えをする事。
即ち不退転の決意。
奇しくも、今のハヤトには二人の気持ちが痛いほどよく解ってしまった。
だから、ハヤトは何も言わずに二人と共に学園へと向かう事にした。
獣耳学園、校庭。
何かとイベントの多い獣耳学園において、何かとイベントの舞台として扱われる場所であったが、今回は実に華やかな舞台となっていた。
桜である。
昨日の段階ですでにちらほらと花咲き始めていた事には気づいていたが、どうやら昨日今日の日和に後押しされ一気に開花を果たしたらしく、獣耳学園の校庭は満開の桜によって彩られていた。
そんな最高の舞台にて
「みんな、昨日は楽しんでもらえただろうか?」
実に司会進行らしい事を述べるハヤト。
「今回の体験入学はみんなにこの獣耳学園の事を逸早く知ってもらうために行われた訳だが、たかだか一日や二日で獣耳学園の全てを知って貰えたなどとは思っていない。みんなもまだまだ知らない事知りたい事が山ほどあると思う」
型に捕らわれないをテーマに企画された体験入学、新入生達は特に整列も行っておらず思う思いの位置にて壇上のハヤトの言葉を聞いていた。
「だが、それは在校生や教職員の方々も同じだ。俺達はまだお互いの事を何も知らないでいる」
型に捕らわれないとは言え、何事にも形式美と言うものは必要である。
それを踏まえた上で
「そこで、本日は隠し芸大会の名を隠れ蓑にした大宴会を決行したいと思う!!」
型を破るのが獣耳学園生徒会長ハヤトのやり方だ。
「教職員の方々の許可は頂いた。皆の衆、今日は無礼講だ。飲んで歌って踊って好きな事をやってくれ!!」
そのハヤトの言葉に新入生達がざわめく。
それはそうだろう。
いきなりそう言われ自由奔放に振舞えるほど新入生達のメンタルはまだ適応しきれてはいない。
「いきなりそんな事を言われても困ると言った感じか、よろしい、ならば説明しよう。まず、君達はまだ学園の生徒ではない。将来的にこの学園に入学する事が確定しているとは言え、今はまだこの学園の学生ではない。すなわち、この場でどれだけ馬鹿をやっても成績や素行、内申書に影響は及ばない」
新入生達の間で再びざわめきが起こる。
それは「なるほど」と言った意味合いのざわめきであった。
「寧ろ及ばせない。それは生徒会長である俺が保障しよう。俺にはその権限がある」
獣耳学園において、生徒会長は校長に次ぐ権限を持っている。
獣耳学園では今やそれは常識である。
「他の学校学園ならばいざ知らず、ここは獣耳学園だ。多種多様なイベントがこれから諸君を巻き込んでいく事だろう。中には辛いイベントもあるかもしれない。今日はその予行演習だと思ってくれ」
巧みな話術とまでは言わないが、右も左も解らぬ新入生にとっては示された道こそが正しく見えるものである。
道と言えば大層に聞こえるが、それは言わば基準だ。
一つの基準、一つの判断材料、一つの方向性。
それさえ提示されれば人は前に進む事ができる。
「そう、俺はここに断言しよう。そして、これは生徒会長として俺が君達へ送る最初にして最低限の基準だ」
ハヤトが提示する基準、それは
「この獣耳学園においては……最後まで楽しんだ奴が勝者だ!!」
楽しんだ奴が勝者。
なかなか的を射た基準であるとハヤトは考えている。
普通に考えれば強引な理屈であり、とても褒められた論理ではない。
寧ろ非常識と言っても良いかもしれない。
だが、この学園においてはその非常識がまかり通るのだ。
何故ならば、私立獣耳学園とはそう言う学園なのだから。
そして
「みんな、今日は思う存分楽しんでくれ!!」
『おおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
それこそ新入生達が待ち望んでいた言葉、待ち望んでいた道でもあった。
楽しさを求めてこの学園を選んだ者は多い。
その者達に対して楽しめとの命が出たのだ。
否でも応でも場のテンションは盛り上がっていく。
後は流れに任せるのみ。
それこそが獣耳学園
後はそれを肴に各々思い思いの楽しみ方をするだけである。
大宴会の開会宣言より約二時間。
少し離れた場所にて、場の成り行きをハヤトが見守っていると
「よう」
「ケンか」
ケンがそう声をかけてきた。
今朝方の集合時には姿を見かけなかった。
どうやら今日も少し遅れての参加と言ったところらしい。
「随分と盛り上がってるみたいじゃねぇか」
現在、獣耳学園の校庭の盛り上がり方は上々だった。
檀上に上がり隠し芸を披露する者、それを肴に飲む者、そんな事とは関係なく盛り上がっている者、静かに花見を楽しんでいる者もいる。
多種多様、だがその何れもがこの場を楽しんでいる様子が伺えた。
どんな形であれ、ハヤトの言った通り「獣耳学園では楽しんだ者が勝者」なのだ。
「駆けつけ一杯、どうだ?」
「遠慮しとく」
ケンから差し出された缶を丁重に返却するハヤト。
会場で振舞われているのは名目上ジュースだ。
学生と言う立場である以上、振舞われているのはジュースに他ならない。
少なくとも、書類の上ではそう処理される。
例え書類上に記載されない何かがこの場で振るわれていたとしても、それは無かった事にされるだろう。
そう言った色々の事情も含めて、教職員の方々も容認してくれているし、そのための教職員である。
何度も述べるようだが「獣耳学園では楽しんだ者が勝者」なのだ。
「何かあった時に生徒会長が飲んでちゃ言い訳もできんだろ」
「へ、飲めないって素直に言やいいのによ」
「何事にも建前ってのは必要さ。それに無礼講とは言え最低限の司会進行は必要だろ。潰れる訳にもいかん」
「生徒会長ってのは随分と損な役回りなんだな」
「今はな」
「今は……ねぇ」
ハヤトの言葉にオウム返し気味にそう返すケン。
「まぁ、そっちは好きでやってんだから俺の口出しする問題じゃねぇな」
ケンは聞きたかったのはその話ではないとばかりに話を一旦切る。
そして
「で、あっちの方はどうなってるんだ?」
ケンが言う「あっち」と言うのは校庭の片隅、一本の桜の木の下で話し込んでいる三人のクラスメートの事だ。
「それはこっちが聞きたいな」
この大宴会開始直後から三人はあそこで何やらずっと話し込んでいる。
当然、その会話内容はハヤトの知る所ではない。
「険悪な雰囲気には見えねぇけど」
話し合っている所を見る限り、どちらかが一方的な要求を突きつけているようには思えなかった。
寧ろ、見た目の雰囲気だけで言うならば和気藹々としているようにも見える。
「どうかな、俺は笑いながら人の骨を圧し折る人を知ってるぞ」
あえて誰とは言わない。
「その例えはこの場の例えとして適切なのか」
「見た目で判断するなって事だ」
あくまで楽観視は出来ないと言わんばかりにそう述べるハヤト。
「兎に角だ。今の俺に出来る事は何も無い」
あれだけの覚悟を見せられては、ハヤトに何が出来よう。
ケンにはああ言ったものの、今のところ三人の間に不穏な空気は感じられない。
となれば、言葉通り今のハヤトに出来る事など何も無いのだ。
ならば後はただただ三人の会話が終わるのを待つのみである。
「ところで、人の事を気に書ける前に自分の方はどうなんだよ」
「あん?」
何を言っているんだと言わんばかりのケンに対して、ハヤトはチラリと目線だけをそっちに向ける。
つられて、ケンがそちらの方を向くと
「二人して何を話しこんでいるの?」
コゥが立っていた。
「コゥには関係ねぇ話だよ」
少々突き放すようにそう返事をするケン。
「あら、聞かれちゃまずい話な訳?」
流石に何か思うところがあったのか、会話の内容を追及するコゥ。
「たまには男同士で女には聞かせられない話もするってこった。なぁ、ハヤト」
ここに至り、ケンはハヤトに同意を求めてくる
「……そうだな。何と言ってもうちのクラスは女性陣が強すぎる。たまには男同士で結束しとかないとな」
本音半分、冗談半分。
とりあえずケンが同意して欲しそうだったので同意する事にした。
「あら、酷い言われようね」
少々不本意であったのか、コゥはそう不満の声を上げる。
「現に女に振り回されて何も出来ないでいる馬鹿がここにいるじゃねぇか」
「……」
結局そこに行き着くのかと苦い表情を見せるハヤト。
「ケン、お前は一体どっちの味方だ?」
「心情的にはお前だが、状況的には五分五分ってとこかな」
「お前な……」
ここまで言われてはハヤトにだって言いたい事の一つや二つある。
流石に反論の一つもしてやろうかと思ったそんな時
「おーい、ハヤトー」
遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえた。
ミアの声だ。
声の方を見れば、ミアが手を振りながらこちらを見ていた。
どうやらこっちに来いと言っているようだ。
「……呼ばれてるぜ、生徒会長さん」
行けよとばかりにそうハヤトを呼ぶケン。
「あまり行きたくないな」
苦笑いしながらそう答えるハヤト。
「行って来いって、死んだら骨は拾ってやるから」
「……そうだな。拾った骨は火葬でもして日本海辺りにでも捨ててくれ」
「日本海か、場所詳しくねぇんだけど日本って一般人が気軽に行ける所か?」
「まず無理だな」
「じゃあ何とかしてこい」
「はじめからそのつもりだ」
売り言葉に買い言葉。
単なる言葉の応酬ではあったが、ハヤトに何時もの調子を取り戻させるには十分であった。
重い足取りで三人の下へ向かうハヤト。
「さーて、高みの見物と洒落込むか」
ケンはそう言うと、件のジュースを片手に近場の開いている桜の木の下で座り込む。
「あまり良い趣味とは言えないわね」
その隣に座るコゥ。
「へっ、何言ってんだよ。俺はただ花見をしてるだけだぜ」
「あら、それは失礼しました」
コゥはケンの言葉に笑ってそう答える。
それが単なる戯言に過ぎない事が解っているからだ。
「でも、見るのは桜だけな訳?」
「あん?」
問われ、コゥの方を見るケン。
隣、と言うには近すぎる距離。
ほぼ寄り添うような形である。
「硬派気取るのはケンらしくて良いと思うけど、二人で居る時はもう少しこっち見て欲しいかな。……私達、もう恋人でしょ」
「ん、あ、ああ……」
そう答えるものの、ケンは露骨に視線を逸らした。
他意はない。
単なる照れ隠しだ。
その証拠に、ケンの顔が少し赤くなっている。
そして、自分で言ったはずのコゥの顔も少し赤くなっていた。
未だ花咲かぬ友人達を差し置いて、一足先に花咲く花もある。
それは、端から見れば桜咲く獣耳学園の校庭に負けず劣らずの実に良い花模様であった。
誘われるまま、三人の所へ足を運ぶハヤト。
遠目で見ていた通り、三人の間にいがみ合っているような雰囲気は感じられなかった。
そもそもこうやって自分が呼ばれたと言う事は三人の間で何らかの結論が出たと言う事に他ならない。
ならば、ハヤトとしては三人の出方を伺うしかなかった。
そんなハヤトに
「ハヤト、単刀直入に聞きたいんだけどさ。ハヤトはこの三人の中で誰が一番好きなの?」
ミアがそう問いかける。
「っ……」
ストレート過ぎるだろ。
思わずそう言いたくなったが、この場でそんな事を言おうものならばどこぞの話のように桜の木の下に埋められかねない。
とは言え、その問いに対する答えをハヤトが述べれるはずもなかった。
『……』
しばしの沈黙が流れる。
この時の彼の精神状況は実に文章にし辛い。
否、文字で伝えられるものではない。
今この時この瞬間この一分一秒の辛さは彼にしか解らないものだ。
絶望的な文字の羅列でそれらを表現できたとしても、やはりそれは彼の心の一旦を文章にしたにしか過ぎず、彼の今を語るには不十分である。
あえて言おう、今の彼の心境を第三者が文章で語ろうなどとは片腹痛い。
今の彼は、そう言う状況に置かれている。
そんな状況が約三分経過し、ハヤトの顔が青白くなってきた頃
「……ほらね」
ミアがそう言葉を発する。
「まぁ、予想通りと言うか何と言うか」
「うん……」
その言葉にキユとミユは同意するようにそう述べる。
まるで「今日の晩御飯はきっとカレーだよ」ぐらいの軽いノリで言った言葉が当たったぐらいの軽いノリで、そう言葉を交わす三人。
そんな三人に対して硬直したままのハヤト。
「んじゃ、さっき言った通りで良いかな?」
「異議なし」
「私も……」
そんなハヤトに対して三人は決を取り始める。
「……と、言う訳ですハヤトさん」
どうやら、すでにある程度の打ち合わせは終わっていたらしく、あっさりと結論が出たらしい。
「え、あ、ああ……って、いや、一体何の話だ?」
訳が解らない。
そう表現するのが一番正しい。
寧ろ、この状況で解る方がおかしい。
「解らない?」
「解らないから聞いている」
問うミアにそう答えるハヤト。
「んー、どうする?」
「解らないならしばらく黙ってた方がいいんじゃない?」
「私もそう思う」
その後も二三言葉を交わす三人。
「オッケー、んじゃハヤト」
「何だよ?」
「命令、しばらく悩んでろ」
「は?」
突然の命令に思わずそう声を上げてしまうハヤト。
「あ、でもこれだけは朗報として伝えといてあげるね」
「私達、これまで通りだから」
「え、ちょ、おい……」
それはどういうことだと問う前に
「んじゃー折角の宴会だし私達も楽しみますか」
「お、それ賛成」
「うん」
三人仲良く、新入生達で盛り上がる宴会会場に足を向けるのであった。
「……」
一人、取り残されるハヤト。
頭を抱え深く、深く考え込む。
「おーい」
「ハヤト君もおいでよー」
そんなハヤトを呼ぶ三人の姿が見えた。
先の言葉通り、何時もの三人だ。
「……まぁ、結果オーライ……なのか?」
とりあえず、最悪の事態とやらではない事は確かなようだ。
ならば後は三人の命令通りしばらく悩むことにしよう。
そんな訳で、獣耳学園生徒会長はしばらくの間悩み続ける事となるのであった。
彼がどれだけ悩み続けたかというと、季節が廻りもう一度この大宴会が行われる実に一年間もの間、悩み続けたのであった。
余談ではあるが、その後この大宴会は場が盛り下がる事なくハイテンションでその日一日を駆け抜ける事となる。
そもそも宴会などと言う場を獣耳学園の生徒達、すなわち在校生達が見過ごす筈も無く、口コミからか午後からはその在校生達も加わっての文字通りの大宴会へと発展。
人が集まればそれだけ人間模様が生まれる。
本編では語られはしなかったものの、今回のこの大宴会の最中に実に様々なイベントやドラマ、それこそ伝説として後々まで語り継がれるような出来事までが巻き起こっていた。
それはまた別の話であるためあえて今回は語らない事にするが、この大宴会は獣耳学園の名物として後々まで恒例として受け継がれていったと言う。




