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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第04話「華咲け、獣耳学園」
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二十七時限目『覚悟を決めろ』

 ~ 二十七時限目『覚悟を決めろ』 ~


 校内を一人歩くミア。

 一人と表現したものの、他に人が居ないわけではない。

 現在、獣耳学園の校舎内には新入生達があっちだこっちだと行き交っている。

 傍から見ていて「そんなに焦らなくても」と思えるぐらいだ。

 だが、彼等にしてみれば受験も終わり新学校新生活に胸を躍らせている時期である。

 その感情の高ぶりを抑えられないのは無理からぬ事だ。

 ミアとてそう言った気持ちが分らない訳ではないので、新入生達の行動をとやかく言うつもりはなかったが

「あの、猫人ミアって先輩の事ですか!?」

「13クラスって何か特技がないと入れないって本当ですか?」

「何で13クラスって六人しか生徒が居ないんですか?」

 まさか新入生達から質問攻めに遭うとは思ってもいなかった。

 ハヤト以下13クラスの面々の噂は本人たちの与り知らぬ所で新入生に広まっており、特にすでに寮暮らしを始めている者達にとっては先輩である在校生達からの情報も相成って一人歩きを始めていた。

「全校生徒の前で告白したって話は……」

「人族ハヤトのために百獣学園と戦って話は……」

 特に新入生達にとってハヤトとミアの噂はネタとしてはこれ以上ないぐらい良質な物であった。

 何せ、新入生の何割かはその噂を聞いてこの学園への進学を決めたほどである。

「えーっと……」

 流石のミアもこの新入生達の勢いに一瞬押されるが

「ふ、よろしい。今日はこの猫人ミアが私立獣耳学園がどのような場所かをご説明致しましょう!!」

 この獣耳学園において、お祭り騒ぎで彼女の右に出れる者はそうは居ない。

 場の空気とノリとテンションに後押しされ何かに火がついたのか、その後の彼女の饒舌っぷりは新入生達の心を掴むに十分であったと言う。



 校庭、新入生体験入学本部テント。

「……何か、校舎の方が騒がしいな」

 校舎の方から歓声にも似た声が度々聞こえてきていた。

「ミアちゃんが校舎に入ったぐらいからね」

「あいつは……」

 コゥのその言葉にやや鎮痛な面持ちを見せるハヤト。

 何が起こっているかは解らないが、何かが起こっているのは確かである。

「心配なら見に行く?」

「……止めとくよ」

 何時もであれば見に行く所だったが

「先の今だ。少し自重する事にする」

 色々な意味で、今自分が動くのはおそらく得策とは言えないだろう。

 そう判断しての事だった。

「ちょっとは堪えたみたいね」

 そんなハヤトを嘲笑するかのように笑いながら見るコゥ。

「その言い方だと普段の俺が相当悪い事をしているように聞こえるな」

「自分は悪く無いと?」

「そんなに普段の俺は行いが悪いかね?」

「んー、私もハヤト君が全面的に悪いとは思わないけど、やっぱり悪い部分があると思うな」

 コゥは率直にそう述べる。

「……気をつけるとしか言い様が無いな」

 それが女性からの貴重な意見であったとしても、今のハヤトにはそう答える事しかできなかった。

 そんな二人の下に

「よぉ」

 見慣れた犬人の自称不良が現れる。

「あら、珍しい」

 ケンである。

 休みの日に学園に彼が顔を出した事は今まで一度も無い。

「まぁ、新入生の面拝んどくのも悪くないかと思ってな」

「何だ。お前も暇をもて余してる口か?」

「午前中だけだがな。……ってか、その言い方からするとミア辺りも来てるのか?」

「ああ」

 ケンのその言葉にやや苦笑いでそう答えるハヤト。

「っと、そういや昨日は悪かったな」

「ん、何がだ?」

 ケンの突然の謝罪にハヤトは思わずそう問い返す。

「昼飯だよ。買ってくるって言ったくせに途中で人に任せにしちまって」

「……いや、ちょっと待て、あの昼飯お前が置いて行ったんじゃないのか?」

 ケンの言葉を聞き、再び問い返すハヤト。

 昨日、ハヤトが覚えているのは試験後に生徒会室に入った所まで、次に起きた時には机の上にビニール袋が置かれていた。

 ハヤトはてっきりケンが寝ている自分を起こさず置いて行ったものだと考えていたが

「いや、俺は生徒会室まで行ってないぞ。途中で店長から連絡があってちょっとな。その場に居たキユに頼んだんだが?」

 失われていた時間が保管される。

 いや、正確には何かがあった時間が付け加えられた。

 そこからその時間に何かがあった事は容易に予測された。

「……」

 無言で苦悶の表情を見せるハヤト。

「何だ? 何かあったのか?」

 そんなハヤトを横目にコゥにそう尋ねる。

「まぁ、私も詳しくは聞いてないんだけど……」

 ケンに現状を簡単に説明するコゥ。

「……なるほど」

 納得と言った表情をするケン。

「まぁ、身から出た錆っつぅか、自業自得っていうか、因果応報っていうか」

「言いたい放題だな、おい」

 お前がちゃんと昼飯を届けてくれていればこんな事にならなかったんだぞ、と言わんばかりにそう述べるハヤトだったが

「おいおい。こうなった原因はまずお前だろ」

 正論にて反論されてしまう。

 今日一日で散々言われた台詞である。

「……返す言葉も無いな」

 いい加減、ハヤトだって解っている事だ。

 こうなった原因は誰のせいでもない。

 結局は自分のせいだなのだ。

「それで、どうするんだ?」

 続けてそう問うケン。

「……」

 その問いにハヤトは答える事が出来なかった。

「とりあえずミアちゃんが今キユちゃんを追いかけてるわ」

「……それ、大丈夫なのか?」

 コゥの言葉を聞き、そう感想と質問を述べるケン。

 ミアの性格からして考えたり悩んだりと言った思考の袋小路に陥る事は無いと思われるが、それだけにミアに追いかけられているキユの身が心配でもある。

「今はミアを信じるしかない。今俺が何かやっても逆効果にしかなりそうにないからな」

「言えてら。こう言う場合の男の立場は弱いからな」

「悪いのは男ですからね」

 コゥの言葉に男二人は顔を顰める。

「まぁ、何にせよそろそろ腹括った方がいいんじゃないか」

 話を逸らすつもりでの発言ではないが、ケンはハヤトにそう言葉を投げかける。

「どういう意味だよ?」

「そろそろ決めろって言ってんだよ。何時までもこんな状態続けられる訳ないって解ってんだろ?」

「……」

 耳が痛い。

 そんな事は当の昔に解っている。

 だが、それでも今日に至るまで決められなかった。

 その理由を今更述べる必要はないだろう。

 あえて言うならば、それがハヤトなのだ。

「……まぁ、そうは言っても決められない所がお前らしいと言うか何と言うか」

 ケンもそれが解っているために強くは言わない。

「随分とやさしいじゃないか」

「誰かさんと違って人の恋愛事に口出しするのが趣味じゃねぇだけだ」

 皮肉交じりにそう軽口を叩くケン。

「良く言うよ」

 すでに口出ししてるじゃないかとハヤトが反論しようとするが

 プルルルル、プルルルル……

 突如、そんな電子音が辺り鳴り響く。

「ん、悪い」

 どうやらケンの携帯電話が鳴っているらしく、ハヤトとコゥにそう一言断りを入れ

 ピッ

 携帯電話を取り出し、通話ボタンを押すケン。

「はい? ええ、今学園に来てますけど。……え、今日もですか?」

 電話越しとは言え、普段見慣れぬ礼儀正しいケンの受け答えが新鮮だったのか、その姿を見守るハヤトとコゥ。

「はい、それは別に構いませんけど……。あ、はい、解りましたそれじゃ昼前には店に行きますんで……」

 ピッ

 携帯電話の通話を切るケン。

「バイト先からか?」

 ケンの態度、今の会話からそう推測するハヤト。

「ああ、最近どうもヘルプが多くてな。生活費が苦しいんで有難いんだが……まぁ、そんな訳でちょっくら労働に勤しんでくるわ」

 そう言って立ち去ろうとするケンだったが

「……なぁ、ハヤト」

 立ち止まり、ハヤトに声をかける。

「何だ?」

「お前さ。実はもう答え出てるんじゃねぇのか?」

「……何でそう思う?」

「何て言うかな。まぁ、何となくだけどよ。最近のお前ってやたら覚悟は出来てるって感じがするんだよ。しかも重い感じの」

 ケンのその言葉にハヤトは何の反応も示さなかった。

「俺に何が出来るって訳でもないけど、愚痴ぐらいなら聞く。だからあんまり一人で背負い込むなよ」

 それだけ言い残して、ケンは立ち去ってしまう。

「……俺、そんな感じしてるかな?」

「そうね。解る人なら解るんじゃないかな」

「それは困ったものだ」

 そう言ってハヤトは自分の顔を少し抓る。

 すると、先程ミアに抓られた箇所が再び少し疼いた。

「まぁ、親友だからこそじゃない? 普通は解らないわ」

 自分も言われるまで解らなかったコゥは述べる。

「ふむ、人に言われると少々照れくさいな」

「そうね。ちょっと妬けちゃうかも」

「男に嫉妬は無いだろ」

「私は独占欲が強いのよ」

「やれやれ」

 ケンの今後が心配だとばかりにハヤトは少しあきれた顔を見せる。

「で、本当のところ答えは出てるの?」

 誰を選ぶのか。

 先にも述べたとおり、ハヤトの性格を知るものであれば彼が選択出来ない事は解っている。

 そのハヤトを持ってして答えが出ているというのであれば、コゥでなくともそう問いたくはなる。

「出ているような出てないような」

「ここまで来てはぐらかす気?」

 ネタはすでに上がっているのに、と再度コゥは問うが

「覚悟は出来てる。それが今答えられる答えだ」

 ハヤトはそう答えるのみであった。



 昼前。

 科学室、すなわち新聞部の部室にてキユは隠れていた。

 隠れていると言うのは少々表現が悪いが、特定の人物に会わぬようわざと部室にて時間を潰しているのだから、そう表現するしかなかった。

「(私、何やってるんだろうなぁ……)」

 ここで時間を潰したとしても、昼の集合に顔を出さなければ皆に迷惑がかかる。

 そうすれば必然的に彼女と顔を合わせる事となるだろう。

 遅かれ早かれ彼女とは向き合わなくてはならない。

 今やっている事はどちらにしても単なる時間稼ぎにしかならない。

 それは解っている。

 それもこれもあれも、全て解っているのだ。

 それでもキユにはまだ彼女と、ミアと会って話す勇気が持てないでいたのだ。

 だから、キユはここでこうやって少しでもその時を後回しにしようとしていた。

 だが

「キユちゃん、見ーつけた」

 声をかけられる。

 ビクッ!!

 体が一瞬強張る。

 背後から声をかけられただけだ。

 だと言うのに、キユは今にも世界が終わらんばかりの表情をしている。

 そこに立っているのが誰か。

 誰が声をかけてきたのか。

 今更それを問う必要はないだろう。

「ミア……ちゃん」

 ミアだ。

「いやぁ、新入生達に捕まっちゃって探すのに苦労したよ」

 そこには何時もと変わらぬ表情のミアが居た。

「それにしても折角ハヤトが体験入学の司会進行やってるのにこんな所で引きこもってちゃ駄目じゃない」

 話しながら、一歩、二歩、キユに近づくミア。

 それを見て、キユの体が動く。

 キユが入ってきたドアと反対方向にあるドアへ向かって……逃げるためである。

 何故と問われても明確な答えは返せない。

 ただ、キユは今この場から逃げ出したい気持ちで居た。

 だが

「おっと」

 読まれていたのか、ミアはキユの進行方向を塞ぐ様に素早く移動する。

「今度は逃がさないよ」

「あ……」

 ミアを前に、キユは思わず一歩後退してしまう。

 それを追うように一歩進みでるミア。

 また一歩後ずさるキユ。

 そんなやり取りが何度が続き。

 トン……

 壁際に追い詰められるキユ。

 もう、逃げ場はない。

「やだなぁ……そんなに怖がらなくていいじゃない」

 キユの表情は明らかに恐怖の色を見せていた。

 その恐怖が何に起因するものなのかは解らないが、少なくとも、それがミアに対しての恐怖である事は疑いようが無い。

「……はぁ」

 一度、大きくため息を付き

「そんな顔するんだったら、何でハヤトの事好きになっちゃった訳?」

 そう述べる。

「別に私、キユちゃんに何かするつもりないよ。私キユちゃんもミユちゃんも好きだし、二人がハヤトの事好きならそれでいいじゃない」

「何、で……」

「気づかないと思った? 私、そんなに鈍くないよ」

 寧ろ、気づかないほうがおかしい。

 当の本人、キユは隠していたつもりなのかもしれない。

 だが、ミアはハヤトが転校してきたあの日からずっと彼を見てきたのだ。

 そんな彼女からしてみれば、同じ気持ち、同じ思いを抱く者に気づかないはずが無い。

「私さ、ちょっとばかし人と恋愛感違うんだ。だから二人がハヤトの事を好きでも、ハヤトが二人の事を好きでも、ハヤトが私の事を好きで居てくれたらいいと思ってる。だから二人がハヤトの事を好きなんだって解った時も別にどうこうしようとか思わなかったんだよ」

 キユの目を正面から見ながら、淡々とミアは言葉を発していく。

 しかし、その言葉の一言一言に何かが込められている。

 そう感じられた。

 彼女の目がその何かを語っている。

 一瞬たりとも外される事の無いその眼光に、キユは完全に威圧されていた。

「でもさ……」

 ミアの空気が一変する。

「それなのに、何でコソコソして……寝込みを襲うような事するかな?」

 先程までの空気とは違う。

 怒りではない。

 もっと別の感情。

 そう、今のミアの感情に一番適切な言葉、それは許せないと言う感情のおそらく行き着く先。

「私、そういうの一番嫌い」

 殺意だ。

 何がそこまでミアを駆り立てているのかは解らない。

 だが、今キユがミアから感じている恐怖はその殺意によるものだ。

「ああいう事されたらさ、やっぱりはっきりさせたいじゃん」

 何を?

 そう問い返したい。

 だが、ミアの迫力に圧倒されたキユは思うように口が動かなかった。

 次に何をされるか解らないのだ。

 そんな状況で何かが出来るほどキユの精神は強くは無かった。

 そんな時

 キーンコーンカーンコーン。

 学園のチャイムが校内に鳴り響く。

 昼を告げるチャイムだ。

 無言のまま、お互い視線をはずさずその音色を聞く二人。

 やがて、そのチャイムが鳴り終わる頃。

「……明日、ミユちゃんも加えて三人で話そうか」

 そう告げ、ミアはキユから離れていく。

 次の瞬間

「それまではお互い普通に振舞おうよ。そうしないとハヤトが心配するしね」

 ミアは普段のミアに戻っていた。

 何時もの人懐っこく、明るい彼女の表情だ。

「ほらほら、早く行かないとみんなに迷惑かかるよ」

 そう言って、キユに一緒に行こうと促すミア。

「あ、うん……」

 ここに居たり、ようやく行動する事が出来るようになったキユはミアの後を追うように一歩を踏み出すが

「ああ、でもねキユちゃん……」

 科学室を出る前に、再度キユの目を正目から覗き込むミア。

「覚悟だけはしといてね。それと、逃げちゃ……駄目だよ」

 念を押すと行った意味の言葉ではない。

 それは、交渉の決裂も辞さないという態度で相手に一方的に示す最終的な要求。

 すなわち最後通告である。


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