表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第04話「華咲け、獣耳学園」
48/80

八時限目『そして帰路へ……』

 ~ 八時限目『そして帰路へ……』 ~


 道場。

 小学校の体育館程の広さのその建物は、本来武芸の修練を行う場所であり、広く心身の鍛錬などを行う場所である。

 ハヤトとニケ。

 その鍛錬の場において、今二人は闘っていた。

 ガッ

 ニケの拳とハヤトの足。

 ガッ

 ニケの手刀とハヤトの蹴り。

 ガッ

 ニケの肘とハヤトの膝。

 ガ、ガ、ガガガガガッ……!!

 呼吸を許さない互いの攻撃がぶつかり合う。

 そこに防御は無い。

 攻撃を攻撃で防ぎ、攻撃に攻撃で対抗し、攻撃で攻撃を攻撃している。

 互いの四肢を余す所無くぶつけ合い、凡そ攻撃に使われる箇所は赤く腫れあがっていた。

 何故、そのような身を削る戦いになってしまったのか。

 それは、二人の闘い方が偶然にも攻を主体とした闘い方だったから、二人の得意とする戦法がたまたま同じだったから、二人の……気質がまったく同じだったから。

 先手必勝、一撃必殺。

 それが戦闘におけるハヤトの理念だった。

 彼に戦い方を教えた人が言っていた「この二つを行えれば必ず勝てる」と、ハヤトはそれを今まで信じて疑わなかった。

 対するニケも先手必勝を戦闘の理念としていた。

 ハヤトと違う点はその後の一撃必殺が一刀両断という言葉に変化しただけである。

 だから、この戦いの始まりは実に単純なものだった。

 相手より早くと思いお互いに一歩を踏み出し、相手より早くと思いお互いに必殺の一撃を繰り出した。

 まったく同時だった。

 一撃目は同時だった。

 ならば、次の一撃は相手よりもっと早く。

 ニ撃目もまったく同時だった。

 ならば、次の一撃は相手よりもっともっと早く。

 三撃目までもまったく同時だった。

 そのまったく同時にが、今も続いている。

 結果が今の状況。

 ここまでくれば理念と言わず単なる意地の張り合いだった。

 その意地の張り合いがすでに十分は続いている。

 これは意地の張り合いではあるが、闘いは闘いだ。

 闘いとは力と力、技と技、そして意地と意地がぶつけ合うもの。

 一見ただ打ち合っているように見えるが、これは技の応酬でもあった。

 そのため、この意地の張り合いは持久戦にはならず、先に技の手札が無くなった方が負ける事となる。

 そして、互いの手札がそろそろ切れ始めた頃。

 ガッッ!!

 何度目かの相殺が起きる。

 今度も同じかと思われたが

 ズッ……

 ニケの体が僅かに後退した。

 今まで打ち合いを続けてきて初めてニケが押し負けたのだ。

「っ!!」

 ハヤトはそれを勝機と確信し、今まで切る事の出来なかった手札を切る。

 ダッ!!

 後退するニケと間合いを詰めるように地を蹴り

 ヒュ……

 身を回転させ空中へ、そこから放たれる飛び後ろ回し蹴り。

 ローリング・ソバット。

 回転しながら足底で相手のアゴもしくは鳩尾を蹴る技。

 ジャンプして放つ場合はフライング・ローリング・ソバットと称するべきだろう

 タイミングと間合いと遠心力が一致しなければ決まらない大技だ。

 故に、その威力は決まれば一撃必殺。

 先の打ち合いでは使えなかった手札をハヤトは切った。

 その渾身の蹴りを

 ブンッ!!

 ニケは空中にジャンプして回避した。

 驚異的なジャンプ力である。

 蹴りは基本的に地面につく足を使って放つ攻撃だ。

 そのため自分より上空の敵を攻撃するには不向き、如何に飛び技を使おうともその原則は変えれない。

 しかし、現実的に人の身長を上回るジャンプというのもなかなか存在しないのは事実。

 それだというのに、ニケの姿はハヤトの視界の上へと消えていった。

 闘いにおいて、頭上からの攻撃は圧倒的に有利。

 それなのに、ニケは今まで跳躍からの攻撃を一度もして来ていない。

 それは今までニケが見せなかった手札。

 すなわち

「(しまっ……!!)」

 ハヤトは嵌められたのだ。

 いや、それは言葉が悪いだろう。

 ニケは今まで退く事無く真っ向からぶつかり合って来た。

 ニケは本当に後退してしまい、それを勝機と思ったハヤトが攻撃を仕掛けたが、ニケはそれに対する手札を持っていた。

 おそらくそれだけの事なのだ。

 つまり、この場合はハヤトが甘かったと表現すべきだろう。

「っ!!」

 ハヤトの体が一瞬止まる。

 大技の後というのはどうしても体が止まってしまう。

 当然だ。

 渾身の力を込めて放つのだから。

 先に手札を切ってしまい、あまつさえその大技をかわされた。

 今のハヤトは無防備に近かった。

 その硬直を狙い、ニケの拳が空を切る。

 シュキンッ!!

 一閃。

 辛うじて、身を捻りそれを回避するハヤト。

 だが

 ダンッ!!

 無理な回避が災いしてかハヤトの体はバランスを崩し床へと落ちる。

 シュッ……

 床に伏しているハヤトにさらに空から追撃をかけようとするニケ。

「くっ!!」

 ヒュンヒュ……!!

 ハヤトはコマのようにその身を回転させ、まるでブレイクダンスをするかのように空中から追撃をかけようとしているニケを蹴り払う。

 ズザァッ!!

 その攻撃が功を奏したのか、僅かに間合いが空く。

 ハヤトは回転から滑るように立ち上がり一旦ニケとの間合いを取る。

 ……ポタッ、ポタポタポタ

 気がつけば床に血の雫が落ちていた。

 見れば腕から血が流れている。

 先程回避したと思っていたニケの攻撃が触れていたらしい。

 着ていた長袖は切り裂かれ、その隙間から傷口が少し見える。

 切られていた。

 ニケは素手である。

 それなのにその傷口は何か鋭利な刃物で切られたかのようであった。

 シュピン……

 ニケが構えなおす。

 その指にはまるで研ぎ澄まされたナイフのような爪があった。

 どうやらあれがニケやミアの使う双爪術の真髄であるようだ。

 もっとも、ニケのその爪はミアとは比べ物にならないぐらい精練された人をも殺せる凶器だ。

「流石……」

 飛び技以外にもそのような手札を隠し持っているとは思っていなかった。

「どうやら、ワシの方が一枚上手のようじゃの」

 楽しそうにニケは笑う。

 先程の乱打の最中から、ニケの表情は綻んでいた。

「こうも腕を上げているとはの……実に愉快」

 頑固そうな老人の表情はまるで子供が遊んでいるかのような表情を見せている。

 純粋に、戦いを楽しんでいるようだった。

「俺は不愉快ですよ……」

 傷口の具合を確認するように服で軽く血を拭きながら、ハヤトはそう答えた。

「まったくもって不愉快だ」

 血を拭った服を傍らに投げ捨てる。

「貴方の意図がまったく解らない……」

 どうやら深くはなかったらしく、出血はそれほど酷くは無い。

「俺の過去を知っていると言う事は連合の方なんでしょうが、それなのにわざと俺を焚きつけるような真似をしたのも不可解だ」

「ほぅ、殴り合ってる内に少しは頭が冷えたようじゃの」

 当初、ハヤトの攻撃は怒りに身を任せた激しいものだった。

 だが、一手二手と攻撃をぶつけ合う中で違和感に気付いたのだ。

 この人は本気じゃない。

 ハヤトが殺気を持って攻撃していたのに対し、ニケは殺気を抱いていなかった。

 この老人は自分を殺そうとしていない。

 その事実に気付いてしまった時、ハヤトから殺気は消え去っていた。

 だから、途中からはただ闘っていただけだ。

「ミアが何も言わんので、隠しているとは思っていたが……まさかこのような形で君と再開する事になろうとはなかったのでな、君と闘うためにわざとああいう挑発をしてみた」

「先程も似たような事を言われてましたね、貴方は俺の事を知っているようですが……以前どこかでお会いしましたか?」

「む、覚えておらんのか」

「残念ながら、子供の頃の事は殆ど覚えていません、あらかた消されましたので……」

「やれやれ、それでか……」

 表情に変化は無いが、どこか残念そうな口振りである。

「今はまだ俺の存在を連合に知られる訳にはいかない、だから俺としては貴方にしばらく黙っていてもらうつもりだったんですが……」

 どうにも当初と目的が変わってしまっているらしい。

「くだらんな、連合がどうのと建前を並べて、ようは自分の過去を人に知られるのが怖いのじゃろ」

「安い挑発にはもう乗りませんよ」

「ほぅ」

 見え透いた挑発だった。

 一度はその挑発に乗ってしまったが、二度も乗らされる訳にはいかない。

「目的は何ですか?」

「知りたいか?」

「ええ」

「……君を本気にしたかった」

 一呼吸置いて、ニケがそう真面目に答える。

「君も気付いてはいると思うが、如何に連合とてここには目が届かん、君が本気を出しても誰にも解らないと言う事じゃ、そこでミアの前で君を挑発すれば必ず乗ってくると思っていた」

 確信ある行動と言う事なのだろうか。

「ワシは今まで君が隠しつづけてきた本気を見てみたい」

 そのニケの言葉を聞き、ハヤトの目つきは険しくなる。

「……出来れば理由も聞きたいのですが?」

「それは言えん」

「自分の目的だけ仰るとは意地の悪い」

 ハヤトの放つ言葉は軽く聞こえたが

「いいえ、それ以前に……貴方はどこまで何を知っているんですか?」

 それ以上に言い知れぬ気配が漂っていた。

「言えば君はワシと闘おうとするまい、さて、ならこうしよう、この勝負でワシが負けたら、ワシが知っている君が知りたい事を洗いざらい話す、……どうじゃ?」

「どうにも、一方的に勝負を持ちかけられているように聞こえるのですが……」

「悪い条件ではなかろう」

 知りたければ倒せ。

 だが、自分を倒すなら本気でこい。

 ニケはそう言っているのだ。

「……いいでしょう」

 ハヤトは一度頷き、答えた。

「ここまで来たら白黒はっきりつけないと気分が悪いし……」

 そう言ってハヤトは構えを解く。

「どの道、ここで貴方を倒さなければ俺は先へと進めないようだ」

 まっすぐ立ち、呼吸を整えるハヤト。

「ほぅ、ようやくその気になったか」

 そのハヤトの動作を見てニケは構えなおす。

「ええ、お見せしましょう……」

 ザワッ……

「む……」

 空気が変わる。

 張り詰めていた場の雰囲気が一気に他の何かによって塗り替えられていく。

「今まで誰にも見せる事の無かった俺の本気を……」

 ハヤトを中心に目に見えない何かが渦巻く。

 ピリピリピリ……

 まるで空気中に絶えず静電気が走っているかのように肌の表面が痛い。

「先にお願いしときます」

「……なんじゃ?」

「死なないで下さい」

 ヒュォ……



「むむむ……」

 客間にて、ミアは唸っていた。

「先程からうるさいぞ、若い娘が見っとも無い」

 そんなミアをそうたしなめるスズネ。

「ミアちゃん、ちょっと落ち着きなよ」

「そうだよ……」

 そんなスズネの意見に賛成なのかキユとミユもそう口を揃える。

「だってぇ……」

 そうは言われても感情と言うのはなかなか押さえられないものである。

「あー、もう、すっきりしない、駄目、もう我慢できません」

「我慢も何も、まだ十分程度しか経ってないでしょうに」

 ハヤトとニケが客間を出て行ってから、時計の長針は十度ぐらいしか回っていない。

「いいの、結局こんなの時間の問題だったのよ、私見てくる」

 思い立ったらなんとやら。

 ミアは立ち上がるとすぐさま客間を出て行こうとするが

「やれやれ、ほんに昔から落ち着きの無い娘じゃて」

「はい?」

 そんなスズネの一言で足を止めてしまう。

「そのじゃじゃ馬っぷりは生まれ持った性格じゃな、行動パターンが赤子の頃から一つも変わっておらん」

「……あのー、さっきから何を?」

「何をも何も、お主は昔から何も変わっておらんという話じゃ」

「あー、いえ、それは解るんですが……」

 そうではなくてと言おうとした時

「スズネさん、ミアちゃんの事知ってたんですか?」

 横で二人のやり取りを見ていたキユがそう尋ねる。

「うむ、ワシはミアが生まれた時その場に立ち会っておったからの、こやつのじゃじゃ馬っぷりはよう知っておる、生まれてすぐ産婆の顔に蹴りをくれおるぐらいのじゃじゃ馬じゃ」

 スズネは少しからかうように笑いながらそう答える。

「マ、マジっすか……」

 ミアはそう言って目を丸くする。

 赤ん坊の頃の話をされて困るは困るのだろうが、それ以上に自分とスズネとの間に繋がりがあった事に驚いているようだ。

「意外そうな顔をしておるの、ワシがニケと知り合いと言う時点でそういう可能性は考えなんだのか?」

「ええ、まったく……」

 祖父の知り合いが自分の事を知っている。

 確かに考えてみればありえそうな話である。

 当人に記憶がなくても向こうはこっちの事を知っているなど良くある話である。

「だったらそう言ってくれれば良かったじゃないですか」

「ふむ、確かにそうしても良かったのじゃが、お主も忘れておるようじゃったし、黙っておいた方が後々面白くなりそうじゃったからのぉ」

 現に今面白い事になっていると言わんばかりだ。

「にしたって私はスズネさんと会った記憶がこれっぽっちも無いんですけど……」

 ミアは先程から眉間に皺を寄せて思い出そうとしているが、まったく思い出せないでいる。

「無理も無い、最後に会ったのはお主が六歳の時じゃ、ワシもお主がミアだとはしばらく気付かんかった」

 名前を聞いてようやく思い出したと説明するスズネ。

「以前はよくこの家に遊びに来ておったもんじゃが」

「遊びに……ですか?」

「うむ、遊びにじゃ」

 ミアはこの家で何をして遊ぶのだと一瞬問いたくなったが

「うむむ、色々聞きたい所ではありますが、私はハヤトの方がもっと気がかりなのです、この件はまた後でと言う事で!!」

 どうやら優先順がそれより下であったらしい。

 ミアはそう言うと今度こそ客間を飛び出していってしまう。

 そんなミアの姿を見て

「……そうじゃの、そろそろ片がつく頃じゃろうし、ワシも興味がある、見学しに行くとするか」

 スズネはどっこいしょと言わんばかりに立ち上がり、ミアの後を追い客間を出て行こうとする。

「じゃあ、私達も行こっか」

「うん……」

 キユとミユも立ち上がる。

 こういう場所にて傍観者を決め込むのも悪くないが、やはり気になるものは気になるらしい。

 当初行くなと言っていたスズネが行くと言うのであれば行かない理由はない。

 そんな感じで、皆が客間を出て廊下を歩き出そうとすると

 ズドオォォォーーン!!

 爆音にも似た大きな音が聞こえた。

「道場の方からだ」

「ふむ、どうやら本格的に決着がついたようじゃな」

 スズネは簡潔にそう状況を判断する。

「って、幾ら何でも今の音はおかしいっすよ」

「そう思うなら行って確認した方が早いじゃろ」

 確かにそうだ。

 スズネのその一言を聞いて一行は歩く脚を早めた。



 パラパラ……

 天井から木片が舞い落ちる。

 何かが天井に叩き付けられたようだ。

 道場の中央にハヤトが立っている。

 その眼下には倒れるニケの姿があった。

「ぐっ……」

 そう呻き声を上げるニケ。

 見た目からではその負傷具合は解らないが、少なくとも死んではいないらしい。

「よもや、これほどとは……」

 床に手をつき、起き上がろうとする。

 どうやら見た目以上に内部にダメージがあるのか、起き上がることすらままならないらしい。

「……大丈夫ですか?」

 そう言ってハヤトはニケが起き上がるのに手を貸す。

「む……」

 そのハヤトを一瞬不思議そうに見るニケ。

「すみません、初めて使ったので勝手が解らなくて……」

「構わんよ、君が手加減しようとしたのは解っておる」

 ニケはそう言うだけで、他は何も言わずにハヤトの手を借り

「何にせよワシの完敗じゃ」

 ニケはそう素直に負けを認めた。

「約束通り、聞きたい事があれば答えよう」

「ではお聞きします、……貴方は本当に連合の方何ですか?」

「違う、昔は連合に組みしておったがもう何十年も前に縁を切った」

「ミアはその事を知ってるんですか?」

「知らん」

「そうですか」

 とりあえずその二点を聞けてハヤトは安心した。

 手合わせした結果、ハヤトはこの人物が嘘をつくとは思えないと判断した。

 よって今言った事はおそらく真実なのだろう。

「以前お会いしたと言ってましたが、何時頃に何処でお会いしました?」

「君が六歳頃かな、場所はここでじゃ」

「え?」

「言葉通りじゃよ、覚えておらんか、ここでの事を」

 ここで、と言うのはこの道場でと言う事なのだろう。

「……ええ、残念ながら」

 少し考え込むも、ハヤトはその断片すら思い出せなかった。

「ワシは君の事を良く覚えている、スズネに連れられて度々この道場に通っておった」

「そう、だったんですか……」

 それが事実なら、ニケは自分の敵ではない。

 断じて、自分の敵にはならない。

 例えその頃の記憶が無くとも、それだけは断言できた。

 ならば、これ以上の質問も無意味だ。

「では最後に、何故俺を試すような事を?」

 先程も聞いた質問だ。

 今までの問答でそれが解るかと思っていたが、ハヤトには何故ニケが自分の実力を知ろうとしているのかが未だに解らなかった。

「何、単に今の君の実力がどれほどのものか見てみたかっただけじゃ」

「……それだけ、何ですか?」

「うむ、他にも色々と理由があるが、突き詰めればワシが単純に知りたかっただけの事」

「他の理由とは?」

「ふむ、まぁ、年寄りの要らぬお節介と言った所なのじゃが、……ミアの事での」

 ニケの喋る言葉にやや重みが増した。

「日本人の君なら見て解るじゃろ、ワシは三毛猫族じゃ」

 三毛猫。

 白、黒、茶の三色の毛が入りまじった猫の事をそう呼ぶ。

 別段、三毛猫族自体は珍しい種族ではない。

 ただ

「三毛猫族には男性が殆ど生まれないと聞きましたが?」

 聞いた話では三毛猫族の男が生まれる確立は数万分の一の確立らしい。

「珍しかろう、おそらく誰もがそう思う、そうなると……黙っておらん所がある」

「ああ、なるほど……」

 連合だ。

「そうだったんですね、それなら色々説明がつく」

 おそらく、この人も自分と左程立場が変わらないのだろう。

「三毛猫族の男と言う事でそれなりの扱いをされての、色々された挙句、頼みもせんのに嫁と家柄までくれよった、その後機を見て連合からは独立したが、見えぬと炙り出そうとするのが連中のやり方、だからこうやって道場などを開いておるのだ」

「心中お察し致します」

 ニケは連合から独立した。

 その事実だけで、ハヤトの中でのニケの評価は格段に変わった。

 この人はすごい事をやったのだ。

「いや、ワシのはすでに済んだ事、故に特にどうと言う事はないが……」

「何かあるんですか?」

「その一件以降、ワシの一族は三毛猫族の中でも名門と呼ばれるようになってしまっての、そこでミアの話に戻る、あれは一族の中でおちこぼれの烙印を押されてしまっておっての」

 ミアの髪の色は大別すれば茶色だった。

 見る限り、その一色で染まっている。

 すなわち、彼女には三毛猫族であるはずの特徴が無いのだ。

「本家の長女にあたるがおそらく家を継ぐことも無いじゃろ、無論、ワシはそんな事はどうでも良いと思っているのじゃが、どうもあれの親はその事を気に病んでいる、……ミアもその事に気づいておる」

「……なるほど」

 ハヤトは納得した。

 ミアが言う居心地の悪いとはこう言う事だったのだ。

 初対面で、ミアとニケの仲が悪くないというのは察する事が出来た。

 ではミアは何をもってして居心地が悪いと言っていたのか。

 その答えがそれだ。

「あいつも、……苦労してたんですね」

 前々からそんな印象はあった。

 ミアは学園一の学力の持ち主で運動神経もよく、その性格は誰にでも好かれるものだ。

 本人が意識してかどうかは知らないが、おそらくそうなるようにどこかで何かが働いていたのだろう。

 まるでそうしなければならない強迫観念のように。

「見るに見かねて親元から離してやろうとジークの学園にミアを入れたが、ミアから君の話を聞いたときには心底驚いたものじゃよ」

 そう言ってニケは笑う。

「まぁ、そう言う訳でワシは君の今の実力を知りたかった、……これで納得してくれたかの?」

「ええ」

 祖父が孫の心配をする。

 そこに異論を唱える程ハヤトは無粋ではない。

「それで、俺は信用に足りえる実力でしたか?」

「勿論だ、君にならミアの事を任せられる」

 申し分無い。

 ニケはそう太鼓判を押した。

「知っての通りのじゃじゃ馬で扱いは難しいじゃろうが、あれの事をよろしく頼む」

 そう頼まれ、ハヤトはそれに答える。

 それでこの話は終わるはずだったが、最後のニケの一言。

「ミアを幸せにしてやってくれ」

 ズガンッ!!

 その一言で、ハヤトは超重力に引っ張られたかのように床に倒れこむ。

「……どうした?」

 不思議な現象を目にしたかのように、ニケはハヤトにそう問う。

「……失礼、その言葉の真意を聞きたいのですが?」

「真意も何も、ミアをくれてやると言って居るのじゃ」

 ハヤトのその問いにニケは迷うことなくそう答えた。

「安心せい、あれの両親にはワシから言っておく、君の手を煩わせる事は無い」

「いえ、いえいえいえ、そう言う意味ではなくてですね……」

 どこから説明したものかとハヤトは苦悩する。

「まずは誤解を解かなければいけません、俺とミアはまだそう言う事を話題に出すような関係ではありません」

「む、そうなのか?」

「はい、ただのクラスメートです」

 ハヤト的にも、ここははっきりさせておかなければならない点である。

 その後もニ三訂正を重ねてニケはようやく現状を把握する。

 結果。

「ふむ、なかなか面白い状況になっておるな」

 面白いの一言で片付けられてしまった。

「兎に角、くれてやると言われても今の俺は受け取る気がありませんので、謹んで辞退させてもらいます」

 ハヤトはそう自分の今の心情をはっきりと伝える。

「まぁ、それも良かろうて、結局は君達二人が決める事じゃ」

 ニケもそれで一応了承してくれたようだ。

「しかししかし、真に妙な縁じゃ、君とミアが再会する事となったのにも驚いたが、そこに男女の仲が生まれようとは」

 愉快愉快とまるでスズネのようにニケは声を上げて笑う。

 だが

「は?」

 ニケが言った一言に、ハヤトは間の抜けた声を出してしまう。

「俺とミアが……再会?」

「それも覚えておらぬか、まぁ無理も無かろう、ミアも忘れておるようだしな」

「待ってください、それは流石に聞き捨てならな……」

 ハヤトがその事について更に問おうとするが

「ハヤト!!」

 ミアがそう大きな声を上げながら道場に現れる。

「……ミア?」

 珍しく、と言っては何だが、大分慌てている様子だった。

「大丈夫、怪我とかしてない?」

 現れたと思ったらすぐにハヤトに駆け寄ってきてそう質問を投げかけた。

「いや、特には……」

「うわ、やっぱり切られてる、おじいちゃん幾らなんでもやり過ぎだよ」

 ミアはハヤトの腕が真っ赤に染まっているのを見てニケにそう抗議の声を上げるが

「これ、少しは落ち着かんか」

 ミアの後を追うように現れたスズネがそうミアを止める。

 遅れてキユとミユも道場に姿を現す。

「良く見てみい、やられたのはニケの方じゃ」

「……え?」

 立っているのはハヤトで、ニケは床に座っている。

 一目でその勝敗が解りそうなものである。

「嘘、ハヤトおじいちゃんに勝ったの?」

「いや、まぁ……な」

 ポカーン

 と言った表現が正しいのだろうか、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をするミア。

「何だお前、俺が負けると思ってたのか?」

「え、だって……」

「随分と低く評価されてたんだな」

「いや、そう言うわけじゃ」

「ちょっとショックだ」

「うぅ……」

 ハヤトの一言一言で面白いようにミアが萎縮していく。

「……はぁ、冗談だよ、だからそんな顔するな」

 ちょっとからかうだけのつもりだったのだが、どうにも予想以上に効果があり、いじめているようで気が引けた。

「丁度良い、ミア」

 そんなやり取りを見ていたニケがそう声を上げる。

「ワシはスズネと少し話しがある、ハヤト君を連れて部屋で待っててくれんか?」

「え、いいけど……」

 何でまた?

 そう問いたくなったが、別に異論があった訳ではない。

「んー、じゃあ、行こうか案内するよ」

「あ、いや、俺はまだ……」

 ハヤト自身、まだニケに問いたい事があったのだが、そこに何か思惑があるようなのであえて素直に従う事にした。

「キユちゃんとミユちゃんも行こ」

 ミアのその呼びかけに二人は答える。

 二人にも色々と思う所があるのだろうが、どうにも状況の展開の早さについていけてないようだ。

 そんなこんなで一同はミアの部屋に向かう事となる。

 案内すると言った手前、ミアはいの一番に道場を出て行き、続いてキユとミユ。

 最後にハヤトが出て行こうとするが

「ハヤト君」

「はい?」

 ニケがそうハヤトを呼び止める。

「先程、くれてやると言った時に君は受け取る気が無いと言っていたが、もし今後君が受け取る気になった時、ワシがやらんと言ったら君はどうする?」

「……そうですね、その時は……」

 ハヤトは一呼吸置いて答える。

「奪ってでも頂いていきますよ」

 その答えを聞いてニケは笑う。

「結構、呼び止めて済まなかった、行きたまえ」

 ニケのその言葉を聞いてハヤトは何も言わずに姿を消す。



「いらっしゃいませ私の部屋へー」

「お邪魔します」

 ドア元より、部屋の中を見回すハヤト。

 八畳間、ドアの反対側の壁に窓がついており、その窓際にはベッドと机が置いてあった。

 一歩部屋に入り後を見るとドア側の壁一面は本棚で構成されていた。

「ほぅ……」

 そのジャンルはなかなかに多種多様、マンガが置いてあると思えば辞書、参考書があると思えば小説。

「ふむ、なかなかのラインナップだ」

 ハヤトは正直に誉めたつもりであったが

「関心を引く点はそこではないと思うのですが……」

 ミアはそのハヤトの返事にややご不満なご様子だった。

「女の子の部屋に来てまず本に対する感想というのは健全な青少年として如何な物かと、ほらほら、私が何時も寝てるベッドとか色々々々私物があるんですよ、ドキドキしませんか!?」

「まずはそのピンク色に染まった脳細胞の構成について一言言いたい所なのだが」

「酷っ」

「まぁ、確かにこのままでは少々失礼だな、それじゃあ真っ当な感想を……想像以上に片付いている」

 部屋を再び見回しハヤトはそう感想を述べる。

「物の配置も悪くない、所々……まぁ、女の子っぽい物が置いてあるのも評価しよう」

 そう言ってハヤトは一呼吸入れる。

 ハヤトとて人並みの常識は備えている。

 女の子の部屋に招待されてそれなりに思う所があるのだろう。

 ……どうやら、解り辛いが一応照れているらしい。

 だが、一方

「ほほぅ、想像、想像とな」

 ハヤトが自分の部屋をどのように想像していたのかについてミアは多大な興味を持ったようだ。

「何々、私が部屋で何してるかとか想像しちゃってたりなんかしてたりしてたの?」

「言葉の意味が激しく不明だが、もっと荒れた部屋を想像していたのは事実だ」

 ミアが何か言い出す前に牽制するハヤト。

 後にはキユとミユが控えているのだ。

 下手な発言をさせる訳にはいかない。

「しかしまぁ、こうも本があるのには正直驚いた」

「あー、それには私も同意」

「うん……」

 キユとミユがそうハヤトの言葉に頷く。

 基本的にミアは運動系である。

 その彼女の部屋にこれだけの本があろうとは想像していなかった。

「極端に考えてた訳じゃないけど、ミアちゃんの私生活ってあんまり想像できなかったんだよねぇ」

 趣味があればそれが部屋に反映されるのは当然である。

 現に、キユの部屋にはカメラや雑誌が置かれてあるし、ミユの部屋には料理関連の本が置かれている。

 だが、一言で言うならばミアは多趣味なのだ。

「結構瞬発力で動いてる所あるからねぇ」

「自分で言うか?」

「まぁ、気にしない気にしない、それよりどうする?」

「どうするとは?」

「いやさ、やっぱりここは訪問イベントの王道としてアルバムでも見せた方が良いのかと」

「いらん」

「うあ、一刀両断ですか」

 ハヤトとミアがそんなやり取りをしていると

「ん?」

 キユの視界にある物が見えた。

 写真だ。

 机の上に写真立てが置かれており、そこに一枚の写真が収められている。

「(職業病とは言わないけど、割とこう言うの気になっちゃうんだよねぇ)」

 カメラを持つ身としてはその内容に興味を引かれた。

「(飾ってあるんだから隠している訳ではないのだろうし)」

 そう判断したキユはその写真を手にとって良く見る。

 写真には二人の子供が写っていた。

 一人はミアだ。

 良い意味で、子供の頃と余り印象が変わっていないのですぐ解った。

「(この子は誰だろ?)」

 もう一人、ミアの隣でややすねたような表情の女の子がいた。

 黒く長い髪をしている。

 頭の耳を見た限りでは猫人族のようだ。

 年はおそらく二人共六歳ぐらいだろう。

 二人共表情は対照的であるものの仲良さそうに見える。

「お、キユちゃんなかなか目ざといねぇ」

「わぁ!?」

 後から突如声を掛けられた事にびっくりしたのか、小さくそう声を上げてしまうキユ。

「カメラマンとしての血が騒ぎましたか?」

「カメラマンじゃなくてジャーナリストよ」

 キユは驚きつつもそう言い返す。

 どうやらそこは譲れない点であるらしい。

「それで、この子は?」

 ここまできたら経緯や主旨を取り繕うのも面倒だと判断したのか、キユはそう直球で問う。

「んー、子供の頃によく遊んでいた子、あんまり良く覚えてないんだけどね」

「は?」

 ミアが言うには良く家に遊びに来ていたらしいが、何時の間にか会わなくなってしまったらしく、仲はとても良かったようなのだが、今では名前すら思い出せないらしい。

「これが男の子とかだったら幼馴染イベントとしてセピア色の良い思い出になってたのになぁ」

「どうしてそういう発想になるかな……」

 ミアのその感想を聞いてキユは苦笑いを浮かべる。

「探す手がかりとか無いの?」

 この手の思い出の人物がいないためか、それともジャーナリスト魂に響く何かがあったのか、キユの思考はこの少女を探す方向に定まってしまったようだ。

「んー、おじいちゃんに聞いても解らなかったし、……ああ、一つだけその子が残した物があるんだけど」

 ミアはそう言って机の引出しからある物を取り出す。

「何これ、知恵の輪?」

 取り出されたのは二つの鉄棒だった。

 互いに歪曲しており複雑に絡み合っている。

「その子がくれた……っていうか残していった物なんだけど、何度試しても結局解けなかったんだ、結構珍しいタイプみたいだから手がかりになるって言えばなるんだろうけど」

 ミア本人にはその少女を探そうという意思は無いらしく、この知恵の輪も解けない悔しさと思い出の品として取っているだけだと言う。

「ふーん、ちょっとやってみていい?」

 そう言ってキユは知恵の輪と格闘し始める。

 そんな様子を端からミアが見ていると

「ミア」

 ハヤトがそう呼びかけてくる。

「何?」

「お前さ、……子供の頃に俺と会った事あるか?」

「……はい?」

 いきなりの質問である。

「んー、無いと思うけど、何でまた?」

 ミアは一応記憶リストを検索してみるが、該当する記憶はないらしい。

「いや、ニケさんが俺の事を知ってるようだったから、もしかしたら俺が知らない内にどこかで会ってるかもと思って」

 スズネの知り合いであったニケが自分の事を知っていた。

 自分とニケの間には少なくとも繋がりがあったのだ。

 なら、その孫であるミアともどこかで出会っていても不思議でない。

 考えてみればありえそうな話である。

 当人であるハヤトにその記憶がなくても、ミアは何か知っているかもしれないとハヤトは考えたのだ。

「何々、私とハヤトの間にそんな隠しイベントがあったの!?」

 そのハヤトの言葉を聞いたミアは嬉々として喜ぶ。

「うわー、好きな人が幼馴染ってヒロインとして完璧じゃん」

「お前なぁ……」

 質問したのが自分なだけにここでツッコミを入れる訳にはいかないが、頭を痛めるには十分なリアクションだった。

「駄目だ、解けない」

 そんな二人を他所に、そう声を上げてギブアップするキユ。

 どうやら知恵の輪解きを断念したらしい。

「ん、何やってるんだ?」

 状況を知らぬハヤトとミユがそんなキユの元へ集まる。

 そんな二人に軽く状況を説明し、知恵の輪を見せるキユ。

「……ん、これは」

 その知恵の輪を見てハヤトはそう声を上げる。

「……」

 沈黙するハヤト。

「ハヤト君どうしたの?」

「ミア、その写真、ちょっと見せてもらえるか」

「うん、いいよー」

 そう言って写真をハヤトに見せるミア。

「……」

 写真を見て、また沈黙するハヤト。

 何やら苦悩の表情を浮かべている。

「ねぇ、一体どうしたの?」

 先の質問を無視されたのが腹立たしかったのか、それとも単に疑問に思ったのか、キユが再びそう問い掛ける。

「……なるほど、そう言う事か」

 自己解決。

 と言うか何と言うか、ハヤトは一人でそう納得するが

 スパァン!!

 途端、気持ちよい音が部屋の中に鳴り響く。

「おぉぉ……」

 同時にハヤトの視界が一瞬火花が散るかのように白くなる。

「何度も無視しないでよね!!」

 続いてキユの怒号が響く。

 見ればキユは大きなハリセンを手に持っていた。

 どうやらそのハリセンで叩かれたらしい。

「って、そのハリセンはどこから持ち出した!?」

 何時もはそうツッコミを入れられる側なだけに、そうツッコミを入れずにはいられなかった。

「そこに置いてあった」

 キユが指差す方向にはゴミ箱に似た入れ物があり、そこにはハリセンの他におもちゃのバッドやチャンバラ木刀が入れられていた。

「何故そんなものが置いてある!?」

 部屋の主にそう問うと

「いやぁ、昔どつき漫才というものに憧れていた時期がありまして」

 そんな古典的な答が返ってきた。

「にしても今のは効いたぞ……」

 ハリセンには打撃武器としての効果は殆ど無い。

 だが、打撃の際に発せられる大きな音は対象の三半規管へダメージを与え、軽いショック状態を引き起こす事も可能だ。

「もう一発喰らいたくなかったら事情を説明してよ」

 そう言ってキユはブンブンとハリセンを素振りする。

「解った解った」

 これ以上叩かれるのはごめんだとばかりにハヤトは知恵の輪を手に取り

 ピンッ……

 知恵の輪を二つに分割する。

 まるではじめから絡み合っていなかったの様に綺麗に外れた。

「嘘、こんなに簡単に!?」

 二つに分けられた知恵の輪をマジマジと見ながらそう唸るミア。

 彼女にしてみれば約十年かけても解けなかったものが僅か一秒足らずで解けてしまった事になる。

「どういう事なの?」

 そんなショックを受けているミアを他所に、キユがそうハヤトに尋ねる。

 キユも先程知恵の輪を触っていたのであれがどれだけ難しいものかは解っていた。

 今見て解いたと言われれば異論を唱えたくなる。

「何、仕掛けが解ってれば解くのは簡単さ、日本人ならこれぐらいできる」

「んー、つまり夏の合宿のあれみたいなもん?」

 夏の合宿の際、ハヤトは鍵の掛かっているドアを鍵を使わずに開けた事がある。

 日本の技術とやらが鍵に使われていたからだと言う話だったが、どうやらこれもその一種であるようだ。

「まぁ、似たようなもんだ」

「んー、でもこの女の子は猫人だよ」

 キユが写真の少女を再確認する。

 間違いなく、猫人族の証である耳がある。

「変装だよ、人族ってのは何かと目立つだろ、それで色々とトラブルが起こる場合があるから大抵の人族は子供の頃はそうやって変装してるんだ」

「ふーん……」

 確かに筋は通っている。

 別段、そこに疑問点は感じなかったのでそれが真実だとしてもよいだろう。

「(んー、でも何かひっかかるんだよなぁ)」

 キユの脳裏には何かが引っ掛かっていた。

 ジャーナリストの本能が何かを感じている。

 そう思えて仕方が無い。

 もう一度、写真と知恵の輪をじっくり見る。

「(…ん?)」

 再度写真の少女を見た時、また何かがひっかかった。

「(む、この子、……何処かで見たような気が)」

 さっき見たなどと言うつもりは無い。

 かと言って別に自分が子供の頃に見たと言う訳でもない。

 極最近、どこかでこれに近い感覚を感じたことがある。

「(小学校……該当無し、中学校……該当無し、なら最近の記憶かな)」

 記憶リストを検索していくキユ。

 その隣で同じように写真を見ていたミユがハヤトを見る。

 見る。

 そして何かを考えた後

「あの、ハヤト君、この子ってもしかして……」

 そう言葉を発するがハヤトがそれを止める。

 口前に人差し指を立てて黙っててくれと目で合図する。

「……うん」

 そんなハヤトの態度でミユは察する事が出来たが、残りの二人は相変わらず知恵の輪と写真を相手に睨めっこをしている。

「ハヤト、これどうやって解いたの教えてよ」

「貸してみろ」

 ミアはそう言われハヤトに知恵の輪を渡す。

 カチンッ

 ミアに見えぬように、ハヤトは再び知恵の輪を一つにする。

「ほれ」

 そしてミアに返す。

「ほれって……、元に戻してどうするんですか!?」

「自分で解け」

「酷っ」

「あのな、そういう物は自力で解かないと意味が無いんだよ、もし解けたら良い事教えてやるから」

「良い事?」

「それを残していった子が今どこで何してるのか、その知恵の輪にどんな意味があるのか、まぁ、お前がそれを解けたらの話だがな」

 そう言ってハヤトはからかうように笑う。

「うわ、何か性格悪いよハヤト」

「アメとムチと言え、何でも教えてもらえると思ったら大間違いだ」

 それでもミアから見たら今のハヤトは相当意地の悪い事をしているように見えた。

「さて、色々すっきりしたし、そろそろ行こうぜ」

 時間も時間だとハヤトはそう皆に呼びかける。

「なーんか腑に落ちないんですけど……」

「んー、思い出せないなぁ」

「うん……」

 三者三様の反応だったが、ハヤトは皆を連れて居間に向かう。

 その後、スズネとニケに挨拶を済ませミアの家を後にする。

 そして……

「獣耳学園に帰ろう」

 彼らの暮らす街へと帰っていくのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ