六時限目『一年の計は?』
~ 六時限目『一年の計は?』 ~
1月1日。
一年の始まりの日、元日である。
初日の出などと言う言葉があるが、別に一年の始まりの日だからと言って太陽が特別明るい訳でも眩しい訳でも綺麗な訳でもない。
そう思えるのは見る者のただの思い込みで気の迷いにしか過ぎない。
「……」
眠い目を擦り、自分を叩き起こした太陽の光を見ながらキユはそんな事を考えていた。
いや、実の所は考えていたのではない。
瞬間的に漠然とそう思っただけだ。
「ふぁ…」
欠伸が出る。
別段、自分は寝起きが悪い訳ではない。
少なくとも、隣でまだ寝ている自分の片割れよりは良いと思っている。
付け加えるなら更にその先で眠っている猫人の少女よりも良いと思っている。
「(…眠い)」
それでも、眠いものは眠いのだ。
「(今何時だろ…)」
部屋を見回すが時計が無い。
この異様な眠たさの原因ははっきりしている。
睡眠時間が短かったからだ。
「(確か日が昇ってから眠ったから…)」
空で輝く太陽の具合からまだ12時に達してはいない。
おそらく今の時刻は10時前後だ。
ならば睡眠時間は単純計算で4時間程。
眠りにつくまでの時間等を考慮に入れれば、満足に睡眠を取れたのは3時間弱程度だろう。
「(時計…)」
頭の中でそんな単純計算は出来ても、それはあくまで仮定の話。
実際に時計を見て自覚する事が今の自分の目的となっていた。
ガラ…
少し厚めの重たい襖を開き、廊下に足を踏み出す。
「(寒い…)」
冬真っ只中。
室内ならば兎も角、廊下には冷気が立ち込めていた。
「(えーっと、どこに行こうとしてたんだっけ…)」
だが冬の冷気を持ってしても睡魔が消え去る事は無く、未だに目的と場所と行動が一致を果たしていなかった。
この時の自分の思考は実に単純なものだったと言えよう。
「(じっとしてても仕方が無い、歩こう)」
そんな感じてヨタヨタと歩く事数秒。
「(…あ)」
廊下のコーナーを曲がった所で、とりあえず自分が目的としている物を見つけ思わず手を伸ばす。
ギュ…
しっかりとそれを掴んだ。
正確にはそれの服を掴んだ。
「ん?」
服を掴まれた事が不思議だったのか、それはそんな声を上げてこちらを見る。
「ああ、キユか、おはよう、…って!?」
「…どーしたのハヤト君?」
こちらを見て、驚いたような表情をするハヤト。
「…いや、キユ、今寝ぼけてるだろ」
ハヤトは視線を何も無い空間に向けたままそう確認してくる。
「…んー、…うん」
確かに、今自分は寝ぼけているかもしれない。
思考がうまくまとまらないし気を抜けば眠ってしまいそうだ。
「…はぁ、いいか、この廊下を真っ直ぐ進めば洗面所だ、そこで顔でも洗って目を覚まして来い」
「…うん」
ハヤトの言葉に大人しく従う。
抵抗する理由もなければ、彼の言葉に抵抗する意味すら感じない。
言われるがまま廊下を歩き出す。
「目が覚めたらしばらく考えてこい、俺は気にしてないし気にするな」
「…うん?」
彼が何を言いたかったのかは理解出来なかったが、とりあえずその言葉だけは記憶した。
廊下を歩く。
ハヤトの言う通り、洗面所が見えてきた。
蛇口を捻り、手で水を掬い顔を洗う。
…冷たい。
先程の廊下に出た時の冷気とは違って、物理的な接触による温度変化は眠っていた脳をある程度活性化させる。
それでも眠い。
これはいけないと手一杯に冷水を溜め
…バシャ
荒療治とばかりに顔をしばらく冷水につける。
「(あー、冷たー、…でも目が覚めてく)」
効果があったのか、目が覚めていくのを自覚するまでに脳は活性化した。
「…ぷはっ」
寝起きでそんな事をしては息も長く続かず、水面から顔を離しタオルで顔を少し強めに拭く。
ゴシゴシ…
「(…あー、そっか、我ながら中々馬鹿な事をやったもんだ)」
ここに来て、脳は普段の思考を取り戻していた。
タオルで顔を覆いながら、起きてからの自分の行動を振り返る。
「(まぁ、あれはしょうがないよね、寝起きで寝ぼけてたんだし、ハヤト君も気にするなって言ってたし)」
考えれば実に恥ずかしい行動を見せてしまったと少々後悔するものの。
「(あれぐらいはご愛嬌として受け取って貰うしかないよ)」
ハヤトの最後の一言で不可抗力と割り切る事が出来た。
気を取り直し、タオルから顔を離して目覚めの一言
「よーし、目が覚め…ふぁぁ!?」
…のはずだったのだが、何とも凄惨な光景がそこにあった。
正確にはそこに映っていた。
そこにあったのは洗面所の必須アイテム、鏡。
その鏡に映った自分の姿を見て思わず声を上げてしまった。
何故なら。
そこには寝起きとは言え、とても人様には見せられないあられもない姿をした自分が映っていたからだ。
スズネに借りた大きめの上着は今にも肩からずれ落ちそうで、ズボンにいたっては辛うじて腰にひっかかっているようなもの。
当然、その下に着ている服など丸見えである。
いやいや、下手をすればそれすらも上着に引きずられて危うい。
ぶっちゃけ殆ど半裸であった。
「(…ぁ、ぅぁぅっ)」
シュボッ!!
ライターで火を起こしたかのような音と共に、鏡に映っている自分の顔が真っ赤に染まる。
自分はこんな状態でハヤトの前に立ち、尚且つあんな行動を取ったのかと考えるだけで顔から火が出そうだった。
「(新年早々何やってんだ私はぁぁぁーー!!)」
頭を抱えて洗面所に蹲る。
ハヤトの言う通り、後悔と自責の念に苛まれながらそのまましばらく考え込む事になるのであった。
その時の彼女の心境は…まぁ、お察しくださいと言った所だろう。
午前8時。
布団の中で静かに目を開くハヤト。
その目覚めは快適であった。
睡眠時間は短かったものの、実に晴れ晴れとした気分で目覚められた。
何時もであればもう少し寝ぼけているはずなのだが、幸い、今日は快適な朝を迎える事が出来た。
「…よし」
目が覚めたのならばやるべき事は沢山ある。
シュル…
服を着替え、まずは洗面所に足を運び顔を洗う。
これで完璧に目が覚める。
普段通りのスケジュールならばこの後に掃除洗濯を行う所なのだが、年を越す前に大掃除を行ったためその必要は無い。
兎にも角にもまずは社に足を運び、一年の始まりの礼を行う。
「(…さて、飯の用意でもするか)」
スズネの家に来てから約一ヶ月、食事は自分の担当だ。
そう思い台所へ行き冷蔵庫を開く。
「(…ふむ、まぁ、元旦ぐらいは好きに料理してもいいよな)」
何時もであれば人の意見を聞いて料理を考える所だが、まだ眠っているであろう面々の意見は流石に聞けない。
ならばたまには自分で考えてもいいだろう。
そう結論付け、包丁を握り調理を始める。
「(今朝は冷え込むからやっぱり熱い汁物がいいかな、…となると)」
鍋に水を注ぎ込み昆布とカツオでダシを取る。
ダシが取れるまでの間に人参とタマネギを薄く輪切りにしていき輪切りにしたものを更に左右に分断、続けて揚げを数枚取り出し大きめに分断。
「(具はこんなもんかな)」
これ以上具を入れれば中身のバランスが悪くなる。
「(味は少し濃い目にしとくか)」
ダシが取れたのを見計らい少しだけ味噌を投入し味見をする。
流石にまだ味が薄い。
また味噌を少し投入。
その繰り返しを数回行い。
「(…ふむ、こんなもんかな)」
味が調ったのを確認し、具を鍋の中に入れ弱火で煮込む。
そして最後に餅を取り出す。
餅を入れるタイミングは実にシビアである。
早すぎれば固く、遅すぎれば崩れる。
皆が起きる時間を読んで投入せねばならない。
「(…10時か)」
時計の針がそう時間を示している。
「(まだ起きてくる気配が無いな、この調子だと11時から12時って所か)」
皆が起きてくるまでまだ時間がかかるだろう。
餅を入れるのはまだまだ先になりそうだ。
「(後は餅を入れれば完成なんだが…)」
この汁物に餅を投入する事で完成する料理、それはお正月の定番料理お雑煮である。
「(…雑煮だけじゃ流石に味気ないかな?)」
もう少し何か作ろうかと再び冷蔵庫の方を見ていると
ギュ…
「ん?」
服の裾を掴まれた。
掴まれたと言うよりは握られたと言った所なのだが、誰に掴まれたのかが解らなかった。
今この家にいる面々でそう言った行動を取る者は居ないはずだ。
振り向いて誰かを確認すると
「ああ、キユか」
誰と言う事は無い、キユだ。
正体が解れば何と言う事は無い。
気軽に朝の挨拶をしようとするが
「おはよう、…って!?」
驚いた。
「…どーしたのハヤト君?」
驚きの声を上げるこちらを見て、トロンとした表情でそう尋ねてくるキユ。
「…いや、キユ、今寝ぼけてるだろ」
朝と言う事で「もしかしたら彼女が寝ぼけているかもしれない」というのはまだ予想が出来た。
予想が出来たのだからして、それは驚くに値しない。
驚いたのは
「(年頃の女の子がこれでいいのか…)」
彼女がほぼ半裸のあられもない姿で立っていた事だった。
正直目のやり所に困る。
自分の顔が赤くなりつつあるのを感じながらも、とりあえず視線を別の方向に向け冷静を保つ。
ここで驚き慌てふためけば困るのは彼女だ。
「…はぁ、いいか、この廊下を真っ直ぐ進めば洗面所だ、そこで顔でも洗って目を覚まして来い」
「…うん」
こちらの言葉に大人しく従うキユ。
「目が覚めたらしばらく考えてこい、俺は気にしてないし気にするな」
言われるがまま廊下を歩き出す彼女にそう一言。
「…うん?」
キユはやや寝ぼけた声でそう答え、そのまま廊下を直進する。
「(ありゃしばらく戻って来れそうに無いな)」
その後姿を見送りながら、同情の念を感じずにはいられなかった。
覚醒を迎えた時のキユの心境を考えると哀れでならない。
そんなどうしようもない気持ちでいると
「んー、おはよう、ハヤト君」
キユの後を追うように現れたミユがそう挨拶をしてくる。
先程とは違い、ちゃんと服を着ている。
まぁ、ちゃんととは言っても私服ではない。
あくまで寝巻きが着崩れていないと言うだけである。
それでもキユに比べればまだましと言えよう。
どうやらミユの方が寝起きが良いらしい。
「おはよう、ミユ」
そうミユに挨拶を返す。
「……」
沈黙。
反応が無い。
普段から反応が薄いミユであるが、反応が無いと言うのは始めてである。
「…ミユ?」
おかしいと思い、もう一度名を呼んでみる。
「…あ、ハヤト君」
時が飛んだ。
まるで先程のやり取りが無かったかのように、キユはこちらの存在に気づく。
「んー、おはよう、ハヤト君」
「…おはよう、ミユ」
前言撤回。
どうやらこの双子は両方共寝起きが悪いらしい。
「ハヤト君、お姉ちゃん見なかった?」
「さっき洗面所に行ったよ、しばらくは戻ってこないぞ」
「んー…、うん」
先の双子の片割れと似たような動作パターンだ。
どうやら彼女もまだ寝ぼけているらしい。
足下はおぼつかず、今にも倒れそう…いや、倒れようとしている。
「って、ミユ!?」
倒れそうになったミユを抱きとめる。
「おいおい、大丈夫か?」
幾ら何でも寝ぼけているのレベルではない。
寝ぼけていても普通であれば反射的に足が出るはずなのにミユは真っ直ぐこちらに倒れてきた。
「(…ん、それって)」
「んー…」
ギュー…
こちらに全体重を預け、離れようとしないミユ。
どうやら、倒れそうになったミユを抱きとめたのではなく、ミユが抱きつこうとして倒れてきたらしい。
「…はぁ」
深く、溜息をつく。
「(…重症だな)」
どうにも、彼女は相当寝ぼけているらしい。
「…ミユ、眠いんだったらまだ寝てていいぞ」
まだしばしの眠りが必要だと判断されたため、そう促す事にした。
「うん、そうする…」
そのまま腕の中で眠ろうとするミユ。
「こらこら、寝るなら布団で寝ろ」
こんな所を誰かに見られたら言い訳の仕様が無い。
「(年頃の女の子がこれでいいのか…)」
つい数十分前にも同じ事を考えていたがこっちな更に性質が悪いかもしれない。
「ほら、立って、角を曲がって廊下を歩いて行けば客間だ、そこで寝ろ」
「…んー、うん」
そう答え、ミユは布団のしかれている客間に帰っていく。
「(…やれやれ)」
その後姿は先程のキユとまったく同じだった。
起きると廊下を歩いていた。
いや、正確には廊下を歩いているうちに目が覚めたと言った所だろうか。
どちらにせよ、真の覚醒にはまだ遠いらしく。
頭の中には未だに睡魔が居座っている。
お陰で頭の中にはずっともやがかかっているようだった。
「んー、おはよう、ハヤト君」
とりあえず、目が覚めて一番初めに目に飛び込んだのが彼だったのは幸運だったと言えよう。
目が覚めて、夢見ていた人が目の前に居るというのは比較的良い事のはずだ。
これが夢なら抱きついてしまいたい所だが、一応現実であるらしいので自重する。
「(…あ)」
現実であるはずの世界が暗転する。
どうやらまだ眠りの中にいたらしい。
何とも中途半端な夢を見るものだと思う。
どうせ夢ならもう少し自分に都合の良いシチュエーションはないものかと考える。
「…ミユ?」
暗転していた世界がそんな声で開かれた。
また夢が始まったらしい。
「…あ、ハヤト君」
先程の続きなのだろうか、目の前にはハヤトが立っていた。
「んー、おはよう、ハヤト君」
眠い目を少し擦りながら、そうハヤトに朝の挨拶をする。
夢なのに眠いと言う設定は反則だと思った。
「…おはよう、ミユ」
ハヤトがそう答える
辺りが明るい。
「(今何時なんだろ、ううん、ハヤト君が家に居るはずがないし、やっぱり…)」
これは夢なのだ。
どう考えても話の辻褄が合わない。
「(そうだ、これは夢だ、だとすると早く起きないと学園に遅刻してしまう、…ああ、違う、今は確か冬休み中で…そうだバイトしなきゃ)」
頭の中でニューロンとシナプスが必死に記憶を辿っていっている。
「ハヤト君、お姉ちゃん見なかった?」
ここは夢の中なのだ。
現実であるなら、ハヤトが姉の行動を知っているはずが無い。
考えた結果そう思ったのではない、なんとなく、直感的に、夢のなのだからそうに違いないと思った。
もしハヤトが姉の行方を答えたならば、これは夢なのだ。
「さっき洗面所に行ったよ、しばらくは戻ってこないぞ」
…やはりこれは夢だ。
「んー…」
先程、夢ならもっと自分に都合が良い夢であっていいのではないかと考えていた。
ここは夢の中だ。
なら何をしても問題はないはずだ。
普段やりたくてもやれない事がここでなら出来る。
「…うん」
思い立ったら行動に移さなければならない。
これは夢なのだ。
夢を夢と思ってしまえばそれは夢ではなくなってしまう。
夢から覚める前に、せめて一行動ぐらいは。
そう思って足を進めたはずなのだが
「って、ミユ!?」
倒れそうになった自分をハヤトが抱きとめてくれる。
…やはり、これは夢だ。
こんなにすんなりと願いが叶うはずがない。
「おいおい、大丈夫か?」
よくは解らないが、彼が心配してくれている。
「んー…」
ギュー…
力一杯、彼に抱きつく。
温かい。
ああ、夢とは何と心地がよいのだろう。
彼に抱きしめてもらっていると思うと天にも昇る気分だ。
これが例え夢から覚めて布団を一人で抱きしめていたとしても、この瞬間のこの幸福感だけは紛れも無く自分だけのものだ。
「…ミユ、眠いんだったらまだ寝てていいぞ」
夢魔の誘いか、夢の中であるはずなのにまだ眠い自分に彼がそう言ってくれる。
「うん、そうする…」
その声に逆らう意思など無い。
彼がそう言うならそれに従おう。
そのまま腕の中で眠ろうとするが。
「こらこら、寝るなら布団で寝ろ」
「……」
夢と言えどそこまで甘くは無いらしい。
「ほら、立って、角を曲がって廊下を歩いて行けば客間だ、そこで寝ろ」
現実の彼なら、きっとそう言うに違いない。
夢は終わった。
後は眠気が取れるまで眠るだけだ。
「…んー、うん」
仕方が無い。
今日の所はここまでで我慢しよう。
彼の言った通りに廊下を歩き、自分の眠っていた布団に辿り着く。
「(…眠ろ)」
掛け布団に手をかけ、そのまま隙間に潜り込むように布団に入る。
「(…温かい)
人がいないはずの布団。
それなのに温かい。
まぁ、夢なのだからおかしくもないが。
「(誰かいる…、ハヤト君?)」
この温かさは人の温もりだ。
これは夢だ。
夢なのだから自分の願いが叶うはずだ。
なら、この温もりは彼のものだ。
ギュー…
その温もりを抱きしめながら、世界は再び暗転するのであった。
「(ん…)」
ミアの眠りは何者かに妨げられた。
誰かが布団の中に入ってきて自分に抱きついてきたのだ。
「(…んー、何事?)」
寝起きのせいか、思考がぼやける。
とりあえず解る事は、自分が寝ていて、誰かが自分の布団に侵入してきて、自分に抱きついてきたと言う事だけ。
「(…はて、何故に?)」
自分は確か冬休みで実家に帰省をしていたはず、となればここは自分の部屋の布団のはずだ。
言わば自分のテリトリーである。
そこに誰かが侵入してくる事はないはずだ。
「(違う、そうだ、確か神社に行って…)」
記憶を辿るうちに、ふとした事で脳内連鎖が始まる。
「(そうだそうだ、年越しはハヤトと一緒に過ごして…)」
そのまま泊まらせて貰ったのだと思い出す。
「(はっ!!)」
途端、脳内に光が走る。
「(と言う事は…)」
瞬間的にニューロンとシナプスが連結していく。
「(もしやハヤト!?)」
脳がその答えに辿り付くと同時に、心臓が一気に高鳴る。
「(おおう、これは予期せぬ事態、隙あればこちらからと考えていたがまさか先手を打たれるとは…)」
寝起きというのは怖い物で、ほぼ例外無く思考が鈍くなる。
普段であればそのように思ってもすぐに脳内で再計算が行われ、現実的な答えを算出していたはずだった。
だが、今は寝起きである。
よって…
「(否っ、それはそれで全然OK!!)」
その思考は自然と欲望の赴くままに進んでいくのであった。
ちなみにこの思考に行き着くまでに要した時間は僅かに4秒。
「(さぁハヤト、ばっちこーい!!)」
準備はOK。
その時をドキドキと待ちわびるが
「……」
来ない。
「(…何故に?)」
ハヤトは後ろから抱きついたまま微動だにしない。
「(何故ですかハヤト、貴方はそれで満足できるのですか、こんな寸止めな状態では私は満足できません!!)」
と思いきや
「すー…」
そんな寝息が聞こえてきた。
「…は?」
どうやら眠っているらしい。
「ちょっとまてこらー!!」
バッ!!
布団を跳ね除け立ち上がる。
「幾ら何でもそれは男としてどうですか!?」
この甲斐性なしと言わんばかりにそう声を上げハヤトを指差すが
「…おんや?」
そこにハヤトの姿は無かった。
「……」
そこに居たのは安らかな表情で眠るミユであった。
脳内でニューロンとシナプスが思考回路を再構築しはじめる。
チ、チ、チ、チーン
再構築完了。
どうやらはじめから多大な勘違いをしていた事が発覚。
「な、ですかこのオチは!?」
幾らなんでもあんまりだと、そう叫ぶ自分の声が室内に木霊する。
一年の計は元旦にあり、と言う言葉がある。
その言葉が事実ならば、この朝のやり取りだけで今年の出来事が容易に想像できるようであった。
ちなみに、皆が起きて昼食を終えた後も色々とてんやわんやな事態が続いたのは言うまでも無い。




