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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第04話「華咲け、獣耳学園」
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三時限目『正統後継者』

 ~ 三時限目『正統後継者』 ~


 立ち話も何だと言う事で、面々は社の縁側にて腰を降ろし、熱いお茶をすすりながら互いの事情を話し合っていた。

 冬真っ只中なので空気は冷たいが、お茶のお陰でそれなりに温かい。

 いや、それ以前に何やら妙な空気が場を覆っていたのであまり寒さを感じなかった。

「…つまり、ハヤトはスズネさんと知り合いで、休みの間この神社の手伝いに来たと?」

 ハヤトの一通りの説明が終わった所で、ミアがそう状況をまとめる。

 心なしか、言葉が淡白であった。

「ああ、姉上から連絡があってな、年末はスズネさんの手伝いをしろと言われた」

 その事に気づいていないのか、それともわざとなのか、淡々と説明を続けるハヤト。

「こやつの姉とは旧知の仲でな、年末は色々と忙しくなるで毎年手伝ってもらっておったんじゃが、今年は何やら用事があるとの事なので代わりにこやつを寄越させた」

 そのハヤトの説明にスズネが更にそう説明を付け加える。

「まぁ、掃除は丁寧じゃし料理もうまい、雑用も文句を言わずにやるのでこちらとしては大助かりなのじゃが、如何せんこやつは気がきかん、これでギャグの一つでも言えたら良い男になるんじゃがのぉ」

「それはお生憎様でしたね、ですがボケ役が二人居たのでは面白くないでしょう」

「…お主、遠回しにワシがボケているとでも言いたいのか?」

「いえいえ、とんでもない…」

 まさしくボケとツッコミであった。

「まぁ、そう言う訳で、俺は休みに入ってからずっとここに住み込みで働かされていると言う訳だ」

「三食昼ね付きじゃ、なかなか待遇よかろうて」

「それはスズネさんが、でしょ、…まぁ、ずっとこんな感じでこきつかわれている」

 難儀な話だろと言わんばかりの口調である。

「ふーん…」

 その言葉を聞いたミアがそう唸った後

「それで、二人の関係は?」

 ニコニコ笑いながらそう質問してくる。

「は?」

 その質問の意味する所が一瞬解らなかったハヤト。

「さっき説明しただろ、スズネさんは…」

「二人の関係は?」

 笑いながら再度質問するミア。

 顔は笑っているが気配が笑っていない。

 その時点で、彼女の意図する所が何なのかがはっきり解った。

「…お前なぁ、どうしてそういう視点でしか物事を捉えられんのだ?」

 呆れ半分でそう問いただすハヤト。

「だって、ハヤトってば冬休み入ってすぐに居なくなっちゃうし」

 ミアが言うには冬休みに入ってから度々ハヤトの家を訪れたのだが、すでにもぬけの殻だったとか。

「やっと会えたと思ったらこーんな可愛い女の子と一緒にバイトやってて、しかも住み込みだなんて言い出すんだもん、不公平だよ!!」

「何が不公平だ、もう少し冷静に状況を見てから物を言え」

「だから関係を聞いてるんじゃない、どうなの、それとも人に言えないような特別な関係な訳!?」

「そんな訳…!!」

 いい加減、ハヤトが声を荒げて反論しようとするが

「そうじゃのぉ、ワシとハヤトの関係か、一言では説明できんが…おそらくお主の想像を遥かに上回る関係じゃて」

「想像を…遥かに!?」

 ザザーン!!

 これが映画であれば背景が断崖絶壁の荒波と化していた事だろう。

「ハーヤートー…」

 チキチキチキ…

 彼女の怒りと共にその爪がゆっくりと伸びていく。

 それは、猫人族が誇る怒りの戦闘形態だった。

「少しは落ち着け、この馬鹿猫!!」

 スパァァン!!

「ふぎゃん!!」

 何処ぞより取り出したビニールスリッパが軽快な音を立てて鳴り響く。

「く、変身中に攻撃するのはルール違反だよ!!」

「何の話かさっぱり解らねぇよ!!」

 とりあえずツッコミを一回入れ。

「いいか良く聞け、はっきり言っとくが俺とスズネさんは断じてそんな関係ではないっ!!」

 珍しく、そう断言するハヤト。

 ここまではっきりと言い放つ彼は珍しい。

「ううう、ワシとの事は遊びじゃったのか…」

「そこ、嘘泣きしないでください!!」

「ケチじゃのぉ」

 面白く無いと言わんばかりにコロリと表情を変えるスズネ。

「それじゃ実際の所はどうなの?」

 一通りの漫才が終わった後、キユが改めてそう質問をしてくる。

「姉上の親友で、…まぁ、俺の育ての親と言った所だ」

『…は?』

 ミアやキユはもちろんの事、ミユまでもがそんな声を上げてクエスチョンマークを頭に浮かべる。

「え、だって…」

 まずはミアがスズネの方を見ながらそう声を上げる。

 彼女の言いたい事は解る。

 どう計算しても年齢が釣り合わない。

「見た目に騙されるな、こう見えてこの人の実年齢は…」

 ハヤトがその先を続けて言おうとするが

「奥義、御霊返し!!」

 グルンッ!!

 途端、天地が逆転する。

 ドスンッ!!

「べぐぁっっ!!」

 辺りに嫌な声が響く。

 ハヤトが宙に浮いたと思った次の瞬間。

 床に座っていたはずの彼は逆さまの状態になり床に叩きつけられていた。

 どういう方法かは解らないがスズネが何かをしたのだけは間違いなさそうだ。

「まったく、乙女の年齢を軽々しくばらすでない、恥ずかしいではないか」

 可愛げにそう言うが先の行動の後では逆効果である。

 先の言葉からして、どうやら見た目通りの年齢ではないらしい。

「痛ぅ…」

 身を起こすハヤト。

 流石にダメージの色が濃い。

「いきなり何するんですか!!」

「そこの娘も言うておったじゃろ、ワシは可愛い女の子じゃ」

 確かに、容姿だけ取れば申し分の無い美少女である。

「何が可愛い女の子ですか、大体もう女の子なんて年齢じゃないでしょ、いい加減自分の歳を考えてください!!」

「甘い甘い、病も気からと言うではないか、心は何時も16歳じゃ」

「全っ然意味解りませんよ…」

 これは駄目だとばかりに一気に諦めるハヤト。

 おそらくこういったやり取りは今回が始めてではないのだろう。

「んー?」

 その光景を見ていたミアがそんな唸り声を上げる。

「ねぇ、ハヤト」

「ん?」

「さっきの技どっかで見た覚えがあるんだけど…」

「そりゃあるだろ、あれは姉上が使ってた技と一緒だからな」

「あー、なるほど」

 そう言われて納得するミア。

「ワシとアイは同門での、まぁ、ワシは落ちこぼれじゃったからあやつ程うまくは使えんが、それなりに技は習得しとる」

「今ので落ちこぼれっすか…」

 そう言って顔を顰めるミアとキユ。

 ハヤトやアイの時もそうだったが、この人達の強さの基準は一体どこにあるんだろう。

「ワシは相手の呼吸を読むのが苦手じゃからの、アイのように綺麗には投げれん」

 そう付け加えるスズネだが、端から見たらどこがどう違うのかさっぱり解らない。

「あのー、技や同門という事は何かしらの流派があるんですか?」

 キユの好奇心に響く何かがあったのか、そう質問を投げかける。

「うむ、ワシは正統後継者ではないので詳しくは知らんが、日本に古来より伝わる暗殺術という話じゃ」

「あ、暗殺…」

 いきなりのその単語に、ミユは顔を曇らせる。

「安心せい、今の時代に人殺しなんぞやっても儲からん」

 ミユはそういう問題ではないと言った泣きそうな顔をするが

「懐かしい話じゃ、昔は拳を極めんとしてアイと共に良くここで修行したものよ」

 スズネは全然気づいていなかった。

「暗殺術と言う割には派手な技ですね」

 単刀直入に感想を述べるミア。

「暗殺の意味が違う、暗殺は本来暗闇に紛れてひそかに相手を殺すと言う意味じゃが、ワシ等の技は闇に葬られし殺人術、言い直すならば闇殺術じゃ」

「おお、何か凄そうですね」

「まぁ、大層な言葉がついてもやってる事は武術と変わりないがな」

 そう補足するハヤト。

「具体的にどういう技を主体としてるんですか?」

 記者らしく、的確に質問を投げかけるキユ。

「うむ、突きや蹴りも使うがその奥義は投げにある、今では秘儀として失われておるが、始祖はその投げで竜巻すら起こせたと言う、同じように突きや蹴りにも各々秘儀があり、その脚は大地を割り、拳を天に掲げれば星まで届いたそうな」

「な、何か凄まじいビジョンが見えるんですけど…」

 どういう想像をしているのかは知らないが、キユの脳内では何やら凄い映像が流れているようだ。

「あのー、スズネさんが正統後継者ではないという事は、お姉様が正統後継者という事ですか?」

「お姉様?」

 ミアのその言葉にスズネは一瞬虚を突かれる。

「姉上の事です」

 意味が通じていないようなのでハヤトが補足説明を行う。

「おお、アイの事か、何じゃ、最近は妙な呼称が流行っとるんじゃのぉ」

 スズネのその言葉を「極一部の特殊な状況でのみの話です」とハヤトが訂正する。

「それで、その流派の正統後継者とは?」

 マイクがあれば差し出しそうな勢いでそう尋ねるキユ。

 その姿はまるでテレビで良く見る記者のようであった。

「正統後継者なら、ほれ、そこにおるではないか」

「どこに?」

 スズネの指差す方向を振り向く面々。

 そこに居たのは

「勝手に後継者にしないで下さい」

 ハヤトだった。

『…あー』

 納得する面々。

「おいそこ、何納得してる」

「いや、何となく」

「何か説得力があったから」

 笑いながらそう答えるミアとキユ。

「はぁ、まったく…」

 一度深い溜息をつき、手元のお茶を一口飲むハヤト。

「こやつはまだ未熟者じゃが、正統後継者に欠かせぬある特技を…」

「スズネさん、それぐらいにしてください、言葉が過ぎます」

 ハヤトはそう声を上げてスズネの言葉を遮る。

 流石に愚痴をこぼしたくなったのか言葉を続ける。

「まったく、黙っていれば良く喋るんですから、勝手にベラベラと…ああ、勝手にと言えば…」

 そこで、何か思い出したようにそう声を上げる。

「スズネさん」

「ん?」

「どうして俺の手紙を出してくれなかったんですか?」

 同じように茶を飲んでいたスズネにそう問い掛ける。

「この手紙を出したのスズネさんでしょ?」

 そしてキユが持ってきた手紙を差し出す。

 その手紙のせいで無用の混乱が生じたんですから、とハヤトは説明する。

「…お主、学園生活で少し腑抜けたか?」

「は?」

 スズネは少し頭を使えと言わんばかりの口調でそう諭す。

「……」

 少し考え込むハヤト。

「…ああ、そういう事ですか」

「そういう事じゃ」

 その言葉でハヤトは納得したらしいが

「ねぇ、どういう事なわけ?」

 部外者の三人には訳が解らない。

「んー、色々と訳有りでね…」

 ハヤトは茶を濁そうとするが

「こやつがここに居る事がバレたら色々と五月蝿くてな、手紙などは郵便局を通すじゃろ、こやつの出す手紙は逐一国連に調査されてお…」

「スズネさん!!」

 スズネの言葉を遮るようにそう大きな声を出すハヤト。

「先程も言いましたが、言葉が過ぎます…」

「む…」

 そのハヤトの一言に怪訝そうな表情を浮かべるスズネ。

「…もしやお主、この娘達に何も話しておらんのか?」

「当たり前で…」

 ハヤトは少し怒ったかのように声を上げようとするが

「この戯けがっ!!」

 ビクッ!!

 スズネのその一括によって掻き消され、硬直するハヤト。

 同じように他の面々も体を硬直させる。

「学園に通うようになって少しはマシになったかと思えば、何時までも過去を引きずっている辺り少しも成長しておらんようじゃの!!」

「いえ、俺は…」

「黙れ、この馬鹿者が!!」

「う…」

「偉そうな口を叩く前に頭を冷やさんか!!」

「す、すみません…」

 ハヤトは素直にそう謝り、自分の非を認める。

 そんなハヤトの姿見て

 パチパチパチ…

 拍手を上げる女性陣。

「何じゃ?」

「いえ、ハヤトがここまであっさりと言い負かされるの始めてみたもんで」

 ミアの言葉に同意の頷きをするキユとミユ。

「ふん、小僧一人御せんで神主は務まらんわ」

 口ではそう言うが、称えよと言わんばかりに胸を張るスズネ。

「……」

 一方、どうにも不本意な姿を見られているためか、面白くなさそうな顔をするハヤト。

「さて、ワシはこれから少し出かけねばならんので、そろそろ席を外させてもらおうかの」

「あのー」

 席を外そうとするスズネにそう声をかけるキユ。

「ん、何じゃ?」

「境内の撮影とかってしても良いでしょうか?」

 ハヤトのバイト姿も撮るが、この場所を前にして彼女の撮影魂が騒がない訳が無かった。

 出来ればじっくりと撮影会を開きたい所である。

 そうなると神主に撮影許可を求めるのは道理とも言えよう。

「むぅ、ワシは別に構わんのじゃが…」

 やや言葉を濁すスズネ。

「ハヤト、構わんかの?」

「…止めといた方が良いでしょう」

「そうか、お主がそう言うならそうじゃの…」

 スズネはハヤトの言葉を聞いて答えを固める。

「キユとか言ったの、悪いが撮影は遠慮してはもらえんか、こやつのバイト姿ぐらいなら良いが、境内を写真に写すと色々問題が出るで」

「問題…ですか?」

「うむ」

「…まぁ、そういう事なら」

 何か事情があるのだろうと大人しくスズネの言葉に従うキユ。

 神主の彼女がそう言うのだからそれ相応の理由があるのだろう。

 如何に記者とは言え、ルールは守らねばならない。

「…そうじゃ、お主等今日はこのまま帰るのか?」

「いえ、出来ればどこかで一泊して明日帰ろうと思ってます」

「ふむ、泊まる場所は?」

「まだ決めてません、どこか飛び入りで泊まらせてくれそうな所を知りませんか?」

「この辺りに宿は無いぞ」

「え?」

 スズネが説明するにはこの辺りは過疎化が進み、観光名所もないため宿屋が無いらしい。

「い、一件も無いんですか?」

「うむ、見ての通りの田舎じゃからな」

「ふへぇ、またあの電車に乗らなきゃいけないんだ…」

 想像するだけでげんなりする。

「それは難儀じゃな、よし、なら家に泊まっていくがよい」

「え?」

「折角やってきたのに境内の撮影もさせてやれず、何の持て成しも出来ないまま帰したのではワシの気が納まらん、ハヤト、寝床を用意してやれ」

「あ、あの…」

 いきなりの展開にどう対応してよいのか解らないキユ。

「スズネさん、それは色々と問題があると思います」

「何がじゃ?」

「一泊とは言え同学年の若い男女が同じ屋根の下で寝るというのは…」

「…お主、遠回しにワシが若くないと言いたいのか、根に持つ男じゃのぉ」

「違います、世間体から見てまずいと言っているんです」

 スズネのマジなのかボケなのか解らないリアクションに対し、冷静にそうツッコミを入れるハヤト。

「別に構わんじゃろ」

「何でですか?」

「ん、この娘等はお主の妾ではないのか?」

「違います」

「で、誰が正妻なんじゃ?」

「人の話を聞いてください」

 いい加減頭痛を感じはじめるハヤトであった。

「はいはい、私でーす!!」

 すかさず手を上げるミア。

「状況をややこしくするな!!」

 スパァァン!!

「ふぎゃん!!」

 本日2発目、ビニールスリッパが軽快な音を立てて鳴り響く。

「まったく、…でも、この辺りに宿が無いのは本当だ、二人共どうする?」

 キユとミユにそう選択を委ねるハヤト。

『うーん…』

 考え込む二人。

「遠慮する事はないぞ、二人が泊まるのなら俺が一晩他所で寝ればいいだけだしな」

「いや、私達は別にハヤト君が居てもいいんだけど…」

 問題は、とミアの方をちらりと見るキユ。

「お姉ちゃん…」

「ん?」

 そんなキユにミユが言う。

「泊まらせてもらおう」

「ミユ…?」

 ミユの言葉に驚きつつも、キユはミユの心情を察する事ができた。

「じゃあ一晩お世話になります」

「うむ、遠慮は要らん二拍でも三泊でもしていくがよい」

 面白くなってきたと高らかに笑うスズネ。

「さて、それじゃまず寝床の用意か、後は離れを掃除しとかないとな…」

 キユとミユの寝床もそうだが、今晩の自分の寝床も考えなくてはと頭を捻らせるハヤトだったが

「あー、ハヤト君」

「ん?」

「別にいいよ」

「何がだ?」

「寝床を他所に移さなくてもって事」

「は?」

 キユの連続する言葉にハヤトは聞き返してばかりである。

「あのなぁ、どこぞの馬鹿猫じゃあるまいしもう少し世間体を…」

「別に今更って感じだし、ハヤト君が何もしなかったらいいだけの話でしょ、大丈夫、私達も黙っとくから」

「いや、だからそういう問題じゃ…」

 ハヤトが抗議しようとするが

「よいではないか」

 スズネがあっさりそれを静止する。

「この娘達の言う通り、お主が何もせなんだら良いだけの事じゃ」

「…あのですね、俺の事をそれだけ信用できる男だと評価して貰えるのは嬉しいのですが、俺だって男なんですよ、何かの間違いが起こってからでは…」

 決り文句や殺し文句のようにそう自分の言い分を主張するハヤトだったが

「別に構わんじゃろ」

「なっ…」

 必死の言葉も届かない。

「この娘達、それぐらい覚悟の上じゃて、それに…」

 グイッ…

 スズネはハヤトの首根っこを捕まえて耳打ちするように小声で喋る。

「寧ろそうなる事を望んでおるかもしれんぞ…」

「馬鹿な事言わないで下さい…」

 スズネのその一言を聞いて一気に脱力するハヤト。

「照れるな照れるな、お主が望むならワシとて一晩ぐらい抱かれてやってもいいぐらいの覚悟はあるぞい」

「勘弁してください…」

 今度こそ本当に頭痛を感じるハヤトであった。

「まったく、どうして俺の周りにはこう…」

 果てに愚痴をぶつぶつ言い始める。

 こうなると最早状況に流されるしかなかった。

 そんな時

「はいはーい」

 今まで黙って状況を見ていたミアがそう声を上げる。

「二人が泊まるなら私も泊まらせてくださーい!!」

 どうやらこの機会を伺っていたらしい。

「あのなぁ、お前にはちゃんと帰る家があるんだろ」

「だって家に居ても暇なんだもん」

 暇だからここに来た彼女としては最もな意見かもしれない。

「だからって…」

「よいよい、二人が三人になったところで対して手間は変わらん」

「スズネさん、勝手に決めないでください」

「なんじゃ、あっちの二人はよくてこっちの娘は駄目な理由でもあるのか?」

「いえ、別にそういう訳では…」

「なら良いではないか」

「……」

 どうにも、ハヤトはスズネが苦手なのか、簡単にそう言いくるめられてしまう。

「じゃが親御さんには連絡を入れねばならんの、お主の家はどこじゃ?」

「えっとですね…」

 スズネの問いにミアは家の住所を述べていく。

「ん、待て、もしやお主、ニケの血縁の者か?」

 その住所に思い当たる節があったのか、スズネがそう質問する。

「え、おじいちゃんの事知ってるんですか?」

「…ほぅ、なるほどなるほど」

 ミアの答えを聞き、スズネは改めてミアの顔をじっと見る。

「な、なんですか?」

 いきなり見つめられたら誰だって困るだろう。

 今まさにミアがそのような状態である。

「そうか、ミアか、そうかそうか、いや、面白い縁じゃて」

「は?」

「よい、詳しい話はまた後でしてやろう、流石にもう行かねば時間が無い」

 そう言ってスズネは懐から古い懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 かなりの年代物であるらしく、良く使い込まれているのが端から見ても解った。

「ではハヤト、ちゃんと寝床の準備をしといてやれ」

「はい、夕食は何にします?」

「ワシはいつものやつがあればよい、後は適当に作れ」

「解りました」

「うむ、では後は任したぞ」

 そう言って早足に階段を駆け下りていくスズネ。

「うわ、はっやー」

「私等これ登るのに結構かかったんですけど…」

 まるでボールが軽やかに弾むように、スズネはあっという間に階段を下りていく。

「スズネさんは軽身功の達人だからな」

 そう言いながら慣れた手つきで掃除道具を片付けはじめるハヤト。

「いや、さらっと達人とか言われても…」

「ここじゃ細かい事を言い出したらきりがないぞ、それよりミユ、夕食の準備手伝ってくれないかな、俺一人じゃ五人分は流石に骨が折れる」

「うん、いいよ…」

 ハヤトの言葉にそう頷くミユ。

「わ、私達は戦力外っすか?」

「戦力になると?」

「いえ、なりません…」

 結果が解っていてもあえてそう聞いてしまう自分のボケ根性が恨めしい。

 そう思うミアであった。

「…だがまぁ、芋剥きぐらいはできるよな?」

「まぁ、それぐらいなら…」

 ハヤトの問いにそう答えるキユ。

 夏の合宿の際、カレーを作る時に多少なりとも皮剥きをしたお陰で微々たる程度にだがレベルアップを果たしている。

「今度はできるだけ皮を薄く剥く練習だな」

「…って事は手伝ってもいいって事?」

 そう尋ねるミア。

「…別に俺は手伝うなとは言ってないぞ」

 実に捻くれ者である。

「OK、任せといて!!」

「これでもレベルアップは早い方なんだから!!」

 そう言って意気込む二人。

 どんな形であれハヤトの手伝い。

 熱が入らない訳が無い。

「じゃ、ちゃちゃっとはじめようぜ、俺はまず掃除するから、料理の下ごしらえをしといてくれ」

『おー!!』

 意気込む女性陣。

 頑張るぞとミアとキユが意気揚揚と台所に向かって行く。

 だが、ハヤトが掃除を終えて台所に現れると、そこには深く沈んだミアとキユの姿があった。

 どうやらミユによって己のレベルの低さを改めて思い知らされたらしい。

 そこにどんなドラマがあったのか、この際語るまい。

 まぁ、そんなこんなであっという間に日が暮れ、夜を迎える。


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