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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第04話「華咲け、獣耳学園」
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一時限目『冬到来』

 ~ 一時限目『冬到来』 ~


 12月1日。

 本来であれば2学期末試験を目前に控え、生徒一同それなりに気苦労の絶えない時期なのだが、獣耳学園においては試験が前期と後期に分かれており12月には試験が無い。

 加えて秋の行事も一通り終わってしまい、その反動のためか生徒達はやや暇を持て余し始めていた。

 何かないかなと学園に登校してくる生徒達。

 13クラスの面々も例にもれずそんな感じで教室に集まっていたのだが

「あー、と言う訳で、今日から冬休みだ」

「先生、質問!!」

 豹人チタ先生に対し、猫人ミアが勢いよく手を上げて声を出す。

「何だね、ミア君?」

「何が、と言う訳、なのかがさっぱり解りません」

 最早恒例の質問である。

「うん、本来であれば冬休みは12月24日ぐらいからなのだが、少々書類が溜まっていてね」

「書類…ですか?」

「新設校は初年度の前期と後期に国に対して報告書を提出しなくてはならないという規則があるんだ、だが先日の百獣学園との勝負事やらなんやらが影響し諸先生方の前期の報告書が少々滞っていた、問題はこれを年末までに提出しなくてはならず…」

「…つまり、生徒達の面倒まで見切れないから速めに休みに突入させてその間に書類をやっつけようと?」

「否定し様の無い適切かつ的を得た見事な解説ありがとう、ハヤト君」

 ハヤトの言葉にチタ先生は否定もせずそう言葉を返す。

「ってことは冬休みが1ヶ月あるって事ですか?」

 大抵冬休みは年明けの1月8日まで続く、まだ12月1日という事は約40日は休みがある計算だ。

「そう言う事になるが、学園側としてもその間生徒達に遊んで貰おうとは考えていない、私立校とは言えそこまで唯我独尊な休みを設けるわけにはいかないんでね」

「け、自分達が仕事してるのに生徒が遊んでるのが許せねぇってだけだろ」

 ケンが皮肉たっぷりにそう声を上げるが

「まぁ、そんな所だ」

「あっさり肯定すんなよ!!」

 チタ先生のあまりに素直なその言葉にそんな逆ツッコミを入れるケン。

「そういうわけで、今回の冬休みはちょっとした宿題を提出する事になった」

『宿題?』

 皆、一様に声を揃えてそう聞き返す。

 同時に嫌な予感を覚えるのであった。

 獣耳学園において、このような状況で良い事があった時はあまりない。

「生徒諸君は冬休みの間、一日でよいので必ずバイトをする事、それが宿題だ」

「バイト…ですか?」

 虚を突かれたのか、コゥがそうオウム返しに答える。

「まぁ、いきなりバイトをしろと言われても困るだろう」

 学生を雇ってくれるバイト先は結構限られてくる。

「そこで学園側である程度獣耳学園の生徒を優先的に採用してもらえるバイト先をすでにリストアップしている、生徒諸君はそのリストから好きなバイトを選び、一日でもいいのでバイトする事」

 そう言ってチタ先生はそのリストとやらを皆に配布する。

「運送会社、清掃業者、事務手伝いに街頭宣伝…」

 無難といえば無難なラインナップ。

 どこも人手が不足しがちな職場ばかりである。

 他にも色々バイト先が記載されており、ご丁寧に給料や待遇まで書かれている。

 まるでちょっとしたバイト情報誌だ。

「でも、どうしてバイトなんですかー?」

「簡単に言えば宣伝だ、来年の春から獣耳学園も二年度に入る、だが世間様の評価はまちまちでね」

 設立したばかりの学園の弱みである。

 無論、獣耳学園においては良い評価の方が多いのだが、反対意見も少なからずある。

「そこで来年度に向け少しでも印象を良くしようと地域との交流を様々な方々へアピールしようというわけだ」

「なるほど」

 チタ先生の説明を聞き納得したとばかりにミアが頷く。

 一方、少し考え込むハヤト。

「…先生、質問があります」

「ん、何かな、ハヤト君?」

「バイト先はこのリストに乗ってない所でもいいんですか?」

「ああ、別に構わない」

 場所や職種は問わないとの事らしい。

「ただし、さっきのリストのバイト先でもそうなんだが、バイトをちゃんとしたという証拠が必要だ」

「証拠…ですか?」

 確かに、生徒の進言だけでバイトをやったやってないと判断するのは困難である。

 リストのバイト先ならば学園の協力者がいるだろうが、他所の場合はそうもいかない。 

「何、そんなに難しい事じゃない、新聞部か写真部の立会いの元で写真を一枚撮るだけだ、この件に関しては双方の部の協力の元で行われる」

「えっ!?」

 チタ先生のその言葉にキユが声を上げる。

「待ってください、私そんな話聞いてませんよ!!」

 新聞部所属の彼女としては流石に聞き逃せない言葉だったらしい。

「うん、まだ言ってないからね」

 さらりとそう答えるチタ先生。

「一応学校関係者であれば証明として問題無いのだが、何分諸先生方は忙しいのでね、新聞部と写真部に協力してもらうのが妥当という事になった、無論、これは学園が正式に依頼するものだから双方の部には相応の報酬が支払われる」

「報酬?」

「まず双方の部に所属している生徒は今回の宿題が免除される、生徒一人の証明写真につき安価ではあるがバイト代が支払われる」

「ノルマ制って事ですか」

 キユがそうチタ先生に確認する。

「その通り、時給にすると何かと不都合がでる可能性があるからね、ああ、もちろん交通費は学園持ちだ」

 各地に散らばる生徒達を取材するとなると移動だけでもそれ相応の時間がかかる。

 それを考えるならば時給制は管理が難しい。

 それならば交通費を支給しノルマ制とした方が効率が良いだろう。

「どうかな、新聞部としてもメリットの方が強いと思うが?」

「むぅ、確かに…」

 学園公認で生徒達のバイト姿を取材できる。

 これは新聞部のネタとしてこの上無くおいしい。

「まぁ、新聞部がどうしても嫌だというなら写真部にのみ依頼するよ」

「やらないなんて言ってません、っていうか寧ろやります!!」

 獣耳学園において、新聞部と写真部の仲は微妙である。

 決して仲が悪いわけではないのだが、時折対立の図式をかもしだす。

 記事にする者と現場を押さえる者。

 どちらが上かという話になると両者一歩も譲らず、相手より上に立とうと競争心を燃やすのだ。

 よって敵対というよりは互いをライバルとして見ているという言葉がここでは正しいだろう。

「今日の放課後、正式に依頼状が部室に届くはずだ」

 すでに手筈は整っていると言わんばかりである。

「まぁ、そう言う訳でバイト先はちゃんと事前に双方の部に報告する事、じゃないと折角バイトしても無申請になってしまうからね」

 チタ先生の言葉を聞きながら、皆リストに目を通す。

 そんな中。

「げっ!?」

 何か見つけたのか、ケンがそう小さく声を上げる。

「ん、どうした?」

 ハヤトがそう声をかける。

「…いや、何でもねぇ」

「あんな声上げて何もない訳あるか、何かあったのか?」

 ハヤトはケンが見ていたであろう箇所のバイト先を見る。

「…別段、変わった所はないようだが?」

「ああ、ここ、ケンのバイト先なのよ」

 隣に現れたコゥがリストの一箇所を指差しそう言う。

「へぇ…」

 そこは喫茶店だった。

 確かに、以前からの情報でケンのバイト先は喫茶店であるという話だ。

「って、おい!?」

 素直に納得するハヤトを他所にケンがそう声を上げる。

「何で俺のバイト先知ってんだよ!?」

 今までの情報によればケンのバイト先は誰も知らないはずである。

「この前買い物してたら偶然見つけちゃった」

 語尾にハートマークがつくぐらい可愛げにそう言うコゥだが

「マジかよ…」

 ケンは絶句している。

 この際、彼女が偶然見つけたのかそれとも故意に探し出したのかは問題ではない。

 問題は自分のバイト先がばれたという事である。

「どんな店だったの?」

 興味があったのか、ミアがそう横から聞いてくる。

「んー、結構アンティークな内装で落ち着いた雰囲気、純粋に空間を楽しみたい人向けって感じだったわ、コーヒーの味も香り豊かでなかなか…」

「って、入ったのかよ!?」

「うん、ケンが居ない時こっそり」

 ケンの顔が見る見る青ざめていく。

「今度はバイト中に行っちゃおうかしら」

「勘弁してくれ…」

 まぁ、バイト先に知人が予期せず尋ねてきた場合、大抵は嫌がるものである。

「さて、盛り上がっている所悪いが、もう一つ連絡があるんだ」

「なんですか?」

「うん、順当に行けば来年度に君達は2年生となる訳だ、そうなると次の1年生がこの学園に入学してくる、生徒が増えればそれだけ足並みを揃えるのが難しくなるだろう、諸先生方だけでは手に余る状況が考えられる、そこで足並みを揃えるため生徒達の中から代表を集めて生徒会を設立する事となった」

 生徒会。

 中学校・高等学校で、生徒の自治意識を育てるために設けられる組織。

 学校生活の改善・向上、各種の生徒活動の連絡調整、学校行事への協力などの活動を行う。

 と、まぁ、辞書にはそんな事が記されている訳だが、要するに学園と言う組織図の頂点に立つ者達の事だ。

「本来ならば各クラスから最低1名を選出する事になっているのだが、このクラスは生徒達の人望も厚く…」

「お断りします」

 チタ先生の言葉を遮ってハヤトがそう声を上げる。

「…ハヤト君、先生はまだ何も言ってないが?」

「仰らなくても解ります」

「ほぅ、では続きを言って貰えるかな?」

「生徒の代表として俺を生徒会長にしようというつもりなのでしょ?」

「ご名答」

 その通りと言わんばかりにそう答えるチタ先生。

「嫌です」

「うーん、頭越しにそう嫌がらなくてもいいじゃないか」

「苦労するのが目に見えている事を何で引き受けなくてはならないんですか」

 獣耳学園は色々とイベントが多い学園である。

 その学園における生徒会というのは、おそらく凄まじい役回りを与えられる事だろう。

 想像するだけでもその辛さが容易に予想できる。

 まして、その生徒会長ともなればまさに人身御供と呼ぶに相応しい。

「…って言ってもよ、今と大して状況変わらないんじゃねぇか?」

 ケンがぼそりとそう呟く。

『……』

 13クラス一同、沈黙する。

「ケン君の言う通りだ、さっきの言葉の続きにこういう文があった「13クラスはすでに生徒達の代表であり、それをもって生徒会とすべし」、だから他のクラスの代表は13クラスの補佐だね」

「そんな勝手な…」

「ならこう言うとしよう、これは校長のご命令だ」

『……』

 皆、絶句である。

 獣耳学園は私立、すなわち校長とは学園における最高の権力の持ち主。

 最高権力者の言葉、特にあの校長の言葉に逆らえる者などこの学園にはいないだろう。

「まぁ、最後の冬休みを十分楽しむ事だね」

「縁起でもない事言わないで下さい」

 頭を抱えながらハヤトがそう言葉を返す。

 皆、同じように苦悶の表情を浮かべていた。



 ホームルーム終了後。

 13クラスの面々は今年最後になるであろう教室での会合を開いていた。

「しっかし、いきなり冬休みとわねぇ」

 ミアがまずそう第一声を上げる。

「幾らこの学園が常識外れとは言え、事前通告無しに休みに入るとはな」

 今だ苦悶の表情が抜けきらないハヤト。

 楽しいはずの長期休暇前にあのような事を言われたのでは無理も無い。

「ハヤトは冬休みどうするの?」

「まだ解らん」

 ミアの言葉にそう返すハヤト。

 ぶっきらぼうに聞こえるかもしれないが、彼の言葉が一番の正論かもしれない。

 何と言っても本来であれば冬休みにはまだ3週間程の時間があったのだ。

 予定を決めている者の方が少ないだろう。

「ケン、お前はどうするんだ?」

 自分に渡された言葉のバトンを今度はケンに渡す。

「ん、…俺は一度実家に帰ろうと思ってる」

 少し声のトーンを落とし、ケンがそう口を開く。

「もう大分帰ってないしな、残してきた物を片付けるには丁度いい頃かもしれねぇ」

 片付ける。

 その言葉の意味は大きい。

 ケンは寮生活をしており、その費用も全て本人が負担している。

 ある意味、獣耳学園において一番自活している生徒と言えよう。

「それに、そろそろはっきりさせねぇとならねぇだろしな」

「帰宅じゃなくて帰省って事か」

 どうやら、彼にも色々と思う所があるらしい。

「キユとミユはどうするんだ?」

 これ以上彼にバトンを持たせておくのは酷だろうと、ハヤトは続いてキユとミユにそうバトンを渡す。

「こっちはさっきの一件で冬休みの予定が決まっちゃったからねぇ」

 キユは新聞部の一員として学園の生徒達のバイト証明であちこち駆け回らないといけない。

「私、バイトできるかな?」

 一方、頭を悩ましていたのはミユの方だった。

 人見知りする彼女の事だ。

 バイトという所謂社交辞令の塊のような作業をしなくてはならないのは、彼女にとって聊か辛いのであろう。

「委員長は?」

「特に無しね、私もバイト先決めないと」

 ミユ同様、彼女もバイト経験が無いらしい。

「ミアは?」

「んー、どうだろ、実家から連絡があれば帰る事になるんだろうけど、それ以外は私もバイトかな、やった事ないし」

 彼女も他の二人同様であるらしい。

「…何か学園側に面白いように扱われている気がするな」

 おそらく13クラスのやり取りと同じようなやり取りが他のクラスでも行われてるのだろう。

 一見して一方的に押し付けられているようにも見えるが、世の中にはバイトがしたくても年齢や学生であるといった理由でさせてもらえない者が多い。

 それを考えるならば、社会を身を持ってしると言う意味で今回のバイトは色々と意味を持ってくるのかもしれない。

「ハヤトは何のバイトするの?」

「まだ決めてない」

「んー、でも、さっきチタ先生に他のバイト先でもいいかって聞いてたじゃない?」

 あれは宛てがあるから聞いたのでは、と顔に書きながら聞くミア。

「単に学園側が決めた場所しか行けないのかと疑問に思っただけだ」

「結構反骨精神強いんだねぇ」

「うるさい」

 そう反論するハヤト。

「しっかし、冬休みかぁ、寒いの嫌だなぁ」

 しみじみとした表情でミアがそう声を上げる。

 猫人族は基本的に寒がりである。

 種族的にマイペースが基本姿勢の彼らは、そのメンタル面が気候によって左右される事が多い。

 曰く、雪の日は動き辛い。

 考えても見れば当たり前のような現象なのだが、猫人族はその現象が如実にでる種族なのだ。

「どっちでも一緒だろうが」

 対して、ケンはそう声を上げる

 犬人族は猫人族とは対照的にテンションに左右されやすい。

 テンションが高いときは熱かろうが寒かろうが雨が降っていようがお構いなしに活動的だ。

 だが、一度テンションが下がればその行動は控えめになる。

「…あ、そう言えば」

「ん?」

「今日から冬休みって事は、みんなと顔合わせるのって今日が今年最後になるんじゃ?」

「何を今更…」

 どうやらこの猫人の少女は今までその事に気が付いていなかったらしい。

「だったらこんな所で話し込んでちゃ駄目じゃん、最後ぐらいはパーッとカラオケにでも行こうよ」

「年越したらすぐに顔を会わす事になる、最後も何も無いだろ」

「もー、気分の問題だよ」

 ハヤトの言い分も正しいし、ミアの言い分も正しい。

「賛成なの、反対なの?」

「まぁ、断る理由も無い…か、…OK、賛成に一票」

 確かにこんな所で話し込んでいてもあまり意味がなのかもしれない。

 それならカラオケにでも行って騒いだ方が良いと判断したのか、そう賛成意見を述べるハヤト。

「同じく一票だ」

「こちらも同じく一票」

 ケンとコゥが続けてそう賛成意見を述べるが。

「あー、ごめん、私は部活が…」

 キユは先の一件通り、これから部活に向かわなければならないらしい。

「私も…」

 ミユも料理部の部活があるそうだ。

 部活組はこういう時が辛い。

「むぅ、面子が減ってしまった」

「4人か、行けない事もないが…」

 欠けた者達を置いて自分達だけが遊びに行くというのも少々後ろめたいし、職業が学生の面々にとって割り勘の言葉の意味は大きい。

「じゃあここで更に二組に分かれてダブルデートとでも行きましょうか」

 にっこりと笑いながらケンの腕を鷲掴みにするコゥ。

 冷や汗が流れ出るケン。

「お、ナイスアイデア、それ賛成!!」

 同じようにハヤトの腕を取ろうとするミアだったが

 スルッ…

「のぉ!?」

 見事かわされ空を切る形となる。 

「却下だ」

「えー、たまにはいいじゃない」

「お前の「たまに」に付き合ってたら体がもたん」

「体がもたないだなんて、そんなハヤトったら昼間からだいた…」

「アホかっ!!」

 ゲシッ!!

「ふぎゃん!!」

 伝家の宝刀、ハヤトキック炸裂。

 最近はお目にかかる機会が少なかったが、かつて幾度となくミアを倒してきた必殺技である。

 今回もあえなくノックアウトされるミア。

「おぉぉ、ひ、久しぶりだと結構効くぅ…」

「そのまま夢でも見てろ」

 悪役がやられるかのように腕を振るわせながらそうリアクションをとるミア。

「まぁ、今年最後の締めとしちゃ相応しい締めかもな」

 ケンがそう結論付ける。

 良くも悪くもこの一年を象徴する終り方であると言えよう。

 そんな訳で、獣耳学園は冬休みへと突入するのであった。

 骨休めと言わんばかりの長い冬休み。

 通常であれば何事もない休みとなるのであろうが、例によって例の如く、トラブルの嵐はすぐそこまでやってきていた。

 …無論、彼らはまだその事に気づいてはいない。


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