三時限目『頑張れ、不良少年』
〜 三時限目『頑張れ、不良少年』 〜
ハヤト転校初日、放課後、校舎裏。
「おいっ!!」
ガッ!!
怒声と共にハヤトの胸倉を掴み上げるケン。
「いきなりなんだよ、ケン?」
不安定な体勢なためやや喋り辛いがそう答えるハヤト。
「名前で呼んでんじゃねぇ!!」
それに対して今にも襲い掛かってきそうな剣幕のケン。
「解ったよ、で、何?」
「てめぇ、ミアに何をした?」
「…何って、何?」
「とぼけんじゃねぇ!!」
バッ
殴りかかってこようとするケンの腕を払い距離を取るハヤト。
「いい加減にしろ、俺はとぼけてないし嘘も言ってない」
「だったら何で、何であいつがあんな顔してんだよ!!」
「……」
俺が知るか、と言いたかったハヤトだが、その原因が自分にある事ぐらいは十分に承知していた。
「何とか言えよ!!」
「原因は俺にあるかもしれないが、これだけは言っておく、俺は彼女に何もしていない」
「気に入らねぇな…そういう言い方、自分は悪くないってその態度、…俺はお前が大っ嫌いだ!!」
「それは残念、俺は君の事が結構好きなんだけど…」
「てめぇ!!」
ダッ!!
ケンの足が地面を蹴る。
「っ!!」
ハヤトも足に力を込めて臨戦体勢に入るが
ザッ!!
「そこまでっ!!」
文字通り高速の動きでハヤトとケンの間に一人の教師が割り込んでくる。
チタ先生だった。
ズザアァァ…
それを見たケンは足を止める。
「邪魔すんなおっさん!!」
「如何なる理由であろうとも全ての多種族複合学園において私闘は禁じられている」
「知るかよっ!!」
「破れば退学どころか国際法により種族間の争いとして重罪を科せられる、その際、君の仲間にも被害が及ぶぞ」
「…っ!!」
「解ったかね?」
諭すようにそういうチタ先生だったが
「…解った、それは解った、だがな、こいつがやった事だって似たようなもんだろうが」
その程度で事が収まるのであれば楽なものである。
「それに、このままじゃ腹の虫が収まらねぇ!!」
「ふむ、ケン君の言い分は最もだ、争いの火種を残しておけばまた同じ事が起きる、そこで私が提案しよう、私闘ではなく何らかの競技で決着をつけたまえ」
「競技だぁ」
「そう、競技だ、君はようするにハヤト君に一泡吹かせればいいのだろ、そうだな、明日の体育の時間に決着をつけたまえ、そうすればこの場でやりあうよりよっぽど公平な条件になるし事も荒立たない、勝負の結果で後腐れなく全てに決着をつける、それでどうかね?」
チタ先生の提案に二人は
「解りました」
「…けっ、解ったよ」
態度の違いはあれど了承する。
打算的にもそちらの方が良いと判断した結果だった。
「ったく面倒くせぇ、おい、俺が勝ったらてめぇは土下座してミアに謝れよ!!」
「…解った」
「逃げんなよ…」
ケンはそう言うとハヤトとチタ先生の前から姿を消す。
「…ふー、危ないところをありがとうございました、チタ先生」
「ああ、危なかったね…双方共に」
「…気づいてました?」
「人族が道具を使うのに長けている種族だとは聞いた事があるが、君は一体どこからそんな物騒な物を取り出したんだね?」
チタ先生はハヤトの袖の下に隠されたそれを睨むように見る。
「それは18つの特技の1つなので言えません」
ハヤトはそう言うと
ヒュ…
袖の下のそれをまるで初めから何も無かったように消し去る。
「やれやれ、恐ろしいな君は、とにかく危なかった、あのままでは二人とも、いや、近くにいた私を含めると三人ともタダではすまなかった」
「先生を巻き込むつもりは無かったんですけど…」
「解っているよ、しかし、成り行きとは言え君の同意も無しに勝負の方法を決めてしまってすまない」
「いえ、あれで良かったです、お陰で白黒はっきりしてすっきりしそうですから」
それにケンの性格上、ああでもしないと納得しないだろう。
「とにかく恩にきります、こういう場合何かお礼ができればいいんですけど…」
残念ながら学生身分の彼には教師に対する礼の仕方が思いつかなかった。
「では、聞きたいのだが」
「はい?」
「ミア君との間に何があったのかを、先生は聞きたいな」
「盗み聞きは趣味悪いですよ、先生」
同刻、教室。
夕焼けの中、教室にてミアは自分の机に座り彼の机を見つめていた。
「……」
新設校の新しい机、彼が使った形跡などまだ無いが、それでもこれから彼が使っていくであろう机。
ただじっと、その机を、彼、ハヤトの机を自分の机から見つめる。
「ミ…ちゃ…」
「……」
「ミアちゃんっ!!」
「…えっ!?」
自分の名前を呼ばれた事にそこで初めて気がつくミア。
「一体どうしたの?」
「あはは、ごめんごめん、コゥちゃん」
そこに立っていたのは牛の耳と角を生やした女子生徒だった。
一見して見られる特徴は二つ。
一つ目は長くきれいな髪と眼鏡、優等生と言う言葉がすぐに連想させられた。
二つ目は胸の大きさ、牛人の隠れたもう一つ特徴である。
「…何か、らしくないね」
先程からずっとミアを見ていたのかコゥはそう感想を言う。
「え、そう…かな?」
「…どうやら、噂は本当みたいね」
「え?」
「転校生、ハヤト君に何かされたって噂」
「へ、何それ」
「知らぬは本人ばかりなり、昼から結構話題になってたよ」
「えぇ、嘘ぉ、噂って広まるの速いんだね」
しかも尾ひれがついているようだ。
「…それで心配して見にきてくれたんだ」
「まぁ、委員長だからね」
にっこりと優しげに笑ってそういうコゥ。
「でも、もう下校時刻だよ、委員長が校則破っていいの?」
「委員長だからいいのよ」
「何それ…」
そう言って軽く笑うミア。
「それに校則違反はもう二人ばかり居る見たいだしね」
「え?」
コゥの後ろ、扉の向こうに影が見えた。
「あはは、見つかっちゃった」
「…だから帰ろうっていったのに」
キユとミユだ。
「ありゃま…」
「いやー、昼間の今でしょ、気になっちゃって」
「んー、何か大分みんなに心配かけたみたいだね」
「ちょっとは自覚しなさい」
「はーい」
ミアがそう普通に答えるのを見て少し気が緩んだのか
「それで、何があったの?」
キユがずばり核心を聞いてくる。
コゥもミユも何だかんだ言って気になっているらしく、それを止めない。
「えーっとね…」
ミアは事の成り行きを全て話した。
『……』
聞き終わって全員何と言って良いやらといった顔をする
「人族って本当に変わってるわねぇ、…いや、ハヤト君が変わってるのかな」
猫人族は数ある種族の中でも最も人当たりが良く、ポピュラーな種族といわれている。
つまり基本的にはみんなの人気者といった感じだ。
「私…嫌いなんてはじめて言われた…」
「で、でもそれって猫が嫌いってだけでしょ、別にミアちゃんが…」
フォローしようとキユが喋るが、この場合同意語である。
猫、犬などのそれらは種族を象徴するものであり、仲間でもある。
猫=猫人族、猫人族=本人、複数の人型種族の混在する世界でこそ成り立つ方程式。
「ハヤト君、何で猫嫌いなんだろ…」
ミアがぼそっとそうつぶやく。
「…確かに、彼ってちょっと変わってるものね」
見かねたコゥが話題を少しでも変えようと別の疑問を振る。
「人族って絶対数が私達より遥かに少ないんでしょ」
それは、例えるならば絶滅危惧種に近いものだった。
「それに日本人って確か世界でもう数十人いるかいないかって話だし、こんな時期に転入してくるのもそうだけど、何か謎が多いのよね」
「だよねぇ、それにさ、この前テレビの特番でやってたけど人族って特徴が無い代わりに何か特殊な力とか持ってるってやってたよ」
「それは単なるゴシップでしょ」
「でもハヤト君見てるとなんかそんな気しない、暴け人族の謎、見たいな感じでさ」
どうやらキユはその手の番組やスクープ話がお好きのようだ。
「謎ねぇ、確かに謎だけど、そんなの本人に聞くか、校長先生でもない限り解らないんじゃない」
…ピクッ
ミアの耳が一瞬反応する。
「本人に聞いてもはぐらかされそうだしね、謎は所詮謎のままか」
「…た…な」
誰にも聞こえないぐらい小さくミアがつぶやく
「え?」
「…うん、そうだね、そうだよね」
ミアはそう言って椅子から立ち上がる。
「ミア?」
「ありがと、ちょっと元気出た」
「そ、そう?」
「うん、もう大丈夫だよ、悩んでてもしかたないもん、さぁ、先生に見つからない内に、帰ろう」
「あ、うん、ミアちゃんがそう言うならいいんだけど」
三人は怪訝そうな顔をするが、ミア本人の顔は先程までの表情と違っていた。
色々と吹っ切れた前に進む者の表情。
それは決意を固めた顔だった。
そして、彼女が思った事はただ一つ。
「(…知りたいな、ハヤト君の事)」
それだけだった。
ハヤト転校二日目、校庭、正午。
ザッ…。
今まさに、積年の恨みをはらさんとばかりにハヤトの前に立つケン。
「逃げずによく来たな」
「そりゃまぁ授業だからね」
もっともな意見である。
「ミアの件もそうだが、諸々含めてお前に勝つ、勝負だ」
「うん、それで勝負の方法は?」
「…おい、何だ?」
「それが人にものを聞く態度かね、ケン君」
立ち向かい合っているハヤトとケンの横でチタ先生がそう言う。
「先生、勝負の方法は?」
「公平を期すために勝負の方法は球技関係に絞る事にした」
本来、犬人族は人族に比べて身体能力が高い。
だが、その反面道具の使用があまり得意ではないと言う性質をもっている。
今回球技系に競技を絞ったのは身体能力差の公平を取るためであろう。
「そして、これも公平を期すために、競技は今朝登校する生徒達から取ったアンケートよりランダムに決める事とする」
そう言ってチタ先生は折りたたまれた紙の入っている箱を取り出す。
「勝負は三本勝負、先に二本取った方が勝ちだ、異論は?」
「ありません」
「ねぇよ」
「うむ、では第一勝負は…」
ガサガサ…
無造作に箱から紙を取り出し広げる。
「バスケットボール、ルールは1ON1(ワンオンワン)だ!!」
1ON1、簡単に言えば一対一でボールの主導権を双方に一回づつ交代で与え、交互に攻防を行うルールの事である。
入れれば点が入り、一度でもブロックされれば主導権を交代する。
「よっしゃぁ!!」
「これは…」
ハヤトにとっては分の悪い勝負だった。
ピー
開始の笛と同時にケンの体が大きく横に飛び一歩、大きく前に飛びハヤトの横をすり抜けて二歩、そしてゴールに向かって飛び上がり三歩。
バスンッ
「ゴール」
ボールは見事なまでのダンクシュートによってゴールに叩き込まれる。
このルールにおいて道具の使用が求められるのは攻撃の際のドリブル、フェイントのみ、それを使用しないのであれば三歩だけ歩けるバスケットのルール上、身体能力がハヤトより勝れているケンの方が圧倒的に有利だった。
ピー
そしてこれは防御側でも言える事だった。
ガッ…
「ブロック、ノーゴール」
身体能力が上のケンにしてみればハヤトがいくらドリブルを使って抜けようとしてもボールを取られるし、フェイントでシュートを入れようとしてもゴール際でブロックされてしまうのだ。
「うーん、これは…」
「一本目は俺の勝ちだな」
「そうみたいだね」
何時の間にやらグラウンドの周りには野次馬の群れが出来上がっていた。
二人のそんな勝負を見せようと、先生方が態々授業を中止してグラウンドに生徒達を集めたのだ。
元々交流を深める事が目的の学園なため、この状況はよい授業、よいイベントのように扱われていた。
その点で言えば授業を行っている教師達にとっても非情に興味深い内容なのだ。
そもそも国際法によって多種族間のいざこざ争いが禁止されていたために、老若男女関係無しにみんな興味津々なのだ。
だが、グラウンドに学園中の目が向いているそんな中、一人の少女がその群れから抜け出していた。
「続いて第二勝負の競技を決める!!」
基本的に熱血スポコン教師な性格のためか、チタ先生自身がこの状況に燃えているようだ。
「では、続いて二本目の勝負は…」
ガサガサ…
「…卓球!!」
ドォッ!!
チタ先生の大きな声と共に観客席の皆さんがこける。
「だ、誰だぁ、こんなもの書いたのはぁ!!」
同じようにケンもこけていた。
そりゃそうだ。
「しかしルールはルール、卓球台を用意しろぉ!!」
チタ先生の指示とほぼ同時に卓球台が運ばれてくる。
「(手回しいいなぁ…)」
などとハヤトが関心する。
「(しかし…)」
「(ちくしょー、こいつぁ…)」
「(チャンスだ)」
「(ピンチだ!!)」
先程の勝負とは一転、立場は逆転した。
卓球において、確かに身体能力・反射神経は必要である。
だがそれ以上に必要なのは先読みと技術。
ラケットとピン球、そして台を使用する以上ある程度動きは制限されるため、否応でもテクニックを必要とされるのだ。
そして、ケンはそれら全てが苦手であった。
「3セット、21点制、サーブ権5回交代、先攻はハヤトより開始する、では、試合始め!!」
コンッ…
ラケットを上から下へ、斜めにスライスするように動かし、球を軽く打つ。
「くら…」
ポジション的には絶好の場所、ゆっくりと飛んでくるボールに対し、ラケットを斜めに構え力の限り打とうとするが
コ、カツン…
ラケットに当たった球はそのまま真下に飛んでいき自分側のテーブルに当たる。
「なっ…」
「甘いな、今のはカットサーブ、下スピンだ」
「え、何…」
「さ、次々行くぞ…」
「お、おい、ちょっ…」
カン、カン、カン、カン…
かわるがわるのスピン攻撃にケンは対応しきれず一気に5ポイント、ハヤトに先取される。
「くそっ…」
サーブ権が移り今度はケンのサーブから始まる。
「喰らえ!!」
カッカッ
2バウンドしてケンの球が勢い良くハヤトの前に飛び出してくるが。
「せーのっ!!」
ダンッ!!
ハヤトの踏み込みとラケットのスィングが見事に同調し
カァン!!
サーブを打ったまま止まっているケンの反対側にスマッシュとして叩き込まれる。
「なっ!!」
「いくら犬人の反射神経が早いからとはいえ、反応しきれないだろ、卓球は力任せにできる競技じゃないからな」
「ぐぅ…」
「この勝負は俺の勝ちだな」
「ちぃ、仕方ねぇな…」
第二勝負はそうして決着した。
その過半数が姿を消した校舎の中で一人の少女が走っていた。
体育の時間を抜け出してきたことが解る体操服姿で、尻尾を揺らして走る。
耳はしきりに辺りに向きをかえ、周囲を経過しているのが伺えた。
足音もなく走っていた少女の脚がある扉の前で止まる。
その扉にはこう書かれたプレートがあった。
『校長室』
「ちっ、結局第三勝負までもつれ込んじまったか」
「はぁ、いい加減疲れてきたや」
元気なケンに倒してハヤトには段々と疲れが見えてきた。
「へ、だらしねぇ」
「…犬は元気に庭駆け回り…か」
そんなケンを見ながらハヤトはそうつぶやく。
「ん、何だそりゃ?」
「日本の歌だ」
「はーん…」
興味なし、といった感じでケンはすぐにそっぽを向く。
「(…猫はコタツで丸くなる、そういや、猫の姿が見えないな)」
周囲を見回してみるがそこに見知っている猫人の姿は無かった。
この観客では見つからなくても仕方がないとは言え、この勝負、元々はあの猫人が関わっているのだ、姿が見えないのは釈然としない。
「(…ま、いいか、猫なんて…そういうもんだろ)」
ハヤトはそう考え直すと最後の勝負競技を聞こうとチタ先生に視線を向ける。
「最終競技は…野球!!」
「野球だぁ?」
「野球って言っても…」
二人でどうやって試合しろと言うのだ。
「ふむ、この勝負、ピッチャーとバッターで勝敗を決める」
つまり1ON1同様に攻防に分かれて勝負しろとの事らしい。
「打った球が落ちた場所で何塁ヒットかを判断し得点とする、異論は?」
「ありません」
「ねぇよ」
「よし、ではキャッチャーと審判は私がする、では、最終勝負、始めぇ!!」
最終勝負ともあり、観客のテンションはピークに達していた。
多種族複合学園とは言え学生は学生、盛り上がるべき場所は心得ているようだ。
それ以前に、どうやらこの学園の連中は揃ってお祭り好きらしい。
「まずぁ俺が投手か」
ボール握り構えるケン。
「ケン、投げ方解るかぁ?」
「馬鹿に…すんなぁっ!!」
意外にも…と言っては失礼かもしれないが、ケンはゆっくりとキレイなフォームで球を投げる。
ヒュ…
その球は速く鋭かった。
「…げっ!!」
パシィィン!!
球はあっというまにミットに収まり、気持良いぐらいの音を立てる。
「ふ、甘く見たな、こうやって投げるだけなら俺にだってできらぁ」
勝利を確信したかのように威張るケン。
「…ふむ、なるほど」
「そーら、もう、いっ、ちょぉ!!」
再び勢い良く球が投げられる。
「…っせーのっ!!」
その球に合わせ、ハヤトがバットを大きく振る。
キィ…
真芯を外したもののバットによって打ち返された球はケンの横を抜けていく。
「なっ!!」
「んー、ギリギリヒットかな」
「く、どうして…」
「いや、投げるだけならって言ってたから、真っ直ぐしか投げれないのかなぁって思って、ど真ん中に狙いを絞って振っただけなんだけど」
「ぐ…」
「しかし速いなぁ、当てるのが精一杯だ」
「くそっ、ほら、今度はてめぇの番だろ、とっとと投げろ」
「OK」
ハヤトはバッドからグローブに替え、マウントに立つ。
「来い!!」
「行くぞ!!」
ズザァ、ヒュ…
ハヤトもケンに負けないほどにキレイなフォームで球を投げる。
急速は断然ケンの方が速かった。
ケンにとっては造作も無い球と言ったところだっただろう。
「もらったぁ!!」
だが
クィ…
「何ぃ!!」
手前1メートルで球は急速に降下する。
フォークだ。
パシィィン!!
「おー、見事な扇風機だ」
空振りしたバットが風を起こす。
「てんめぇ…」
「犬人には投げれない球だろ、こういうの」
「へ、面白ぇ、おらもう一回、来いよ!!」
「おう」
同じように球が飛ぶ。
「もらったぁ!!」
球の進路よりやや下に狙いを定めたバットが大きく振られるが
ブゥン、パシィィン!!
球は真っ直ぐミットの中へ飛び込んでいった。
「ストライク!!」
チタ先生の声が高らかとグラウンドに響く。
「な…」
「別にフォークしか投げれないって訳じゃないんだぜ、ストレートやカーブだってお手の物だ」
「このぉ、てめぇ、ねちっこいぞ」
「おいおい、これは立派な戦術だ、駆け引きは勝負の醍醐味だろ」
「くぅぅんのぉぉー!!」
そんな感じで9回まで攻防が続く。
一進一退。
ケンに対してその後もカーブやフォークを織り交ぜてケンをかく乱するハヤトだが、流石に全てストライクが取れるほどケンも甘くはなく。
一度当たればその当たった球のほとんどがホームランと化し、それに対してハヤトはこつこつとヒットを重ね地道に点を取っていく。
お互い大きな点差を譲らずまさしく緊迫した展開となっていた。
そしてお約束の如く9回裏。
打たれればハヤトの負け、打てばケンの勝ちといった展開となった。
『はぁはぁ…』
流石に勝負の連続でお互い疲れが見え始めている。
「(く、後二か三球ぐらいか…)」
球を握る手に力が入らなくなってきたハヤト。
「(けど、やるしかない…)」
ズザ…
ハヤトが大きく構える。
対してハヤトの球に翻弄されるケンはその思考力に限界が見え始めていた。
「(畜生、こうなったら…)」
そこで彼が出した結論は
「(勘だっ!!)」
ヒュ…
その球が色々な意味で決め手だった。
ハヤトも決して手を抜いた訳ではない。
だが、フォークの切れが悪く、投げた球はほぼストレートの球と化した。
そしてケンも最早何も考えずに勘だけで…よく言えば自然体で思いっきりバットを振った時。
カ…キィィィーーーン!!!
金属バットが高い音を立てて球を打つ。
ボールは文句無しにホームランだ。
…もっとも、その球が真っ直ぐ飛んでいればの話だが。
ケンもやはり疲れが見えたのか、やや振り遅れたバットはボールをあらぬ方向に飛ばしてしまう。
見事なまでにポールを外れて飛ぶボール。
その先には獣耳学園校舎があった。
間に大きな木がいくつかあったものの。
ガシャァァァーーン
『…あっちゃー』
といった感じをその場にいる全員が出す。
当然、勢いを殺しきれずに飛んでいった球がガラスを割ったのだと誰もが思った。
だが…。
ガシャァァァーーン
『…はい?』
同じような音がもう一度聞こえたのだ。
これが転校生ハヤトの二度目に起こした事件の始まりであり、その後延々と学園にハヤトの名が刻み込まれた最初の事件の始まりであった。




