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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第01話「設立、獣耳学園」
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二時限目『犬好き、猫嫌い?』

 〜 二時限目『犬好き、猫嫌い?』 〜


「あはは、いやぁ、愉快だねぇ」

 廊下を歩きながらチタ先生は笑いながらそう言った。

「そんなに面白かったですか?」

 その後ろを歩くハヤトがチタ先生の言葉に対しそう答える。

「ああ、とってもね」

 その答えに満足そうに笑って答えるチタ先生。

「転校初日から自分の担当のクラスで騒動が起きても…ですか?」

 挑発、それほどでないにしろ、あまり友好的ではない言葉を発するハヤト。

「だからこそ面白いんじゃないか」

 だが、チタ先生はそんなハヤトすらも面白がるように笑顔でそう答えた。

「ケン君が私以外の誰かにあれだけ突っ掛かって行ったのも初めてだし、あれだけ間の抜けた彼の姿をみたのも初めてだ」

 先程のケンの姿を思い出したのだろうか、チタ先生は笑いが止まらないと言った感じでまた笑い出す。

「悪趣味ですね…」

 そんなチタ先生を見てハヤトは臆すことなく、担当教師である彼にそう言った。

「私は面白い事が好きなだけさ、だから私はケン君を気に入っている、ふむ、その点で言えば君もなかなか面白いよ」

「俺も…ですか?」

「ああ、ケン君にそうさせた事もそうだけど、君と言う人物はその存在自体がなかなか面白い」

「それは…俺が人族だからですか?」

 ハヤトのその少々威圧的な言葉に対しチタ先生は

「それもある」

 率直にそう答えた。

「……」

「どうかしたかね?」

「…いえ、何でもありません」

「そうかね、…さて、HRの後は校舎案内をすると言ったが、私は案内や紹介というのが苦手でね」

 確かに、言われてみればHRでハヤトの紹介をする時も、彼は自己紹介しろの一言で済ませてしまっていた。

 挙句の果てに自分では紹介せず生徒達に質問しろなどと促す始末である。

 とても教師とは思えぬ言動、いや、そちらの方が面白いと思ってしたのだろうか。

「(この人ならやりかねないか…)」

 たかだか数時間だがチタ先生の性格を把握してきたハヤトであった。

「さてさて、困った…」

「校舎の見取り図を渡して頂ければ一人で見回ります」

 それがもっとも効率が良い方法だろうと思い、そう進言するハヤトだが

「ふむ、そうはいかない」

 その言葉を否定するチタ先生。

「何故です?」

「君を一人で見回せさせるには二つばかり問題がある」

「…一つ、転校したての生徒を一人で放置しておくと貴方の面子が立たない、二つ、今の俺の格好はこの学校では目立ち過ぎ、一人で行動する事に問題がある」

「正解、解ってるじゃないか」

 チタ先生は、自分が用意していた模範解答を言ったハヤトにそう賞賛の声を送る。

「当然でしょう」

「では君は解っていて私に質問してきたのか、なかなかに捻くれてるね」

「そっくりそのまま変えさせてもらいます」

「どういう意味かね?」

「あの犬人の生徒が俺に絡んできた時、貴方は止めようとしなかった、止めようと思えばすぐに止めれたはずなのに…そういう事です」

 そう、ケンがハヤトに絡んでいった時に最速を誇るこの黒豹族の教師は止めるどころか見物を決め込んでいたのだ。

 その事を踏まえてハヤトはそうチタ先生にそう言うが

「あはは、そっちの方が面白そうだったからね」

 彼はにっこりと笑ってそう答えた。

「…本当に、良い性格してますね、先生は」

 ハヤトの言葉には刺があったものの、それは敵意ではなく好意に近いものだった。

 それもそうだろう、こうも軽快な口調で言われたら憎むに憎めない。

「誉め言葉として受け取っておくよ、さて、話は戻るが校舎案内をどうしようか?」

「では見取り図だけ下さい、見回らなくてもそれさえあれば大体の事が解ります」

「だがそれでは面白くないだろう」

「面白いとか面白くないとか言う問題ではありません、それに当面はどこに何があるか解れば十分です」

 本来、校舎案内とは場所を教えるものであってそこに面白さを求めるものではない。

「他に選択肢がないのですからそれしかないでしょう」

「ふーむ…」

 それでも納得言っていないのか、チタ先生は少し考え込む。

 そんな時

「あ、いたいた、チタ先生、ハヤト君」

 まるで自分の存在をアピールするようなやや大きな声でそう言い、近づいてくる猫人の生徒がいた。

「(あれは確か…)」

「ああ、ミア君じゃないか」

 ハヤトがその猫人の名前を思い出す前にチタ先生がそう言う。

「どうしたのかね?」

「どうしたって、転校生は相手が嫌がるぐらいに歓迎しなくちゃいけないって先生言ってたじゃないですか、ですから後を追ってきたんです」

「先生…」

 そのミアの言葉をきいてハヤトはチタ先生の顔を見る。

「あはは、そんな事も言った記憶があるな」

 笑顔を絶やさず、チタ先生はそう答えた。

「いやいや、しかしこれで問題は解決したね」

「問題?」

 オウム返しにそう聞いてしまうハヤト。

「選択肢が増えたって事さ」

「チタ先生…まさか」

「ミア君、悪いがハヤト君に校舎案内をしてあげてくれないかね」

「はい、いいですよ」

「なっ…」

 チタ先生の言葉にハヤトは一瞬口をはさもうかとするが

「じゃー、校舎一周、獣耳学園紹介コースに出発ー」

「お、おい!?」

 ハヤトが文句を言う前にミアはハヤトの腕を引っ張り、廊下を駆け出す。

「おーい、廊下は走っちゃ駄目だぞー」

「はーい!!」

 そう元気の良い返事が返ってくるが、声の距離から考えてチタ先生の言葉は効果をなさなかったようだ。

「俺の意思は無視ですかー!!」

 と、そんなハヤトの声も聞こえてきたが、あえてチタ先生は無視した。

 何故なら、そっちの方が面白そうだったからだ。



 ハヤト転校初日の学食は賑やかだった。

「あー、気にいらねぇ、気にいらねぇ、気にいらねぇ!!」

 ガツガツガツ…

 学園の食堂にて、大盛り焼肉定食に対して怒りをぶつけるように喰らいつきながら、自称不良少年の犬人ケンはハヤトを睨んでいた。

 それもそのはず、彼はつい先程、目の前でコーヒー牛乳とヤキソバパンのセットを食べているハヤトに、いともあっさり負けてしまったのだ。

 その怒り、未だ収まるところを知らずといった感じである。

 もっともそれはケンが一方的に絡んでいるのであって、当のハヤト本人は意にも介していないようだった。

「じゃー何でここにいるの?」

 そんなハヤトとケンの間に座り、食事をしているミアがそう言う。

 ちなみに彼女の食事が焼き魚定食である事は言うまでも無い。

「俺だってこんな奴の前で食事なんてしたかねぇよ!!」

「だからなんで?」

「…うるせぇっ!!」

 そう言ってケンは再び手元の焼肉定食を喰らい始めるのだった。

「それは犬人族は負けた相手に服従するのがルールだからなんだよ」

 ピクッ…

 その言葉を聞いてケンの耳が僅かに動く。

「昔はその相手を群れの頂点としてずっと従ってたらしいけど、それじゃ不便だから最近では数日間付き添うって事になってるらしい、特に食事は群れの最たる行為だから否応無しに一緒に取らなくてはならないんだよ」

「ふーん、でもケンがチタ先生に負けた時はそんな事しなかったよ?」

「ああ、それにも色々条件があって、喧嘩や勝負を仕掛けた方が負けた場合や…」

 ドンッ!!

 ハヤトの言葉を遮るように、食べていた丼を少し強引に机に置いて大きな音を立てるケン。

「…おい」

「何?」

「てめぇ、何でそんな事知ってんだ?」

 ハヤトが喋ろうとしていたのは犬人族のルール。

 言い換えれば、犬人族しか知らないはずの掟であった。

 先の教室での一件も犬人の習性を知った上での行動。

 それらを人族のハヤトは知っていた。

「俺が人族で日本人だからさ」

「答えになってねぇよ」

「なってるよ、君がそれに気づいてないだけ」

 そう言ってヤキソバパンをかじるハヤト。

「てめぇ、俺を馬鹿にしてんのか」

「そんなつもりはないよ、それより、いい加減名前で呼んでくれないかな?」

「てめぇだって俺を名前で呼んでないだろうが!!」

「だって、俺はまだ君に自己紹介してもらってないし」

「……」

 ハヤトのその文字通り間のすっぽり抜けた言葉にケンは一瞬絶句する。

 ポンッ

「ああ、そういえばそうだね」

 その成り行きの一部始終を見ていたミアがグッドアイディアとばかりに手を叩く。

「そもそもこの学園はそういうのが目的だもんねー」

 二人のややこじれ気味の雰囲気を無視してミアはのんびりとそう言う。

 どうやらこの猫人は大分天然が入っているようだ。

「えーっと、ハヤト君はもう自己紹介終わったからいいよね、じゃあまず私から、猫人族出身のミアでーす」

 誰に向かって手を上げているのか、高らかに挙手をしてそう名乗るミア。

「こらミア、てめぇ何勝手に話進めて…」

「んで、こっちのハヤト君にちょっかい出しつづけてるのは、犬人族出身のケン」

 ご案内しますとばかりに掌をケンに向けてそう言うミア。

「勝手に紹介してんじゃねぇ!!」

 まさしく噛み付かんばかりの勢いで言うが

「そんでクラスメートの…」

 無視される。

「えーっと、発見、ちょっと待っててねー」

 そう言ってミアは食堂の一角に向かい出す。

「…結構苦労してるんだな」

 そんなミアを見てハヤトがケンにそう感想を言う。

「ほっとけ…」

 その点に関してはケンも反発する気がないようだ。

「っていうかてめぇ、何か初めと感じが違うくねぇか?」

 初めて教室に入ってきた時は優等生、ケンが喧嘩を売った時は不良、そして今は一般生徒。

「周りに合わせるのが面倒になったんで素に戻っただけさ」

「何だそりゃ…」

 要するに今こうして話しているのが普段のハヤトなのだと無理矢理納得しようとするケン。

「おっ待たせー」

 そんな会話をしている内にミアが戻ってきた。

「兎人族のキユちゃんにミユちゃんでーす」

 どうやら本人の合意もなく、かなり強引に連れてきたようだ。

 ミアの手によって引っ張ってこられた小さな二人は少し困惑気味の表情をしている。

「ちょっとミアちゃん…」

「…お、お姉ちゃん」

 一人が前に立ち、もう一人はその後ろに隠れるように立っていた。

 一見して解る特徴が二つ。

 まずは頭の耳、誰がなんと言おうと兎のそれだ。

 もう一つは二人の容姿、鏡に映したようにとはこのことだろう。

 二人とも同じ容姿をしている。

 顔、髪、体格、服装、声、全てがまったく同じである。

「…ごめん、もう一度どっちがどっちなのか教えてくれ」

 そんな二人をいきなり紹介され、どっちがどっちなどの違いがわかるはずも無くやや困惑するハヤト。

「こっちの元気な方がキユちゃんで、こっちの大人しい方がミユちゃん」

 ミアが再度ご案内いたしますとばかりのリアクションで説明してくれる。

 どうやら今の所判断基準となっているのはその性格や行動のみのようだ。

 確かに言われてみれば、表情などでそれが解る…かもしれない。

「ミアは勘だけはいいからな」

 先程の反撃とばかりに皮肉たっぷりにケンがそう言うが

「何か言った?」

 シャキーン

「わっ、だから、爪しまえって!!」

 と、紹介者達をよそに二人で漫才をはじめ、食堂内を駆け回る。

「あーあ、また始まった」

 その様子を見てキユがそう言う。

 どうやらその二人のやり取りは日常茶飯事の光景のようだ。

「…双子なの?」

 ハヤトはそんな二人の漫才を無視し、素朴な疑問をキユに問う。

「ええ、珍しいでしょ」

 耳を除けばおそらくハヤトの胸元程も無いであろう小さな身長で、小さな胸を少し張りながらキユがそう言う。

「そうだね、双子なんて…」

「やっぱりそう思うよね、普通は三つ子や四つ子以上だから」

「…あー、そっか、そうだった」

 その言葉を聞いてハヤトが少し苦笑する。

「どうかしたの?」

「いや、何でもない、人族と他種族の差と、自分と他の人達との思考の相違点というやつに気がついただけ」

「ふーん、何かハヤト君って変わってるね、人族ってみんなそうなの?」

「さぁ、俺も自分以外の人族なんてあんまり知らないからな」

「私も始めてみた、だって珍しいもんね」

 キユのその言葉を聞いた食堂内の全員が密かに頷く。

 この食堂に入ってからというものの、どうにもハヤトは視線を感じて仕方が無かった。

 それは自分の立場を考えればある程度予測できる事だったが、やはりちらちらと見られるのは面白くない。

 寧ろミアやケンが一緒に食事を取ろうとして同じ席に座ってきた事の方が驚くぐらいだ。

 このキユと言う兎人族の少女も真っ向からそう言ってくる所を見れば、十分に珍しいや変わっている部類にはいるだろう。

 その点で言うならば、キユの後ろに隠れているミユと言う少女の方が正常な反応と言える。

「えーっと、キユ…ああ、呼び捨てにしていいかな?」

「いいわよ、なんならキーちゃんとかキユたんとか愛着を込めたあだ名で呼んでも…」

 可愛くお茶目にキユがそう言うが

「丁重にお断りする」

 ハヤトはそうきっぱりと即答した。

「あら、残念」

 その言葉にちょっと残念そうにそう答えるキユ。

「キユが姉さんなの?」

「ええ」

「見た感じだけど、いつも一緒って感じだね、…仲が良いんだ」

「ミユは臆病だから私が付いてないと駄目なのよ」

 キユの後ろに隠れてミユはこちらをちらちらと見ている。

 ある程度はハヤトに興味があるようだが、それを表立って出せるほどの勇気がないようだ。

「キユちゃんとミユちゃんはいつも一緒なんだよ」

 漫才が終わったのかミアがミユとキユの後ろから現れて声をかけるてくる。

「登校下校は一緒だし、食事も寝る時もいつも一緒」

「…それは」

 流石のハヤトも双子とは言えそのような事をするものなのだろうかと少し反応に困る。

 だが、続けて放たれるミアの一言でそんなものは全て吹き飛んでしまう事となる。

「それでお風呂やトイレも一緒なんだよ」

 ブッ…

 それを聞いてハヤトとケンは飲みかけのコーヒーと水を思わず吹き出してしまう。

「ちょ、ミアちゃん」

 ミアのその言葉に慌てるキユ。

 その後ろで顔を真っ赤にしたミユが今にも倒れそうに震えていた。

 それもそうだろう。

 ミアの声の音量は間違いなく食堂内の半数以上に聞こえる大きさであり、内容が内容だ。

 聞こえた半数の更に半数が男子だとすると、食堂内の四分の一の者が頭の中でこの双子の妄想ドリームを展開させている可能性があるのである。

「あー、えーっと、ハヤト君、じゃ、また後でね…」

 居づらくなったのか、キユはミユの手を引いて学食内から逃げるように去っていった。

「…酷い女だな、お前は」

「あはは、ちょっと口が滑っちゃったかな」

 ケンの言葉に対し『流石にやっちゃったかなぁ』と言った顔でミアがそう言うが

「じゃあ、気を取り直して他のクラスメートも紹介するね」

 所詮、束の間の反省であった。

「…と言ったものの、食堂に居ないね」

 ミアが食堂を見回すがどうやら探している人物がいないらしい。

「後はコゥちゃんだけなんだけどなぁ…」

「いいよ、牛人族の女子生徒だろ」

「うん、そうだよ」

「名前だけ解れば十分だ、顔はさっき教室で見て覚えてるから」

「へぇ…」

「しかし、女子ばっかりだな」

 ハヤトが率直な感想を述べる。

「学園の方針で一つのクラスに同種族はいないようにしてるからな、男女が均等に、そして種族がばらばらになるように配分したつもりなんだろうが、偶然俺らのクラスみたいなのができちまったってわけだ」

 その感想にハヤトが転校してくるまで唯一の男子生徒だったケンが答えてくる。

「どういう意味だ?」

「俺らのクラスは特殊って意味だ、ったく、男一人じゃ肩身が狭くてな」

 どうやらその点だけで言うならばハヤトと言う仲間が増えて嬉しいようだ。

「…ふーん、なるほどね」

 ハヤトが少し考え込んで納得する。

「協調を考えて作られた学園において我の強い奴は異端だから、いっそ試験的にまとめて一つのクラスにしてみよう、…って所か?」

「…良く解ったな」

「クラスメートの顔をみれば大体解るよ、どうにも癖のある奴ばっかりみたいだからな」

 良くも悪くもクラスの面々は特徴を持っていた。

 新設で新制度の特殊な学園なのだ、それぐらい特殊なクラスがあってもおかしくない。

「はーん、じゃ、てめぇもそれなりに自覚があるってわけだ」

 からかうように言うケンだが

「俺の名前はハヤトだよ、…ケン」

「っ、気安く呼んでんじゃねぇ!!」

 ハヤトのその言葉に一瞬カッとなったのか、思わず大声を出してしまうケン。

「今日からクラスメートだろ、大体さっきは名前で呼べみたいな事言ってたくせに」

「さっきはさっき、今は今だ」

「子供の理屈だな」

「うるせぇ、とにかく、てめぇに気安く名前を呼ばれるいわれはねぇし、俺はてめぇの事なんて絶対名前で呼ばねぇからな、てめぇはてめぇで十分だ!!」

 そう言うとケンは食器を丁寧に洗い所まで持っていき、ちゃんと置いてから食堂を出て行く。

「…やれやれ」

 言動が一致しないというか、なかなか几帳面な奴である。

「ケンって自分で言うほど悪い奴じゃないのにどうしてああも捻くれてるかな」

 その光景を見ていたミアがそう感想を言う。

「犬人はプライド高いからな、俺みたいなのにこけにされたらとか思ったんだろう」

「変なの…」

 種族の差なのか、性別の差なのか、ミアは理解不能いった感じでそう言う。

「そう言う意地っ張りな所が可愛いんじゃないか、犬人ってのは」

「そうかな?」

「そうさ」

「ふぅん、ケンはハヤト君の事好きじゃないみたいだけど、ハヤト君はケンの事が好きなんだ」

「俺は犬好きだからね」

 ハヤトはそう答え、転校してはじめて柔かな微笑みを一瞬見せる。

「…話は戻るけど、俺からしてみれば君の方が大分変に見えるよ」

 だがそれも一瞬、すぐに何時もの表情に戻りそう答え返す。

「え?」

「初対面の人族、おまけに日本人にどうしてそう平気で話し掛けられるんだ?」

 ハヤトはそう言って残ったコーヒーを飲み干す。

 それがハヤト最大の懸念であった。

 初めて声をかけてきたのはミアだった。

 周りが質問を止めた時にも声をかけてきたのもミアだった。

 食堂で一緒に食事を取ろうと言ってきたのもミアだった。

 ハヤトはその理由を聞きたかった。

「んー、なんとなく」

 そんなハヤトにミアはニパッっと笑ってそう答えた

 そこに悪意は無く、純粋に、無邪気にそう思ったのだろう。

 だが

「……」

 その言葉を聞いてハヤトの眼光が目に見えて鋭くなる。 

「ん、どうかしたの?」

「…この際だから、先に言っておくよ」

「うん、何?」

「俺は別に君に対して敵意を抱いているわけでもないし、第一印象が悪いわけでもない、むしろ君のその人格は結構好きな部類に入る」

「わーい、ありがとー」

 そこまでの言葉を聞いて素直に喜ぶミア。

「…けど」

 トン…

 飲み干したコーヒーのパックが空洞を思わせる静かな音を立てる。

「俺は猫が嫌いだ…」

 少し遅れて、ハヤトの声がミアの耳に届いた。

 それはこの世界においてある種の拒絶宣言であった。


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