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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第01話「設立、獣耳学園」
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一時限目『転校生現る』

 〜 一時限目『転校生現る』 〜


 場所は大陸の東側、海に近いその場所は物販の流れが多く、比較的に種族間の交流が多い場所であった。

 そのお陰なのか、比較的にそこに住む者達は他種族への偏見を持つ者が少なく、比較的に多種族が暮らす街であった。

 さて、先程から比較的比較的と同じ言葉を多用しているが、一般的にはこのような街はそうそう存在せず、それはこの街が特殊な環境の街である事を意味する。

 その特殊の意味が良い意味か悪い意味なのかは今は置いておき、とにかく特殊な街であると言う事を念頭に置いておいてもらいたい。

 そんな特殊な街に特殊な学園が出来たのは、春の日差しを感じ始める三月頃であった。

 多種族複合学園。

 聞きなれぬその名に住民達は初め首を捻った。

 街にはすでにいくつかの学園があったが、特殊な街とは言え各学園は種族別に分けられ、種族ごとの生徒が集まって授業を行っていた。

 まぁ、それが普通である。

 しかし、その学園が出来た事によって状況は一変する。

 特殊なこの街の住民達はその特殊な学園の特殊な方針が気に入ったのか、三月の時点で受験希望者の数は千人に達し、厳正な試験の結果約三百人が栄えある第一期生としてその学園への通学を認められた。

 まぁ、普通ではありえない話である。

 兎にも角にもその学園、私立獣耳学園の新入生はそうやって集められた。

 そして、新設校の新学期が始まって一ヶ月が経った辺りからこの物語は始まる。



 獣耳学園の一教室。

「…と言う訳で転校生を紹介する」

 と、黒い耳と尻尾を生やし、眼鏡をかけたさわやか体育会系の教師がそう言う。

 耳と尻尾の形から見る限り猫科の種族である事が伺える。

「はーい、チタ先生、質問があります」

 それに答えるように栗色の耳と尻尾を生やした女子生徒がまっすぐに手を伸ばしてそう言う。

 これまた女子生徒も耳と尻尾の形から見る限り猫科の種族である事が伺えた。

「何かね、ミア君?」

 チタ先生と呼ばれた教師は女子生徒、ミアにそう聞き返す。

「何が『と言う訳』なのかがさっぱり解りません」

 実に真っ当な質問をミアが投げかける。

「うむ、学園が設立されて一ヶ月が経ったこんなヘンテコな時期に転入してくる変わり者がいるという話だ、解ったか?」

 聞きようによってはかなり酷い説明内容である。

「はーい、解りました」

 だがその説明で納得したのか、ミアは笑顔でそう答えると手を下ろした。

「ならよし、じゃあ今日は47ページから…」

 チタ先生はそう言い、教科書を持って授業を開始しようとするが

「おい、おっさん」

 少し柄の悪そうな少しギザギザの耳とフサフサの尻尾を生やした男子生徒がそう言ってくる。

 形から判断して彼は犬科の種族のようだ。

「転校生の話じゃなかっ…」

 ヒュ…ベキィ!!

「へぶっ!!」

 男子生徒が最後まで言い終わる前に、彼は机にディープキスをする事となる。

「ケン君、先生はまだ若いし、今のはちょっとしたジョークやつだ」

 いつのまにか男子生徒、ケンの後ろに回りこんだチタ先生がケンの頭を無理矢理机に押し付けたのだ。

「てめぇ!!」

 バッ!!

「何しやがる!!」

 ケンがその腕を振りほどき、そのままチタ先生に拳を飛ばすが

 ヒュ…

 またも、チタ先生はいつのまにか黒板の前へと移動していた。

「ちぃ…」

 そんなチタ先生を睨むケン。

「んー、暴力は良くないなぞケン君」

 にっこりと笑ってそう言うチタ先生。

「てめぇが先にやったんだろ!!」

「あれは教育的指導、もしくは愛のムチってやつだ」

「十分体罰じゃねぇか!!」

「短気だなぁ、ワンワン吼えて犬人族の人格が疑われるぞ」

「俺は豹人族の人格の方を疑う!!」

 ガルルルと威嚇するように唸り、拳を振るわせるケン。

「もう止めなよ、ケン」

 その様を見ていたミアがそう言って、チタ先生に喰いかかろうとするケンを止める。

「チタ先生は豹人族の中でも最速の黒豹族なんだから、ケンじゃ勝ち目ないよ」

「んなこたぁ解ってるよ」

「そうそう、学友の言う事は素直に聞かないとねぇ」

「うるせぇよ」

 ケンはそう言って椅子に座り直し愚痴る。

「けっ、これだから豹人族といい猫人族といい、猫科の連中ってのは…」

 シャキーン

「何か言った?」

「わぁ、つ、爪出してんじゃねぇよミア、悪かった、俺が悪かったって」

「解ればよろしい」

 ミアはそう言って爪をしまう。

 その納得の仕方から見て、あたふたする不良少年は過去数回はその爪の餌食になった事があるようだ。

「ふぇー…」

 そう言って冷や汗をかきながら机に倒れるケンを見て教室内にいる全員が笑う。

「さて、種族間交流はそれぐらいでいいかな、いい加減転校生君を紹介したいのだが」

「はーい」

「さっさとそうしろっての」

 チタ先生の言葉に素直に答えるミアと愚痴るように言うケン。

「よーし、じゃあ君、入ってきたまえ」

 チタ先生がそう言うと

 ガラ…

 教室の扉を開けて一人の男子生徒が入ってくる。

 黒茶色の髪と瞳、身長は男子生徒の平均よりやや下ぐらい、服は前の学校の制服だろうか、獣耳学園のブレザーではなく学ランを着ている。

 教室内の一同は当然のように男子生徒を見るが、その意味は通常のそれと多少違った。

「…あん?」

「わぁ…」

 ミアとケンを筆頭に全員の視線が男子生徒の一部に集中される。

 正確には、男子生徒の頭に視線が向けられた。

「じゃあ、軽く自己紹介でもしようか」

「ハヤトです、よろしく」

 チタ先生の言葉に対して、男子生徒は軽く頭を下げてそう言うだけだった。

 特に不自然な所はなく、実に無難に差し障り無い行為だったであろう。

 しかし、彼はすでに教室中の注目を集める存在となっていた。

 彼は普通だった。

 良くも悪くも普通であった。

 何の変哲も無い男子生徒、それ以上でもそれ以下でもなかったかもしれない。

 通常であれば何の特徴もない普通の生徒が転校してきたのだと、そこで終わり、定例の自己紹介や質問タイムに突入するのであろうが、彼はあまりにも普通で何の特徴もない男子生徒だった。

 全員その事に対して少なからず驚いていた。

 それは彼の外見に特徴がまったく無かったからだ。

「ふむ、それでは自己紹介にはなってないな、じゃあ質問タイムに変更しようか、さて諸君何か彼に質問は?」

「はーい、はいはいはーい!!」

 そうチタ先生に言われてミアが真っ先に手を上げる。

「ん、ではミア君」

「ハヤト君はひょっとして人族なの!?」

「…ええ、そうです」

 元気良く問い掛けてくるミアを見て、ハヤトの表情が一瞬変わったように見えた。

「やったー、大当たりー」

 その事に気づきもしないミアは自分の問いが当たった事を純粋に喜ぶ。

 どよどよどよ…

 ミアの喜びとは逆に教室の中は少しの間ざわめきが起こった。

 そう、ハヤトの頭には種族の象徴である耳がなく、他の象徴となるべき角も尻尾も無かったのだ。

「おーい、静まれ静まれ皆の衆、珍しいからってあんまり黙ってじろじろ見るのも失礼だ、だから質問攻めで許してあげよう」

 にっこり笑ってチタ先生がそう言う。

『はーい』

 それに答える生徒達。

 実に良い性格をしているクラスだ。

「……」

 盛り上げる教室とは別にハヤトは黙っていた。

「はいはーい、ハヤト君家どこなのー?」

「プライベートな事なので黙秘します」

「あの、得意な科目や苦手な科目ってありますか?」

「特にありません」

「スリーサイズはー?」

「測ったことがないので解りません」

「何か特技ってある?」

「18つあるので言い切れません」

「ハヤト君恋人いるー?」

「いません」

 無愛想だがハヤトはその質問一つ一つにちゃんと答えていった。

 だが、一人の生徒の質問が彼の存在を更に際立たせる事となる。

「出身地はどこなの?」

「…日本です」

 …シーン

 ハヤトがそう答えると、それまで盛り上がっていた教室内は一気に沈黙する。

「はい、はいはい、ハヤト君質問ー」

 そんな中、ミアだけが勢いよく手を上げる。

「何でしょう?」

「ハヤト君って日本人なの?」

「ええ、そうです」

 ざわざわざわ…

 再び教室の中がざわめく。

 ハヤトのその事実に先程までの質問攻めはどこへやら、一変して質問は途切れ、誰もハヤトに話し掛けようとしなかった。

「すごいねー、私、人族の人って初めて見たよ、あっ、日本人も初めて見た」

 そんな中、ミア一人だけは更にハヤトに話し掛けていた。

「そうですか、それは良かったですね」

 そんな彼女に対しても無表情でそう答えるハヤト。

「うんっ」

 そんな事を気にしてないのか気づいてないのか、ミアは笑ってそう言った。

「…おい、ヒト」

 その様子をずっと黙って見ていたケンがハヤトに向かって口を開く。

「てめぇ、こんなとこに何しに来やがったんだ?」

 それは明らかに敵意を剥き出しにした言葉だった。

 こんな所にいる彼が言うのも何だが、他種族複合学園は他種族の交流を深めるための学園である。

 他種族、この場合ケンのような犬人族やミアのような猫人族を指すのだが、ハヤトの場合その事情が多少異なっていた。

「……」

「おい、何とか言えよ、ヒト!!」

 露骨な挑発を続けるケン。

「…はぁ、うるさいぞ、イヌ」

 それに呆れたのか、それとも体面を取り繕うのが面倒になったのか、ハヤトの気配が豹変する。

 他人を寄せ付けない優等生のような雰囲気は一変して、まるで敵対する野獣のようなそれに変化したのだ。

「…てめぇ、猫被ってやがったな」

 その気配に反応したのか、ケンはやる気満々と言った感じで立ち上がる。

「こっちはそっちと違って色々と事情があるんでね、君みたいに大人しく尻尾でも振っとけばよかったかな」

 今度はハヤトの方からあからさまな挑発が投げかけられた。

「喧嘩売ってんのかてめぇ…」

「売ってきたのはそっちだろ、安いから買ってやったぞ、…イヌ」

「野郎…」

 ダッ

 ケンが殴りかかろうと床を蹴る。

 誰もがその次に繰り広げられるであろうバトルを想像したが

 スッ…

 ハヤトはケンにどこからともなく取り出した一本の棒を見せる。

 ピタ…

 そうするとケンの動きが一瞬停止する。

「ふ…」

 それを確認してハヤトはニッと笑う。

「そーれっ」

 ポイッ

 リズム良いそんな声を出しながら、ハヤトはそれをケンの後ろの方に勢いよく放り投げる。

 すると、ケンの視線はつられてそれを追ってしまい、一瞬後ろを向くような形になる。

「えいっ」

 コン…

 その隙をついてケンの足を素早く払うハヤト。

「あっ…」

 ドサ…

 バランスを崩した彼の体は見事に地面に倒れこんでしまう。

 そして

 ポンポン…

 ハヤトがこけて仰向けになったケンのお腹をそんな音が聞こえそうに軽く叩く。

「んー、確か犬人族はこうやって腹を取られると負けってルールだったよね」

「な、な、な…」

「君の負けー」

「なぁぁにぃぃーーーー!!」

 これが人族ハヤトの転校初日に起こした事件であり、初めて起こした事件、『お腹ポンポン』事件であった。

 ちなみにハヤトが取り出した棒が犬人族の共通の好物、骨付き肉の骨であった事は言うまでも無い。


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