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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第03話「燃えろ、獣耳学園」
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終礼『舞え、炎と共に』

 ~ 終礼『舞え、炎と共に』 ~


 校庭の中央でキャンプファイアーが燃える。

 一人、また一人と生徒達が校庭に姿を現す。

 その中に、13クラスの面々の姿も含まれていた。



 校庭の隅。

「ち、何で俺まで…」

 まるで隠れるように木の陰に座り込むケン。

「ケン兄はコゥさんと踊らないの?」

 その隣に座り込むリゼ。

「うるせぇよ」

「ごめん…」

「謝るな」

「ごめん…」

 リゼのその態度に、ケンはどうにもぶつけどころの無い感情を感じていた。

「リゼ、…母さん、元気にしてるか?」

「うん…」

「…親父は?」

「ケン兄が居なくなって、少し落ち込んでるみたい」

「け、どうだか」

「本当だよ、最近ちょっと痩せてきてるし」

「…ふんっ!!」

 リゼの言葉を聞いて、ケンはどう反応してよいのか解らなかった。

 ただ、何となく考えさせられていた。

「ねぇ、どうしても、帰ってきてくれないの?」

「俺は…帰らない」

 自分の気持ちがうまく言葉に出来ない。

「そんなに帰りたくないの?」

「違う、うまく言えねぇけど…俺の居場所はここなんだ、だからもう…家には帰れねぇ」

「…そっか、居場所…見つかったんだ」

 半分嬉しそうに、半分寂しそうに、リゼは言う。

「リゼ…」

「何?」

「…悪かった」

「…うん」

 それだけで、妹は兄の言いたい事が解ったらしい。

「でも、年末ぐらいは家に帰ってきてね…お兄ちゃん」

「おい、俺をお兄ちゃんって呼ぶなって言っただろ」

「あ、ごめんなさい、でも…」

「…ち、解った解った、そんな顔するな、好きに呼べ」

 やりづらいと言わんばかりにケンがそっぽを向きながらそう言う。

「…お兄ちゃん、やっぱり変わったね」

「あん?」

「何か性格が丸くなった、コゥさんの影響?」

「違うっ!!」

 思わず大きな声でそう否定してしまうケン。

「何が違うのかしら?」

 後ろからそう声が聞こえてくる。

「げ、コゥ!?」

 見ればすぐそこにコゥが立っているではないか。

「立ち聞きは趣味が悪いと思ったけど、ああも否定されちゃあ出てこないわけには行かないわよね」

「待て、今のは言葉のあやという奴で…」

「問答無用!!」

 ガッ!!

 ケンの襟首を掴む。

「罰として私と一曲踊りなさい」

「何でそうなる!!」

「文化祭は恋人にとって欠かせないイベントなのよ」

 ズリズリと引きづられていくケン。

 どうやら男とは言えパワーでは牛人に一歩及ばないらしい。

「リゼちゃんごめんね、ちょーっとこの馬鹿犬借りてくわ」

「どうぞごゆっくりー」

「あ、リゼ、てめぇちょっと性格悪くなってねぇか!?」

「お兄ちゃんの気のせいだよ」

「さ、行くわよケン」

「ぢぐしょーー!!」

 そんなこんなでダンスの輪に加わるコゥとケン。

「…そっか、うまくやってるんだ」

 そんな二人を見て、ケンを見て、安堵するリゼ。

「兄が心配で様子を見にきた…か、お兄さん思いだね」

 そんなリゼに声をかける一人の教師。

「あ、貴方は…」

「失礼、野暮だと思ったが私も立ち聞きさせてもらった」

 どこに居たのやら、どこからともなく姿を現す。

 姿を現したのはチタ先生。

「ど、どうして?」

 どうやらリゼは単純にチタ先生の登場に驚いているらしい。

「一応彼の担任だからね、っと、そう言えば昼会った時に名乗っていなかった、私の名はチタ、よろしくリゼ君」

 一方、チタ先生の方はリゼの事を先刻承知済みらしい。

「あ、はい、よろしくおねがいします」

 対し、深々と頭を下げるリゼ。

 どうにも、会話が成立していなかった。

 なかなかに奇妙な組み合わせであるが、これはこれでなかなかに面白い組み合わせである。



 二人で炎を眺めるように、隣同士で座るキユとミユ。

「ねぇ、ミユ」

「…何?」

「私さ、やっぱりハヤト君の事好きだった」

「うん…」

 ミユは驚かなかった。

「今日、私も好きって言った」

「うん…」

 何故か、そうなんだろうという気がしていた。

「何で、好きになっちゃったんだろうね」

 前途多難、辛くなるのは目に見えているのに。

「でも、好きになっちゃったんだもん…」

「…そうだね」

 ミユの言葉にキユは静かに頷く。

「…ハヤト君は、何も答えてくれなかった?」

「うん、ミユと一緒…」

 結局、ハヤトは二人に何の返事もしていない。

「でも、今はそれでいいんだと思う」

「うん、私もそう思う」

 それでいいらしい。

 この双子に必要だったのは言葉ではない。

 彼女達に必要だったのは…。

『ハヤト君…』

 二人が見つめる先にハヤトはいた。



 燃え盛る炎。

 生徒達の情熱を代弁するように、燃えつづける炎。 

「ミア、どうした?」

「え、な、何?」

 その炎に照らされながら、踊る一組の男女。

「さっきからずっと黙ってるじゃないか」

「ハ、ハヤトが急に態度変えるから、こっちが緊張してるのよ」

「はは、随分としおらしくなったもんだ」

 笑うハヤト。

「笑わないでよ、自分でもらしくないなって思ってるんだから…」

 照れるミア。

「たまにはこういうのもいいだろ」

「…そう言えば、ハヤトって今日は随分テンション高かったよね」

 ミアが素直にそう感想を述べる。

 総じて見てみれば、確かに今日のハヤトは何時もより行動的だった。

 今だって、普段の彼からは想像できない行動だ。

「文化祭だからな」

「何それ?」

「文化祭は思いっきり楽しんで良い日なんだよ」

「…ふぅん、何か意味ありげだね」

「まぁ、ちょっとした自分ルールって奴だ」

「それで、ハヤトは楽しかったの?」

「…ああ、楽しかったよ」

 また、笑うハヤト。

 ドキッ…

 その笑顔に、ミアの胸が高鳴る。

 ハヤトが笑っている。

 普段笑わない彼が、自分に対し、自分のためだけに笑顔を見せてくれている。

「ミア?」

 ミアの顔を見て、そう声を掛けるハヤト。

 火に照らされているせいか、頬が少し赤くなっているようだった。

「あ、うん…」

 良く考えてみれば、彼の顔をこんなに近くでずっと見る事すら初めてなのではないだろうか。

 そう考えると、そう考えれば考える程。

 ミアは自分の顔が熱くなってくるのを感じていた。

「…ミア」

「な、何?」

 心臓の音が相手に聞こえてしまわないかと心配になるぐらい、胸が高鳴っている。

「話があるんだ」

「話?」

「俺はミアの事は決して嫌いじゃない」

「…うん?」

 今更何を言い出すのだろうと思った矢先。

「寧ろ…好きだ」

「っ!!」

 その一言だけで、ミアの心拍数が一気に跳ね上がる。

「ハ、ハヤト、それって…」

「ミア、最後まで聞いてくれ…」

「う、うん…」

 曲に合わせて二人の足がステップを刻む。

「俺は何かを選択するのが嫌だった、俺の選択で何かが決まってしまうのが怖かった、みんなが幸せでいられる選択肢があるなら迷わずそれを選んできた、でも、それじゃ駄目だってミアが教えてくれた」

「私が?」

「この学園に来て、俺は少し変われたと思う、でも、まだ駄目なんだ…、ミア、俺にもう少しだけ時間をくれないか?」

「何の?」

「答えを出せる時間、俺が過去と決別できる時間、そして…ミアへの返事が出せる時間」

 ハヤトの瞳は力強く、決意を感じさせた。

「だから、俺に時間をくれ…」

「ハヤト…」

 彼が何を思い、何を考えているのか、その全ては解らない。

 ただ、彼は何かを決意し、何かを実行しようとしている。

「…うん、ハヤトがそう言うなら、私…待ってる」

「ありがとう、ミア」

 微笑み、答えてくれたミア。

 そんな彼女に微笑み返すハヤト。

「あ、でも、それって私に少なからず気があるって事だよね、じゃあ私との賭けは続行中なんだから、強引に責めれば勝機有り?」

「それとこれとは話が別だ、今の所俺の意思に変わりはない」

「ちぇ、残念」

「考えが甘いって」

「ふふーん、甘いのはハヤトかもしれないよー」

「さてさて、どうだろうな」

 先程とは違う笑顔で笑い合う二人。

 そのやり取りは何時もの二人のやり取りだった。

 何時ものやり取り。

 何時ものやり取り過ぎて…。

 何時ものやり取りだから…。

 思わず、忘れてしまいそうになる。

 この幸せな時間が、永遠に続くと思い込んでしまう。

 けれど、時は流れる。

 無情に。

 優しく。

 残酷に。

 暖かく。

 何時の日にか、選択せねばならない時がくる。

「(その時まで、せめて今という時を感じていたい、みんなと…)」

 炎が舞う。

 生徒達の思いと共に。

 学園の時は静かに流れていく。

 その炎が消える時、波乱続きの文化祭は終りを告げるのであった。


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