表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第03話「燃えろ、獣耳学園」
33/80

九時限目『歌え、勝利の凱歌!!』

 ~ 九時限目『歌え、勝利の凱歌!!』 ~


「さて、いよいよ次が最終戦か…」

 三度目になる作戦会議。

 まだ次の競技すら発表されていないというのに、獣身耳学園の生徒達は13クラスの元に集まっていた。

「このまま大人しく終わると思うか、ハヤト?」

 ケンの疑惑は当然だった。

 負けが続いている百獣学園がすんなりと引き下がるとは思えない。

「そう願いたい所だが、ここで引き下がれば百獣学園は面目丸つぶれだ、それこそ死に物狂いで何か仕掛けてくるだろう」

「次は一体どんな手でくるんだろね?」

 ミアがそう言う。

 騎馬戦、綱引き、どちらにも特別ルールと称した獣耳学園に不利な条件が加えられてきた。

 次もそうなる可能性が高い。

「ルールもそうだが、俺は次の競技が気になるな、二回目からして言ってた事と違ってたし、三回目でまたどう話が転がるのか予想もできやしねぇ」

 当初の話では一回目と二回目は全員参加だったはず、それなのに二回目は人数制限が設けられた。

「今までの経過から見ても全員参加は無いと思う、一応選抜メンバーと言っていたからには宣言通り次は少数でやれる競技だろう」

「なら、俺達の方に勝機があるんじゃねぇか?」

 大勢で戦っては負けた、少数で単純に力を競い合っても負けた。

 これまでを振り返って見れば、獣耳学園が百獣学園に負ける要素はない。

「いや、この状況で俺が向こうの校長なら、相手に選択肢を無くさせる策に出る」

 一回目と二回目、共に獣耳学園にはメンバーを選択して策を考える事ができた。

 それが敗因だと言うならば、それを止めさせればいいだけの話。

「相手の選抜メンバーをどうにかして弱いメンバーにさせる、その上でこちらに不利な競技を持ちかける」

「理屈で言えばそうかもしれないが、幾ら何でもメンバーを指定するとかそんな事できるのか?」

 度重なる特別ルール、確かにそれらは獣耳学園にとって不利なものが多かったが、広い視点で見るならば双方に影響を与えている。

 誰かと、個人を指定してのルール適用は幾らなんでも世間体が許さないだろう。

 だからこそ百獣学園は回りくどいルールを持ちかけてきているのだ。

「…一人だけ、指定できる奴がいる」

「誰?」

「俺だ」

 自分を指差すハヤト。

「今回の一件の当事者であり張本人、最後の競技への参加義務ぐらいの理由付けは簡単だろ、加えて人族はそれほど能力高くないからな」

「け、なるほど、連中が喜んでやりそうな事だぜ」

「競技が何になるか次第で、俺がみんなの足を引っ張るかもしれ…」

「んなわけあるかよ」

 ハヤトのその言葉を遮り、ケンが首を振る。

「前から思ってたけどな、お前は自分を過小評価し過ぎだ、一回戦目や二回戦目、お前の策が無かったら俺達はとっくに負けてたかもしれねぇ、いいか、お前はみんなに便りにされてるんだ、少しは自覚持て」

「え、あ、うん…」

 予想外の返答に戸惑うハヤト。

「あーったく、気の無ぇ返事だな」

 かといって唯我独尊なハヤトというのも想像し辛いものがある。

「みんなー、お待たせー」

 そんな場に、情報を携えてコゥが戻ってくる。

「お帰りコゥちゃん」

「どうだった?」

 戻ってきたコゥにミアとキユはそれぞれそう言葉を投げかける。

「競技は玉入れ、参加人数は3人でお互い相手の籠に玉を入れるそうよ、相手への妨害も可、ただし玉を持った相手にのみ有効とする」

「…それってアメフトとかハンドボールじゃねぇのか?」

 聞けば聞くほどその手のスポーツにしか聞こえない。

 最早体育祭とは遠くかけ離れたスポーツであった。

「まぁ、体育祭の名の下に行われだけって感じね、それで、事の発端となった両学園の生徒は参加が義務付けられていて…」

 コゥがそう言って少し言いづらそうにするが

「大丈夫だよ委員長、予測の範疇だ」

 それは先程の予測通りだった。

「うん、そうなんだけど、それと…」

「まだあるのか?」

「競技中、負傷者が出てもメンバーの補充はできないそうなの」

「…念入りなこった」

 ここまでくれば、相手が何を考えてそのようなルールにしたのかを疑う余地はないだろう。

「しかし3人…か」

 両学園、と言うからには向こうの代表はおそらくあの狼人の3人。

「こちらは俺と後2人…」

 さて、どうしよう。

 ハヤトがそう悩み始めようとした時。

「なら残りの二人は決まりだな」

「ええ、頑張ろうねハヤト」

 ケンとミアの二人がそう声を上げる。

「は?」

「参加者は俺達3人で決定ってこった」

「ダメだっていってもダメだからね」

 ハヤトが何かを言う前に、ケンとミアが強引にそう決定してしまう。

「…あー、一応理由が聞きたいんだけど?」

「俺は百獣学園が気に食わない、ましてあの3人が出てくるなら尚更だ」

「同じく、それにハヤトが出るなら私がでるのも必然でしょう」

 ハヤトの問いに二人がそう答える。

「…そりゃガキの理屈だろ」

 呆れ半分でそう言うハヤト。

 その時

 ゾク…

「っ!?」

 ハヤトの全身を跳ね動かすような感覚が駆け巡る。

 同時に

 ヒュッ…

 何かが空を切る。

「っ!?」

 その何かはまっすぐに一人の兎人目掛けて飛んできた。

「ミユッ!!」

 パアァァン!!

 大きな音が鳴る。

 キュルキュル…。

 兎人、ミユの目の前でそれは未だ僅かに回転を続けていた。

 髪の毛を焼いたような匂いが彼女の鼻に届く。

「痛っつぅぅ…」

 ハヤトがそう悲痛な声を漏らす。

 その何かを、ハヤトの手が受け止めたのだ。

 その手はそれとの摩擦により僅かに焦げていた。

 ポツ、トントントン…

 その何かがようやく回転を止め、地面に落ちた頃ようやくそれの正体が解る。

 ボールだった。

 拳ぐらいの大きさ、野球の球を僅かに大きくしたぐらいの丸い玉。

 それが高速でミユ目掛け飛んできたのだ。

「ぅ、ぇ…ぁっ?」

 ペタ…。

 ようやく現実に意識を引き戻されたミユが、小さく悲鳴を上げて地面に座り込む。

 唖然とする獣耳学園の生徒達。

「はっ、大したフェミニスト精神だな」

 そんな皆を前に、そんな声が響く。

「て、てめぇら…」

 そこに立っていたのは狼人、例の三人組だ。

 いや、その後ろには百獣学園の生徒達も立っていた。

「…どういうつもりだ?」

 痛みを堪えながらそう声を上げるハヤト。

 素手で高速で飛んできたボールを掴んだのだ。

 痛くないはずが無い。

「挨拶さ…」

「…挨拶?」

「最終戦は俺達三人が出る事になった、だからちょっとした挨拶をしに来たのさ」

「そんな団体様でか、ようは因縁付けだろ」

 ハヤトは先頭で喋る茶髪の狼人を睨みつける。

「だったら俺にボールを投げつけるべきだ、そもそもこんなやり方が許されると思ってるのか」

 如何なる理由であれ、多種族複合学園での私闘は禁じられている。

「あーん、んなの知るかよ」

「何だと?」

「さっきのはたまたま練習中に投げたボールがそっちに飛んでっただけだ、あんまり小さいんでそこに誰がいるのか解んなかったんだ、過失だよ、か・し・つ、わざとじゃねぇよ」

 ニヤニヤと笑いながらそう喋る狼人。

「てめぇ!!」

 その狼人の態度にケンが飛び掛ろうとするが

「ケン、よせ!!」

「何でだよ!?」

「…今殴りかかれば、こっちが先に手を出した事になる」

「なっ…」

 おそらく、そのための証人、いや、絡め手として百獣学園の生徒達が同行しているのだろう。

 明らかな挑発。

「みんなも抑えてくれ…」

 ここで獣耳学園の誰かが手を出せば、正当防衛の名の下に百獣学園は反撃、この合同体育祭を獣耳学園の暴動という形で終わらすつもりなのだろう。

「馬鹿は馬鹿なりに少しは頭が回るようだな、まぁ、ずる賢い人族らしいちゃらしいけどよ」

 その言葉に、百獣学園側から笑い声が上がる。

「まぁ、お互いフェアに行こうぜ」

「正々堂々とな…」

『はははは…』

 そう次々と言いたい放題言い残し、百獣学園の生徒達は自分の陣営へと帰っていった。

 耳障りな笑い声と共に。

『……』

 ギッ、チリチリチリ…

 音が実際にしている訳ではない。

 だが、獣耳学園全生徒の怒りが、一瞬即発とも言える空間を作り出していた。

「ハヤト、あそこまで言われて…黙ってるしかないの…」

 グッ…

 ミアの拳に力が入る。

 周りを見れば、皆の拳にも力が入っていた。

「文句言ったって状況は変わらない、口で言って何とかなる状況じゃないしな…」

 ミアの言葉にハヤトがそう答え返す。

「じゃあよ、口じゃなかったらいいんだよな…」

 ギリギリギリ…

 ケンの歯が強く歯軋りを起こす。

 まるで火花でも散っているかのようだ。

「ああ…」

 ハヤトのその言葉を聞き

「なら、決まりだ…」

「同じく、私ももう我慢できそうにない…」

 ミアとケンの二人がそう声を上げる。

「俺も、今回ばっかりは流石に我慢出来そうにねぇ…」

 ハヤトも同じようにそう声を上げ。

 ザッ…

 皆、一斉にそちらを振り向く。

 振り向く先に見えるのは百獣学園の陣営。

「やるぞ、正真正銘、百獣学園をぶっ潰す!!」

「了解、これでやっと白黒はっきりつけれるね!!」

「ああ、百獣学園に最後の止めを刺してやろうぜ!!」

 やる気満々でそう答える二人。

「みんなも応援よろしくね!!」

『おおおおおぉぉぉぉーーーーーー!!』

 ミアのその呼びかけに、集まった獣耳学園の生徒達も呼応する。

 獣には牙があり、爪がある。

 それは本来、身を守るためではなく敵を倒すために使われる物。

 だが、皆はあえてそれを隠し身を守ろうとしてきていた。

 獣耳学園を守るために。

 だが、今まさにその牙と爪は防衛から攻勢に転じ百獣学園を切り裂こうとしていた。

 皮肉にも、百獣学園は自らその身を危険に晒してしまったのだった。



『これより、玉入れを開始します、選手の方は指定の位置に…』

 玉入れ、とは名目上呼ばれているものの、その実はハンドボールやアメフトなどとほぼ同意義であった。

 ルールは単純、ボールを相手の籠、すなわちゴールに叩き込む。

 ボールを持っている選手への接触による妨害は有り、その他のルールは一切省かれていた。

 何故なら、これは玉入れだからである。

 念のため両学園から代表の審判が参加し、過度のプレイの際には両審判の合意があった場合のみ反則とする。

 形式としては間違っていないが、対立している双方から審判が出てきている以上、合意で反則と見なされる事はないだろう。

「…で、何でチタ先生が審判やってるんですか?」

 獣耳学園側の審判はチタ先生だった。

「先生が獣耳学園で一番足が速いからね」

 だから審判に向いている、だそうだ。

「それに…」

『面白そうだったから』

 ハヤト、ミア、ケンの三人が声を揃えてそう言う。

「ご名答」

「けどよ、今回ばかりは俺達そんな気分じゃねぇんだ」

 チタ先生の言葉に対し、ケンがそう言葉を返す。

「あそこまでコケにされて黙っていちゃ男じゃねぇ…」

「では、どうするのかな?」

「決まってる、あいつ等を徹底的にぶちのめす!!」

 今にも飛び掛らんばかりに闘争心を剥き出しにするケン。

「それに、おそらく向こうもその気なんでしょう、そのための特別ルール…と言う風に聞こえました」

「まぁ、そういう事だ」

 ハヤトの言葉にチタ先生は小さく頷く。

「形式的にも書類上でもこれで問題は無くなった、双方共にこれだけ敵意や殺気を剥き出しにしている以上、どちらかが倒れるまで終りは無いだろう…ならば、勝利の二文字と共に凱歌を歌おうじゃないか」

 チタ先生はにっこりとさわやかにそう言う。

「教師の言う台詞かよ、ようするにあいつ等ぶちのめせって事だろ」

「それに先生、この場合凱歌じゃなくて校歌を歌った方が良いんじゃないですか?」

 すかさず、ケンとミアのツッコミが入る。

「まぁ、あまり大怪我はしないように気をつけたまえ」

 教師らしいリアクションで答えるチタ先生。

「相手があの三人じゃ心配はいらねぇんじゃねぇか?」

「そうそう、ハヤト一人で十分だよ」

「……」

 ケンとミアのその言葉にハヤトは沈黙する。

「どうしたの、ハヤト?」

「いや、多分そううまくはいかないだろうと考えていた」

「あん、どういうこった?」

 お前は一人であの三人を倒したんだろ。

 と言おうとケンだったが

「…説明すると長くなるから省くけど、こういう場所じゃ俺の実力は発揮できないんだ、よくてあっちの一人の実力と互角程度、あの時は相手にも油断があっただろうけど今回はそうはいかないだろう」

「はぁ?」

「狼人族は本来群れで行動する、つまり連携がもの凄くうまいんだ、連携次第でその実力は何倍にも跳ね上がる、今回はチーム戦で先方に油断は無いだろう、だから俺達も心してかからないといけない」

「具体的にはどうするの、何か策は?」

「幾つか考えている、うまく実行できるかどうかは俺達の連携次第だ、…頼むぞ、ミア、ケン」

『おう!!』



 パァン!!

 今日一日で聞きなれた銃砲の音が校庭に響く。

『……』

 先攻として、まずは獣耳学園側にボールが与えられていたが、双方共に互いの様子を伺っていた。

 ジリ…

 ボールを持つケンの足下の砂が僅かに音を立てる。

「(まずは正面からだ!!)」

 ダッ!!

 地を蹴り、加速するケン。

 先方の実力を測る意味を含め、まずは真っ向から勝負をしかける。

 すると

 ダッ!!

「何!?」

 先方の一人がケンと同じようにダッシュをしてきた。

 ガツゥゥッ!!

 ぶつかり合う二人。

 グ、グ、グ…。

「(な、お、押し切れねぇ…)」

 両者の力は均衡していた。

 互い一歩も譲らず、その場で勢いが止ってしまう。

 ズザァ!!

「っ!?」

 ぶつかり合い、ケンの死角となった敵選手の影より現れた一人がスライディングをかけてくる。

「ちぃっ!!」

 ダンッ!!

 すかさずそのスライディングをかわすために飛び上がるケン。

 だが

「っ!!」

 飛び上がった先にもう一人の敵の姿があった。

 どうやらぶつかり合っていた選手の背を踏み台にして待ち構えていたらしい。

 ヒュ…、ドスッ!!

 敵選手の飛び蹴りがケンの腹に突き刺さる。

「がっ!!」

 吹き飛ばされ、地面を転がるケンの体。

『ケン!!』

 ケンの体より離れたボールを敵選手の一人がキャッチする。

 その連携は完璧だった。

 僅か数秒でケンは敵側にボールを奪われてしまう。

「ミア、バックだ、ゴールを守れ!!」

「うん!!」

 ケンが倒れても敵の動きは止らない。

 ハヤトとミアはどうにか相手のボールを奪おうとするが

『ゴールッ!!』

 成す術もなく、ボールを入れられてしまう。

「くそ…」

「先制点取られちゃったね」

「ああ、三位一体の連携攻撃か…」

 連携には様々なバリエーションがある。

 防御、牽制、攻撃の連携は比較的ポピュラーな連携と言えよう。

 敵の攻撃に対し、一人が攻撃を受け止め、一人が動きを封じ、一人が攻撃を仕掛ける。

 一見簡単そうに見えるが、ある程度の訓練とチームの呼吸が合わねば出来ない芸当だ。

 予想以上に敵の戦闘力は高い。

『競技再開!!』

 ピーッ!!

 ボールが獣耳学園側、ハヤトに渡され、審判の笛が鳴る。

「……」

 ハヤトは間合いを見計らって動かない。

「どうしたヒト、お仲間がやられちまったぜ」 

 敵意丸出しの挑発の声が聞こえてくる。

「誰が…やられたって?」

 腹を抑えながら立ち上がるケン。

「ケン、大丈夫か?」

「ああ…」

 その返事を聞いて徐々に敵との間合いを詰める。

 ハヤトはケンの回復を待っていたのだ。

「はん、なかなかしぶといじゃねぇか」

「まぁ、腐っても狼人族の眷属なんだ、当たり前だろ」

 ケンの立ち上がる姿を見て、そう口々に言う狼人達。

「な、何だとぉっ!!」

 その言葉に対し、ケンが激昂した。

「犬人族なんて俺達狼人族の劣化種族さ」

「そうそう、数が多いのもたまたま繁殖能力が高かっただけで、お前等犬人族は劣悪種なんだよ、要するに本能丸出しの馬鹿」

『はははは…』

 三人の笑い声が響く。

「てめぇらぁ、言わせておけばぁ!!」

 自分だけならまだしも、種族を、仲間達を馬鹿にされてあのケンが黙っていられるはずもない。

 ケンが怒りの余り三人に殴りかかろうとするが

 バッ…

「…ハヤト?」

 ハヤトがそれを止める。

 待て。

 僅かに視線が合った時、彼の眼がそう言っていた。

「百獣学園にだって犬人族はいるはずだ、多種族複合学園の生徒であるお前達がそんな事を言ってもいいのか?」

「あん?」

「次代の多種族複合国家を担う者が、種族差別をしていいのかと言っている」

「はぁ?」

「馬っ鹿じゃねぇの」

「何で俺達が劣悪種共と対等に話しなきゃなんねぇわけ?」

 口々に狼人族の三人がそう言葉を発する。

「俺達、多種族複合学園の生徒の目的は差別の無い新しい国を作る事のはずだ!!」

「おめでたい奴だなぁ、本気でそう思ってるわけ?」

「そうそう、大体多種族複合学園なんて新しい国が出来た時の優劣を早めに見極めるための制度だろ」

「それが、お前等の本音か…」

 ハヤトの目が鋭く光る。

「…はぁ、馬鹿馬鹿しい」

「話になんねぇや」

「おい、とっとと終わらそうぜ」

 ダッ…。

 狼人の三人が大地を駆ける。

 三位一体の攻撃。

「っ!!」

 先頭の狼人の手がハヤトに伸びる。

 ズッ…

 滑るように、しゃがみ込んでそれをかわすハヤト。

 続いて、狼人の後方、ハヤトの死角から次の狼人がハヤトに襲い掛かろうとする。

「ミア!!」

 ヒュ…

 手に持っていたボールを素早く後方に居るミアにパスするハヤト。

 これで、ボールはハヤトの手から無くなった。

 ボールを持っていない者への攻撃は反則。

 だが

 ガスッ…

 そんな事お構いなしで狼人の体当たりがハヤトにぶち当たる。

「ぐっ!!」

 ズザァ!!

 吹き飛ばされはしなかったものの、ハヤトの体は大きく後退させられた。

「終りだ…」

 声に反応し、上空を見上げるハヤト。

 そこには今まさにハヤトに止めを刺そうとする狼人の姿があった。

 狼人の飛び蹴りがくる。

「っ!!」

 この不安定な体勢ではかわせない。

 ハヤトは即座に防御しようと身構えるが

 メキィ…

 狼人の蹴りはハヤトに届かなかった。

 見れば彼の顔面にめり込む丸い物があった。

「ハヤトッ!!」

 ミアの投げたボールである。

 上空を飛んでいた狼人はまさに格好の的だったのだろう。

 ダンッ…

 狼人はそのまま地面に叩き付けられる。

「ミア、サンキュー助かった」

 ボールは敵の手に渡ってしまったが、その隙にハヤトはミアとケンの元に戻り陣を組み直す。

「やろぅ、舐めた真似しやがって…」

 立ち上がる狼人。

 やはり、ボールが当たった程度では決定的なダメージにはならないらしい。

 狼人達もすぐに陣を組み直し、すぐに攻勢に出た。

 ボールが三人の間で高速に行き来する。

 その動きは常人の目では追いつく事すら困難であった。

 だが

 …パシッ!!

『っ!?』

 高速で宙を飛んでいたボールの動きが止められる。

 トッ…

「…っと、猫人の空間把握能力と動体視力をなめないでよね」

 宙で掴んだボールを持ち、ミアが大地に着地する。

「ハヤトッ!!」

 すかさず、奪ったボールをハヤトにパスするミア。

「…ケン、やれるな?」

「ああ…」

 ハヤトと肩を並べて立つケン。

「なら…やるぞ!!」

「ああ!!」

 ダッ!!

 ハヤトとケンの二人が大地を蹴る。

 二人の足並みはまるで二人三脚の時のように揃い、平行して駆けていた。

「くっ!?」

 二人が向かったのは敵陣のゴール。

 先程まで攻めに回っていたせいか、ゴールとの間には狼人の一人しかいなかった。

 そのまま攻め入るかと思われたが

 ヒュッ…。

 ハヤトの持っていたボールが宙を舞う。

「え?」

 …ポフッ

 ボールは緩やかな曲線を描き、狼人の手の中へ。

 パスだった。

 高速パスや激しいシュートを予測していた狼人にとってこれは予想外。

 意表をつかれた狼人はそのボールを正直に受け取ってしまう。

 ザッ!!

 その事を確認し、ハヤトとケンの体が地を蹴り空を飛ぶ。

『いっけぇぇぇ!!』

 ヒュゥ、…メキィィ!!

「ごがぁっ…」

 ハヤトの右脚が狼人の左側面へ、ケンの左脚が狼人の右側面へ。

 プレスするように頭の両側面を同時に蹴る。

 痛い…どころの話ではない。

 脚というのは腕の約3倍の力があるといわれている。

 それを左右から叩き込まれ逃げ場を失った力が脳に与えるダメージは殺人級。

 ド、サッ…

 崩れ落ちる狼人。

 トッ、トントン…

 その狼人から零れ落ちたボールを拾い。

 パサッ…

 軽くゴールに投げ込むハヤト。

『ゴールッ!!』

 審判の声が上がる。

『おおおぉぉぉーーー!!』

 同時に獣耳学園側から歓声が上がる。

 点自体は同点。

 だが、それ以上に大きかったのが、狼人の一人をノックアウトした事であった。

 おそらく彼がこの試合中に立ち上がる事は無いだろう。

「待てよ、あんなの反則だろうが!!」

 その審判に、狼人の一人が掴みかかりそう抗議する。

「その手を離したまえ」

 パシッ…

「っ!?」

 高速で振りほどかれた自分の手を見る狼人。

「審判への暴力は即百獣学園の負けとなる」

 振りほどいた審判、チタ先生が起伏の無い声でそう答える。

「ふざけんな、あんな事が…」

「相手にパスをして、ボールを持った相手に接触してはいけないというルールはない、そうですよね、百獣学園の審判さん」

「ああ…」

 チタ先生の言葉にそう返事をする百獣学園側の審判

「ルール上、問題はない」

「貴様、獣耳学園の味方をする気か!?」

 確かに、そのようなルールは決められていなかった。

「ルールはルールだ、私は審判として公正な事を言っているだけの事」

「こんな寄せ集めのクズ共に仲間がやられたんだぞ!!」

 ハヤトとケンの蹴りを喰らった狼人はなおも意識を失ったままである。

「仲間、君達は誰を指して仲間と言っているのかね?」

「はぁ!?」

「同じ狼人族をかね、ならば筋違いだ、先程の君達の言葉を聞く限り、君達は我々他種族を仲間だと思っていないように聞こえたが?」

「なっ!?」

 百獣学園の審判が抗議してきた狼人を睨む。

「すぐに競技を再開する、位置に戻りたまえ」

「待てよ、メンバーの補充がまだ…」

「メンバーの補充はルール上認められていない」

 審判がそう言葉を打ち切り。

『競技再開!!』

 ピーッ!!

 ボールを狼人の一人に渡し、競技の再開を宣言する笛を鳴らす。

「お、おい!!」

「二人で競技をやれってのか!?」

「おい、誰でもいいから協議に参加しろ!!」

 狼人がそう百獣学園の生徒達に呼びかけるが

『……』

 最早答える者は誰もいなかった。

「おいおい…」

「っ!?」

 何時の間にか、ボールを持った狼人の背後に立つケン。

「競技はもう始まってるんだぜ」

 バッ!!

 振り向き様に走り出そうとする狼人。

 だが

 ドスッ、ド、ドフッ!!

 鳩尾に膝蹴り、続いて顔面の即東部へのバックブロー、最後によろめいた所で止めのハイキックが炸裂する。

「は、がぁ…」

 ドサ…、トントントン…

 倒れ落ち、ボールが地面を転がる。

「さて、最後は…」

 ボールを拾い上げ、残った一人に目をやるハヤト。

「ひっ…」

 一人残された狼人に最早戦意は無かった。

「お前だ!!」

 ヒュ!!

 ハヤトが大きく構えボールを投げる。

 狙ったのは狼人の顔面。

 バン…

 咄嗟に両腕を構え、高速で迫るボールをガードする狼人。

 流石に先程の仲間のやられ方を見ていただけあって、ボールをキャッチするような真似はしない。

 ガードされ弾かれたボールは狼人の上空へと舞い上がる。

 とりあえずの難を逃れ、ほっとする狼人。

 だが

 パシッ!!

 そのボールを空中で受け止める者がいた。

 ミアだ。

 狼人の頭上、高さ3メートルはあろうかという地点に彼女は居た。

「何ぃっ!?」

 狼人は気づかなかった。

 彼の背後でケンがミアの発射台となっていた事を。

 そう、これは狼人達がやっていた事を真似た物。

 ケンは両手を組み、ミアの脚の踏み場を作り彼女を上空へと放り投げる。

 まるでトランポリンのように、ケンを踏み台にする事でミアは通常よりも高くジャンプする事ができた。

 ミアは手にしたボールを踏み台にするかのように下に移動させ、狼人との中間に持ってくる。

 そして、狼人の顔面にボールを当て、そこを着地ポイントにし、そのまま全体重を乗せて一気に

「せーのっ!!」

 メキ…

 地面に叩きつける。

 狼人の体は不自然な形で折れ曲がり、その頭蓋を地面にめり込ませる。

「ふぅ…、えい!!」

 地面に倒れる狼人を他所に、ミアは立ち上がってボールを敵ゴールへと放り投げる。

 パサ…

 小さく音を立て、見事ボールはゴールへと入った。

『ゴール!!』

 審判の声が上がる。

『おおおおおぉぉぉぉーーーーーー!!』

 同時に獣耳学園側から歓声も上がる。

 事実上、勝敗は決した。

 獣耳学園側の取得点は2点、百獣学園側の1点と差し引いても僅か1点しかリードしていない、だが百獣学園側にはもう競技を行える者がいなかった。 

 文字通り、ハヤト達は完膚なきまでに敵を倒したのだ。

「ぐ…」

 腹の辺りを抑え、ケンに殴り倒された狼人が立ち上がる。

 同じようにミアによって押しつぶされた狼人も立ち上がる。

 二人共ダメージは大きいものの、何とか立ち上がるだけの力は残っているようだ。

「はん、いい様だな、どうだぁ、てめぇの言う劣悪種とやらにやられた感想はよぉ」

 狼人を見下し

「確かに連携は大したもんだったぜ、でも、一度連携が崩されればご覧の通り、結局、てめぇらは群れなきゃ何も出来ないような連中だったってこった、そんな奴等が優れてるなんて、思い上がりもはだはだしい事この上ねぇな」

 ニヤニヤと笑いながらそう罵るケン。

 なかなか不良っぽく悪役のような言動である。

「どうする、まだやるか?」

 続いてハヤトがそう尋ねる。

「ふざけんな、こんな一方的な暴行が…」

 どうやら、この期に及んでまだ何かしらの難癖をつけようとしているようだが、脂汗を流しながら凄んでも説得力がない。

「俺達をこんな目に合わせて、どうなるか…」

 それでも食い下がろうとしない狼人、だが

「見苦しいぞっ!!」

 スピーカーを通していないはずなのに、校庭中に大きな声が響き渡る。。

 皆、その声の発生源へ目を向ける。

 合同体育祭運営委員会のテント。

 そこに一人の男が立っていた。

 百獣学園のルドルフ校長。

「ル、ルドルフ校長…」

「ボールを持った者への接触による妨害の可、競技中のメンバー補充の不可、全て貴様等が決めた事ではないか!!」

 ルドルフの言葉に獣耳学園、百獣学園、両陣営の生徒達がざわめく。

 その時、皆が思った事はこうだった。

『あのルールは校長が決めたのではないのか?』

 だが、校長の言動はそれを否定するものであった。

「ハヤト。こりゃどういうこった?」

「…どうやら、あいつらが一番悪い奴だったようだな」

 そう、場を見抜くハヤト。

 狼人達の言動の数々、そしてルドルフ校長の発言。

 この状況で予想できる事の成り行きというのはそう多くは無いだろう。

「その経過を踏まえての貴様の発言…恥を知れ!!」

「あ、あのルールは…!!」

 どうにかして、反論しようとする狼人。

 だが

「黙れぇぇぇぇぃぃぃっ!!」

 ビリビリビリ…

 ルドルフの一喝により、皆の鼓膜が震え獣耳学園の校舎の窓ガラスが音を立てる。

「狼人族は誇り高き一族、ならば姑息な真似をせずに自分が決めたルールの元で正々堂々と戦うがいい、それで敗れたのならば弁明は不要、貴様…誇りと自尊心を履き違えているのではないか!!」

「ぁ、ぅあ…ぁっ…」

「…確かメンバーの補充と言っていたな、よかろう、今ここでその有志を募ってみるが良い、…百獣学園の生徒達よ、お前達を劣悪種と呼んだあの狼人族のために我が身を呈して戦おうとする者はいるか!?」

 ルドルフのその問いかけに

『……』

 答える者は誰もいなかった。

「…これが、貴様の今おかれている立場だ」

 そして、百獣学園の現状。

「ふ、最早、万策尽きたようだな…」

 鼻で一度だけ失笑するルドルフ。

 それが誰に対しての笑いだったのかは定かではない。

「…あ、あんたはそれでも校長か!?」

「生徒が、俺達がどうなってもいいってのか!?」

 抗議の声を上げる狼人の二人。

「…そうか、あんた俺達を売るつもりだろ!!」

「俺達に全ての罪を着せて獣耳学園に申し開きをするつもりか!?」

「この卑怯者、俺達を売るなんて…国連の恩を忘れたか!?」

 ザワザワ…

 両陣営でざわめきが起こる。

 獣耳学園は怒りを感じてざわめく。

 そして、百獣学園もまた怒りを感じていた。

 彼等にしてみれば、大義は自分達にあると信じて戦ってきていたのに、蓋を開けてみれば何の事は無い、狼人の三人に騙されていたのだから。

 当然の如く、この時点で狼人達はこの場の全ての者を敵に回してしまった。

 だが、狼人のその一言でもっとも怒りを感じていたのは

「卑怯者だと…」

 ミシ…

 ルドルフの服が悲鳴を上げ

「よりによって卑怯者ときたか、くくく…」

 ミシミシ…

「自惚れるな小僧共ぉぉぉぉーーーーーっ!!」

 ビリィ!!

 間も無く、破れ飛んでしまう。

「このルドルフ、お前等のような下衆な若造に卑怯者呼ばわりされる所以は無い、いや、私利私欲のために権力を振るうお前達こそが卑怯者なのだ!!」

 ルドルフの怒号が校庭に響く。

 その怒りは最早殺意と呼んで良いほどの迫力があった。

 ルドルフのその希薄の前に、狼人達は文字は違えどまるで負け犬のように縮こまってしまう。

 今にも、ルドルフが彼らを八つ裂きにせんとした時。

「ルドルフ、やはりお前は変わらんなぁ…」

 校庭に声が響く。

「特に、その後先考えず筋を通そうとする所がな」

「ジークフリート…」

 獣耳学園校長、ジークフリート。

 ハヤトや狼人達を挟んで、ルドルフと相対するように校庭に現れる。

「だが、それでは真に筋を通す事は出来まい」

「むぅ…」

「獣耳学園の生徒達、そして百獣学園の生徒達よ、聞くがいい」

 ルドルフの怒気の収まりを見計らい。

「合同体育祭、新たな次代を担う多種族複合学園どうしが何故相対せねばならないのか、今回の一連の騒動、それらは全てそこに居る狼人の三人が諸悪の根源である」

 校長が声を上げる。

「その者達は狼人族族長の血縁者、彼等は人族に負けたという些細な理由から不正なルートで国連にこの合同体育祭の開催を申し込み、我が者顔で権力を振いルールを改変した」

 たったそれだけの理由で?

 皆がそう思った。

「証拠は!!」

「そうだ、俺達がやったっていう証拠はあるのか!!」

 口々にそう喋る狼人。

 そう、そもそもこういった事態になったのは根源である出来事、ハヤトと狼人の三人の因縁を証明できなかったがため。

 すなわち、証拠が無かったから。

 それを知っている狼人にとってそれは最後の砦であった。

 だが

「無論、すでに用意している」

 対し、校長はニヤリと笑って数枚の写真と書類を取り出す。

「流石のワシも、調べるのに多少時間がかかってしまったがな…」

『あ…』

 文字通り、彼らにとって万策が尽きたのである。

「嘘詭弁を並び立て、両学園を巻き込んだ挙句の果てがこの様だ、その所業…実に許し難い!!」

 校長の言葉に皆心中で賛同する。

「よってここに、法と秩序に成り代わり、彼等に制裁を加えるものとする!!」

『なっ!?』

 その言葉を聞いて狼人の二人が青ざめる。

「…とは言え、まだ合同体育祭の競技中であったな、安心した前、我々は君達のような非道な事はせん、正々堂々競技で決着をつけようではないか…君達の選んだルールでな」

 ニヤリと笑う校長。

「では、後は任せたぞ、ハヤト君、ミア君、ケン君」

 ザッ…

「ち、何かおいしい所全部校長らに持ってかれちまったなぁ」

「ケン、ぼやかないぼやかない」

「ああ、俺達にはまだ見せ場があるじゃないか…」

 狼人の二人の前に立つハヤト、ミア、ケンの三人。

「…さてと」

「散々俺達を馬鹿にしてくれたな」

「もう、覚悟する必要もないよねー」

『あ、あぁぁ…』

 唸り声を上げる狼人達。

 その図は、ていのいいリンチであった。

 いざ、とばかりに競技が再開されようとしたが

「…と、俺としても言いたい所だが」

 ハヤトがそれを止める。

「この合同体育祭は両学園のやり取りに白黒つけるために行われたものだ、それがはっきりするまでは場が治まらない、…もし、お前達が全てを認め申し開きを望むなら、無用な争いを起こす必要もない」

 そう言って、狼人の答えを待つハヤト。

「わ、悪かった、俺達が悪かった!!」

「何でもするから許してくれ!!

 待つまでもなく、狼人は即答でそう答えを返した。

 敵ながら何とも情けない姿である。

「…と、言う訳です校長」

「うむ…」

 そう言い、ハヤトは場の指導権を校長に渡す。

「ルドルフ、お前も異論はあるまい」

「ああ…」

「よし…」

 大きく息を吸い。

「これをもって獣耳学園、百獣学園の合同体育祭を終了する、勝者は獣耳学園、以後、この経過・結果についての一切の争いを禁じるものとする!!」

 合同体育祭の終了を宣言した。



 終了宣言後、獣耳学園は生徒総出で勝利の歌を歌い踊り、宴会を開始した。

 もちろん、アルコールは抜きでではあるが。

 それに百獣学園の生徒達も加わって騒ぐ。

 当初は彼らも唖然としていたものの、一皮剥けば百獣学園の者達とて新しい国を作ろうとする獣耳学園の生徒達と同種のようなもの。

 昨日の敵は今日の友、もとい、今日の敵は今日の友、最後に至っては共通の敵を持った戦友。

 すぐに場は打ち解け、宴会はより一層の盛り上がりを見せた。

 そんな最中。

「ハヤト君…」

「…ルドルフ校長?」

 ルドルフは人知れずハヤトに話しかけていた。

「君には済まない事をした」

「何故貴方が謝るんですか?」

「私は彼らの横暴を学園のためと見て見ぬふりをした、その所業はとても胸を張れるものではない、本当に済まなかった」

 ルドルフはそう言って少し頭を下げる。

「…校長の言う通り、本当に筋を通そうとするんですね」

「それが出来なかったから、こうやって謝っているのだ」

 組織の長が一個人に頭を下げる。

 下手をすれば彼の威信が瓦解するであろう事のはずなのに、彼はそれをやってのけた。

 それが、本来当然の行為だからである。

「頭を上げてください、俺はあの連中が罰せられるだけでもう十分気が晴れましたから、それに最後の貴方の啖呵、胸がすっとしました」

「そう言ってもらえるとありがたい」

 ルドルフはハヤトにその言葉に答えるように頭を上げ、そう言葉を返す。

「種族や学園といった差を気にせずに、こうやって二つの学園が楽しく騒げる、それが見られただけで…俺は十分なんです」

 まだまだ両学園は宴会の真っ只中、しばらくは収まりそうに無い。

「これからも百獣学園を良い方向に率いて行って下さい、では失礼します」

 ハヤトはそう言って祭りの中へと姿を消す。

「これからも…か」

 その後姿を見送り、ルドルフがそうぼやく。

「ルドルフ…」

 そんなルドルフの前に校長が姿を現す。

「…ジークフリート」

「これからどうするつもりだ?」

「さて、どうしたものかな、ここまで騒ぎを大きくした挙句負けたのでは、国連が黙ってはいないだろう、事実上、学園はもう終わりだ」

 組織の長が責任を取るというのはよくある話。

 その組織がその後を存続できるかと問われれば、難しいものである。 

「大人しく、それに従うつもりか…お前が」

「ふ、まさか、そんな気はない」

 校長の言葉に笑い返すルドルフ。

「今回の一件で解った、俺にもまだ敵に立ち向かえる爪と牙がある、このまま大人しく国連に飼いならされ潰されるぐらいならば歯向かった方が数倍だ」

「そうか…」

「ただ…生徒達がどうなるのかが唯一の気がかりだ」

 経歴とは後々まで残るもの、百獣学園が無くなった後も生徒達にはその枷が重く圧し掛かり続けるであろう。

「心配無用」

「何?」

「百獣学園は潰れぬ、いや、生まれ変わるのだ、私立百獣学園としてな、ルドルフ、今からでも遅くはない、ワシの所へ来い、旅は道連れ世は情け、未来ある者達をむざむざ見捨てるわけにはいかぬ」

「…ずるいな、その言い方は」

 一度だけ苦笑し。

「それに俺の申し出を断ったくせに俺を誘うとはな、…解った、甘えさせてもらおう」

 そう答えを返す。

「また、お前とこうやって肩を並べられるとは思わなかったぞ」

「そうだな、アイが知れば驚きながら喜ぶだろう」

「アイ、彼女と会ったのか!?」

「そうか、お前は知らなかったな、ハヤト君は彼女の…」

 二人の溝、敵対していた間の時間が埋まるのに多少の時がかかったのは言うまでも無い。



 兎にも角にも、これにて獣耳学園と百獣学園の間で行われていた騒動は終わりを告げた。

 それはあたかも嵐の過ぎ去った後のように様々な問題を残していったが、皆歓喜の声を上げていた。

 勝利の先に待つもの、それは祭り。

 一時の宴会も悪くは無いが、それを前にしては流石に薄れる。

 体育祭とは対極に位置する祭り。

 文化祭である。

 体育祭は祭りというには競技といった戦いの側面が強い。

 それに対し、文化祭は各グループが創意工夫の末に編み出した出し物がメイン。

 獣耳学園の雰囲気を考えるならば、文化祭の方がよりしっくりくるであろう。

 つまり、獣耳学園が文化祭に求めるもの、それは、馬鹿騒ぎができる祭り…という意味である。

 すなわち、生徒達にとって体育祭の終わりとは、文化祭というお祭り騒ぎのはじまりを告げるものであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ