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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第03話「燃えろ、獣耳学園」
32/80

八時限目『魔術師ハヤト?』

 ~ 八時限目『魔術師ハヤト?』 ~


 昼。

「…普通だ」

「…普通ね」

 バスケットを開いて中を見たハヤトとミアの感想はそれだった。

「へぇ、おいしそうじゃない」

 横から、コゥが中を覗きこんでそう感想を言う。

「サンドイッチ各種に鶏の唐揚げ、フライドポテトにミルクティー、このままピクニックに行けそうね」

 続いてキユが品揃えを言うと同時にそう感想を述べる。

「…変だ」

「…変ね」

 対してハヤトとミアの感想はそれだった。

「二人とも、さっきからどうしたんだ?」

 この昼飯のどこが不服なんだ?

 そう疑問に思ったのか、ケンが率直に質問してくる。

「いや、俺が言うのも何だが、こうもまともな料理が出てくるとは思っていなかった」

「…お前の姉貴、料理下手なのか?」

 順当な質問を投げかけるケン。

「私が言うのも何だけど、多分勝てるわ」

 ケンの問いにミアがそう答える。

「…一体どういう料理だよ」

 ミアの料理の腕は知っている。

 包丁すらまともに扱えないおよそ料理とは無縁の腕前である。

「そうだな、例えるならば…錬金術」

 卑金属を貴金属の金に変えようとする化学技術。

 物質のみならず生物を融合させたり、さらには不老不死の仙薬を得ることができるとされ呪術的な側面を持つ。

 科学としては誤りであったが、多くの化学的知識が蓄積され、近代化学成立の基礎資料となったと言われている。

「姉上のそれはまさに新しい生命創造のように思える」

「…恐ろしく凄まじい料理だって事は解った」

 遠い目をしながらそう言うハヤトを見て、ケンはそう結論を出す。

「けど目の前のこれは普通よね」

 キユが再度バスケットの中身を確認するが、普通である。

「多分誰かに作ってもらったのを持ってきたんだろう」

 そう考えた方が自然だ。

「まぁ、心配はなさそうだし腹も減ってるからな、ありがたく頂くとしよう」

 ハヤトは目の前で一度手を合わせ、サンドイッチに手を伸ばす。

「ハヤトも午前中は大活躍だったもんねぇ」

「でもよ、何であんな変わった競技ばっかりエントリーしたんだ?」

 ミアとケンがそう立て続けに喋る。

 ケンとの二人三脚の後、ハヤトは障害物競走にパン食い競争と異色の競技ばかりをこなしていた。

「単純な身体能力を競う競技じゃ俺はみんなに勝てないからな、ある程度技術を必要とする競技を選んだんだ」

「ふーん、でも午後は団体競技ばっかりだから大丈夫だね」

 合同体育祭の運営上、個人競技と団体競技を別けて行った方が何かと事を進め易かった。

 それにこの合同体育祭にての個人競技の点数はそれ程高くなかった。

 双方共に多種族複合学園のため、結束力を求められる団体競技の方により高い点がつけられるのは当然だったと言えよう。

「今の所こっちが優勢、見た所向こうは今一つチームワークが取れてねぇみたいだし、このまま行けば楽勝だな」

「ああ…」

 ケンの言葉に若干不安が残るハヤト。

 確かに、このまま行けば獣耳学園は勝てるだろう。

 だが、向こうは無駄にプライド高く権力を持っている連中、このまま易々と終わらせてはくれないだろう。

 そのハヤトの不安はすぐに的中する事となる。

 ピーンポーンパーンポーン…

 学園内に放送音が鳴り響く。

『こちらは体育祭運営委員会です、午後のスケジュールを一部変更する事になりました、各クラスの代表者はすみやかに…』

 放送が何度か繰り返され、各クラスの委員長が呼び集められる。



 委員長が事の次第を各クラスに伝える頃には生徒達の間で波紋が広がりはじめていた。

 誰からとも言わず、何時の間にか校庭の一角に獣耳学園生徒達が集まっていた、そう、13クラスの下に。

「やっぱり、そうなるのか…」

 体育祭実行委員から伝えられた内容をコゥがハヤト達に説明する。

 それは午後行われるはずだった競技の大半が変更、特別ルールの名の下に即席の競技が作られる事だった。

「…こんなふざけた真似をしやがったのは、百獣学園の校長か?」

「多分、そうだろうな」

「汚ねぇ真似しやがる!!」

 怒りを露にしながらそう叫ぶケン。

 一方的で理不尽な変更、不満を感じない方がおかしいだろう。

「それで委員長、競技内容はもう発表されたのか?」

「いいえ、それも事前になってから発表されるそうよ」

「そうか…」

 おそらく、向こうではすでに発表されている。

 知らされている者達とそうでない者達の心構えの差は大きい。

「教えられているのは午後からの競技は3回行うと言う事、1つ目と2つ目は全員参加で3つ目は選抜メンバーでの競技になるらしいわ、後、少しの間だけだけど準備時間も与えられるみたい」

「…その各競技の点数も、発表されていない?」

「ええ…」

 それを聞いてハヤトは確信する。

「点が発表されてない、それって…」

 ミアがそう呟き、皆もすぐに気づきはじめる。

「多分、どっちが勝ったかで点が大きく変動するんだろうな」

 百獣学園が勝てば彼等には大きな得点が入り、獣耳学園が勝てば点は変動し小さな得点しか入らない。

「そして、たった一つの競技で勝敗が決まるような結果となる」

 現状で獣耳学園は百獣学園より得点が上。

 彼等が勝つためには高得点を取得しなければならない。

 初めから先方はそういう策を組んでいたのだろう。

 これでは競技とは名ばかりの一方的なサドンデス。

 以後、獣耳学園は一度の敗北も許されない。

「待てよ、こんなの俺等の校長が黙ってる訳ないだろ、向こうが一方的にそう事を進めているだけじゃねぇのか!?」

「確かにその可能性も考えられるが、俺が校長の立場なら百獣学園の申し出を受けるだろう」

「どうして?」

「一つに、今の獣耳学園の立場は弱い」

 そもそも訴えられている側である以上、多少融通が利かない面だって出てくる。

「そして、この合同体育祭は国連の管轄下で行われている、一度放送で流されたらそれは公的な事項として取り消す訳にはいかなくなる」

「国の言う事は絶対ってか…」

 国家権力の名の下に、黒が白になる事だってある。

「くそっ!!」

 そういうのが一等嫌いなケンはなおも怒りを募らせるが

「ケン、少し落ち着け、これは逆にチャンスでもある」

「チャンス?」

 この状況のどこが?。

 そう言葉を続けようとするケンだが、ハヤトは言葉を続ける。

「確かに、勝負だけで言えばこの状況は俺達にとって不利な状況だ、だが、向こうが先にそれだけ無茶な条件を出してきている以上、その条件を呑む代わりに後々こちらも無茶な条件を出せるようになる」

 目には目を歯には歯を、ケースバイケース、ハイリスクハイリターン、等価交換。

「校長がどういう条件を出すかは解らないが、おそらくこの勝負に獣耳学園が勝てば、俺達は今後百獣学園に対してあらゆる面で優位に立てるようになるはずだ」

 交換条件とはそういうものだ。

「…けど、勝てるのかよ、この状況で」

『……』

 ケンの言葉に皆が口を閉ざす。

 ハヤト達の話を周りで聞いていた者達までもが、同じように言葉を失う。

 午前中の勢いが嘘のように、生徒達の士気は落ちていっていた。

 沈黙する獣耳学園。

 その光景を前に、ハヤトは意を決した。

「勝てるさ…」

 沈黙をハヤトが打ち破る。

「普通に考えれば無茶な事ばっかりだ、不利な条件の方が多い、でも校長は俺達が勝てると思ったからこそ百獣学園の条件を呑んだ」

 誰かに話し掛けている訳ではない。

 みんなに向かって喋っている。

「俺達は校長に期待されている、何故なら、俺が転校してきた時も、夏の合宿の時も、俺達が力を合わせれば逆境を乗り切れる事を校長に証明してきたからだ」

 皆、息を呑む。

「校長は今まで俺達を守ろうとしてきてくれた、俺達はその校長の信頼に答えなくちゃいけない」

 口には出さないが、皆心の中でハヤトの言葉に頷いていた。

「負ければ獣耳学園は終わりだ、ここに居る誰もがそんな事望んではいない、みんな同じ思いのはずだ」

 何時の間にか、その場にいる全ての生徒がハヤトの一言一言を食い入るように聞いていた。

 皆が、ハヤトの言葉に引き付けられ、彼の次の言葉を待っていた。

「なら、俺達のやる事は決まっている…」

 一呼吸。

 僅かな間を置いた後、ハヤトは叫ぶ。

「力を合わせて百獣学園に勝つ、俺達の力であの思い上がった連中を倒すんだ!!」

『おおぉぉぉーーーー!!』

 打倒、百獣学園。

 その言葉をそれぞれの胸に抱き。

 獣耳学園の士気は再び強い盛り上がりを見せていた。



 一丸となっている生徒達を校長室より見渡すアイ。

「…心配無いみたいね」

「あれぐらいで折れるような柔な鍛え方はしとらんよ」

「よっぽど酷い目にあってきたのね、この学園の生徒達は」

 やれやれと言った感じでアイはそう苦笑する。

「だが、ルドルフのやり方は気に食わん」

「そうね、けど彼だけの判断じゃないみたい」

 彼はこんな回りくどいやり方しないもの。

 と付け加えるアイ。

「やはり国連か…」

「でしょうね、この学園といいハヤトの事といい、国連にとってはあまり印象が良くないんでしょう」

「ふぅ、連中のやり方も変わらんな」

 皮肉半分で溜息をつきながらそう言う校長。

「それで、どうするの?」

「どうするとは?」

「この一方的な要求にどうお礼をするのかよ」

「目の前の危機が去っていないのに先の話をするのは好かんな」

「…この学園は勝つわ」

「ほぅ」

 何故そう思う?。

 そう尋ねるよりも早くアイが言葉を続ける。

「目を見れば解る、あの子が本気になったんなら烏合の衆の百獣学園なんかに負けるもんですか」

 そう言いながら彼女は自信たっぷりに胸を張る。



 校庭の中央に大きく一本の白い線が引かれる。

 その線を隔て、獣耳学園の生徒と百獣学園の生徒が睨み合う。

「まずは騎馬戦か…」

 体育祭の団体競技としてこれ以上の代表競技は無いだろう。

 まして、今回の騎馬船は学園対抗。

 否応でも生徒達に熱が入る。

「確かに、これなら余程のチームワークが無い限りは技術的な面で差はでない」

 騎馬戦とは、3人が馬となり1人がその騎手となって、4人一組で騎馬を作り、相手の騎馬を倒す競技である。

 帽子又は鉢巻を奪うか、騎馬が崩れ、騎手が地面に立つと負けとなる。

 馬となる三人と騎手のチームワークが余程一致しない限り相手の帽子を奪うのは至難の技、そうなると騎馬と騎馬の単なる力押しの競技となってしまう。

『今回の騎馬戦は特別ルールとしてリーダーの騎馬を倒した学園を勝利とし、リーダー騎は赤い鉢巻を巻く事とします、他のルールは通常の騎馬戦と同様、鉢巻を奪われるか騎手が地面に立ってしまった場合、その騎馬のチームは戦線を離脱する』

 実行委員会からの放送を聞いて生徒達がハヤト達の下に集まってくる。

 すでに13クラスの面々が学園の中心として皆に認識されているようだ。

「身長が145cm以下の生徒は参加できないんだって」

 混戦が予想されるため身体的に一定基準を満たさない者は参加できない事となっている。

「そうか、じゃあキユやミユは今回不参加だな」

「まぁ、参加しても戦力にはなれそうにないしね」

 ハヤトの言葉にそう返すキユ。

「でも、私としては願ったり叶ったり、カメラマンとしてみんなの勇姿を記録するから、みんな頑張って」

 そっちの方が彼女らしいと皆苦笑する。

 キユも同様で、彼女は医療班として医療テントに在住する事となった。

「とは言っても145cm以下の生徒なんてあんまり居ない、獣耳学園の生徒を騎馬の数に換算すると大体90騎か」

「だな、基本的に向こうも同数だろうが、向こうは体格いいのばっかりだ」

 選抜された生徒が通う学園の強みと言う奴だろう。

 その事実を前に、獣耳学園の士気は下がるかと思われたが

「で、どうするよリーダー」

「だれがリーダーだよ、ケン」

「お前だよ、ってか、この状況でお前以外にこの学園をまとめられる奴がいるかっての」

 ケンのその言葉に皆周りで頷く。

「…ったく」

 そう悪態をつくハヤト。

 だが、その口元は笑っていた。

「お前の事だ、もう策を考えてるんじゃねぇか?」

「ああ、みんなが俺の指示に従って動いてくれるなら勝算はある、聞いてくれるか?」

 その言葉に反対する者は居ない。

 皆、ハヤトの言葉に従うつもりだった。



『これより、騎馬戦を開始します』

 パァン!!

 銃砲の音と共に、その戦いは開始された。

 高らかに鳴り響く音楽。

 迫り来る百獣学園の騎馬。

 そのどれもがまるで重戦車の如く、獣耳学園の陣営に一直線に突撃をかけてくる。

「はんっ、獣耳学園の連中なんざ相手じゃねぇぜ!!」

「叩き潰せぇ!!」

 その群れ群れからそんな怒声が飛んでくる。

 百獣学園の騎馬の士気も高いようだ。

 対して、獣耳学園の陣営は凹型に展開し始め、中央を下がらせていっていた。



「まずは敵を誘い込むんだ」

 地面に図を書きながらそう言うハヤト。

「おそらく、百獣学園はエリート意識と集団意識が重なり合い俺達をすぐに叩き潰せると思って一気に勝負をつけようと突撃してくる、加えて今回はリーダー騎をやれば終り、普通に考えればこの突撃は止められない」

 図に矢印を記し百獣学園と書く。

「だから、『俺達はその猛攻に耐えられない、だからリーダー騎を下がらせよう』、と見せかけて□型の陣形からこんな感じで凹型に陣形を取るんだ…」



 百獣学園の騎馬達は獣耳学園の陣形などお構いなしに、リーダー騎目掛けてその猛進を続ける

 百獣学園の騎馬の先頭と、凹型に窪んだ底に位置する獣耳学園の騎馬が接触しようとした時。

「…今だ!!」

 ズザァァ…

 獣耳学園は百獣学園の猛攻に対抗するどころか、凹型の窪みの所が切れたかのように左右に分かれ始める。

 通常、集団戦闘で戦力を二分するのは戦力分散の愚を冒す行為。

 学園祭でこのような動きが取られるなど思いもよらなかっただろう。

 意表を突かれた百獣学園は咄嗟の出来事に反応出来ず、分かれた獣耳学園の陣中深くに入り込んでしまう。

 騎馬戦において、即座に方向転換をするというのは非常に困難な芸当。

 まして、百獣学園は全体で突撃をかけてきたため後方の騎馬には前方の状況が解らない。

 前衛が止ろうとすれば後衛が前衛を押す形となる、そのため急には止れなくなるのだ。

 中にはその際に後ろから押されて潰れる騎馬さえ出る始末。

 同時に、百獣学園の騎馬達に乱れが生じる。

 左右に分かれた獣耳学園のどちらに攻撃を仕掛けるべきか、騎馬一騎にしても3人の意思が揃わなければ行動できない。

 加えて混戦の中のため、左右のどちらにリーダー騎がいるのかが解らなくなってしまったのが更に騎馬達の動きを迷わす。

 そのため、百獣学園の混乱は明白であった。

 そして、獣耳学園は混乱している百獣学園を左右から挟み撃ちに…するのではなく、何と先程まで百獣学園の居た陣地へ逆走をはじめる。



「俺達はそのまま左右に分かれ、当初居た位置に数騎を囮として残して今度は相手の後ろに回り込もうとする」

 ハヤトはそう言いながら地面の図に手を加える。

 図上では数騎を元の場所に残し、左右に分かれた部隊が百獣学園の後ろでまた一つの部隊となる。

「この時、百獣学園は少なからず混乱しているはずだ、おそらく前衛と後衛の間で状況の把握具合が違ってくる、前衛は左右に分かれた部隊のどちらかに攻撃するかで混乱、だが後衛はまだ全体が見渡せるため左右に分かれた俺達の部隊が見渡せる、そこで俺達は一気に敵の背後に回り込もうと逆走を始める、そうなると…」



「後ろだ、早く振り向け!!」

「リーダー騎を守れ!!」

 百獣学園はリーダー騎を守るため、後方にリーダー騎を構えさせていた。

 背後から攻撃されればリーダー騎が無防備になる。

 そのため、百獣学園の後衛を務めていた騎馬達はリーダー騎の後ろを固めようと移動を始める。

 混乱する前衛にはその行動を察知するだけの余裕は無かった。

 その混乱を更に煽るための囮が見事にその役目を果たしてくれたためだ。

 そして、百獣学園は二つに分断される事となる。



「これで一瞬でも戦力差は2対1」

 僅かな戦力を前衛と戦わて混乱させ、ほぼ無傷の部隊を後衛にぶつける。

 単純計算で80対45。

「2騎で1騎を攻めれば十分勝ち目はある、だが、確実に相手を倒すためにあえて…」



 獣耳学園の騎馬と百獣学園の騎馬がぶつかり合う。

 通常ならば押し負けているはずの獣耳学園の騎馬、だがぶつかり合う騎馬はどちらも壊れる事なく力を拮抗し合っている。



「俺達の騎馬を大型と小型の2種に別ける」

 メンバー配分を種族毎に分け、騎馬を作らせるハヤト。

 体格を統一するためだ。

「大型の騎馬が敵とぶつかりあっている間に機動力のある小型の騎馬が相手の鉢巻を取るんだ」

 それは小規模での挟み撃ち作戦。

「これは騎馬戦、だから必ずしも相手を倒して騎馬を崩す必要は無い、鉢巻を取れば勝ちなんだからな」

 それならば小型の騎馬の方が足回りも利くのでうってつけであった。



 策は功を奏した。

 ぶつかり合う百獣学園の騎馬はハヤトの策の前に次々と潰されていく。

 同時に、ハヤトは初期の陣形の際この策を用い、大型の騎馬を前衛に立たせて盾としていた。

 うまく回避できるようにするため、防御に徹した大型の騎馬で受け流していたのだ。

 そのため、百獣学園の初撃である突撃の際、多少のぶつかり合いはあったものの獣耳学園側の被害は0だった。



 そして、追い詰められる百獣学園リーダー騎。

「おい、早く下がらせろ!!」

「味方の方へ移動するんだ!!」

 前衛となってしまった後衛は、後衛となってしまった前衛の下へリーダー騎を移動させるべく、次々と獣耳学園へ向かっていく。

 そして、リーダー騎はその隙に移動を開始するが

 ザッ…

 ハヤトの策によって生まれた前衛と後衛の中間に生まれた空白の戦場。

 そこを移動しようとするリーダー騎の前に、獣耳学園の3騎の騎馬が立ちふさがる。

「待ってましたぁ!!」

 その内の一騎の騎手が威風堂々と腕を組み、高らかとそう声を上げながら立ち構える。

 額には赤い鉢巻が巻かれている、すなわち、獣耳学園リーダー騎。

 そしてそのリーダー騎の騎手こそ獣耳学園のヒロイン、猫人の少女、ミアだった。

「行くぞ!!」

『おうっ!!』

 騎馬の一角を担うハヤトの言葉に、ミア、ケン、コゥの三人がそう返事をする。



「これは賭けだ」

 前後を百獣学園の騎馬に囲まれた3騎の騎馬を地面に書くハヤト。

「少しでもタイミングが狂えばこの3騎は前後から挟撃されまたたくまにやられる、だが、うまくタイミングが合えば、敵のリーダー騎に対し一騎討ちを仕掛けることができる」

「…ハヤト」

「何だ?」

「ここでリーダー騎がリーダー騎に勝負を挑むのに意味はあるのか?」

 3騎の内の1騎にリーダー騎と書かれてた。

「大体3騎いるんだ一騎討ちじゃなくてもいいんじゃないか?」

「敵はリーダー騎目掛けてやってくる、そのためリーダー騎は隠さなくちゃならない、普通はそう考える、多分相手もそうだろう、つまりリーダー騎は奥に隠れていると思うのが普通な訳だ、そこで俺達のリーダー騎はあえて敵中に残しその心理の裏をかく、見つかる可能性は当然高い、だからリーダー騎以外の2騎はリーダー騎を隠すための役割を持たせ、相手のリーダー騎と一騎討ちになった時には前衛と後衛に特攻をかけてもらう」

 そうする事でリーダー騎同士の一騎討ちが更にやりやすくなる、と付け加えるハヤト。

「そして、リーダー騎の一騎討ちにもちゃんと理由がある」

「どんなだよ?」

「俺達なら、他の誰よりもうまく連携が取れるからだ」

 ニッと笑ってそう言うハヤト。

「そうさ、俺達なら…やれる!!」



 ダッ!!

「チャンスは一度だ、ミア、決めろよ!!」

「うん!!」

 敵リーダー騎に向かって突撃をかけるハヤト達。

 その加速は異常だった。

 まるで車が壁に突撃するように、止る気配すらなく真っ直ぐに走っていた。

 その時の百獣学園リーダー騎の騎手の心境は察するに余りあるだろう。

 敵リーダー騎が目の前に現れ、リーダー騎が狙われているだけでも動揺しているのに、本来護りを固めるべきリーダー騎がそんな無謀ともいえる特攻を仕掛けてきている。

 余りにもクレイジーすぎる行動である。

 だが、その策は功を奏し、百獣学園リーダー騎の動きは一瞬止まった。

 そして、いよいよ互いの騎馬がぶつかり合おうとした瞬間。

「…今だ!!」

 ハヤトのその合図を受け、右翼後方を支えていたコゥが騎馬から手を離す。

 同様に、左翼後方を支えていたハヤトも騎馬から手を離した。

 一人、先頭のケンがミアを肩車、いや、肩に立たせながら敵騎馬に走っていく。

 そのあまりに異常な行動に敵リーダー騎の騎馬は動揺のピークを迎え、防御すらできず

 ドンッ!!

 ケンの体当たりをまともに受ける事となる。

 グラッ…

 体格の良い者を集めて作られた騎馬とて、その衝撃には耐え切れなかった。

 騎馬が揺れ、騎手が不安定にぐらつく。

 無論、自分達がそのような状態なのだから相手の騎手は地面に落ちているだろう。

 そう考えた矢先。

「もらった!!」

 頭上からそんな声が聞こえ。

 バッ!!

 頭に巻いていた鉢巻を取られてしまう。

 突然の出来事に何が起こったのか理解できない百獣学園騎手。

 ミアは激突の瞬間、ケンを踏み台にしてジャンプしていたのだ。

 猫人ならではと言えよう奇跡的なバランスから生み出される跳躍。

 完全に意表をつかれた敵騎手は抵抗すら出来ず鉢巻を取られてしまう事となる。

 そして、ミアの体はそのまま敵リーダー騎の後ろで地面に着地されるかと思われたが

「委員長!!」

「大丈夫!!」

 ガッ…

 互いに肩に手を当て、少し前かがみになりながら力を込め、台を作るハヤトとコゥ。

 そこにミアの体が

 グッ…

 見事着地を果たす。

 そのままミアは二人の上に立ち上がって振り向き、手に持っている敵の赤い鉢巻を掲げ

「敵将、討ち取ったりぃぃぃーーー!!」

 大きな声を上げて、勝敗が決した事を両陣営に告げる。

『おおおぉぉぉーーーーー!!』

 同時に、獣耳学園の各騎手から歓声が上がった。

 獣耳学園の損傷9騎、百獣学園の損傷13騎。

 双方共に全体の1割程度の損傷騎数であったためか、それとも電光石火の作戦であったためか、その負傷者数は当初予定されていたより遥かに少なかった。

 これは合同体育祭と称される学園の戦いにおいては奇跡的であったのかもしれない。



「…ふぅ、とりあえずは一勝だな」

 競技の合間の時間を使って休憩するハヤト達。

「いやぁ凄かったよ、遠くからずっと見てたけどまるで魔法みたいに騎馬が動いていくんだもん」

 遠巻きに一部始終を見ていたキユがそう感想を述べる。

 おそらく彼女自慢のカメラが影で大活躍していた事だろう。

「ったく、よくもまぁあんな策考えつくもんだ、おまけに成功するなんて今でも信じられねぇぜ」

 おそらくは誉めているのだろう。

 聞き方によっては皮肉とも取られるかもしれないが、ケンはこう言った言い方しかできないのは皆の知る所であった。

「みんな、お疲れ様…」

 小さい声ではあったが、皆に聞こえるようにそう言うミユ。

 彼女のその労いの一言で皆の殺伐としていた気が少し緩んだかのように思えた。

「さて、次はどんな手で来るかな?」

 話を次へ、とケンがそう声を上げる。

「今委員長が聞きに行ってるけど、百獣学園側も流石にチームワークでは俺達に勝てないと解っただろ、そうなると次は出来るだけ身体能力だけで勝負できる競技を選んで来るはずだ」

「団体競技でチームワークを必要としない競技なんてあるのかな?」

 ミアのその一言に皆少し考え込む。

「そうだな、チームワークとかで考えるより、単純に身体能力を競うような競技を選んで来るんじゃないかと俺は思ってる」

「具体的には?」

「大玉転がし、玉入れ、綱引き、棒倒し、…えーっと、他に何かあったっけ?」

 ハヤトが指を折りながらそう数えていく。

「なるほど、確かに作戦とかあんまり立てれそうにないのばっかりだな、…連中がいかにも選びそうだぜ」

 ケンが吐き捨てるにそう言う。

「ケンはよっぽど百獣学園が嫌いなんだな」

「この状況で好きになれるかっての」

「言えてる…」

 獣耳学園と百獣学園の溝は深い。

 おそらくこの体育祭が終わり、獣耳学園が勝って優位に立てたとしても、その溝が埋まる事はないだろう。

 それは、多種族複合学園として間違った姿なのではないだろうか。

 その辺り、校長達はどう思っているのだろう。

 そう聞きたいところだが、今は目前の危機を回避しなくてはならない。

「みんなー、お待たせー」

 皆の会話が止っている所にコゥがやってくる。

「どうだった?」

「次は綱引きだそうよ」

「…予想通りって所か」

 ハヤトのその言葉に皆嫌そうな顔をして頷く。

「それで、今回は一体どんな特別ルールが用意されてるんだ?」

 ケンが嫌そうな顔をしながらコゥにそう聞く。

「それが、今回は特に何も無いみたいなの」

「え?」

「参加人数が決められているだけで、他はこれとって何も言わなかったわ」

「参加人数か…、何人までだ?」

「30人ですって」

「今度はそう来たか…」

 コゥのその言葉を聞いてハヤトは溜息混じりでそう声を出す。。

「人数が少なくなればそれだけ個人の能力が問われる、特に綱引きは力が最も強調される競技、おそらく騎馬戦を教訓に少数対少数で小細工出来ないようにするって魂胆だろうな」

「で、どうするよ、リーダー?」

 ケンがハヤトにそう尋ねる。

 別に皮肉ではない、ここまでくればそれはある種のけじめや儀式のようなもので、これから競技に挑む姿勢の現れであった。

「まずはメンバーの選抜だな、力自慢の奴を寄せ集めよう」

「今回は騎馬戦の時よりも前時間があるわ、選抜に時間がかかるだろうって」

「け、解ってやってるくせによ…」

 コゥの言葉にケンはそう悪態をつく。

「兎に角、その間に何か策を考えないとな…」

 そう言って考え込むハヤト。

「(綱引きの基本は重心を相手より低くし、上から下に引くような感じで引く、その際のタイミングやリズムが一致すれば多少力で劣っていても勝てる、問題はそのタイミングやリズムをどう取るか…)」

 何か合図を取れそうなもので、尚且つ皆の意識を共有でき、それらを相乗効果で発揮できるもの。

「ハヤト君、とりあえず身長や体重から力ありそうな人達のリスト作ってみたけど」

「ああ、すぐ見るよ」

 コゥよりそのリストを受け取り、目を通すハヤト。

「…随分種族が偏ったな」

 リストに載っていたのは、熊人や馬人と言った体格が良く身体的に能力の高い者達であった。

「何のための多種族複合学園なのやら」

 おそらく百獣学園も同じような種族ばかりなのであろう。

「仕方ないよ、どう考えたって力が強い人ってそうなっちゃうもん、熊人は腕力強いし、馬人は脚力が強い、こればっかりは種族の差だからねぇ、あー、後男子ばっかりってのも仕方ないよね」

 ミアが後ろからリストを覗き込みそう言う。

「…それだ!!」

「ひゃぁ!?」

 ハヤトは立ち上がりそう大きな声を上げる。

 背後に居たミアはバランスを崩し尻餅をつく。

「あ、悪い…」

 倒れるミアの方に振り返るハヤト。

「…これだ!!」

「…はい?」



『これより、綱引きを開始しますので、両学園とも位置についてください』

 校庭の中央、一本の大きな綱の両端に互いの学園から選抜されたメンバーが並ぶ。

 その誰もが力自慢と言えるような体格をしていた。

 両学園共に主メンバーは熊人と馬人、若干牛人等も混じってはいるが、やはり種族の偏りは著しい。

 加えて双方のメンバー全員が男子であった。

『負けるなよぉ!!』

『獣耳学園の連中なんか一気に蹴散らせぇ!!』

 綱引きと言う事も相成って、両学園の代表応援団の参加も許可されていた。

 負けた後の二戦目と言う事もあってか、百獣学園の応援にも熱が入っている。

 まるで罵声のように飛び交う応援の声。

 それに対して。

 ザッ…。

『負けるな、獣耳学園っ!!』

 現れたのは獣耳学園応援団。

 その中から一人の猫人が前にである。

 頭には勝利の文字が書かれた鉢巻を、手には獣耳学園の旗、そしてその体には学ランを着て。

 その姿はどこからどう見ても応援団長。

 その名も応援団長猫人ミア。

「野郎どもー、負けたら私が承知しないぞー!!」

『おおおぉぉぉーーーーー!!』

 彼女のその一声に、綱引きメンバーの雄たけびが上がる。

 メンバーの戦意は見るからに上昇していっていた。



 流石に力勝負とあってハヤトとケンの二人は綱引きに参加する事が出来なかった。

 そんな二人は事の成り行きを各自の席で見守っていたのだが

「…ハヤト」

 応援団の登場を見た後、隣で頭を抱え込み苦悩するケン。

「何だよ、ケン」

 それに対してハヤトはあっさりとした表情をしていた。

「…いや、もうどうでもいいわ」

「言いたい事があるならはっきり言っといた方がいいぞ」

 何時もと逆の立場である。

「なら言うが、あれは何だ?」

「見れば解るだろ、応援団だ」

「何で女ばっかなんだよ?」

 見れば応援団員は全員女子だった。

「綱引きのメンバーが男ばっかりだったからな、そっちの方がみんな頑張るだろ」

「何で体操服の上に学ランなんだよ?」

 見れば応援団員は全員体操服の上に学ランを羽織っているだけだった。

「時代のニーズだ、そっちの方がみんな喜ぶ」

「何でミアだけじゃなくコゥやキユまで参加してるんだ!?」

 見れば応援団員の中にはミアだけでなくコゥやキユの姿もあった。

「ミアの人気は学園一だ、それに加えてコゥやキユが参加すれば皆様の様々な好みに対応できるだろ」

「てめぇは…」

 更に頭を抱え込むケン。

「何だ、委員長をみんなに見られるのがそんなに嫌なのか?」

「違う!!」

「じゃあ問題ないだろ」

 どうやら、言葉でケンに勝ち目は無かったようだ。



「男って…」

「…馬鹿よねぇ」

 応援団員の二人、コゥとキユが盛り上がる綱引きメンバーを前にしてそう率直な感想を言う。

「でも結構楽しいよこれ」

 旗を大きく振りながらミアは声を出し続ける。

 その様は並みの応援団長以上だった。

「適材適所とはまさしくこの事ね」

「にしたって、何で私まで…」

 ミアやコゥならば男が喜ぶのも解るが、何故自分がと言った顔をするキユ。

「私は写真撮ってたかったのに…」

 どうやらそっちの方が本音のようだ。

「それ言うなら私だってそうよ、こういうのあんまり好きじゃないし…」

 同じようにコゥもあまり乗り気ではないようだ。

 委員長と言う立場ではあるものの、彼女はあまり目立つ行為が好きではない。

『…はぁ』

 二人揃って少し溜息をつく。

 そんな当人達の預かり知らぬ所ではあるが、13クラスの女子の人気は高かった。

 獣耳学園男子一同にとってそれはまるで高嶺の花如く、触れる事すら恐れ多い物であった。

 そういう意味ではハヤトやケンは男子一同から少なからず恨みを買っているわけだが、今や13クラスは特別な存在、半ば例外として考えられる方向になっていた。

 ちなみに、ハヤトやケンも密かに女子一同の人気を集めていた。

 持ち前の指導力と知性、口では不平不満ばかりを言っているがやる時はやるハヤト。

 少し粗雑で野性味溢れる印象があるが、その実はその身を呈して仲間を守る程に仲間思いのケン。

 そんな二人がタッグを組む時、色々な意味で学園中の女子の人気を集めるのであった。

 兎にも角にも、13クラスの人気は高い。

 そのメンバーを応援団に入れて応援に参加させるというハヤトの策は多いに大成功だったと言えよう。

『おおおぉぉーーー、やるぞおぉぉーーーー!!』

 綱引きメンバーの気合は最早頂点に達し、そのまま突き抜けそうな勢いだ。

「ミユが参加してたら間違い無く気を失ってるわね、これは…」

 応援団のメンバーから外させて正解だったと思うキユ。

「まぁ、ここまで来たら私達もやるっきゃないでしょ」

 覚悟を決めろ、と言わんばかりに鉢巻をキユに渡すコゥ。

「くー、もうこうなったらヤケよ!!」

 ギュ…

 その鉢巻を頭に強く巻き

「あんた達ー、これで負けたら承知しないからねー!!」

 その小さな体で大きな声を上げるキユ。

「みなさん、頑張ってくださいねー!!」

 大してマイペースにそう声を上げるコゥ。

 まぁ、この辺りが人気の秘密なのは言うまでも無いだろう。



「…ケン」

「何だ?」

「お前、何やってんだ?」

「見れば解るだろ、写真撮ってんだよ」

 先程とまったく逆のやり取りが行われていた。

 ケンのその手にはキユが何度か使っていたカメラが握られていた。

「丁度いい具合にポラロイドカメラがあったんでな」

 ポラロイドカメラ。

 その場で写真が出るため、即席で写真を現像したい時に重宝される。

 ネガを使わないため一枚だけしか出ないのがメリットでありデメリット、証拠を残したくない時には便利だ。

「ばれたら後でキユに殺されるぞ」

 カメラは彼女にとって命の何番目か後に大事な品。

 それを勝手に使ったとあっては後で何をされるか解ったものではない。

「リスクは承知の上だ、けどこんなチャンスが他にあるか」

 何時もは一方的に女性陣に遊ばれるケン。

 それは、彼が女性に手を上げられないという致命的な弱点に起因していた。

 よって、現状において彼の女性陣に対する防衛手段は言葉のみ。

 それすらも大抵の場合は打ちのめされてしまうので意味がない。

 だが、今回のミッションが成功すれば状況は大きく好転する。

 目の前で綱引きメンバーにアピールするようにまるで踊るように応援をする女性陣。

 場のノリでテンションが上がっているからこそ、あのような立ち振る舞いができるのだろうが、後日我に返った時にその姿を突きつけられれば恥ずかしいの一言のみ。

 つまり今この場を写真に収める事ができれば、彼にとって後々の切り札になることは間違いない。

「っつーわけで、俺はちょっとカメラマンになってくる、もしもの時のアリバイよろしく」

「解った解った、行って来い」

 ハヤトの協力の了承を得たケンは、応援団を取り囲む野次馬の中へと消えていく。

「やれやれ…」



『それでは、綱引きを開始します』

 パァン!!

 校庭に銃砲の音が響く。

『おぉぉぉーーーーー!!』

 両学園共、綱を自軍の方へ手繰り寄せようと力を込め一気に引っ張る。

 ズザァァ!!

 その力が一瞬均衡する。

 ここで百獣学園は一つの大きな誤算をしていた。

 確かに、少数同士の戦いで獣耳学園は先の戦い程に策を講じる事ができなかった。

 そうなると力で勝る百獣学園が勝てる。

 そう彼等は考えていた。

 だが、実際は違う。

 少数精鋭同士の戦いというのは両者のマックス同士の戦い。

 アベレージにおいて獣耳学園は百獣学園に勝てないかもしれないが、それは決してマックスが低い事に直結はしないのだ。

 つまり…。

 ズ、ザ、ズザザ…。

 少しづつ、獣耳学園は競り勝っていっていた。

「いいぞー、そのまま押し切れー!!」

『おおおおぉぉぉーーーーー!!』

 ミアの声援に綱引きメンバーは更に気合を込める。

 単純に、獣耳学園の力自慢達は百獣学園の力自慢達より力が強かったのだ。

 加えて午前中の体力の消耗度合い、応援団の音頭によるリズムの統一。

 そしてもっとも重要だったのがバランスの統一。

 種族によって得意分野が違うのは当然である。

 熊人は腕力が強い、馬人は脚力が強い、そのため綱を引くだけでも力の込められ方、加え方が違ってくる。

 大局から見れば微妙な違いだが、それらをうまく分散させる事によって僅かながらに効率が上がっていた。

 それらが、今回ハヤトが立てた作戦であった。

 結果。

 ズザザァァ…、カランカラン。

 中央に立てられた勝敗を決する旗が獣耳学園側に倒れ、勝負は驚くほどあっさりとつくことになる。

『わああぁぁぁーーーーーーー!!』

 勝敗が決すると同時に獣耳学園側は歓声で沸いた。



 これにより獣耳学園は、獣耳学園と百獣学園の命運を賭けた最後の一戦を迎える事となる。

 内部的に見れば、獣耳学園が一方的に攻められているように見えるこの合同学園祭。

 だが、その実態は違う。

 何故なら、これは表向きに見れば公立と私立の多種族複合学園の戦い。

 極端な話、国と個人の戦いである。

 百獣学園の負け、それが何を意味するのか。

 多種族複合学園は次代を担う若者達を育成するための学園。

 だが、普通に考えてみれば誰がそのような試験的なプロジェクトに参加しようか。

 現状、多種族複合学園は国際連盟が総力を上げてバックアップをしているからこそ成り立つ学園なのだ。

 すなわち、ここで百獣学園が負ければ、一個人に国が負けた事になり国の面目は丸潰れ。

 そうなれば国は事実の隠蔽のために百獣学園の存在を消去もしくは縮小させるだろう。

 仕掛けていたはずの百獣学園は一転して危機に立たされるのだ。

 百獣学園にとっても次の戦いが命運を賭けたものとなる。

 まさに、獣耳学園と百獣学園の命運を賭けた最後の一戦となるのだ。

 だが、その事実を知る者はまだ少ない。


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