六時限目『獣耳学園からの挑戦状』
~ 六時限目『獣耳学園からの挑戦状』 ~
週の初めの月曜日。
時刻は朝、獣耳学園には今日も生徒が登校してきていた。
無論、13クラスの面々も1時間目の授業を受けるべく、すでに教室に登校してきていた。
だが、その中にハヤトの姿は無く。
『……』
教室内には何とも言いがたい雰囲気が漂っていた。
「(…何なんだよ、この重い空気は)」
ケンは机に突っ伏しながら周囲の様子を見計らっていた。
この時間の学園であれば生徒の話声が教室中に木霊していてもおかしくはないはず、それなのに13クラスの教室には重い沈黙が流れていた。
その発生源は主にミアとキユであった。
「(…やっぱ、ハヤトが原因か?)」
ケンは詳しい事情を知らない。
そんな彼が唯一知っている事は、二人が休日にハヤトの事を調べようとしていたと言う事、そしてキユはそこで何かを見たと言う事のみ。
それだけでも、ハヤトが原因だと考えるのが自然と言うものだ。
原因が解っているのなら聞けばいいじゃないかと思うかもしれないが、ケンはハヤトに対する調査を反対していた。
そんな自称不良の彼が二人にその事を聞けるはずも無く、コゥやミユも同様で、現状を打開できる者がこの場には誰も居ないのであった。
その原因を作ったであろう人物だけが状況を変える事ができたかもしれないが
「(ハヤトは来てねぇし、教師連中は何か朝から職員会議なんて始めちまって自習になるし…)」
1時間目が間近だというのに教師が教室に現れないのはそのためだった。
沈黙が尚更重く感じるのは、1時間目が終わるまでこの沈黙に耐え続けなければならないと言う事実が目前にあったからだ。
「(せめてハヤトの奴が遅刻でも何でもいいからこの教室に現れてくれりゃーなぁ…)」
などと、愚痴っぽくケンがそんな事を考えていると
ガラガラ…
教室の戸が開かれ、ハヤトが教室に入ってくる。
噂をすれば何とやら、なのだろうか。
この場合意味は違うだろうが、兎にも角にもケンの願い通りハヤトが現れた。
『……』
全員の視線がハヤトに注がれる。
一瞬、意表を突かれたのか後ずさりしそうになるハヤトだが
「…おはよう」
そう小さく挨拶をして自分の席に座る。
『……』
再び、沈黙する教室。
「(状況が少しも変わってねぇ…)」
ハヤトが現れてもミアとキユは何の行動も起こさなかった。
何も言わず、視線すら合わせずにただ沈黙を保っている。
どうやらケンの読みは甘かったようだ。
そして、更にその読みが甘かった事を証明する出来事が起こる。
ガタ…
兎人の双子の片割れ、ミユが席を立ったのだ。
『!?』
これには流石に教室の中の重い空気が揺らいだ。
学園設立以来、自習とは言え授業中に彼女が立ち上がる所を見た事が無いからである。
それ以前に、彼女が自発的に何か行動を起こそうとしている事が衝撃的でもあった。
スタスタ…
彼女は一直線に歩いていく。
ハヤトの元へ。
「ハ、ハヤト君…」
ハヤトの前に立ち止まり、小さな声を上げるミユ。
「土曜日は…ありがとう、助けてくれて…」
言葉を続けていくミユ。
「その…、ずっと言えなかったから…」
どうやらあの後その事をずっと気にしていたようだ。
ミユの言動からその事が良く伝わってくるようだった。
「いや、気にしなくていいよ、それよりあの後ちゃんと逃げれたんだな、良かった、少し心配してたんだ」
先程までの無表情はどこへやら、にこやかにミユに笑いかけ、そう話すハヤト。
ピクッ…
その言葉に反応したのはミアの方だった。
「ふーん、ハヤトってミユちゃんにはすっごく優しいんだねー」
いつも聞きなれているはずの言葉、だが今回のそれには明らかに刺が付いていた。
「女の子なら誰でも助けてあげるのぉ?」
端から見ていても絶対零度を思わせるような声である。
「…当然の事をしたまでだ」
対して、先程までの笑顔は何処へやら、ミアの言葉に返事はするものの、その言葉にはどこか冷たいものが感じられた。
「あっそ…」
ミアも負けずと素っ気無く冷たい返事を返す。
その中間にいるミユの顔がみるみる泣き崩れていくのが解った。
『……』
互いに睨み合う。
間にいるミユはどうしようかとオロオロと右往左往している。
「…そ、そう言えば今日は遅刻してきたみたいだったけど、何かあったの?」
見かねたのか、それとも委員長の勤めだったのか、コゥは場を少しでも緩和させようと思い、ハヤトにそう尋ねる。
元々13クラスの面々はあまり欠席をしない。
先週のハヤトの無断欠席があれだけ波紋を呼んだのはそのせいでもあるし、自称不良のケンでさえ入学以来欠席は無く、ハヤトが遅刻する事も今まで無かった。
場の流れを変え、ハヤトの事情も聞ける一石二鳥の問いであったはずだったのだが
「委員長には関係無い」
カチンッ!!
「ハヤトっ!!」
ハヤトのその一言でカッとなったのは、コゥではなくミアの方だった。
「皮肉言ってるならともかく、心配してくれた人にどうしてそういう言い方するのよ!!」
その一言にハヤトの表情が少し歪む。
「うるさいな…」
僅かに、言葉が先程までのトーンと違う感じを放っていた。
「誰も心配してくれなんて言ってないだろ」
ガタッ!!
ミアは椅子から乱暴に立ち上がり
「何なのその言い方!!」
今にもハヤトに襲い掛かりそうな怒気を見せる。
だが
「駄目、ミアちゃん!!」
ダッ!!
そんなミアを止めに入ったのはキユであった。
「…キユちゃん?」
だがその止め方はおかしかった。
ハヤトとミアの間に割り込み、ハヤトに体を向けてミアを止めている。
通常、止めるというのは襲い掛かろうとしている人物に体を向けるものなのに、キユのそれは…ミアを庇うように止めに入っていた。
「…キユ?」
「……」
ハヤトとキユの視線が合う。
視線を逸らさず、ハヤトの動きに注意するように見つめるキユの瞳は、明らかな警戒心を見せていた。
「何だよ、その目は…」
その瞳を見て、ハヤトの表情が見る見る歪んでいく。
「何なんだよ!!」
教室にそんな怒声が響く。
「そんな目で俺を見るな!!」
『……』
ハヤトらしくない。
皆、彼を見ながらそう思った。
「冗談じゃない、俺が一体何をしたってんだ!!」
一方的にハヤトが叫び、喚いている。
まるで子供が駄々をこねるように、あのハヤトが取り乱している。
そのあまりの光景に一同は反応できずにいたが
「何で、いつもいつも俺ばっかりがこんな目に会わなくちゃ…な、ぐ…、ぅっ!!」
ハヤトの様子が急変する。
「な…ん、で…」
ズッ…
胸の辺りを抑え、床に倒れこむ。
「ハヤト!?」
ミアのその声と共に場の重い空気が一気に解き放たれ、空気が緊迫する。
明らかにハヤトのその倒れ方は不自然だった。
「おい、ハヤト、どうした!?」
ガタガタ…
机を押しのけ、ケンが真っ先にハヤトの元へ駆けつける。
「ち、おい、何かヤベェぞ!!」
彼に医学の心得は無いが、ハヤトの状態が普通ではない事ぐらいすぐに解る。
「キユ、保健室の先生呼んで来い!!」
「うん!!」
キユはそう言われるとすぐに教室から飛び出していく。
「ぐ…ぅぁ…」
ハヤトの顔に汗がにじみ出てきている。
その苦しみ方は半端ではなかった。
見る見る顔色までも悪くなっていく。
「くそっ、おい、ハヤト!!」
着ていた制服を床に敷き、そこにハヤトを寝かせるケン。
その様子を何も出来ず、心配そうに見守るミユとコゥ。
そんな中、ミアは…
「…そうだっ!!」
ガサガサ!!
何かを思いついたのか、ハヤトの鞄に手を伸ばし乱暴に引っくり返す。
「(ハヤトの事だからきっと…、お願い、見つかって…)」
引っくり返され、床に巻き散らかされた物を一つ一つ見ていくミア。
「…あった!!」
その中から見覚えのある一つの瓶を手に取るミア。
彼女が探していたのはこれだった。
ハヤトが姉から受け取っていた薬瓶。
幸か不幸か、土曜日のあの日にハヤトの家に言った事は無駄ではなかった。
まさに不幸中の幸いである。
「ハヤト、これ飲んで!!」
瓶の蓋を開け、薬を一錠取り出すミア。
ケンと同じように医学の心得などない、よってこの薬の適量も解らない。
だが、一錠だけでも効果があるはず。
そんな素人考えであったが、何もしないよりかは遥かにいいはずだ。
「ハヤト!!」
だが、ハヤトの意識のほとんどがすでになく、ミアの声に反応すらしない。
「っ!!」
どうにかしなければ。
ミアは必死になって方法を考えた。
視界の端に、先程巻き散らかした品の一つが飛び込んでくる。
ガッ…
水筒だった。
ミアは蓋を開けると、迷う事なくその中身を自分の口に注ぎ込み、先程取り出した一錠の薬を口に咥え。
クッ…
ハヤトの口に押し当て、無理矢理自分の口の中の液体と共にハヤトの口の中へその薬を流し込む。
すると
…ゴクッ
確かに、ハヤトの喉が一唸りし、薬が通っていくのが解った。
「ぅ、く…」
効果が出るのは早かった。
ものの数分でハヤトの表情にある苦しみの色が消えていく。
ハヤトはそのまま意識を失ってしまい、一瞬、場に緊迫が走る。
だが、倒れるハヤトに呼吸の乱れは無く、それは穏やかな眠りだったと解ると皆安堵の声をもらす。
「…ふぅ、間一髪」
「はぁ、間一髪じゃねぇよ、ったく…」
同じように溜息をつき、ケンが近くの椅子に腰をかける。
「おい、一体何だったんだ?」
どうやら、自分達よりミアの方が事情に詳しいようだ。
状況が状況、目の前でいきなりあんな事になったのでは聞かずにはいられない。
「えっと…」
ミアはどう説明をしてよいのやらと少し困った顔をする。
倒れたハヤトを保健室に運び。
「…と言う事があったの」
ミアはハヤトの家であった事を皆に話す。
…最後のあの出来事だけは除いて。
「ハヤト君にお姉さんがいたとはねぇ…」
そう真っ先にリアクションを帰したのはキユだった。
流石と言うか何と言うか、あんな事があったにも関わらず今は興味津々でミアの話を聞いている。
「聞きしに勝る姉貴だな…」
対して、反対派であったはずのケンがそう声を上げる。
「あれ、ケンはハヤトにお姉さんがいる事知ってたの?」
「ああ、夏の合宿の時にそういう話題になってなよ…」
「…聞いた事なかったけどよ、お前の両親とかってどんな人なんだ?」
「…んー、あー、聞きたい?」
ケンの言葉に若干言いたくなさそうな雰囲気を出しながらそう答える。
「ああ、是非聞きたい」
そうやって焦らされたのでは聞きたくなるのは仕方が無い事。
「…えっと、父親は自称地上2番目に強い男、母親は獄炎の赤い魔女と呼ばれた女で、姉は48の殺人技と52の関節技をマスターした…」
なおもハヤトが突拍子もない説明を続けようとするが
「…よーするに教える気は無い訳か」
そこまで聞いたケンがそう結論づける。
「しかし、今姉っていったよな、姉弟がいたのか?」
「…ああ、言ったな」
「何か含みのある言い方だな」
「んー、まぁ…な」
「…言いたくないんだったらはじめからそう言えよ」
「うん、あんまり言いたくない」
ハヤトはきっぱりとそう答えた。
「そういうケンこそどうなんだよ」
「俺んちは普通だ、とは言っても犬人にしちゃ珍しい四人家族で、両親と俺、後は出来の良い妹が一人」
「それで、出来の良い妹と比較されるのが嫌だから、家出をするように学園の寮で一人暮らしを始めたと?」
「…良く解ったな」
「マジかよ…」
「まぁ、そんな感じの会話が…」
ケンはそう言って回想を終わろうとするが
「ふーん、ケンって自称不良の割に動機は結構不良っぽいんだね」
「でもお約束過ぎる展開じゃない?」
「何で俺の方にツッコミ入れてるんだよ!!」
ミアとキユの言葉にケンがツッコミを入れる。
「はいはい、三人共漫才は学園祭でやってちょうだい」
コゥがそう場をまとめようとする。
無論、ケンは「漫才じゃねぇ!!」と異論を述べるが速攻で却下された。
「まぁ、ハヤト君の家族に対する説明はあながち的外れな訳ではなさそうね」
「ハヤトがあそこまであっさりとやられ続けるの初めてみたよ」
コゥの意見にミアはそう答えを返す。
「…ねぇ、ミアちゃん」
「ん?」
キユが少し声のトーンを落としてミアにそう問い掛ける。
「そのお姉さんも人族だったのよね」
「うん、ハヤトと同じ日本人だって言ってたよ」
「ふーん、じゃあ、ハヤト君もそのお姉さんも同じような何かがあるのかな…」
「何、その同じような何かって?」
「あ、うん、実は…」
ミアの話を聞いたからだろうか、それとも自分だけ黙っているのは彼女の気質が許さなかったのか、キユは土曜日の出来事を話した。
話事態はそれ程長くなかった。
内容だけ言えば、ハヤトがたった一人で三人の不良を倒したというだけの話。
問題はその倒し方だった。
「手を触れただけで不良が倒れていった?」
「うん、こう、ハヤト君が腕を掴んだと思ったら次の瞬間には倒れてて」
キユは説明しようとジェスチャーを加えるが、自分でも解った、うまく伝えられていない。
「まるで魔法か超能力みたいだった…」
ならばそう形容するのが一番手っ取り早かった。
「…お前、そんな事であいつを見る目を変えたのか?」
ケンが「馬鹿馬鹿しい」と言った感じで、呆れ半分の言葉をキユにぶつける。
先程のハヤトを見るキユの目を、ケンも見ていた。
言葉にし辛いが、自分とは違う別の何かを見るようなそんな瞳だった。
「あの場を見てないケンには解らないのよ、私すごく怖かったんだから!!」
「怖い?」
「だって…」
その場を見ていない皆にはそのおかしさというのが解らなかったが、兎に角、キユにこれほどのショックを与える現場であったと言う事は解った。
「ったく、どいつもこいつも回りくどい事しやがって…」
ケンは苛々した感じでそう言葉を続ける。
「要するに、お前等のそう言った言動がこいつをここまで追い込んじまったんだろうが!!」
ケンはそう言ってベッドの上で眠るハヤトを指差す。
「見ろよ、今はぐっすり眠ってやがるがこうなったのは間違い無くお前等のせいなんだぞ」
「…うん、それは…反省してる」
キユは素直にそう謝る。
少なくとも、今回ハヤトが倒れたのは自分が彼を精神的に追い込んでしまったからに違いないからだ。
下手をすれば、そう、後一歩間違えば、ハヤトがどうなっていたか解らない。
最悪、命の保証すらなかったかも。
「ハヤトだって言いたくない事とかあるだろ、別にいいじゃねぇか、ハヤトが魔法使いなり超能力者だったりしても、こいつはこいつだ、掌返すように態度を変える必要なんてないだろうが、少なくとも、俺はこいつがどんな奴でも今更態度変える気ない」
『……』
「…な、何だよ?」
全員がケンを凝視する。
「いや、ケンってすごいね」
「うん、ハヤト君の事信頼しきってるって感じがする」
「んー、ちょっと妬けちゃうなぁ」
ミア、キユ、コゥがそう順番に言っていく。
「ち、俺は別に…そんな事…」
しどろもどろでそう言いながら、面白くなさそうな顔をしてそっぽを向くケン。
「…でも、ケンの言う通りだね、ミアちゃんじゃないけどハヤト君に直接聞いた方が効果ありそう、んー、だったら…」
心機一転、キユは独占取材とばかりに次の構想を練り始める。
「そういう所は懲りねぇんだな、お前は…」
「えー、いいじゃない、これが私の持ち味なんだから、そう思わない?」
「…ああ、OKだ、そっちの方が幾分ましだぜ」
キユはどうやら本来の調子を取り戻したようだが
「……」
一方、ミアの方は未だ暗い顔をしている。
「…ミアちゃん」
そんなミアにミユが話し掛ける。
「…何か、あったの?」
普段無口な分、彼女はその辺りの洞察力が人より優れているらしい。
「え、ううん、何でもないよ」
ミアはそう言って首を横に振るが、その挙動にいつもの彼女らしさが感じられない。
それは皆が感じていた事だった。
先程のハヤトとのやり取り、ミアが話した内容だけではとても説明ができない。
ミアは何かを隠している。
だが、それを追求できる者はいなかった。
よって、黙殺するしかないのである。
「ごめん、ちょっと席外すね…」
逃げるように。
そう言った方が正しいのだろうかは解らないが、ミアは保健室から出て行こうとするが
「く、うぅ…」
ハヤトの呻き声が聞こえる。
皆、彼が眠っているベッドの方に振り返る。
見ればハヤトは苦しそうな表情をしているではないか。
「ハヤト?」
薬が切れたのかだろうか。
ミアは真っ先にハヤトの元へ駆け寄り、彼の体に手を伸ばすが
「っ!!」
ミアが手を触れた瞬間、ハヤトの瞳が見開かれ。
「うっ、あ、ああああぁあぁぁぁーーーーーーー!!」
絶叫と共に彼は目を覚まし、ミアの手を振り解いた。
ガタ…
飛び起きた振動によりベッドが僅かに揺れ動く。
「はぁはぁはぁ…」
ハヤトは逃げるように隅に移動し、呼吸を乱していた。
顔中に汗を流し、脅え、逃げようとしている。
そこに、何時ものハヤトの面影はなかった。
「…ハヤト?」
「…え、ぁ、ミア?」
ようやく、我に返ったのか、周囲を見回すハヤト。
「ああ、そうか…、俺、また倒れたのか…」
うな垂れるように警戒を解いていくハヤト。
「ハヤト、お前大丈夫なのか?」
この場の代表として、まずケンはそれを確かめる。
「ああ、大丈夫だ…」
「そうか…」
そう答えるハヤトの顔色は先程より良くなっているし、雰囲気がいつものハヤトだ。
とりあえずの所は大丈夫だと解っただけで、場の雰囲気は多少好転する。
「……」
何時ものハヤトに戻った。
ミアはそれが何を意味するかを知っている。
彼の心が安定していればあの発作は起きない。
ならばと、ミアは気づかれぬよう再び保健室から出て行こうとするが
「待て、ミア…」
ハヤトに呼び止められる。
だが
「ハヤト…」
「ミア…」
二人の視線が交差する時、再び場の雰囲気が重たくなる。
『……』
同時に、場に沈黙が流れ始める。
「おいおい、二人共待てよ」
その沈黙をケンが打ち破った
「これじゃ今朝と同じ事の繰り返しだ」
ケンの意見は正しかった。
理由や原因は彼の知る所では無かったが、今のハヤトに心的圧力を加えるのはよくない。
空気が読めていないと言われ様が、また発作でハヤトが倒れるのだけは回避せねばと、ケンはあえて口を挟んだのだ。
「それにハヤト」
「何だ?」
「お前が倒れた時に薬を取り出してお前を助けたのはミアだ、覚えてないかもしれねぇが、まずは礼ぐらい言ったらどうだ」
ケンにそう言われ、ハヤトは改めてミアの方を見る。
「…あ、その、ミア、ありがとう…」
「ううん、私は…ハヤトが辛そうだったから…」
会話が続かない。
「た、大変だったのよ、ハヤト君気を失っててミアちゃんが口移しで飲ませて」
「そ、そうそう、本当に大変だったんだから」
コゥとキユがフォローするようにそう声を上げる。
普段の二人であるならば何らかのリアクションを返したであろうが
『……』
それは、逆効果としか言い様がなかった。
『……』
場に再び沈黙が流れる。
コンコン…
その時、保健室の出入り口付近でそうノックの音がする。
「…チタ先生?」
「見た所修羅場のようだが、…いいかな?」
そこに立っていたのはチタ先生だった。
「…どうぞ」
ハヤトはチタ先生にそう返事をする。
場の雰囲気はいつもと違えど、やはり、ハヤトが中心にいるのに変わりがなかった。
「今朝、緊急の職員会議があった事は皆知っているね」
チタ先生のその言葉に、皆頷く。
そのため授業は自習になり、色々あって現状に至ったのだ。
「実はかなりまずい事になっている」
「何かあったんですか?」
「獣耳学園が訴えられてるんだ」
『は?』
皆、虚を突かれたのか、そんな声を上げる。
「訴えてるのは百獣学園、公立の多種族複合学園だ」
多種族複合学園はまだその数が少なく、学園は世界各地にちらばるように設立されている。
まだテスト段階の試みであるため、無用のトラブルを避けるための配慮であった。
だが、この街は少々他所と事情が異なっていた。
公立の学園は世界各地にちらばるように設立されていたが、私立の学園、つまり獣耳学園はその事を考慮にいれられていなかった。
よってこの街には公立と私立、双方の多種族複合学園が存在するのである。
「罪状は傷害罪、獣耳学園の生徒が百獣学園の生徒に危害を加えたとの内容だ、…そして、先方は獣耳学園に通学している人族が犯人だと言ってきている」
「つまり俺を…ですか?」
「心当たりはあるかい?」
チタ先生のその言葉に、皆同じ事を思い浮かべる。
「…確かに、俺は土曜日に百獣学園の生徒かどうかはわかりませんが、狼人族の不良三人といざこざを起こしましたが、…向こうの代表者は?」
「百獣学園からと言う事になっているのでおそらく先方の校長と言う事になるだろう、まぁ、状況から考えてその三人が絡んでいるのは間違いなさそうだね」
「ちょ、ちょっと待てよおっさん」
そこまでハヤトとチタ先生の会話を聞いていたケンが異論を述べる。
「確かに異種族間での私闘は禁じられているけど、その場合は双方共に罰せられるのが当然だろ、何でこっちばっかが訴えられるんだよ」
「ケン君、先程も言ったが、獣耳学園は傷害罪で訴えられている」
「だから…」
「獣耳学園の人族の生徒が、まぁ、この場合ハヤト君が百獣学園の無抵抗の生徒に怪我を負わせたとね」
「なっ!!」
ケンはそのチタ先生の言葉を聞いて、驚愕の声を上げる。
ハヤトを除いて、皆同じような反応だった。
「要するに、向こうは私闘は行っていない、一方的に危害を加えられたと主張しているわけだ」
「んな馬鹿な話があるか!!」
ケンの怒声が保健室に木霊する。
「向こうが喧嘩売ってきたんだぜ、それなのに何で俺達が訴えられなきゃいけねぇんだよ、大体証拠がねぇだろうが!!」
「証拠はある」
チタ先生は踵を返すようにそう答える。
「…まぁ、決定的な証拠ではないがね、まず多くの目撃者がいる、その後に私闘が行われたかのどうかという証明にはならないが、この時点でその人族の生徒と三人の狼人族との関係は事実無根とはならない」
「だったら…」
「問題はその後だ、私も聞いた話なのだが、三人は路地裏で怪我をしている所を通行人に発見されている、一件の前後関係から何らかの争いがあった事もこれで否定のしようが無くなってしまった」
ケン達はその事を良く知っていた。
現場を目撃した後、ケン達は三人の命に別状が無い事を確認し、厄介事になる前にその場を後にしたのだ。
「裏目に出ちまったって訳か…」
苦い顔をするケン。
「でもよ、それだけならその人族がハヤトだって証拠はないだろ」
「証拠は確かにない…だが、目撃者の証言がある、その人族の少年は近くにいた兎人族の少女に『ハヤト君』と呼ばれていたそうだ」
ビクッ…
その言葉を聞いてミユが一瞬身を震わせる。
「…どうやら、証言は正しいようだね」
チタ先生はミユのその挙動を見逃さなかった。
ミユは泣きそうな顔になる。
何故なら、自分のせいでその人族の少年がハヤトだと特定されてしまったからだ。
「人族は数が少ない、名前と大よその年齢が解っただけで所在の確認はそれ程難しくない、こればっかりは目撃者が多すぎるため否定のしようがない」
「けどよ、目撃者がそれだけいたんなら事の成り行きだってはっきりするだろ、じゃあやっぱり私闘って事になるんじゃねぇのか?」
「ここまでなら確かに私闘ではないのかと反論できるのだが、ここからが問題だ、端的に言えば被害の違いと言う事になるのだが」
「被害の違い?」
「向こうは負傷者が三人、こっちは無傷、三対一でこの状況、これは喧嘩と呼べるものじゃなくて一方的に何らかの方法で危害を加えられたと判断すべきである、…と言うのが向こうの主張だ」
「そりゃ屁理屈だ!!」
「だが常識的に考えて、三対一で怪我を負わずに喧嘩で勝てる者がいるかね?」
「それは…」
ケンは返答に困る。
喧嘩は数だ。
幾ら個人の実力があってもそうそうその理論を覆せるはずがない。
例え覆せても、それが人の耳に入る時、その信憑性は低くなる。
「それで、獣耳学園は今どんな状態なんですか?」
黙り込むケンに代わり、今度は先程までずっと黙っていたハヤトが口を開く。
「とりあえず学園側は無罪を主張している、だがこちらには状況を覆せる証拠もないし、このままだと何れ正式に告訴される可能性が高い、そこで現在打開策を検討中、お陰で朝から職員会議だ」
私闘であれ傷害罪であれ、多種族複合学園において個人の罪は全体の罪となる。
それが共同意識を重要視するために各国が決めた国際法なのだ。
「もし、無罪を証明できなければ?」
「国際法に触れる事になり罪状が罪状のため、おそらく獣耳学園は多種族複合学園の資格を剥奪を要求される、要するに廃校だ、運が良くても数年間は学園としての機能を停止させられるだろう」
『っ!!』
その言葉に全員が息を呑む。
大事所ではない、全生徒、そして学園の命運がかかっている事になる。
「…なら、話は簡単ですね」
「ん?」
「俺を獣耳学園から追放すればいいんです」
『っ!?』
皆、驚きと共に目を見開く。
「獣耳学園に人族の生徒は居ない、そう言う事にすれば全て丸く収まります」
「何でそうなるんだよ!!」
「なるんだよ、ケン」
ケンの声にハヤトは答える。
「獣耳学園が訴えられたのは人族のせいだ、街中での些細な私闘に学園がここまで目くじらを立てるのは幾ら何でもおかしい、ならどうしてか、そこには公立の多種族複合学園の生徒が私立の多種族複合学園の生徒、しかも人族にやられたとあっては示しがつかないって意識が生まれるからだ、何と言っても公立の学園ってのは国が選んだエリートが通ってるらしいしな」
「そりゃお前の被害妄想だ…」
「それが違うんだ、人族ってのはそういう目で見られる種族なんだ」
少数種族、少数故に理解されがたく数の力に無力。
そこで生まれる差別。
数の差が種族の優劣の差の如く、「人族如き」と言われる事は珍しくなかった。
「…それに、丁度居辛くなっちまったからな」
苦笑するハヤト。
その表情の裏に隠された言葉に、誰も気づくはずが無かった。
「チタ先生、俺は転校してきましたから書類上のそういう修正が容易のはずです、ですから俺を…」
ハヤトは続けてチタ先生にそう提案しようとするが
スッ…
ハヤトとチタ先生の間にミアが割り込む。
「ミ…」
ハヤトが彼女の名を呼ぼうとするが
「っ!!」
パシィィン!!
その前に、ミアの強烈な張り手がハヤトの頬をはたく。
「どうしてハヤトはいつもそうなのよ!!」
怒声…なのだろうか。
声自体は大きかったものの、そこに怒りが含まれているかどうかは容易に判断できなかった。
「何でそう自分を犠牲にしたがるの!?」
「俺が居なくなれば全てが丸く収まるからだよ」
「違う、ハヤトは目の前の出来事をどうにかしようとしてるだけで、全てが丸く収まるなんてありえないんだから!!」
ミアはそう断言した。
「ここでハヤトが居なくなったって、百獣学園の苛立ちはなくならないし、後々で絶対火種になる、だったらハヤトが居なくなっても一緒だよ!!」
ミアの言葉は続く。
「少し考えれば解るじゃない!!」
「俺だって考えてるさ、考えてこの結論を出したんだよ!!」
ミアのその言葉に多少頭にきたのか、ハヤトはそう反発の声を上げる。
「いいか、現実問題で獣耳学園は危機的状況なんだ、この場をどうにかしないと明日にだって学園は潰れるかもしれない、だったら一人の生徒と学園の明日、どっちを選択するかなんて解り切ったことだろうが!!」
「またそれなの、一人か学園かって、そんなのどっちも選択できる訳無いじゃない!!」
「選ばなきゃいけないんだよ、そういう選択肢が生きてりゃ何回も出てくるんだ、いや、選択肢があるだけまだましって事もある!!」
「違うよ、選択肢なんて自分でそう可能性を限定してるだけで、ハヤトが転校してきた時だってハヤトが出した答え以外にも選択肢があったじゃない!!」
「じゃあ一体どうするんだよ、お前があの時余計な事をしなかったら今回の一件は無かった、結局は問題を先送りにしただけだろ!!」
「先送りにしちゃ悪いの、時間が経てば立場や気持ちだって変わるし、ハヤトの言う選択肢だって増えるかもしれないじゃない!!」
「その度にこうやって問題が起きてちゃ意味ないだろ、こう言ったややこしい事は一回だけでいいんだよ!!」
「一回だけでいいなんて思ってるのはハヤトだけでしょ、そうやって自分一人で何でも片付けようとするから駄目なんだよ!!」
「俺一人で解決できる問題ならそれでいいだろ、そもそも俺がいるからこんな事になったんだ、だったら俺が責任をとるのが筋ってもんだろうが!!」
「そんなの間違ってる、その理屈だと延々と同じ事の繰り返しで、そしたら初めからハヤトが居なければ良かったって事になるじゃない!!」
「そうさ、俺がいるせいで争いごとや人が不幸になるんだ、だったら俺なんて存在ははじめから居なかった方が良かったんだ、そんな事も解んないのか!!」
キッ!!
「ハヤトの馬鹿ぁぁっ!!」
そのハヤトの言葉を聞いてミアの目が鋭くなる。
「解ってないのは、ハヤトの方だよ…」
その拳は強く握られ、震えている。
「どうしてそんな事言えるの、どうして…」
「…そんなの、お前が一番解ってるだろ」
「違う…」
「俺は、俺のせいで知ってる奴が傷つくのは見たくないんだ、お前だって俺と出会わなかったら辛い思いせずに…」
「違うよ!!」
ミアの大きな声が保健室に木霊する。
何時ぞやのように、手が飛んでくるのではと身構えるハヤトだったが
「だって…、私はハヤトに出会えて良かったと思ってるもん!!」
「…ミア」
「そうだよ、出会えたんだよ、せっかく知り合えたのに…、それなのにはじめから無かった方が良かっただなんて言わないでよ!!」
手は飛んでこなかった。
代わりに、重い、心にずしんと来るような、そんな重い言葉が飛んできた。
ハヤトは、そんな事想像もしていなかっただろう。
「私は、もうハヤトと離れ離れになんてなりたくないよぉ…」
こんな台詞を、涙を流しながら言われようとは。
「ミア…」
どう、返事を返したら良いのか解らなかった。
頭の中が真っ白だ。
ミアは正直に自分の気持ちを曝け出してきているのに、自分は何をやっているのだろう。
何も考えられない真っ白な頭の中で、ただその思いだけがハヤトを動かしていた。
「ハヤトが居なくなるなんて絶対に嫌だ…」
「…ミア?」
「私が、私がハヤトを獣耳学園にいられるようにする!!」
ミアの瞳に強い光が宿る。
今まで、ハヤトはその光を何度も見てきた。
彼女がその瞳になる度に、ハヤトは自分の予想していた事態を覆されてきた。
ハヤトには真似の出来ない強い意志の光だ。
「ミア…」
だがどうやって。
いや、今の彼女にそれを聞くのは愚問というものだろう。
「やり方何て幾らでもある、裁判で訴えられるんだったら潔白を証明すればいいし、向こうがその気ならこっちだってその気になればいいのよ!!」
こうなった彼女はもう手がつけられない。
「そういう問題じゃないだろ…」
先程までの真っ白な頭は何処へやら、途端に訳の解らない頭痛を感じ出すハヤト。
「そうよ、いざとなれば獣耳学園と百獣学園の全面戦争に縺れ込ませればいいじゃない、こうなったら白黒はっきりつくまでとことんやってりましょう!!」
「ふむ、全面戦争というからには獣耳学園の生徒、みんなの同意が必要だね」
ミアのその言葉に異を唱えたのは今まで傍観者を決め込んでいたチタ先生だった。
「みんなにはどう説明するのかな?」
「私が説得します、ハヤト君を助けるためにみんなで戦おうって、一度は出来た事です、二度出来ないはずがありません!!」
かつて、ミアはハヤトが学園から人身御供として差し出される局面を打開した。
今と同じようにみんなの力を借りて。
「ふむ、だがそれには最大の前提条件がいる」
「前提条件?」
チタ先生の言葉に何だろうと首をかしげるミア。
「ハヤト君」
「はい?」
「これは大前提だ、…君の意思を確認しておきたい」
チタ先生は改めてハヤトの方に振り向き、真剣な顔で問う。
「何ですか?」
「…君は、獣耳学園にこれからも通いたいかね?」
チタ先生のその言葉に一瞬、ハヤトは口を黙らせる。
考えたのだ。
ここで無理にハヤトがそれを願わなければ、話は多少こじれても自分一人の犠牲で済むかもしれない、そうなる可能性は高い。
ならば、その選択をするのが最善ではないのか
「俺は…」
だが。
ミアの言葉がハヤトの心を動かしていた。
彼女があれほどまでに自分の思いをさらけ出してくれたのに、自分はそれに応えなくて良いのか。
自分の真の気持ちを押し殺したままでいいのか。
悩んだ。
いや、その言葉は正確ではない。
言うか言うべきではないかに悩んでいたのではない。
何に対して悩んでいるのかに悩んでいた。
このまま言わないでいいなんて事は…あるはずがない。
「俺は…獣耳学園にこれからも通いたい、ここははじめて俺を受け入れてくれた、だから俺はこれからもみんなと楽しくやっていきたい、それが俺の意思です」
「よし、これで決まりだ」
チタ先生はその答えを聞いてにっと笑う。
「聞こえたか、皆の衆!!」
直後、チタ先生は呼びかけるようにそう大きな声を出す。
「ハヤト君は学園に残りたい、ミア君はハヤト君を助けたい、ならば我々は如何するべきか答えは決まった」
雄たけびを上げるが如く、言葉を続けていくチタ先生。
「これより、獣耳学園は百獣学園に対し徹底抗戦の構えを取る、異論がある奴は黙って見ておけ、参加する奴は雄たけびを上げろぉ!!」
オオオオオオォォォーーー!!
確かに聞こえた。
獣耳学園全体からそう声が上がるのを。
確かに感じた。
獣耳学園が雄たけびを上げるかのように震えるのを。
「…こ、これは?」
何事かと保健室の面々は驚く。
「聞いての通り、獣耳学園は本日この場より百獣学園と全面戦争に突入する、皆がそれに賛同してくれた」
「チタ先生、まさか…」
その言葉を聞いてハヤトは表情を露骨に歪める。
「察しが良いね」
そう言ってチタ先生は襟元から指先程の大きさのマイクを取り出す。
「今の会話、全生徒に聞いて貰った」
「やっぱり…」
こういう人だった、とハヤトは頭を抱え込んだ。
「実はというと職員会議も行き詰まってしまっていてね」
チタ先生が言うには、職員会議の方でも今回の一件の解決策が思いつかず、このままでは埒があかないと判断。
当事者の意見を聞こうと思った所でハヤトが倒れたとの連絡が入る。
どうやら今回の一件に関係あるようだと思った校長が、ハヤト達の出す結論を尊重するようにしようと提案したとの事だった。
「質問」
「何だね、ケン君?」
そこまで聞いて、ケンが手を上げて質問する。
「わざわざ保健室の放送だけを切って全校放送にした理由は何なんだ?」
「この一件は獣耳学園の関係者全員に関わる問題だ、皆聞く権利があると思ってね」
「だからって、盗聴は趣味が悪いと思うぜ」
どうやらケンが許せなかったのはその一点のようだ。
自称不良の割にはこういう不正を嫌う所がケンにはある。
「ふむ、確かに私もそう思うが校長のご命令でね、『知らない方が話がし易いだろう』ってね、いやぁ、ドラマ顔負けの良い話を聞かせて貰ったよ」
それを聞いてハヤトとミアの二人は流石に顔を真っ赤にする。
あの感情丸出しの言葉のやり取りを全生徒に聞かれていたのかと思うと、これ以上ないぐらい恥ずかしすぎる。
「でもまぁ、校長の命令ではあったが何と言っても…」
『そっちの方が面白そうだった』
チタ先生の次の台詞を13クラスの全員が口を揃えて言った。
「ご名答」
チタ先生はご満悦といった顔でそう感想を言う。
「呆れたぜ、こんな奴が俺達の担任だとはなぁ」
「ケン、それ逆、そんな人だから私達の担任が出来るのよ」
ケンの言葉を素早く訂正するキユ。
「さて、やる事は決まった、これからは教師も生徒も一気に忙しくなる」
「…チタ先生、校長は何を企んでいるんですか?」
ハヤトはチタ先生にそう問う。
あの校長が裏で糸を引いていた。
ならばすでに次の手も考えているはず。
「君達のお陰で皆の意思が一つになった、ここまで士気が上がれば話はそう難しくない」
チタ先生は本当に嬉しそうにニヤッと笑う。
その顔を見て、13クラスの面々は表情を歪ませる。
チタ先生がこれほど楽しそうに笑う時は決まってろくなことが無いからだ。
「言っただろ、これから百獣学園と戦うんだ…体育祭でね」
その日、獣耳学園は百獣学園に対し一通の手紙を送った。
それは、百獣学園に対する獣耳学園からの挑戦状であった。




