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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第03話「燃えろ、獣耳学園」
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三時限目『暴け、ハヤトの謎』

 ~ 三時限目『暴け、ハヤトの謎』 ~


 キーンコーンカーンコーン…

 獣耳学園の校舎に鐘の音が鳴り響く。

「では、HRを始めましょう」

 13クラスの教壇にはコゥが立っていた。

 チタ先生の意向により、13クラスのHRは委員長が進める事となっている。

 その際に「生徒の自主性を尊重」などと言っていたが、生徒達に言わせれば面倒を押し付けたとしか見えなかった。

「本日の議題は…ハヤト君の不登校についてです」

 ハヤトがミアの耳に噛み付き、そのまま逃げ出すように教室を出て行ってからすでに三日が経っていた。

 ハヤトはあの日を境に獣耳学園に登校して来ていない。

「学園側にも連絡は一切無し、欠席の理由は不明」

 そう、担任であるチタ先生が付け加える。

「…それって、欠席とか言う以前に失踪とか行方不明になるんじゃねぇのか?」

 ケンの意見はもっともであった。

 音信不通であるならばそっちの疑いの方が高くもなろう。

「いや、連絡が無かったのでこちらから電話をかけた所、一応家には居るようだ、欠席の理由は聞き出せなかったが消息不明と言う訳ではない」

 しかしそこはそれ、一応チタ先生も担任としての義務は果たしていたらしい。

「声だけで判断するのはどうかと思うが、おそらく健康状態が悪い訳ではないだろう」

「…となると、何故登校してこないのか…って言う話になる訳か」

 キユが冷静に現状をまとめ、口元をやや緩める。

 どうやら彼女の好奇心に火がつき始めたらしい。

「常識的に判断するなら、ハヤト君がミアちゃんと顔を会わせづらいから休んでいるという、と言うのがもっともらしい理由なんだけど」

 ハヤトがそんな気質でない事は皆承知している。

 自分に非が有るなら面と向かって謝るし、自分に非が無いのならば堂々としている。

 ハヤトはそういう男である。

 少なくとも、彼が弁明も無しに逃げ出すなど今回が初めてであった。

「そうなると他に理由があると考えたくなるんだけど…」

 残念ながら、13クラスの中でその理由に心当たりがある者は誰一人としていなかった。

「そう、問題はそこだ」

 議論が途絶えかけた時、そう声を上げたのはチタ先生だった。

「何がですか?」

「獣耳学園でもこのクラスは特別クラスメートの団結が強い、学園内でも有名な仲良し13組だが…」

「勝手に変な名称つけてんじゃねぇよ!!」

 チタ先生の言葉に自称不良のケンがツッコミが

「そう、勝手に変な名称をつけられては困る」

「へ?」

 珍しく、と言うのは変だが、無視されずに意見を取り入れられる。

「確かに仲は悪くないが、キユ君とミユ君は別として誰か他の者の経歴を言える者、もしはその人物の事情を詳しく言える者はいるかな?」

『……』

 そのチタ先生の言葉に皆黙る。

「まぁ、そう言う訳だ、これでは上っ面だけの関係と大差ない」

「んなもん仕方ねぇだろうが」

 誰が好き好んで自分の経歴をベラベラと喋るものか、まして個人で抱えている問題を簡単に他人に打ち明けれるはずがない。

「ケン君の言う事も正しいが、我々はハヤト君については知っておいた方が良いのではないか、…と先生は思っている」

「…どういう意味ですか?」

 ミアがそう率直に質問をぶつける。

「調度良い、HRだし前期試験の答案を返そう」

 ズッ…

 一人、ケンが椅子の上からずり落ちる。

「なんだよそりゃ!!」

 ケンがそう異論を唱えるが、今度はちゃんと無視された。

「ケン、全教科で何点だった?」

「…俺にそういう事聞くなよ」

 ケンは渡された答案をそうそうに丸めてゴミ箱に投げ捨てようとしていた。

「そういうお前は?」

 反撃とばかりにケンがミアにそう聞くが

「んーっと、五教科で463点」

「ぶっ!!」

 ズガッ…

 返す刀で切られるように、ケンは思わず机に顔を埋めてしまう。

「ケンって結構漫才の才能あるよねぇ」

「うるせぇ、素だ、ってか何だその異常な点数は!!」

 どうせミアも自分と同じぐらいだと高をくくっていたケンは思わず過敏に反応してしまった。

「あら、ケン知らなかったの、ミアちゃんって入学試験でトップの成績だったのよ」

「なっ…」

 コゥの言葉にケンは絶句する。

「ほら、入学式の時に新入生代表挨拶やってたじゃない、…もしかして寝てた?」

「うるせぇ…」

 どうやら図星らしい。

 ちなみに補足するならば、ミアの獣耳学園内での人気が高騰したのはその時の彼女のパフォーマンスからであった。

 何をやったのかはあえて伏せておくとしよう。

「うーん、前期はハヤトにずっと付きまとってたから成績落ちちゃったなぁ」

 自分の答案を見てミアはそう呟く。

 …どうやら自覚はあったようだ。

「ったく、とんだ食わせもんだぜ」

「良い点取らないと親が五月蝿いからねぇ…」

 ミアはそう言って答案を鞄の中へしまう。

「それで先生、これがハヤト君とどう関係あるんですか?」

 ずれがちの話をキユがそう修正する。

 本音を言えば早く続きが聞きたいだけなのだろう。

「まぁ、答案を返す事自体に大した意味はない、問題はこのハヤト君の答案だ」

 ピラ…

 チタ先生はそう言ってハヤトの五教科の答案を机の上に置く。

 その答案に真っ先に飛びついたのは言わずもがなミアであった。

「チタ先生、良いんですか、彼の答案を勝手にみんなに見せて?」

 そこは委員長、常識的発言である。

「担任権限で許す」

「越権行為に聞こえますが…」

 所詮、この場で常識など通用するはずがなかった。

「ハヤト君の五教科の合計点は350点」

「何だ、俺より少し上程度じゃねぇか」

 要するに獣耳学園での平均点ぐらいである。

「あいつの事だからもっとすげぇ点数かと思ってたぜ」

 拍子抜けと言った感じでそうケンがそう言うが

「…ケン」

「あん?」

「それ、すっごく甘い考えみたい」

 初めは嬉々として答案を見ていたミアが、一転して真剣な顔をしている。

「どういう事だよ?」

「これ見て…」

 そう言って、ミアは手にしていたハヤトの答案をケンに差し出す。

「見ろって言っても、テストはテストだろ、別におかしな所なんて…ん、…70点?」

 ケンは答案を次々と見ていく。

「…そう、五枚全てね」

 五枚の答案には全て赤い文字で70と書かれていた。

「けどよ、そりゃ確立は低いかもしんねぇけど…」

 偶然だってありうるんじゃねぇか。

 そう口にしようとするが

「驚くのはまだ早いよ、その答案…蛍光灯で透かして見て」

「透かす?」

 ケンは言われるまま持っている答案を光で透かす、すると

「…なぁ、ミア」

「何?」

「俺は頭悪いからあんまり解らねぇんだけど、ここに書かれてるのってもしかして…」

「私が見た限り、…全部あってると思うわ」

 ハヤトの答案を光で透かすと、パッと見では解らなかったが、空白の問題欄に一度鉛筆で書かれた跡が残っていた。

 一箇所だけではない、その書かれた跡は全ての欄に残っており、おそらくは一度全ての欄に解答書いた後、消しゴムで消したのだろう。

 そして、その答えは全て正解だった。

「先生、…こんな事ってあるんですか?」

 キユがそうチタ先生に尋ねる。

「何を指してあると聞いているのかな?」

「…色々な意味でです」

 キユは少し恐怖を感じながらそう答えた。

 状況からして正解の解答を消したのはわざとだ。

 なら、ハヤトはわざわざ100点満点を取れていたのに70点を取った事になる。

 五教科全て100点を取れる者がいるのだろうか、そして、教師が採点するであろう点数を正確に見抜き、全て70点を取る事が出来る者がいるのだろうか。

 いや、それを言うならそもそも何故彼はこんな事をしたのだろう。

 まったくもって謎だった。

「兎に角、答えを一度書いてあっても、こうやって消している以上この試験での彼の五教科の点数は350点、書類上はそう記録される事になる」

「経歴上にも…という事ですか」

「そう、経歴上にもね」

 そう言葉を区切ってチタ先生は喋り続ける。

「現時点での私の感想、いや、推理では、ハヤト君は高得点を取りたくても取れないんじゃないかと考えている」

「高得点を取れない?」

 オウム返しにミアがそう聞く。

 どうにもおかしな意味合いの文章になってしまうが、そう言うのが一番正確なのであろう。

「ここ半年間、ハヤト君と行動を共にした君達なら良く解ると思うが、彼はあれでなかなかの負けず嫌いだ、そんな彼がわざわざ点数を低くするのには必ずそれなりの訳があると私は思ってある」

 その言葉に皆頷く。

 チタ先生の言う通り、ハヤトは負けず嫌いだ。

 だが、それを断固として通そうと言う訳ではなく他に何かしらの理由があるならば勝敗には固執しないと言う性格である。

「そもそも彼は負けず嫌いなのに目立つ事はしない、彼の性格が派手さを好まない所もあるが、これはある意味矛盾している」

 勝敗があればそこに優劣ができ、勝者が目立つのは当然である。

「ハヤト君は勝ってもわざと目立たない方法を選んでいるような気がするんだ、そこで発想を逆転させ、彼には目立てない理由があるのではないだろうか、つまりハヤト君は自分と言う存在が公にならないようにしている」

「…そんなの、一体何のために?」

 当然の疑問をコゥが口にするが

「それが解ればこうやって彼について話合う必要がないだろう」

 チタ先生がごもっともな答えを返す。

「だが、彼は見てのとおりの負けず嫌い、現に我々は彼のすごい一面を幾つも見てきている、だから彼の取れる行動は我々に対して自分は決して負けていない面を見せ、記録上普通を装う事、つまり今回のような事だ」

 確かに、この答案によってミア達はハヤトのすごい一面をまた見た事になる。

 しかし、それは決して当事者達以外に知られる事はなく、記録上、彼は平々凡々な点を取ったただの一生徒という位置付けとされる。

「何だか話がきな臭くなってきたな…」

 そこまで黙って話しを聞いていたケンがそう声をあげる。

「それで、あんたはそれを俺達に聞かせて何をさせようって腹なんだ?」

「ケン君、成績は中の下なのになかなか鋭いね」

「うるせぇ、頭がいいのとテストの成績がいいのとは別だろ、…まぁ、あいつの受け売りだけどな」

 皮肉っぽくそう言うが、ケンの目は先程と違って鋭さがあった。

「先程も言った通り、これは推理に過ぎない、証拠は何も無いし問い詰めた所で彼が口を割るとも思えない、だが、彼はこれから獣耳学園に大きな影響を与える人物となるのは間違いないだろう…」

 何と言っても校長が彼を使って何かする気だ。

 その部分はあえて伏せ、チタ先生は言葉を続ける。

「おそらく私達はその大きな影響に巻き込まれる、それならば彼の事を知っておいた方が後々のためだと思わないかい?」

 自衛のための手段、つまりはそういう事なのだ。

「賛成!!」

 チタ先生の言葉に真っ先にそう声を上げたのはキユだった。

「獣耳学園のヒーロー、人族ハヤトに隠された謎を暴け、彼の秘められた過去とは何か!!」

 彼女の頭の中では恐るべき演算速度で早々と記事作りが開始されてた。

「いける、学園七不思議なんて目じゃないわ!!」

 どうやらここに至って完全に彼女の記者魂に火がついたようだ。

「やりましょうチタ先生、私達でハヤト君の全てを暴きましょう!!」

「お、お姉ちゃん…」

 一方、それを止めようとするミユ。

「俺は反対だね」

 ケンは露骨にそう反対を唱えた。

「どうしてよ?」

「馬鹿かてめぇは、何が謎を暴くだ、そりゃ聞こえはいいだろうが、てめぇがやろうとしている行為がどんな事かよく考えて見やがれ!!」

 ケンはキユをてめぇ呼ばわりし、そう立て続けに声を荒げる。

「俺はダチの経歴を探るなんて真似、絶対にしねぇからな!!」

 そう言って、ケンは机から立ち上がり教室を出て行く。

「な、な、何よあれぇっ!!」

 出て行ったケンを睨みつけながら、キユはそう叫ぶ。

「まるで私が全部悪いみたいじゃない!!」

 どうやら相当ご立腹らしい。

 その怒りが何によっての怒りかは定かではないが、とりあえずキユの怒りは今頂点に達しているようだ。

 漫画的に言うならばその怒りの余りに髪が動いていそうなぐらいだ。

「うーむ、まだHR中なんだがなぁ…」

「ツッコミべき所はそこじゃないと思いますが?」

 チタ先生のツッコミにツッコミをいれるコゥ。

「まぁ、彼の気性では仕方が無いか、…それで、他の者の意見は?」

 キユは賛成、ケンは反対、残るはミア、ミユ、コゥだが

「私も反対です」

 真っ先に挙手してそう意見を述べるコゥ。

「確かに、ハヤト君が学校に来ない理由には興味はありますが、そもそも私達にそんな権限は無いし、ケンの言うようにそんな事をするのもされるのも愉快じゃありません」

 正論である。

「私も…反対」

 続いてミユがコゥと同じように手を上げそう言う。

「ミ、ミユまで反対なの!?」

「やっぱり…そういうの、駄目だと思う」

「そんなぁ…」

 これはキユにとって予想外の出来事だったらしい。

 その様子から察するに、かなり珍しくミユがキユに反対意見を出したようだった。

 しかも、その言葉には彼女らしからぬ何か力強いものが感じられた。

「ミ、ミアちゃんは!?」

 最後の砦と言わんばかりにそう答えを求めるキユ。

「…あー、んーっと、どっちがいいんだろ?」

 これに対しても珍しく、ミアは答えを迷っていた。

「ハヤト君の事なのよ、知りたくないの!?」

 キユも必死である。

 次々に甘い誘惑をミアにかけるが

「知りたい…って気持ちはあるんだけど、…なんだろ、知っちゃいけない事を知ろうとしてる気がするんだ」

 それは彼女の本能の囁きであった。

 おそらく獣耳学園で一番ハヤトと近い距離に居続けたミアは、感覚的にその事を察しているようだった

 だが、知りたいと言うのもまた彼女の本音。

「けど、うーん…」

 どうやら今まさに葛藤の真っ只中。

 事が事なだけに、ここはやはり慎重に選択しなければと言う意思があるようだ。

「(ハヤトの事は知りたい、それは正直な気持ち、でも、何で踏み込めないんだろ、せっかくのチャンスを前にしてどうして決断を迷うんだろ、…何で?)」

 彼女の葛藤も実は当然であったのかもしれない。

 そもそも、猫人族と言うのは自由奔放な種族、要するに個人プレーを主体とする種族。

 その種族をもってしてチームワークや策略やらを持ちかけるのは、ある意味お門違いとも言える。

「(ああ、でも、知りたい、ハヤトの過去、経歴、素性、知りたい知りたい知りたい…)」

 バンッ…

 ミアは立ち上がって机を叩き、意を決して声を出す。

「キユちゃん、…やりましょう!!」

 どうやら本能の囁きより欲求の誘惑の方が強かったらしい。

「それでこそミアちゃんだわ!!」

 ガツ…

 こうして世にも珍しい猫人と兎人の共同戦線が張られる事となった。

「コゥちゃん、ケンに伝えといて、私達は絶対にハヤト君の謎を暴いてみせるって!!」

「はいはい」

 コゥはそう言ってキユの伝言をあっさり引き受ける。

 どうやら反対派と言っても、ケンと違ってコゥとミユは対立する気はないらしい。

「見てなさいよーケン、女の恨みは怖いんだからぁ!!」

 対してキユの方はケンに対してかなり敵意剥き出しのようだ。

「あはは、体育祭と文化祭を前に内部分裂してしまったなぁ」

 チタ先生はけらけらと笑いながらそう楽しそうに笑う。

 付け加えるならば「これはこれで面白そうだ」と言った表情までしている。

「きっかけを作った本人が言わないで下さい」

 委員長のコゥがそうチタ先生の言にツッコミを入れるが、この教師に幾ばくの効果があるだろうか。

「ところでミア君、キユ君」

「はい?」

「何ですか、先生?」

「君達、先生の事忘れてるだろ」

 悲しくも、初めにハヤトの謎を暴こうと言い出したチタ先生は二人のヒートアップするテンションに付いていけず、過去の人となってしまっていた。

「忘れてました」

「すみませーん」

「やれやれ…」

 若者の輪に加わり損ねた成年男性の悲しい声が教室に響く。


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