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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第03話「燃えろ、獣耳学園」
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ニ時限目『The boy who bites a girl』

 ~ ニ時限目『The boy who bites a girl』 ~


 キーンコーンカーンコーン…

 獣耳学園の校舎に鐘の音が鳴り響く。

「なぁ、ハヤト」

「何だよ、ケン?」

 それを聞いたハヤトとケンの二人がそう会話を交わす。

 どうやら先程のチャイムは予鈴であるようだ。

「…いや、やっぱいいや」

「途中で質問を止めるな、気になるだろ」

 普段とはやや違うリアクションのケンに対し、ハヤトはいつも通りのリアクションだった。

 この状況に置いてはハヤトの方がやや変わったリアクションにも見えただろう。

「…いやな、お前はテストに自信あんのかなぁって思ってよ」

 そう、時はまさに試験前。

 これから学生達は目前に差し出される白い答案用紙を、その頭脳とペンのみを使って黒く染めていかなくてはならないのだ。

 一心不乱に紙に向かう姿、まさしくそれは学生にとっての戦いであった。

「けど、お前に聞く方が間違ってるよなぁ」

「何でだよ?」

「だってよ、お前頭良いだろ?」

 ケンが嫌そうな顔をしてそう言う。

「さぁな、頭がいいのとテストの成績がいいのとは別だろ、その逆もしかりだ、どの道結果は解答用紙が返って来ないと解らないんだからな」

「…こういう時にそういう正論を言うなよ」

 どうやらケンは試験やテストという言葉が苦手なタイプらしい。

 まぁ、自称不良らしいといえばらしい感じではある。

 ガラガラガラ…

「よーし、みんな前を向いて席に座れー」

 そうこう話している間にチタ先生が教室の戸を開いて入ってくる。

「これから試験の説明をする、よーく聞いとけよ」

 試験の説明。

 まぁ、大抵の人が大体の所で同じような説明を連想するだろう。

 13クラスの面々もそう考え、ケンなどは露骨に「めんどくせぇなぁ」といった表情をしていた。

 だが、ここは特殊な獣耳学園、一筋縄ではいかなかった。

「えっと、まずカンニングは出来るだけばれないようにする事、会話は一応禁止する事になってるが教師に見つからなければセーフだ」

『……』

 一同唖然。

「ん、どうしたみんな?」

「ど、どうしたもこうしたもあるかよ!!」

 真っ先に声をあげたのはケンであった。

「何なんだよその説明は!?」

「いやぁ、私も初めて聞いた時はびっくりしたが、これは校長が決めた事でね、ちなみに制限がない訳じゃないぞ、カンニングがばれた場合は当然点数がマイナスされる、会話が見つかった場合はマイナスにはならないがした者と答えが一致しない場合無効とされる」

 チタ先生の話を要約するとこうだった。

 獣耳学園は協調性を第一にした学園である。

 よって試験においてもそれを考慮にいれ、他者と協力する事も可能とする。

 ただし、その場合互いの協力関係がうまく取れていることを原則とし、取れていない場合は一人でやる以上に辛い状況となる。

 つまり、双方共にメリットとリスクがあるわけだ。

 キーンコーンカーンコーン…

「おっと、チャイムがなったな、では、試験はじめっ!!」

 さてさて、先程の説明を聞く限りでは他者と協力関係を取った方が良いのではと考える者の方が多いのではないだろうか。

 しかし、これは諸刃の剣である。

 何故なら試験中に教師の目を盗み答えを確認し合うなどという芸当は、前もって準備しておかねば到底できない事だからだ。

 しかもここは曲者揃いの獣耳学園、教師とてただの教師ではない。

 会話を聞きながらあえて黙認し後日採点をする教師もいれば、カンニングをあえて誘発するような教師だっている。

 このルールを事前に知っていたならば各自分担を決めて挑み、協力体勢をとる事も可能だっただろう。

 だが、現状でその策はすでに使えない、時間的な事を考えるならばこの試験期間中にそのように綿密な策を練り上げるのは不可能だった。

 そうなるとわざわざ危険を冒すより、一夜漬け等によって身に付けた自身の力のみで問題に立ち向かった方が得策というものである。

『……』

 と言う訳で、13クラスの面々は結局各個人で試験に挑む事となったのであった。

 ちなみに、他クラスではその危険を冒して協力した者達がいたようだが、所詮は付け焼刃、結果はマイナスとでた者達の方が多かったらしい。



 そんな訳で学生達にとって苦難の一週間が経過する。

「…ったりー」

 13クラスの自分の机に突っ伏しながらケンはそうけだるそうな声を上げる。

「同じくー」

 その隣の席でミアも同じように机に突っ伏しながらそう声を上げる。

 試験期間が月から金の5日間続いたのに加えて更に土日を挟んだ事により、その反動なのか、学生達は完璧に試験ボケを起こしていた。

 無理もない。

 獣耳学園はその自由な校風とは裏腹に成績に対してはかなりシビアな学園なのだ。

 そもそもこの学園は今年の春に、歴史上初めての多種族複合学園の私立校として新設された学園である。

 聞こえはいいかもしれないが、新しい事を始めると言う事はそれだけ世間の風当たりがかなりきつい事も意味していた。

 よって世間にその存在を示すために獣耳学園の生徒達の質が問われる事となり、入試試験の段階で新入生達は厳選な試験や面接を乗り越える事となった。

 そして、今回の試験も同様、成績が思わしくない者は容赦なく切り捨てられる。

 厳しいようだが、それは獣耳学園が存続するために必要な試練だった。

 言い換えれば、今現在獣耳学園にいる者たちはその過酷な弱肉強食の試練を生き残った強者達と言えよう。

「なんかこー、気合が入るような事ねぇかなぁ…」

 犬は元気に庭駆け回りの言葉が嘘のように、ケンは机に突っ伏したままそう声を出す。

「来週になれば体育祭の打合せが始まるからそれまで我慢してね」

 そんなクラスメート達の姿を見かねたのか、コゥがそう声をかけるが

「体育祭かぁ、それはそれでたりぃなぁ…」

 どうやらケンは体育祭に乗り気でないようだった。

「んー、ケンは体育祭楽しみじゃないの?」

 隣の猫人がそう疑問を質問に変えて聞く。

「団体競技ってのは好きじゃねぇんだよ、俺が勝っても味方が負けたら結局負けになるだろ」

「あー、そう言う事ね」

 相変わらずの負けず嫌いっぷりである。

「ケーン、それ贅沢だよ」

 その言葉を聞いて兎人の片割れがそう声を上げる。

「ケンはどっちかっていうと体育会系なんだから、体育祭で頑張らなくてどうするのよ」

 キユの言は確かに正論ではあるが

「運動できる奴が運動しなかったら一体何が残るって言うのよ」

 普段の彼女の言動からすればやや卑屈にも聞こえる。

「おいおい、どうしたんだ、やけに突っ掛かってくるじゃねぇか?」

 流石のケンもそんなキユに対しやや弱腰である。

「…お姉ちゃん、記事がまとまらなくて苛々してるの」

「はぁ?」

 ミユの話を聞けば、キユは学園祭用に集めている七不思議の情報が思うように進んでいないらしく、試験中からずっとこんな調子だそうだ。

 ようするにネタ不足らしい。

「馬鹿馬鹿しい、大体新設校に七不思議も怪談もあったもんじゃねぇだろ」

 ごもっともな意見である。

 その手の話というのは大抵歴史の長い学校で生徒が尾ひれを付けて伝えていっているものだ。

 新設校の獣耳学園でその手の話となるとなかなか情報も集まるまい。

「それでもそこに噂があれば真相を確かめるのが新聞部であり、文化系なのよ」

「言いたい事は解るが何で俺に突っ掛かって来るんだよ」

「ケンは絶対文科系じゃないんだから体育会系に決定なの、体育会系なんて運動会で全てが発揮できるんだからいいじゃない、文化系の人間は前準備が延々と続いて大変なの、体育会系なんて敵よ、敵!!」

 どうやらかなりご立腹らしい。

 キユとミユはそのあまりに小さい体格から運動能力はほぼお手上げ状態な程に低い。

 故にケンに対してそこまでつっかかっていっている訳だが、それを踏まえてもここまで声を荒げるキユはなかなかに珍しく、クラスの面々はそれぞれ多種多様な面持ちをしていた。

 そんな中。

「……」

 一人、先程からずっと会話に参加せずに机に突っ伏している者がいた。

 ハヤトである。

 眠っているのだろうか。

 彼は椅子に座り机の上で腕枕を作ってそこに顔を埋めていた。

 先程からずっと反応が無い所を見ると、やはり眠っているとしか思えなかった。

 一同はここでまたも怪訝な表情をする。

 ハヤトが転校してきて以来、学校で彼のこんな無防備な姿をはじめてみたからである。

 普段の彼であれば、授業中であろうが背を向けていようがこちらの動作に逸早く気づき、体勢を整えていた。

 怪我をして入院中の時や、合宿の夜中に眠っている時ならまだしも、ここは学校で今は昼である。

 つまりそれ程普段の彼には隙が無い訳だ。

 それが今の彼はまったくの無防備。

 ふざけて頭の上にダブルチョップを簡単に叩き落せそうなぐらいである。

「ハヤトー、起きないと悪戯しちゃうよー」

 そのあまりの反応の無さにミアが近寄り、冗談半分本気半分で声をかけるが

「……」

 尚も反応が無い。

 普段の彼であればその時点で何らかの危機感を感じて目覚めていた。

「…ハヤト?」

 クラスの面々の視線がハヤトの方に向く。

 流石にこれはおかしい。

 よくよく考えてみれば、彼が反応を示さない時というのは決まって非常事態の場合が多かった。

「ねぇ、ハヤトってば!!」

 そんな中、ミアは逸早くその嫌な予感を感じ取ったのか、声を荒げてハヤトの名を呼ぶ。

 ピクッ…

 その大きな声に反応するかのように、ハヤトの頭が少し動く。

 どうやら死んでいるわけではないらしい。

 ムクッ…

 続けてハヤトはその体を起こし、椅子の背もたれに背を当てて前を向く。

 目の焦点が合っていない所を見ると、まだ寝ぼけているらしい。

「ハヤト、一体どうしたの?」

 そんな彼の顔を正面から覗き込むように、ミアは顔をヒョイっと近づける。

「……」

 尚も、ハヤトの返事はなかった。

 確かに返事はなかったが、行動はあった。

 スッ…

「え…?」

 おもむろに、いや、自然にと言った方がいいだろう。

 ギュ…

 ハヤトはミアの体を引き寄せ、彼女の頭を胸元で抱きしめる。

「え、ひゃ、ハヤトっ!?」

 そして

 カプッ…

「にゃっぁ!!」

 ハヤトは自分の目前に無防備に差し出されていたそれに噛み付いた。

 この状況、説明するのはそれ程難しくは無い。

 ハヤトはミアの頭を抱きしめた。

 すると彼の視点は当然彼女の頭へと移り、そこでハヤトが見た物、それは…猫人としてのミアの耳である。

 端的に言えばハヤトはミアの耳に噛み付いた。

 その耳を噛まれたミアは驚くほどのうろたえを見せていた。

 無論、誰でもいきなり耳を噛まれたりすればうろたえもするだろう、だが問題はそこではなかった。

「ん、あ、ちょ…、ハ、ハヤト…」

 先程までの大きな声はどこへやら、ミアの声は徐々に力を失うように弱まり、次第に体の方もへなへなと崩れていく。

 さて、文章に間違いがあったので訂正しておく、ハヤトは確かにミアの耳に噛み付いたが、それは歯を立てて噛み付くというニュアンスではなく、唇で挟むぐらいの噛み付き、ようするに甘噛み状態である。

 そして更に補足するならば、その時のハヤトの行動はなかなかに大胆であった。

 彼はミアの耳に噛み付くと同時に彼女の体を抱きしめていたのだ。

 状況説明が長くなってしまったが、今現在、そういう感じの状況である。

『……』

 当事者達を除いた全員、開いた口が塞がらない状態であった。

 以前、似たような状況を目撃したキユとコゥをもってしても、これはあまりに過激なシーンだったと言えよう。

 そんな全員が目を丸くし、口を空けている状況で

「…えっ?」

 当の本人がそう声を上げる。

 目の焦点がどうやら定まっている所を見るとようやく脳が覚醒に至ったようだ。

「ふにぃ…」

 ハヤトが声を上げたお陰でその口はミアの耳から離れ、ミアはようやく奇妙な金縛りから脱出する事ができる。

 もっとも、それはよろよろと床に座り込む弱々しい動作であった。

「あ…」

 それを見て、ハヤトはようやく自分が何をしていたのかを思い出す。

「っ!!」

 ダッ…

 ハヤトの足が床を蹴る。

「おい、ハヤト!?」

 ケンが走り出すハヤトにそう声をかけるが、ハヤトは逃げ出すように教室を出て行った。

「…ごめんっ!!」

 そんな謝罪の言葉だけを残して…。



「ミアちゃん、大丈夫?」

 今だ床に座り込んでいるミアにキユが手を伸ばす。

「う、うん、何とか…」

 ミアはその手を取って立ち上がろうとするが

 トン…

「ふひゃー、駄目だ、まだ足元がフラフラしてるや」

 どうにもうまく立てないらしく、近くの椅子に尻餅を付く。

「耳噛まれる何てはじめてだったからびっくりしちゃった」

 この年齢の女の子であればあまりそういう経験を持った者はいないかもしれないが、この場合の意味はそういう意味ではなかった。

 耳と言うのは種族の象徴であり、その者が自己を主張できる最たる物でもある。

 つまり本人にとってもそれは象徴のようなもので、耳と言わず尻尾や角もこれと同義となる。

 それらはこの世界で生まれた者にとって更に自己の人格を形成する上で最も重要な部分となっており、その部分を触られると言う事は大きな意味を持つ事にもなる。

 まして甘噛みなどされようものなら通常であれば卒倒していてもおかしくない出来事で、ミアの反応はまだましな方だと言えよう。

「そりゃびっくりするわよねぇ…」

「本当よね、こっちだって心臓止りそうなぐらいびっくりしちゃったんだから」

 そんな感想を言う兎人と牛人の二人だが、未だに心臓の激しい鼓動が収まらないでいた。

「もー、ハヤトってば教室であんな事しなくても、私を食べたいなら言ってくれればいつでも…」

 そう言ってミアは頬を赤らめる。

「洒落になんないからそれ以上は止めて、ミアちゃん」

 本来のツッコミ役であるハヤトが居ないため、仕方なく準ツッコミ役であるキユがそう突っ込む。

「…なぁ」

 そんな中、男のケンだけがハヤトが走り去った後の廊下を見ていた。

「あいつ…何か様子がおかしくなかったか?」

「ええ」

 これまたまだ半年の付き合いとは言え、クラスメート達はハヤトの性格を熟知していた。

 彼ははぐらかす事は合っても逃げ出したりはしない。

 少なくとも、今までハヤトが何の言葉も言わずにああやって立ち去った事は一度としてなかった。

「それに、いくら寝ぼけてたとは言え、いきなりあんな事する奴でもないだろ」

 先に述べた通り、ハヤトが行った行為はとんでもない事だった。

 一言で言うならば暗黙のルールである。

 親兄弟でさえその箇所に触れる事はしない。

 いや、出来ない。

 その箇所に触れる事ができるのは当人が本当に心許した相手だけで、種族によっては生涯を共にする者同士がその証として触れ合う事を儀式とするぐらいなのだ。

「普通なら警察に突き出されてもおかしくないもんねぇ」

 それは国際法でも厳しい罰則を決められており、裁判沙汰になろうものなら殺人と同系列の扱いと言えるぐらいの扱いをされ、絶対勝てないぐらいの出来事なのだ。

「どうにも気になるな…」

 ケンはそうつぶやいて考え込んだ。

「前々からそうだったけどよ、ハヤトって謎が多すぎねぇか?」

「それは同意するわね」

 ケンの言葉に返事を返したのはキユだった。

 彼女の性格を考えれば、謎を謎のまま残しておく事が出来ないのであろう。

「本音を言うなら学園七不思議なんかよりもハヤト君の謎を暴けとかの方が生徒受けがいいんだから」

 これまた同じように、獣耳学園の結束は固い。

 その場においてもハヤトの存在は謎、そうなると謎を暴きたくなるのが民衆と言うものである。

「それはそうだが、あいつを探ろうとすると骨が折れるぞ」

 実際、過去にミアとケンの二人がハヤトの後を尾行し家乗り込んだ時も大した話を聞き出せなかった。

「私達だけじゃハヤト君の尻尾すら掴めそうにない…か」

 お手上げとばかりに顔を顰めながらキユがそう言うと

「ハヤトに尻尾は生えてないよ」

「…そういう話じゃないってば」

 ミアのその言葉にキユは更に顔を顰める。

「そういえばそうよね、人族の人達ってそういう場合どう言うのかしら?」

「だから、そういう話じゃないんだってば…」

 頭脳派であるコゥのその意見すらも、ミユの顔を顰める要因の一つにしかならなかった。

「細かいプロフィールとか経歴が解れば話は違ってくるんだろうけど」

「そういうのは校長先生が握ってるんでしょうね」

「あの校長に関わるのもなぁ」

 ケンは嫌そうにそう言う。

 だが、獣耳学園において13クラス程あの校長に関わりのあるクラスは他に無かった。

 もっとも、それは当人達の知らぬ所でもある。

「せめて何かきっかけがあればなぁ」

『きっかけねぇ…』

 そのきっかけが僅か三日後に訪れる事など、今の彼らには知る由もなかった。


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