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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第02話「海へ、獣耳学園」
20/80

十一時限目『真夜中の招待状』

 〜 十一時限目『真夜中の招待状』 〜


 獣耳学園合宿五日目、朝。

「ねぇ…」

「…何?」

「夕べ眠れた?」

「あんまり…」

 食堂にてキユとコゥは互いにそう冴えない会話を交わしていた。

 二人の目の下にはかすかに隈が出来ており、それは二人が睡眠不足であることを物語っている。

『あんなの見せられたらねぇ…』

 二人そろってテンション低く、声のトーンすら低めにそう言い合う。

 夕べ、ハヤトが去った後も二人は一向に寝ようとしなかった。

 否、眠れなかった。

 自分の目の前で自分の知っている自分のクラスメート二人があんな事をしたのでは、興奮して簡単に眠れるはずも無い。

「ん、二人とも何かしてたの?」

 自分が原因だとはこれっぽっちも思っていないのだろう。

 二人とは対照的にそう明るく声をかけるミア。

『あは、あははは…』

 二人は苦笑いするしかなかった。 

「おーっす、随分早かったんだな」

 そんな二人の元にケンがそんな軽い挨拶をしながら話し掛けてくる。

「何だよ、二人とも寝不足か?」

 この面子で揃った時に座る自分の定位置に座りがなら、ケンはキユとコゥの顔を見てそう言う。

『ちょっとね…』

 その言葉に対して、説明出来るかと言わんばかりに二人は同じような顔をしてそう答える事にした。

「お…、随分遅かったじゃねぇか、ハヤト」 

 そんな二人の後ろを見て、ケンがそう言う。

 ビクゥッ!!

 その言葉にキユ、ミユ、コゥの三人は思わずそう体を硬直させる。

「他のグループより早いんだから遅くはないだろ、それにお前だってさっき着いたばかりだろ」

 三人の後ろでハヤトはケンに笑いながらそう言い。

「やぁ、おはよう」

 続いてハヤトが女性陣にそう朝の挨拶をする。

 夕べのあの険しい表情のハヤトはどこへいったのか、まるであれは別人かと思わせるような実にさわやかな笑顔の挨拶だ。

『お、おはよう…』

 この挨拶に対して、ミア以外の面々はそう曖昧な挨拶を返す。

「おはよー、ハヤトー」

 一方ミアはそんな事お構いなしにそう声を上げ

 ガバッ…

 例によってハヤトに抱きつく。

『っっっ!!』

 その光景に、女性陣の心臓は一気に鼓動を早める。

 一方的にミアがハヤトに抱きついているのだが、その二人の姿を見て、夕べの抱き合う二人の姿を思い返してしまうのは無理も無い事だろう。

「ったく、朝っぱらからくっつくな、離れろ!!」

「けちー、たまにはいいじゃん」

 知らないとは幸せな事である。

 もし彼女が夕べの出来事を覚えていたならば、現状のような行動ではすまないだろう。

「だ、駄目、私しばらく二人が一緒に居る所まともに見れそうにない…」

「激しく同意するわ…」

「ぅぅ…」

 それに対して知っている者達は苦悩を抱えているようだった。



「そ、それじゃあハヤト君、夕べ言ってた説明をお願いしたいんだけど」

 食事が一段落ついたところでコゥはそう言った。

 まだ意識しているのか、ハヤトの顔を出来るだけ直視しないように喋っている。

「ん、あー、あれか」

 モーニングセットについてきたコーヒーを未練がましくちびちび飲んでいたハヤトは、そう言えばそうだっけとばかりにそう返事を返す。

「んー、どう説明したもんかな…」

 コーヒーカップを皿の上に置いてハヤトはそう考え込む。

「今回の一件に関して何かしらの全貌が見え始めたからああ言ったんでしょ」

 喋らないハヤトに対してキユがそう質問を投げかける。

「…みんなはさ、幽霊って信じる?」

『はぁ?』

 続いて発せられるハヤトのその言葉に、これまた同じように全員がそう定番のリアクションを返す。

「今回の一件は幽霊がミアやミユにとり憑いて、それで俺に助けを求めてきた、だから俺はその幽霊を助けて…これが今回の一件の全貌」

『……』

 全員、うさんくさそうな顔をしてハヤトを見る。

「あ、やっぱり信じられない?」

「当たり前だ…」

 真っ先にケンがそう答える。

「幽霊なんて居るわけ無いだろ」

 どうやら彼はそういうのを信じない人らしい。

「それに、いきなりそんな怪談話みたいな事言われてもねぇ」

 続いてコゥもそう答える。

「まぁ、無理もないよな」

 二人のその反応を見てハヤトは再びコーヒーを飲み始める。

「だったらいい加減本当の事教えてよ」

 そんなハヤトの行動に苛立ちを覚えたのか、キユが一人そう言及してくる。

「そうは言われても俺にはこれ以上の説明無理だよ、みんなに見せれる証拠も無いし、俺にも詳しい事解らないし」

「どう言う事?」

「夕べ校長に会いにいったんだけどさ、事が済んだら事情を説明してくれるっていったくせに、解決した後会いにいったらどっか行ってたんだよ」

「…あー、校長絡みなのね」

 それを聞いて面々は半分ぐらい納得する。

 校長が絡んでいる件であるのならば、深く追求するだけ無駄だと言う事が何となく解っているからだ。

 それならば今回の一件の不可解な点も何となく納得できるような気ににもなってきた。

「まぁ、兎に角だ、これでおかしな事は起きなくなった、残り二日間、合宿を楽しもう」

 そのハヤトの言葉に一同頷く。

 考えるのが無駄ならばこの際忘れてしまった方が後腐れない。

「で、委員長、今日のスケジュールって何なんだ?」

 ハヤトはそうコゥに尋ねる。

「今日は自由行動よ、本日に限りグループで行動しなくていいし、節度ある行動であればある程度は黙認されるそうよ」

「随分アバウトだなぁ」

「まぁ、学園側が直接そう言った訳じゃないけど、大体そういう内容だったわ」

 自由が売りの獣耳学園とはいえ一応学園、それなりに形式化した文章で注意事項を作ったのだろうが、要約すれば結局そんなところだったのだろう。

「んじゃどうする、何時もどおりグループで行動するか?」

 そう切り出したのはケンだった。

 犬人の性なのだろう、一匹狼を気取っても集団での生活に慣れてしまった以上、今更一人で行動し辛いのだろう。

「そうね、せっかく昨日から海も解禁になった事だし、海水浴といきましょうか」

 そのケンの意見に賛同したのはコゥだった。

 委員長と言う立場もあるのだろうが、学園が始まって約4ヶ月、13クラスの面々以外にまだ親しい知り合いもいないのだろう。

 よって選択肢無しにこの面子で行動するしかないのだ。

「賛成1ー」

「同じく賛成2」

「…賛成3」

 ミア、キユ、ミユの順にそう賛成していく。

「あ、俺はパス」

 そんな中、ハヤト一人がそう反対論を述べる。

「え、どうして?」

「ちょっと用事があるんでね、なーに、昼食後ぐらいにはみんなと合流するから」

 トッ…

 ハヤトはそう言うと席を立ち足早に去っていく。

「あ、ハヤト…」

 それこそ、他の者達が声をかける暇すらなくだ。

「…あいつさ、最近付き合い悪くねぇか?」

 最近とは言ってもここ二日程の話である。

「確かに、何か裏でこそこそ動いてるって雰囲気よね」

「ええ、…ひょっとして何かしらのスクープが!?」

 スクープ大好き兎人キユが目を輝かせながらそう言う。

「んー、じゃあ後でも追うか?」

「でももう居なくなっちゃったから追えないよ」

 ミアはハヤトの居なくなった席を名残惜しそうに見ながらそう言う。

「選択肢無しだな、まぁ、昼には帰ってくるって言ってんだ、それまでは俺達だけで海を満喫しようぜ」

 現実的な意見であるが

「そうね、私達は楽しみましょう」

 注意、誤字ではない。

「は?」

 ハヤトが居なくなった事で13クラスの戦力図は一変する。

「さぁ、それじゃあ海に行きましょうか」

 過去にも同じ状況があったが、ハヤトが居ない今、13クラスでは男子はケン一人のみ、そんな状況で彼のアイデンティティが尊重されるはずがなかった。

「ねぇねぇ、私さ、よくアニメやマンガでやってる砂浜に人埋めるのやってみたい」

「えー、せっかくだから海に沈めてみようよ」

 委員長の呼びかけに対し、さらっとそう言うミアとキユ。

「え、おい、てめぇら何を言って…」

 そう抗議しようとするケンだが

 ガキン…

「は?」

 その一瞬の隙をついてコゥがケンの首に輪をはめる。

「さー、みんな行きましょう」

『おー』

 ズール、ズール、ズール…

 皮肉たっぷりに、犬人ケンは首輪をつけられた犬の如く、女性陣に引っ張られていくのであった。

「放せぇぇーーー!!」

 例えるならば予防注射を嫌がる犬のように、悲しげに叫ぶケンであった。



 昼。

 宣言通りにハヤトは食堂にその姿を表した。

「あれ、ケンは?」

 面々を見回してハヤトはそう言う。

「んー、多分今頃海の底に沈んでるんじゃないかな」

「魚の餌になってるかもしれないわね」

「かもねー」

 女性陣はそんな恐ろしい事を言い合いながら楽しげに笑っている。

「はぁ?」

 その様から見て、おおよそ彼がどういう目に会ったのかが想像できる気がした。

「…それで、あいつはどうしたんだ?」

 少々間を置いて、改めてそう尋ねる。

「えっとねー、砂浜に埋めようとしたら急に暴れだしてそのままどっかに走って行っちゃった」

「…そりゃ逃げるだろ、普通」

 ミアの言葉にそう小さくツッコミを入れながらハヤトは苦笑する。

「ハヤトこそどこ行ってたのよ、そんな格好して箒まで持って」

 そう、食堂に現れたハヤトは帽子と手袋を装備し、箒にゴミ袋とまるで清掃屋さんのような装備をしていた。

「ん、見りゃ解るだろ、掃除だよ」

「だからどこの?」

「墓掃除」

「は?」

 ハヤトはとりあえず全ての装備を外してミア達と同じく席に座る。

「今朝も言ってただろ、お前にとり憑いてた幽霊さんの墓を掃除しにいってたんだ」

「ハヤト君、まだそんな事…」

「墓っていうのは一種の領域であり結界なんだ、だからちゃんと綺麗にしとかないとそこで眠る人達が辛くなるし、そのせいで悪さする奴等もでてくる、みんなが幽霊信じないのは別に構わないけど、死者に対する念は忘れちゃいけない」

『……』

 皆、別にそこまで躍起になって信じていないと主張するつもりはないが、ハヤトのその言葉は不思議と説得力があるように聞こえた。

「ハヤト、それって人族の人の考え方なの?」

「違うよ」

「じゃあ、日本人?」

「それも違うな」

「んー、じゃあハヤト個人の考え方?」

「近いけどそれも違う」

 ミアの問いにハヤトはそう答えていく。

「えー、じゃあ…」

 なおもミアはハヤトに質問を投げかけようとする。

「…ねぇ、キユちゃん」

 その光景を見ながらコゥがキユにそう話し掛けた。

「何?」

「ハヤト君、今日は随分お喋りじゃない?」

「お喋りっていうか口が柔らかいよね」

 別にハヤトは無口ではない、自発的にあまり話そうとしないだけで、会話の量は至って普通である。

 だが、質問に対する受け答えに関してハヤトは口が堅いと言えよう。

 特に彼本人に関する問いに対して曖昧に返しあやふやにするケースが多い。

 その点を考慮するならば、今のハヤトは大分対応が柔らかい。

「こうやって見てると夕べの事が嘘みたいよねぇ…」

「そうねぇ…」

『……』

 ボッ…

 お互いそう言い合い、その直後、顔を真っ赤にして倒れる。

 どうやら忘れていたらしく、夕べの事を思い出し自爆したようだ。

「ふぃー、遅くなっちまった」

 そんな場にケンが姿を表す。

「おー、奇跡の生還おめでとう」

 ハヤトは多少皮肉混じりでそうケンに言う。

「抜かせ、てめぇが居ないせいで酷い目にあっちまったじゃねぇか」

「悪い悪い、でもそれは俺のせいじゃなくて女性陣のせいだろ」

 二人はそう言い合って女性陣を見る。

『……』

 女性陣は実にさわやかな笑顔をして誤魔化そうとしていた。

「ちっ、…っと、そうだハヤト」

「ん?」

「お前宛てのラブレターを預かってきてんだ」

「ラブレター?」

 ピキーン

 その言葉に逸早く反応したのは当然ミアであった。

「ほれっ」

「ああ」

 ケンはその手紙を取り出してハヤトに渡す。

 手紙を受け取ったハヤトは早速それをあけようとするが

「貰ったぁ!!」

 バッ!!

 その手に持たれている手紙を奪い取ろうとミアが彼に飛び掛る。

 まさに獲物を捕らえる猫のような瞬発力であったが

「甘い…」

 スカ…

「にゃ!?」

 ズザアァァ…

 予めその行動を予測していたハヤトのスルーにより、ミアの体は目標を失い勢い余って地面をスライディングする事となった。

「毎度毎度同じ行動パターンは止めろよ」

 パサ…

 そう言いながらハヤトは手紙の封を切り、中身を見る。

 シンプルに紙が一枚、しかも白地に黒い文字、手紙自体も何の装飾もないただの手紙。

「…ん、これって」

 しかも内容が内容、とてもラブレターと呼べる代物ではなかった。

「なぁ、ケン」

「ん?」

「この手紙、どこでどんな子から頼まれた?」

「んー、裏山沿いの海岸で…」



 約一時間程前。

「はぁはぁ、ここまでくりゃ大丈夫だろ」

 命からがら女性陣から逃げてきたケンは息を切らしながら周囲を見回した。

「しっかし、随分遠くまで来ちまったな」

 これでは宿に帰るだけで一時間はかかってしまいそうだ。

「ち、とっとと戻るか」

 そう思いすぐに宿に戻ろうとするが

「あの…」

「ん?」

 突如、後ろからそう呼び止められる。

 振り返るとそこには一人の少女が立っていた。

 とりあえずの第一印象は髪の長い少女だと言う事。

 おそらく年齢は自分達と差ほど変わるまい。

 獣耳学園指定の服を着ていない事から地元の子なのだろうと推測される。

 麦わらの帽子を深く被っているのでどこの種族かは解らず、顔も良く見えない。

 だが、その黒く長い髪が兎に角印象的だった。

「何だ、俺に何か用か?」

「これをハヤトさんに渡してもらえませんか?」

 そう言って少女は一通の手紙をケンに差し出す。

「んー、あいつに手紙?」

 そう言いながらケンは思わずその手紙を受け取ってしまう。

「そりゃ構わねぇけど、何だって…ありゃ?」

 一瞬、受け取った手紙に視線を移した隙に、少女の姿は見えなくなっていた。

「んだよ、こんな物人に押し付けやがって」

 だからといってそれを投げ捨てる事も出来ず、かといって根が真面目なケンは中身を勝手に見る事も出来ず、渋々郵便屋さんをする事になるのであった。



「そういう訳で、確かにお前に渡したからな」

 説明終わりとばかりにケンはそう言って状況説明を打ち切る。

「ああ、サンキュー」

「へへ、それよりよ…」

「ん?」

 言動のせいだろうか、ケンの目つきが急にいやらしくなったように思えた。

「お前どこであんな可愛い子と知り合いになったんだ?」

「可愛い子って、お前帽子で顔とか見えなかったんだろ」

「いやいや、ありゃ絶対可愛い子だぜ、なんつーかそういうオーラが出てた」

「オーラねぇ…」

 ハヤトはそう言って頭を抱える。

「それで…お前は自分の後ろで危ないオーラ出してる奴には気づかないのか?」

「は?」

 ゴゴゴゴゴ…

「ケーンー…」

 マンガであるならキャラクターベタ塗りで目の所だけ白く塗られている猫人の姿が描かれていただろう。

 ジャキン!!

 と言う音がなったかどうかはともかくとして、両腕を交差させたミアが爪が大きく伸ばされる。

「猫人奥義、キャットフィンガークロススペシャルッッ!!」

 ミアの叫び声と共に彼女の爪は幾重にも弧を描く。

 両腕から放たれるキャットフィンガー。

 それはあたかも無数の正方形を作り出していくように繰り出され、幾本もの線と線がクロスしてケンの背中に血の十字架を幾つも作り出す。

 ズバァ…

「ぎゃああぁぁーーーーー!!」

 …こいつぁ痛いぜ。

 当然の如く、ケンが悶絶して倒れこんだのは言うまでも無いだろう。

 一方ミアは

「滅殺!!」

 とか何とか言いながらおかしなポーズを取っていたりなんかもした。

「やれやれ、文字通り必殺技だな」

 冥福を祈るとばかりにハヤトはケンに手を合わせてそう言う。

「そう思うんだったらこの技を喰らう前にその手紙をこっちに渡しなさい」

 どうやらミアの目的はこの手紙のようだ。

「断る」

「なっ!?」

「これは俺宛ての手紙だ、よってミアには渡せない」

「そう…ならば愛するハヤトを倒してでも奪い取る!!」

 どうやら完全に格闘マンガモードに入っているらしい。

 そう言うと同時にミアは爪を構えてハヤトに飛び掛っていた。

 ジャキン…

 先程とほぼ同じモーションで爪が伸ばされ

「キャットフィンガークロススペシャルッッ!!」

 シャキィィーーーン!!

 これまた先程と同じように、網の目のような斬撃がハヤトに向かって放たれてくるが

 パラパラパラ…

 切り裂かれたのはハヤトの体ではなく、彼が持っていた紙の方であった。

「ああっ、手紙がぁっ!?」

 そう悲鳴を上げたのはハヤトではなくミアの方であった。

 手紙はミアの技によって細切れとなり分解される。

「おー、すげぇすげぇ、お陰でシュレッダーにかける手間がはぶけたよ」

 どうやら確信犯であったようだ。

 最初からミアを挑発し、手紙を処分する手筈だったらしい。

「そんなぁ、どうしてぇー!?」

 手紙が破れた事にだろうか、それとも自分の技がかわされた事に対してだろうか、ミアはそう抗議の声をあげる。

「ふ、俺の前で技を見せたのが運の尽きだったな、その技の利点は瞬間的に網の目状に繰り出される斬撃によって回避が困難な所、だが同時に欠点も生まれる、それは繰り出す斬撃によって相手を目視できなくなり距離間が狂う所だ、言わば面の攻撃、よって五寸の見切りと変わり身の術を使えば容易に相手をだます事ができる」

 まるでどこぞの格闘マンガのように解説をするハヤト。

 そして…

「そして、日本人に同じ技は二度通用しない」

 ビシッ…

 ミア、破れたり。

 …と言わんばかりに、どこぞのマンガの闘士のようにミアを指差すハヤト。

「むむむ、ならば、猫人族正統後継者だけが使える、未だかつて誰も見た事の無い猫人族最終奥義をっ!!」

 ジャキン。

 再び、腕を交差させて怪しげなポーズを取るミア、先程とは違いやや前屈姿勢で右足を後ろに左足を前に伸ばし、地を蹴って攻撃をしかけようとするミアだが

「いい加減止めろっての!!」

 スパァァーーン!!

「ふにゃん!!」

 何時ぞやのように、どこからともなく取り出したハヤトのスリッパによってその技は潰されてしまう。

「ったく、俺も多少悪乗りしたが、お前、当初の目的はどこに行ったんだよ」

「あ、そうだ、手紙には何て書いてあったのよ!?」

 最早手紙が消失してしまった今、ハヤトから聞き出す以外方法はない。

「んー、…デートのお誘い」

「なっ!?」

 さらりと言うハヤトに対してミアのリアクションは解り易いほど解り易かった。

「明日の晩にまた会いましょうってね」

「…また、またって何よ、ひどい、ハヤトってばそんなにあっちこっちで女の子たぶらかしてるの!?」

「誰がそんな事を…」

 するかと言って一応平和的に抗議し、説得しようとするが

「この浮気者ぉっ!?」

「誰が浮気だ、この馬鹿猫ぉっ!!」

 スパァァーーン!!

「ふにゃん!!」

 ミアの一言と同時に、ハヤトは再びスリッパにてミアの頭を軽快な音をたてて殴る。

「ったく」

 ミアの度重なる言動に対して眉間にしわを寄せるハヤト。

「…あら、でもハヤト君」

「ん?」

 そんなハヤトにコゥは思い出したと言わんばかりのそう声をかける。

「明日の夜って確かキャンプファイアーと肝試し大会があるから自由行動は無理よ」

「え、そうなの?」

「うん、全員参加が義務付けられてるから、破ったらペナルティを受けちゃうわ」

「うーん、それは困った、…仕方が無い、一夏の恋愛は諦めるとしよう」

 ハヤトはみんなに背を向け、そう言った言葉を口にするが

 ニヤッ…

 その口元は誰にも見えないところでやらしい笑みを浮かべていた。


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