四時限目『壮絶、食料争奪バトルロイヤル(後編)』
〜 四時限目『壮絶、食料争奪バトルロイヤル(後編)』 〜
「…で、こっちがわざわざ山登って来たってのにそっちはそれかよ」
『あ、あはは…』
ハヤトの言葉に苦笑するケン、キユ、コゥ。
「野菜はまぁ解るとしよう…」
三人の前に並べられていたのはまず痩せこけた野菜の数々だった。
ニンジン、キャベツ、ジャガイモ、タマネギ、まぁありきたりな物ばかりだ。
どれも痩せこけているのはおそらく他のグループがすでに搾取した後だったのだろう。
どうやらそれらは泥だらけの様から察するに、ケンが取ってきたようだ。
「しかしだ…」
問題はその横にある物。
「このお菓子と牛乳は一体どっから持ってきたぁ!!」
どう見てもこの近隣で手に入れるのは不可能と思われる品々。
「え、えっと、ほら、育ち盛りだから…」
とキユ。
「わ、私は委員長だから…」
とコゥ。
「理由になってねぇよ…」
「まぁまぁ、リーダー落ち着いて」
となだめようとするミア。
「え、何時の間にか俺リーダー!?」
『あれ、違うの?』
と一同そう言った眼でハヤトを見る。
「何か、頭痛くなってきたよ…」
思わず絶句するハヤト。
「落ち込んだって状況は好転しないぞハヤト」
「お前が言うなよ!!」
しかし、ケンの言う事は確かであった。
手元にあるのは猪肉、痩せこけた野菜類、お菓子類、牛乳。
これではとても校長を満足させる料理は作れない。
「…ん、待てよ」
そこでハヤトはある一つの考えを思いつく。
「(良く考えたらこんな見も知らぬ土地でまともに食材が手に入るわけが無い、手に入ったとしてもせいぜい小さな野菜か魚貝類、とても料理なんて作れるわけが無い、だったら…)」
結論を出すには情報が足りなかった。
「委員長!!」
「は、はい?」
突如呼ばれた事に驚いたのか、それとも何も調達してこれなかった事に対する負い目か、通常以上の過敏な反応を見せるコゥ。
「記憶力は良い方だよな」
「ええ、まぁ」
「悪いけど、このバトルのルールが説明された時の校長の台詞を出来るだけ正確に言ってくれないか」
「うん、いいけど…」
そう言ってコゥはおそらく一字一句間違い無く、校長の言葉を再現していく。
「なお、この一件に関する採点はワシ自らつけるので生徒諸君は…」
「そこだ!!」
「な、何?」
「校長は本当にそう言ったんだよな」
「え、ええ、間違いなく」
コゥは自分で確かめるようにそう答える。
「(考えろ、考えるんだハヤト、これは料理対決じゃない、食料争奪バトルロイヤルと校長は言っていた、料理が全てではない、ならこのバトルには何か、…そう、隠された何かがあるはずだ、このバトルの裏に隠された真実を見抜く事が出来れば)」
誰も料理勝負など一言も言ってないのだ。
料理で点が決まるとは言っていたが、同時に料理だけで点が決まるわけではない。
「ハヤト?」
考え込むハヤトが不思議に見えたのかミアはそう呼びかける。
「…ミア」
「何?」
「みんなで料理を通じて楽しくやる方法って何だと思う?」
「んー、料理を楽しく作って、美味しい物をみんなで食べる事…かなぁ」
「だよ…な」
ミアの言葉を聞いてハヤトは核心する。
「ねぇ、どうしたの、何か良いアイデアでも浮かんだ?」
それを見ていたキユがそう声をかけてくる。
「ああ、何とかなりそうだ、ミユ」
突然名を呼ばれた事に驚いたのかミユの体が一瞬ビクッっとする。
「確か米だけは全グループに支給されるんだったよな」
「うん…」
「ダシの方はどうだ?」
「後少し…」
ミユはそう答えると鍋の中のダシを小さな皿に少したらしてハヤトに渡す。
「…よし」
ハヤトはダシの味を確認すると
「んじゃー、残り四人」
「俺達はおまけかよ」
「いいや、とんでもない、料理はみんなで作らないとな」
「え?」
「ほらほら、これ付けて皮むきを始めてくれ」
そう言うとハヤトはエプロンと包丁を全員に手渡す。
『で、でも…』
目に見えてたじろぐ女性陣。
「なーに形なんて気にするな、鍋に入れれば解んないって、怪我しないように気をつければいいよ」
「お前はどうするんだ?」
「俺は足りない物を探してくる」
「何を作るつもりなんだよ」
「キャンプや合宿の定番メニューさ、とにかく怪我だけはすんなよ、楽しくやろうぜ」
タッ…
ハヤトはそう言うと宿の中へと走っていく。
「…どうする?」
それを見送った四人はお互いに顔を見合わせる。
「どうするって…」
「やるっきゃねぇだろ」
キュ…
言うが早いか行動が早いか、ケンはすでにエプロンを身に纏っていた。
「わっ、似合わなーい」
と、ミアのツッコミが入る。
「ほっとけ!!」
確かに筋肉質の彼の体にややカラフルな色のエプロンは不釣合いであった。
「ねぇ、このエプロン、サイズが合わないんだけど…特に胸のあたりが」
「コゥちゃん、それすっごい嫌味よ」
キユがじと目でコゥを見る。
「コゥちゃんは特大サイズだもんねー」
ミアでなければセクハラ的な発言である。
「ほらほら、喋ってないで皮むきはじめようぜ」
そんな光景を横目にケンは意外に手際よく皮をむきはじめていた。
「えーっと、こう…で良かったっけ?」
「私に聞かないでよ…」
「わぁ、ちょっとコゥちゃんこっちに包丁向けないで!!」
ケンに対極するように女性陣は散々な状況であった。
「おいおい、ハヤトも言ってたが怪我だけは…って、どわ!!」
カッ…
その状況に忠告しようとケンが振り向くと突如一本の包丁が手元にあるまな板に突き刺さる。
「あ、ごめんねーケン」
「ば、ば、馬鹿野郎、危ねぇだろうが!!」
「あら、女の子に向かって野郎は間違いよ」
「委員長も冷静に訂正してんじゃねぇ!!」
「ねー、ジャガイモって確か芽とらなくちゃいけないんだったよねぇ、どうやって取るの?」
「わぁっ、馬鹿、先端で取ろうとする奴がいるか!!」
本来、こう言った状況では中立を保つケンだが目の前で怪我をされてはたまったものではないと思ったらしく。
「ほら、包丁の根元に角があるだろ、これでこうやって…」
『おー』
手際よく芽をとっていくケンの包丁さばきに女性陣からそんな声があがる。
「ケンって割と上手ね」
「まぁ、料理は作れなくてもこれぐらいの雑用なら…」
「獣耳学園はバイトは禁止よ」
ビクッ
コゥのその一言にケンの体が見事にビクつく。
「い、い、委員長、な、何で…」
ゆっくりとコゥの方に振り向くケン。
マンガだったら錆付いた機械のようにギギギギとか言う効果音が付いていただろう。
「あら、大当たり?」
そう言ってコゥはにっこり笑う。
「…あ」
そこでケンはようやく自分が誘導尋問された事に気づく。
「くそー、しまっ…」
文句を言おうとするケンだが
「へー、ケンってバイトなんてしてたんだ」
「不良気取ってる割に意外と真面目なんだね」
その様子を見ていたミアとキユがコゥに続いて介入してくる。
「あらあら大変、みんなにばれちゃったぁ」
わざとらしくコゥがそう言う。
「困ったわね、私達包丁もろく使えないのよぉ」
「ひ、卑怯な…」
つまり、ばらされたくなかったら自分達にやり方教えろと言う訳だ。
『さぁさぁ…』
「何で俺がぁ…」
約三十分経過。
「おっ待たせー」
探すのに手間取ったのか、息を切らせながらハヤトが帰ってくると
「なっ…」
そこには信じられない光景が待っていた。
「ケ、ケン…」
ドサッ…
手にもっていた袋が床に落ちる。
無理もない。
その彼の姿を見れば誰もが動揺するだろう。
床に広がる赤い液体。
そして、変わり果てたケンの姿。
「何で、何でこんな事に…」
その光景から視線をそらしてしまいそうになり、思わず足が一歩下がる。
出来る事なら逃げ出してしまいたい。
だが…
「助けてくれー、ハヤトー」
泣きながらハヤトにすがりついてくるケン。
「…ケン、お前」
その頭にリボンらしきものが着けられているのはおそらく見間違いではないだろう。
いや、あろうことかほんのりと薄化粧までさせられているではないか。
「ううう、ハヤトー…」
「はぁ…、一体、何があったんだ?」
「えーっとね、皮むきがケンのお陰で予想以上に早く終わってみんなで遊んでたの」
状況の飲み込めていないハヤトにミアがそう説明する。
「(みんなで遊んで、…ではなくてみんながケンで…の間違いなのでは)」
どうやら地面のこの液体はケチャップか何かのようだ。
この状況からケンが相当暴れた事が解る。
「あはは、ちょっと遊び過ぎちゃって…」
「…委員長」
その言葉とは裏腹に、彼女の手にはこれから塗られるであろう口紅が握られていた。
「調理場に化粧品の持込は厳禁だ」
「ハヤト君ってそう言う所固いよねー」
キユが悪びれも無くそう言う。
もはや場は女性の優位と化しているようだ。
「(まったく、一体何があったんだか…)」
聞いた方がいいのやら、聞かない方がいいのやら、少なくとも現状で深入りするのは得策ではないだろう。
「ミユ、見つけてきたぞ」
そう考えたハヤトは本来の目的を達成するために調達してきた品をミユに渡す。
「いけるか?」
「うん…」
「そっか、ミユの腕なら安心だ」
ハヤトの言葉にミユは少し笑ったような気がした。
「ミユちゃん、それ何なの?」
その光景が面白くなかったのかミアがそう言って乱入してくる。
「ルーの素…」
ミユが袋から取り出したのは一見してチョコレートのような板状の塊だった。
「ルーの素?」
「カレー粉だよ」
「カレー粉、って事は私達カレーを作ってたの?」
「ああ、これが見つからなかったらシチューか肉じゃがになる予定だった、ギリギリセーフってところだな」
残り30分。
カレーが煮込まれるにはやや足りないが、規定の時間ピッタリに試食されるわけではない。
「鍋ならではの時間技だな」
調理は時間までだがその後冷めないように火はつけていても構わない。
つまり他のグループが試食されている間も煮込む時間があるというわけだ。
「…とは言っても、一品だけってのは面白くないなぁ」
カレーライスのみではどうにも工夫がない。
「…んっ?」
そこでハヤトの目の前に飛び込んできたのは残った材料。
「…ふむ、やってみるか」
ハヤトはフライパンに油を注ぎ火をつける。
「ハヤト君、何か作るの?」
その様子を見ていたコゥがそう聞いてくる。
「ああ、カレーだけじゃ食をかきたてる歯ごたえが無いからな」
「でも、もう材料なんて残ってないよ」
「そこにあるスナックを使う」
「えっ!?」
突如指差されたスナックに対してキユが声を上げる。
どうやらお菓子類は彼女の持参品だったようだ。
「スナック系だって小麦粉や卵を使ってそれなりの料理に仕立てる事ができるんだ、勉強しろ、女性陣」
『うう…』
またも耳を抑えて聞きたくないといった感じでうずくまる三人。
そして、審判の時がやってきた。
すでに大半のグループがその料理を試食されたが未だ校長の舌を唸らせる品はなかった。
それもそのはず、満足な材料も手に入らず、出来そこないのような料理しか出来ないのだ。
いずれのグループも平均点といった所だった。
そうしている内にハヤト達の順番が回ってくる。
「では、こちらが我がグループが作った料理です」
バッ!!
ハヤトは食器を丁寧に校長の元に運び、料理を披露する。
やるからには本格的にという校長の趣味で、料理を運ぶ際はトレイで運び、各グループのリーダーがコックの格好をして料理の解説をしなければならないらしい。
「(…何時の間にか本当にリーダーにされてるなぁ、俺)」
などと愚痴をこぼせるのは余裕がある証拠なのだろうか。
「料理はカレーライス、添え付けにスナックを卵と小麦粉で加工した揚げ物を用意してます」
「ほぅ…」
校長の目つきが鋭くなる。
「(やっぱり、この威圧感は慣れないなぁ)」
どうにも、校長先生はハヤトがお気に入りのようらしく。
他の生徒には見せない、当てない雰囲気をぶつけてくる。
「どれ…」
パクッ
スプーンを口に入れる校長。
すると…。
「むぅ!!」
校長の両目がギンッと見開かれる。
「こ、これはぁ!!」
これがマンガなら背景がベタ塗りで集中線が多数引かれていたことだろう。
「一見して何の変哲もないカレーライス、だがこのコクの深み、そして全体的にまとまったまろやかな味」
「ダシは約二時間きっちり煮込んだものを使い、最後の仕立てに牛乳を使ったためです、そのため日持ちはしませんが味の深みは増しています」
「ぬぅ、なるほど、そしてこの肉、ただの肉ではないな」
「ええ、猪の肉を保存用に塩漬けして数日間寝かせたものです、おかげで猪肉独特の臭みがある程度は取り除かれその硬さも緩和されてます」
「しかも、カレーライスに使用する事によって肉の臭みを殆ど無くしたと言う訳か」
「はい、加えてその塩味がカレーの味を更に引き立ててくれます」
あの熊人のおじさんに感謝せねばならなかった。
わざわざなかなかに良い部分の肉を分けてくれたのだ。
「ふふふ、猪の肉など久しぶりに食べるのですぐには解らなかったぞ」
そう不敵に笑う校長。
この際どこでどのようにどうやって食べたかは聞かないでおこう。
「カレーライスにありがちな歯ごたえの無さをこの添えつけで補うアイデアもなかなか」
「元々がお菓子のスナックだったお陰で全体的なカロリーがちょっと高めになってしまいました、栄養面を見るといささか偏りがちかと…」
「ふむ、確かにルーに比べて肉と野菜の比率があってないようだが…」
「ええ、どうやら皮むきの際、用意していた野菜が多量に渡って犠牲になったようです」
ハヤトが戻って来た時、確かに野菜の皮むきは終わっていたが、その量は行く前と行った後で約半分以下となっていた。
「それで形や大きさがバラバラなのか」
「いやー、一人を除いて内の女性陣には良い勉強になったでしょう」
ハヤトは苦笑いし、壇上からその女性陣を見下ろして聞こえるようにそう言う。
すると聞こえないようにするためか耳が痛いのか、檀下ではお馴染みのポーズでうずくまる三人がいた。
「まぁ、みんなそれなりに楽しそうでしたけどね」
最後にそう付け加えるハヤト。
「ふ、ふふふ、ははははは、結構、大いに結構」
校長は愉快愉快と豪快に笑い始める。
「良くぞこの情報の少ない状況下でそれだけの読みができたものだ、よろしい、このバトルのルールを良く理解し、料理、そしてグループの連携を見せた君達に満点をくれてやろう」
「ありがとうございます」
校長の言葉にハヤトはにっこりと笑い返す。
『おおおぉぉぉーーーーー!!』
それを見ていた生徒達は歓声を上げる。
良くも悪くも色の強い獣耳学園にて一際濃いグループだからだろうか。
どうにもハヤト達のグループは注目の的だったようだ。
特にハヤトとミアは学園の注目の的だ。
俗に言うヒーロー的存在とヒロイン的存在である。
「(やれやれ、目立つのは嫌いなんだがなぁ…)」
もっとも、当の本人はヒーローどころかピエロを演じている気分であった。
「(まぁ、何はともあれどうにか寝床は確保できたな)」
とりあえずは現状に満足しようと思うハヤトであった。
しかし、そんなハヤトをあざ笑うが如く、更なる試練が彼等を、いや、彼を待っているのであった。




