三時限目『壮絶、食料争奪バトルロイヤル(前編)』
〜 三時限目『壮絶、食料争奪バトルロイヤル(前編)』 〜
「なぁ、ハヤト」
「何だ、ケン?」
「これは一体どういう趣旨の元に置かれているんだ?」
「お前に解らない事が何故俺に解る」
夜。
日中の興奮が未だ冷めていない獣耳学園の一同が宿に着き、食堂に足を運んだ時にその光景は広がっていた。
並べられた調理台、そして更にその上に並べられた包丁等の調理器具。
カチ…、ボッ。
キュ…、ジャー。
「ふむ、どうやらガスや水道はちゃんと通っているみたいだな」
ハヤトが調理台に近づきコンロのスイッチを入れると火がつくし、水道を捻るとちゃんと水が出た。
「…お前、何冷静にチェックしてるんだよ」
「慌てても驚いてもこの場合仕方ないだろ、なら後のためにちゃんと調べておいた方が合理的だ」
「毎度ながら思うんだが、お前のその性格は人族の性格なのか、それとも…」
「しっ、どうやら強制イベントが発生するみたいだ」
チャーラーラー、ドッドッド、ジャー
まるでラスボスの登場のような効果音と演出が辺りを包み。
ゴゴゴ…
ちょうど上座の位置にある台がせりあがっていく。
『諸君…』
ご丁寧に、誰もが予測できるであろう、まさしくラスボスの登場であった。
『日中は種族間の交遊を存分に広げられたかな…』
その正体は、言わずとしれた我らが獣耳学園の校長だった。
『古来より、合宿とは己が身を鍛え、仲間との絆を深めるための行事である』
「…そう、だったっけ?」
校長の言葉を聞いたケンがハヤトに確認をしてくる。
「だから、俺に聞くな」
『そして、広い世界に旅立った者達がその合宿を共にした者達の事を一様に皆こういうのだ、同じ釜の飯を食った仲間だと』
何を思い出したのか校長は見事な男泣きをかましてくれる。
「…なぁ、ハヤト」
「何だ?」
「あの言い方だとまるで…」
「ケン、それ以上先は言わないほうが良いと思う」
一度ぐらい…いや、一度だけで結構だから校長の経歴と言う奴を怖い物見たさで知りたいものだ。
『しかし、それを語るには苦楽を共にすると言う大前提が必要である』
「あ、嫌な予感…」
これが某アニメであればハヤトの頭辺りに一瞬光が走った事だろう。
『よって、これより食料争奪バトルロイヤルを行う!!』
「…ハヤトの勘って良く当たるよな」
「それは誉めてるのか、それとも皮肉か?」
「両方だ」
そんなハヤトとケンのやりとりはある意味貴重だっただろう。
『では、各自日中組んだグループにて行動する事、内容は追って指示する』
『おおおぉぉぉーーーーー!!
何故ならお祭り好きの獣耳学園の生徒達はこの状況を嬉々として受け入れていたのだから。
「なぁ、ハヤト、日中組んだグループってさ…」
「だから一々俺に聞くな、聞かなくても解ってるだろ」
「…だよなぁ」
ハヤトとケンの視線の先には同13クラスの面々が揃っていた。
「…で、今回のイベントの内容は?」
「ルールは簡単よ、この宿、裏山、海の三箇所から食材を調達してきて料理を作る」
ハヤトの言葉にコゥが説明を始める。
「海の幸、山の幸、…宿で何を調達しろってんだ?」
「それで出来上がった料理で宿の部屋が決まるそうよ」
「…何?」
コゥの言葉に一瞬頭が真っ白になるハヤト。
「採点は校長が…」
「ちょ、委員長、さらっと流さないでくれ、部屋が決まるってどういう事だ?」
「だから部屋よ、寝る場所、料理には点数がつけられてその点数で泊まる部屋が決められるの、最下位ランクになると同じ部屋に泊まらされるか殆ど野宿らしいわ、しかもこの合宿の間ずっとね…」
「…な、何考えてんだよこの学園は」
流石のハヤトも常識という言葉を考えてしまう。
「だからみんな必死でしょうね」
「…ああ、なるほど、そう言う事か」
それこそが校長の狙いだったのだ。
始めに校長が言ったように、これは確かに合宿なのだ。
最終的に種族間の交流、結束がより強くならなければ意味が無い。
そこでこの馬鹿げたルールが適用されたわけだ。
誰が好き好んでわざわざ合宿にきてまで野宿などしたいものか、ならば答えはたった一つ、勝たなければならない。
そしてこれはグループ行動。
勝つためには力を合わせていかなければならない。
つまり、否応なしに協力しなくてはならないのだ。
「なんて性質の悪い」
そう、校長が出したたった一つの条件でこれはすでにゲームでは無くなった。
合宿の間の生き残りをかけたバトル。
まさに、バトルロイヤル。
「何か本気でやるのが馬鹿らしくなっ…」
「私はハヤトと一緒なら同じ部屋でも、例え無人島でも…」
「本気でやるぞ!!」
ハヤトが冗談じゃないとばかりにミアの言葉を打ち切るように言うと。
「なら手に入れる食材、そして作る料理が重要になってくるな」
珍しく、と言っては失礼かもしれないがケンが真剣にそう言ってくる。
彼は彼なりにこの合宿をエンジョイしたいのだろう。
そのためには泊まる場所、休む場所は必要不可欠だ。
「校長が採点するって言ってたな」
「ええ」
「じゃあ校長の好みに合わせた料理が良いと考えた方がいいわけだが、…なぁ、ハヤト、虎人って何が好みなんだ?」
ケンが当然の如くそうハヤトに尋ねる。
「だーかーらー、一々俺に聞くな、俺が何でもかんでも知ってると思ったら大間違いだ」
「ん、そうなのか?」
「ああ」
「へぇ…」
ハヤトの言葉にケンがそう一呼吸入れ。
「…じゃあ、虎人の主食って何なんだ?」
愚痴をこぼすようにそう言うと。
「んー、確か虎人の主食は草食動物だって聞いた事がある、虎人は基本的に野菜等の草類は食べず、草を主食とする草食動物を食べてそう言った栄養を補給するらしい、よって基本的には肉、後は甘い果物の類も好むらしい」
そうスラスラと説明するハヤト。
「…知ってるじゃねぇかよ」
「知らないとは言ってない」
「お前、性格悪いなぁ」
ケンのそんな声を無視するハヤト。
「じゃあ問題はその食材が手に入るかって事と、料理を何にするかね」
脱線しがちな話をコゥがうまい事まとめてくれる。
「肉って魚じゃ駄目なの?」
猫人らしい意見をミアが提案してくる。
「駄目って訳じゃないが、基本的に脂身が多い方が良いみたいだ」
「マグロ…何て流石にここじゃ捕れないしなぁ」
魚で脂身がある大物と言えば真っ先に浮かぶのが大抵マグロであろう。
近場に海はあるものの所詮はしれている。
大物は期待できないだろう。
「…となると、山で獲物を捕らえるか?」
「いや、それはリスクが高すぎる、獲物が居るかどうかも解らないし、迷いでもしたら取り返しがつかない」
狩りは犬人の得意とする所だが、流石に知識の無い場所で狩りをするわけにも行かない。
「じゃあ、何かで代用するしかねぇな」
「時間的にそれしかないな」
まずもって狩りなどしている時間が無い。
「ねぇ、料理はどうする?」
『……』
キユの意見に一同一瞬顔を見合わせ、沈黙が流れる。
「…どうするってもなぁ」
「ああ、食材がまだ何も見つかってない訳だしまずは食材を探す事に専念し…」
ハヤトがそこまで言ってある重大な事に気づく。
「…待て、皆の衆」
『え?』
「この中で…料理が出来る、いや、この中で料理が得意な奴、手を上げろ」
…シーン。
物の見事に沈黙が流れた。
先程の沈黙はこの事実に対する伏線だった。
そう、食材があっても料理が出来なければ意味がないのだ。
「お、おい、じゃ、じゃあ、料理が出来る奴、手を上げろ」
スッ…
一人、ハヤトのみが手を上げた。
「ちょ、ちょっと待て、ケンはともかくとして女性陣、何で一人も手を上げない?」
それはハヤトにとって目を疑う光景だった。
「ミア…」
「ごめんね、ハヤトのお嫁さんになっても料理だけは出来るかどうか…」
「そんな事聞いてねぇよ」
突っ込みを入れたい所だが今はその状況ではない。
「委員長はどうなの、そういうの得意そうに見えるんだけど?」
「りょ、料理だけはどうにも…炭だったら作れるわよ」
にっこり笑ってそう言うが、ようするに作れないらしい。
「キユ…」
「え、えっと…、わ、私は食べるの専門だから」
そう言ったキユの眼は宙を見つめて泳いでいた。
「全滅か…」
ケンがぼそっと言う。
「…ぁ、あの」
そんな中おずおずと手を上げる人物が一人いた。
「…ミユ?」
ミユだ。
キユの後ろで少しだけ手を上げている。
「りょ、料理だったら…」
「そうよ、女を馬鹿にしないでよ、こっちにはまだミユがいるんだから」
「出来るのか?」
「私が食べるの専門だっていったのはミユが料理専門だからよ」
そう、小さな胸を張って威張るキユ。
「威張っていえる台詞か、それ?」
「うっ!!」
またぼそっとケンが言う。
「…と、とにかく、ミユの料理の腕は私が保証するから」
「そう…なのか?」
「…うん」
「ちょっと、幾つか質問していいか?」
ハヤトは自分の知る料理法のいくつかを問題形式にしてミユに質問していく。
「へぇ…」
その結果は意外や意外、逆にハヤトの料理法の改善を指摘するほどのものだった。
「すごいな、でもどうして…」
どうして始めに手を上げなかったのかと続けて聞きそうになるハヤトだったが、そこはそれ、この兎人の性格を考えれば無理からぬものだったのだろう。
「よし、じゃあミユ、悪いけど俺たちが食材探しに行ってる間に準備しといてくれないか」
「うん…」
ハヤトの言葉に小さく頷くミユ。
「ねぇ、ハヤト」
「ん、何だ?」
「まだ料理決まってないのに何を準備するの?」
ミアとキユがそう聞いてくる。
「何の準備って、ダシだよ」
「ダシ?」
今度はコゥ。
「料理ってのはただ焼いたり煮たりしても駄目なんだ、ちゃんとした下ごしらえをしておかないと味は崩れるし下手すりゃ食材を殺しちまう、食材を生かすにはダシの準備が必要不可欠なんだ、そしてダシってのは基本的に時間をかければかけるほど純度が高くなる、ようするに美味しくなる、だからダシは早めに取っといたほうがいいんだ」
『うう、み、耳が痛い…』
ハヤトのその料理講座に対して、ミア、キユ、コゥの三人はそれぞれ自分の耳を抑えて同じような格好でうずくまる。
「とにかく、後は食材だ、時間の無駄を減らすために散開して調達しよう」
「はいはーい、私ハヤトと組むー」
率先してそう言ったのはミアだった。
魂胆は見え見えだったし、本人もうまく行くとは思っていなかったが。
「…まぁ、いいだろう」
「え、本当に!?」
ハヤトの意外な程あっさりとした言葉に逆に驚くミア。
「(これ以上時間をロスする訳にはいかない)」
と言うのがハヤトの本心である。
「じゃあ、ケン、キユ、委員長は海側を頼む、俺とミアは山側を見てくる、一時間後にまたここで集合って事で」
「ああ、解った」
「よし、では散開…」
「もうすぐ日が暮れるな」
西に沈む太陽を見てハヤトがそう言う。
夏は暗くなるのが遅いとは言っても、時刻はすでに午後六時を過ぎようとしていた。
辺りはこれから暗くなる一方だろう。
すでに太陽は夕日と化していた。
「これで浜辺とかだったらロマンチックなのになぁ」
「我が侭を言うな、料理が出来なかったらロマンチックどころの話じゃないんだぞ」
合宿の期間は一週間。
その期間中ずっと雑魚寝や野宿など考えたくも無い。
「はーい」
「…それにしても」
思っていたより裏山は深そうだった。
一応の山道があるものの解り辛く、道を外れると迷う事間違い無しだ。
「まったく、遭難者が出たらどうするつもりなんだ」
「他のグループの人達は山の麓を探してたね」
ここからでもまだ見える。
麓ではリュックや袋を持った他の生徒達が食材を探してうろつき回っている。
「ああ、麓の方が宿が近いし、山奥より色々な食材が群生しているからな、」
「じゃあ何で山奥の方に向かってるの」
ハヤトは麓を探索する他のグループを横目に一目散に山へと登って行っていた。
「もうすぐ暗くなるし危ないんじゃ…」
至極当然の意見だが、そこでミアはこの状況に気づく。
「(…はっ、そう、そうなのね、人気の無い山、暗い山道、そして突然振り出す雨、二人は雨をやり過ごそうと近くの山小屋の中へ、そこで濡れた服を乾かすために焚き火をつけ、その冷え切った体を温めあ…)」
ミアお得意の脳内暴走が始まる。
「ハヤトキィィック!!」
「ふぎゃん!!」
と、思いきやハヤトの蹴りにより、あっさりと現実世界へとカムバックさせられるミア。
「だからなーに、勝手に妄想ドリームに浸ってるんだよ」
「女の子を蹴飛ばすなんて酷いよー」
「これはちゃんと威力の調整のできる技だから大丈夫だ」
「そういう問題じゃないと思うー」
「そういう問題だ」
ハヤト18の特技の1つ、『ハヤトキック』。
基本的に分類は物理攻撃にて必殺技。
威力調節が可能で使用用途は実に多岐に渡る。
「むー、それでどうしてわざわざ山奥に向かってるの?」
「んー、普通の食材を使って普通の料理を作ったんじゃあの校長を唸らせるのはきつそうだからな、ちょっとレア物を探そうと思ってるんだ」
「レア物?」
「普通とは違う希少な何かさ」
とは言ったものの、すでに山に入ってから三十分が経過しているのに、ハヤト達の背負っているリュックにはまだ一つも食材が入っていなかった。
「…お、見ーつけた」
「え?」
ハヤトの視線の先には小さな建物があった。
山小屋だ。
「山小屋、ハヤトってばやっぱり…」
ミアが再び妄想ドリームを展開させようとすると
「馬鹿言ってないで行くぞ」
すでに無視状態である。
コンコン…
「すみませーん」
扉を軽く叩いて返事を待つ。
灯りがついているので中に誰かいるのは解っていた。
ギィ…
「んっ…」
扉を開けて出てきたのは身長2メートルはある大男。
服装はラフで少し大きめのタンクトップと作業ズボン。
その外見のお陰でその大男が何族なのかはすぐに解った。
その巨体、タンクトップの隙間から見える大きな三日月状の痣。
熊人である。
もっと突き詰めて言うならば月輪熊族のようだ。
「ひゃー」
そのインパクト有る人物に流石のミアも少しひるんでいるようだ。
「何だ、お前達は?」
「俺達はこの山の麓にある宿に合宿に来ている学生です、実は…」
ハヤトは大まかに事情を説明する。
「…で、ワシに何のようだ」
男は興味無いと言った感じで用件を聞いてくる。
「ずばり肉系の食料があったら分けて貰えないでしょうか」
「ほぉ…」
それは確かな威圧感だった。
あの校長に比べるとまだ小さなものの、十分に人を圧倒できるものである。
「貴重な食料を渡せと…」
「はい」
「ちょ、ハヤト…」
ハヤトのその率直な言葉にミアが小声で止めようとするが。
「無論、タダでとは言いません」
ゴソゴソ…
ハヤトはそう言うとリュックの中からある物を取り出して男に見せる。
「これと交換ではいけませんか?」
「むっ、それは…」
「如何です…」
「…ぬぅ、いいだろう」
男はそう言うと小屋の中から多くは無いが、料理には十分な量の肉の塊を袋に包んで持ってきてくれる。
「猪の肉だ、保存用のため多くはやれんが持っていけ」
「ありがとうございます」
そう言ってハヤトは持っていた物を男に渡す。
「では…」
用件が済んだのでハヤトは立ち去ろうとするが。
「待て…」
「はい?」
後ろから呼び止められる。
「麓の宿に合宿と言ったな」
「ええ、まぁ」
「いつまで居る?」
「一週間ですけど」
「そうか…」
「それがどうかしましたか?」
「…忠告しておく、夜の山は危険だ、今時分でも十分危ない、もう来るな」
「…ええ、そう見たいですね、解りました、出来る限りそうします」
ハヤトはそう言って一度礼をし、再び歩き出す。
「ありがとー、おじさーん」
ミアは男が小屋に入るまでそう言って手を振った。
「結構良い人だったね」
「ああ、こうもうまく行くとは思わなかった」
ケン達にも言ったが獲物を狩っている時間はない。
ならば獲物をすでに狩っている人に会って分けて貰った方が効率が良いのだ。
ハヤトは予めそれを予測して山小屋があるであろうこの山奥まで来たのだ。
「お陰で良い食材が手に入った」
その結果に満足そうに笑うハヤト。
「あれ、そう言えば何渡してたの?」
ハヤトの後ろにいたせいでミアはハヤトが男に何を渡したのか見えなかった。
「…知りたい?」
「知りたーい」
「じゃあ、秘密、教えない」
「けちー」
そんなこんなで二人は夕日を背に山道を降りて行った。




