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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第02話「海へ、獣耳学園」
11/80

二時限目『泳げ、不良少年』

 〜 二時限目『泳げ、不良少年』 〜


「ハヤトキィィーーーク!!」

 ゲシィッ!!

「ふにゃん!!」

 ハヤトの容赦ない蹴りがミアの体に炸裂する。

「んー、…あれぇ?」

「てめぇ、何怪しい寝言言ってやがる!!」

「あ、ハヤトー」

 ガバッ…

 ハヤトの言葉など無視してミアは飛びつくようにハヤトに抱きつく。

「えへへー」

「離れろ、この馬鹿猫ぉ!!」

「酷い、私達あんなに愛し合ったのに!!」

「ええい、勝手に人を妄想ドリームに出演させておいてそれを現実にまで引っ張ってくるな!!」

 ゲシッ!!

 文字通り、剥ぎ取るようにミアを体から話して椅子に放り投げる。

「ふにゃん!!」

「いい加減、目を覚ませぇ!!」



 さて、では状況説明をいたします。

 時は遡る事数十分前。



 一路、海を目指して道を走るバスがあった。

『獣耳学園一行(13クラス)様』

 フロントガラスの見やすいところにそう書かれたプレートが張られている。

「なぁ、ケン」

 椅子に座って窓ガラス越しに外を見ながら、ハヤトは前の席に座っているケンにそう話し掛ける。

「何だ、ハヤト」

「獣耳学園は設立してまだ数ヶ月、学年もまだ一年しかいない、だが全校生徒の数は約300人、それでクラスは13クラスあったはずだ、つまり1クラスに約23人の配分となる、しかし、このバスには不思議と教師含めて獣耳学園関係者が7人しか乗ってない、そして7人しか乗っていないバスの面積を考えると激しく計算が合わないと思わないか?」

「回りくどい言い方は人族の癖か?」

「…解った、単刀直入に言おう、何故俺の隣にこいつが座っているんだ?」

「俺が知るか」

 たった一言で会話を打ち切られてしまった。

 説明しよう。

 現在ハヤト達が乗っているバスは、通常の修学旅行等に使う一般的でポピュラーなタイプのバスだ。

 バス内には約40席程の座席が並べられており、1クラスならば余裕で入る広さである。

 しかし、ハヤトの所属する13クラスは色々な問題により生徒数は僅か6人、担任教師を足しても7人しかいない。

 あまりに座席がガラガラである。

 前の席に座るケンは3席をベッドの如くゆうゆうと使い。

 キユ、ミユの双子は仲良く2席に並んで座っている。

 委員長のコゥはチタ先生とどうやら今後の話をしているらしく、中央の歩くためのスペースを隔てて会話をしていた。

 そして問題のハヤト。

 彼は一番後ろの席の窓際に座っていた。

 むしろ追い詰められていると言ったほうが良いのだろうか。

 隅の隅のその場所の隣の席にはミアが座っている。

 …と言うより眠っていた。

 ハヤトの体に少々大胆なぐらいに持たれかかり先程から寝言を言っている。

「んっぅ、魚ぁ…まてぇ」

 寝言から察するに、どうやらかなりサバイバルな夢を見ているようだ。

「えへへぇ…」

 しかし時が経つにつれその言動が怪しくなっていく。

「あぁん、駄目よそんな…」

 終いにはそんな怪しい寝言を言いながら椅子の上、もといハヤトの体の上で身悶え始める。

 まぁ、怪しい寝言ぐらいなら許してやったのだろう、多少の寝相の悪さもこの際この猫人が起きている状況に比べればましだと我慢しただろう。

 だが…。

「ハヤトぉ…」

 プチ…

 そこに自分の名前が出てきたとなると話が別。

「こ、この…」

 ハヤトの怒りゲージは一気にMAXである。

「起きろっ、この馬鹿猫ぉ!!」



 と、まぁそんな感じである。

「えー、あれだけやっといて夢オチなのぉ!?」

 その事実にがっくりと肩を落とすミア。

「夢オチなのかじゃねぇ、見ろ、ミユが今にも倒れそうな顔してるだろうが!!」

 前の方の座席でミアの寝言の一部始終を聞いていた兎人の少女二人は両極端な反応を示していた。

 姉のキユはまるでお昼の連続ドラマを見ている主婦のように耳をこちらに向け、妹のミユは真っ赤な顔をしてプルプルと振るえている。

 共通点といえば二人とも真っ赤な顔をしながらも興味津々なところだった。

 ちなみにケンは「やってらんねぇ」と言った顔で椅子に寝転がり、コゥは「何時もの事ですから」と言った顔でチタ先生と合宿での予定を話しながら笑っている。

「…てめぇ、一体どんな夢見てたんだよ」

「え、言っていいの?」

「却下、忘れろ、未来永劫思い出すな」

「えー」

 不満たらたらである。

「あーあ、正夢にならないかなー」

「どんな夢見てたのかは知らんが、絶対ならねぇよ」

 そんなこんなで一同は海に向かっていた。

 ミアの夢が正夢になる事は無かったが、事実は小説より奇なり、後々この13クラスのメンバーが体験する出来事はある意味それに匹敵したであろう。



 獣耳学園のバスが全車両海に到着する頃には気温はまさに頂点を極め、絶好の海水浴日和となっていた。

「おー、海だー」

 バスの中でひたすら眠っていたケンの寝起きの第一声がそれだった。

 広い海を前に大きく胸をそらしてそう言う。

 やや暑苦しそうな学校の指定外の大き目のジャンパー、その下にはおそらく学校指定外の水着を着ているのだろう。

 まぁ、不良の特権というやつである。

「あー、海だな」

 それに対して無感動なハヤトの一言。

 こちらは学校指定の水着にジャンパーと標準装備だ。

「いいねぇ、海、うーん、いいねぇー」

 そんなハヤトを横目に、ケンは実に楽しそうである。

「おーし、今日は泳ぐぞー」

 どうやら、この犬人は海が大好きのようだ。

 おそらくバスの中で大人しく眠っていたのも、この時のために体力を温存していたのであろう。

「犬掻きでも見せてくれるのか?」

 バス内で散々な目にあったハヤトは、半分以上八つ当たりでケンにそう皮肉たっぷりで言うのだが。

「ふっふっふ、ハヤト!!」

 ビシッ!!

 ケンの指先がハヤトを捕らえる。

「な、何だよ?」

「キサマに勝負を申し込む!!」

「はぁ?」

「思えば三ヶ月前にお前に負けたのがけちのつき始め、今日はお前に勝利して気分良くこの海を堪能する!!」

「…お前、まだ根に持ってたのか」

 転校初日にハヤトに負けて以降、ケンの立場は弱かった。

 表面的に見れば対等に見えただろうが、そこはそれ、犬人としての男のプライドがケンにある種の劣等感を負わせていたのだ。

 それをこの海でリベンジし、夏をエンジョイする事で憂さ晴らししようと言う魂胆なのだろう。

「そりゃいいが、何の勝負だよ」

「ずばり水泳で勝負だ!!」

「断る」

 ズッ…

 二流コントのようなズッコケを見せてくれるケン。

「なっ!!」

「勝負を受ける受けないの権利は俺にある、だからこの勝負は受けない」

「ちょ、ちょっと待て、いくらなんでもそりゃねぇだろ、そんな頭ごなしに断らなくても、あ、ほら、なんだったらハンデとかつけてもいいからさ…」

「いーやーだ」

 ケンが必死に条件を格下げして勝負に持ち込もうとするが、ハヤトは一向にそんなそぶりを見せなかった。

「おっ待たせー」

 そんな男二人のむさくるしい構図にようやく花が添えられる。

 そこにいたのは学園指定の水着を着たキユ、その後ろにはミユがいた。

「お前等遅いぞー」

「ごめんね、着替え場所が込んでて…」

 続いてコゥ。

 最後にミアがハヤトに向かって駆け寄ってくる。

 さて、何故この面々が集まったのか。

 基本的にこれは合宿であって遊びではない。

 よってこれは自由行動ではない。

 しかし、それはそれ、基本的に自由な校風が売りの獣耳学園、基本的には自由行動である。

 では何をもって合宿とするのか、そこで学園側から一つの命令が下された。

 それは学園の目的である種族間の友好を深めるためという方針に従い。

 行動は団体行動で行う事、そしてその団体は同じクラスの6名以上で組み、男女各一名を含む事、それが条件だった。

 しかし、ハヤト達の所属する13クラスは6名しかいないので、有無を言わさずこのメンバーで組むしかないのだ。

「なんか、策略の匂いを感じるのは俺の気のせいだろうか?」

「いや、多分裏でそう仕向けてる人物がいると思うぞ」

 そう言ってハヤトとケンは同時に一人の人物のシルエットを脳裏に思い浮かべる。

 そんな想像を巡らしていると。

「ハヤトー」

 これまた例によって例の如く。

 ミアがハヤトに向かってダイブしてくる。

 スッ…

 しかしハヤトはそれを予め予測しいたため、スルーして回避する。

 ドシャァァ…

 見事、地面にヘッドスライディングをするミア。

「ふにゃぁ…」

「馬鹿な事やってないで、海にでも潜っとけ」

 土に塗れになりながら目をパチクリするミア。

「…あれ?」

「ん、どうかしたか?」

「(どっかでこんな事があったような…、はっ、こ、これはもしや!!)」

 記憶の断片を思い出していくミア。

「(よく見れば二人はあの時と同じ服装、やや時間軸は違うけどシチュエーションも似ている!!)」

 学校指定の水着とジャンパーなので当たり前なのだが、それはそれ、夢見る少女の脳内で勝手に保管されていく。

「(いける、いけるわ、あれはこれから起こる予知夢だったのよ、そう言うなれば運命、ならあれは間違いなく神の啓示、私とハヤトの楽園への招待状!!)」

 最早彼女の脳内世界は暴走状態である。

「ハヤトっ!!」

「わ、な、何だよ?」

「う、海…」

 ミアはハヤトの腕に飛びつき、引っ張りながら海を指差す。

「…海?」

 何かあるのだろうかとミアの指差す方向を見るが、あるのは穏やかな海のみである。

「…海がどうかしたのか?」

「一緒に泳ごう!!」

「え、ちょっ、おい、ひっぱるな、それに服が…」

 ジャンパーのまま海に入るのかと言いそうになるが。

「いいの、寧ろその方がいいの、っていうか着てて」

「お、お前何訳のわからない事言ってるんだ?」

 ミアの有無を言わせぬ迫力にグイグイ海の方へと引っ張られるハヤトだが

「ちょっと待ったぁ!!」

 ここで思わぬ助け舟が入る。

「ミア、ハヤトは先に俺と勝負するんだ」

 ケンだった。

「お前もしつこいなぁ」

 呆れながらもそう突っ込むハヤト。

「ちょっとケン邪魔しないでよ!!」

「邪魔してんのはそっちだろうが!!」

 だが、ハヤトの突っ込みを他所に、ミアとケンはいつもどおりの漫才をはじめる。

「はぁ、また始まった…」

 このやりとりも始めのうちはそれなりに見れてたのだが、流石に三ヶ月も経つといい加減見飽きてきた。

「いつもミアちゃんの勝ちで終わるのにねぇ」

「まったくだ」

 キユの言葉にハヤトは頷く。

 このやり取りの最後は決まって2パターンである。

 ミアがケンを言い負かすか、ミアがケンに言い負かされそうになって引っ掻くかのどちらかである

「ケンは不良気取ってるけど女に手を上げる事なんてないからなぁ」

 どんなにミアに引っ掻かれてもケンは一度も手を上げた事はなかった。

 そこが実にケンらしいというかなんというか。

「それがケンの良い所じゃない」

「…まぁ、それもそうだけど、しかし委員長、随分ケンの肩を持つんだな」

 コゥの言葉にハヤトはそう答え、そう付け加える。

「あら、駄目だった?」

「駄目とは言わないけど誤解されると面倒なんじゃないか」

 獣耳学園で三ヶ月生活して解った事がある。

 それはこの学園が根っからのお祭り好きで噂好きである事、特に色恋沙汰の噂は日常茶飯事であった。

 火の無い所に火や煙をわざわざ出さないが、火の有る所に風を煽ぐのが好きなのだ。

「平気よ」

「どうして?」

「委員長だからいいの」

 その言葉はコゥの得意技であった。

 何かあるとコゥはその一言で片付けてしまう。

 何故か誰もがその一言で納得してしまうのも不思議の一つだ。

「…にしても」

 ハヤトは改めて周りを見回す、…正確には女性陣を見回す。

 見回すというが露骨にではない。

 あくまで差し障りの無い程度にである。

「(…何ともまぁ強弱の強い)」

 式にすると『キユ = ミユ <= ミア < コゥ』と、言った感じだろうか。

 もっともミアとコゥの間ではかなり大きな差があるのは言うまでも無い。

 同じ物を着ているはずなのに、そのシルエットがまったく別の物になるというのはある種の脅威である。

 そんな事を考えていると

「何で私とハヤトの愛を邪魔するのよ」

「したくてしてんじゃねぇよ、俺は単にあいつに勝って海を満喫したいだけだ」

「だったら一人でしてればいいじゃない、私のハヤトがケン相手をする必要なんてこれっぽっちも無いんだから」

 ビシッ…

 そういってミアは人指し指と親指を閉じ、隙間すらない状態のその指を見せてそう言い切る。

「…今、さり気なくあいつに所有物宣言されなかったか、俺」

「さり気なくじゃなくて思いっきりされたよ」

 キユがハヤトの言葉をそう訂正する。

「モテモテね、ハヤト君」

 追い打ちとばかりにコゥの突っ込みも入る。

「だーかーらー、俺は何もんなこたぁ言ってねぇだろ」

「おー、今日はケンも随分と噛み付いてくなぁ」

 いつもならばここら辺でケンが折れて勝負がつくはずだったが。

「じゃー、どういう事なのよ」

「さっきから言ってるじゃねぇか、ハヤトが俺と一回勝負してくれりゃ俺は満足なんだよ、そうすりゃすぐにでもおめぇに引き渡す」

「あ、そうなの?」

「ああ」

「ん、じゃあ、いいよ、手早く済ませてね」

「おう」

 どうやら珍しく和解が成立したようだ。

「っつー訳でハヤト、勝負だ!!」

「って、俺の意思は無視かよ!!」

 ハヤトの言葉を無視するようにケンは準備運動を始める。

「勝手に決めるな」

「ふ、そう邪険にすんなよ、こちとらお前と勝負するために気合入れてきたんだから」

「…何?」

「見ろ、この勝負水着を!!」

 バッ!!

 ケンが着ていた大きなジャンパーが高らかと宙を舞う。

 同時にジャンパーの下に隠されていた彼の水着が姿を表す。

『うわぁ…』

 それは競泳用の水着であった。

 正式名称は知らないが、とにかく男子の競泳用水着である。

 可能な限り水の抵抗を減らすため極限まで削られた布地。

 確かに正式名称は知らないが、俗称…というより学生などが呼ぶ名称は知っている。

 そう、モッコリパンツである。

 天然自然の筋肉にその水着がプラスされた時、実に際どい。

 場所が場所でなければ完全に刑務所行きコースの際どい格好だ。

 実際、かなり目に毒な光景である。

「…ぅぁ」

「ああ、ミユ、しっかりして!!」

 中でも気の弱いミユはそれだけで意識が遠のいたようだ。

「さぁ、勝負だっ!!」

「馬鹿か、お前はぁっ!!」

 ゲシィィ!!

 ハヤトの体が宙に舞い回転する、そこから放たれる問答無用の飛び蹴り、ハヤトキックがケンの顔面に炸裂。

 そのシルエットだけ見ればどこぞの特撮ヒーローの様だ。

 ドサァッ…

 あえなく、ケンの体は砂浜に倒れこむ。

「ったく、変なもん見せやがって」

「むー、しまった、その手があったか…」

 熱い砂浜に倒れて焼かれているケンを見ながらミアがそうつぶやく

「もっと、こう、際どいの着ればハヤトも…」

 そう言ってミアは水着のラインをカットするように手を動かす。

「やらんでいい!!」

 常軌を逸した二人のせいでハヤトの血圧は上がりっぱなしである。

「んじゃー、やらないからさ、海に入ろうよ」

「…嫌だ」

「何で?」

「入りたくないからだよ」

「だから何で?」

「言いたくない」

「…あ、解った、ハヤト泳げないんでしょ、それで海が嫌いなんだ」

「いいや、海は嫌いじゃない、それにちゃんと泳げる」

「じゃー、それを証明して見せてよ」

「そんな安っぽい挑発には乗らないぞ」

「むー」

 ハヤトはミアの言葉に断固として従おうとしない。

「いいじゃない、行こうよー!!」

 ミアが強引に海に引きづり込もうとするが

 グィッ!!

「あ、馬鹿っ!!」

「ひゃぁ!!」

 ビリィィ!!

 先程から何度も急激に引っ張られていたせいか、ハヤトの着ていたジャンパーは音を立てて無残に引き裂かれる。

「あっちゃー、ごめんね、ハヤ…」

 それ事態は別に問題ではなかった。

 ジャンパーが破れただけである。

 その程度ではハヤトはピクリとも動じはしなかっただろう。

 だが、ハヤトが問題としていたのはジャンパーが破れたという事実の先の事だった。

「ハヤト、それ…」

「…見えた…のか?」

「…うん」

「そっか…」

 流石のミアもその事実を前に一気に言葉を失ってしまう。

「二人ともどうしたの?」

 そんな二人の様子の異変に気づいたコゥが近づいてくる。

「ぁ…」

 すると、否応なしにコゥの目にもそれが飛び込んできた。

 傷跡である。

 脇下から背中、肩にかけて大きく裂けた傷跡。

 皮膚との差がはっきりと解るその色合いから、まだその傷が出来てから年月が浅いものだという事が解る。

 それだけで、その傷がいつ、どのようにして出来た傷なのかは容易に想像できた。

「別に治ってない訳じゃないんだ、風呂に入ったってもう痛まないし、海だって問題ない、…ただ、その、見せるのに抵抗があって…な」

 ミアは否応なしに後悔する、始めに気づくべきだったと。

 ハヤトが理由も無しにあれだけの拒絶をする訳が無い、では何故それを黙って隠していたのか、そう、それはミアを傷つけないため、解っていたはずだった、ハヤトがそういう人だという事は。

「(ハヤトはいつも人の代わりに自分を犠牲にして、私は…)」

 ミアはその現実を突きつけられた。

「…ごめん」

「ミアが謝る必要なんて無いよ」

「でも…」

「もういいからさ」

「…うん」

 そう口で言っても、心にかかる靄がそう簡単に取れる訳がなかった。

「…海か、そうだな、ばれちまったもんは仕方が無いし、…泳ぐか」

「え…」

「せっかく海に来たんだから泳がないと損だろ」

「あ、えっと、…うん」

「ほら…」

 パシッ…

「(あっ…)」

 ハヤトはミアの手を取って海に向かって走り出す。

「何ぼけっとしてんだ、行くぞ」

「…うん!!」

 ハヤトの言葉にミアはそう大きく返事をした。

「おーい、キユと委員長もこいよ、団体行動だろー」

 ミアを引っ張りながらハヤトがそう叫ぶ。

「何ていうか、青春だねぇ」

「ちょっと複雑だけどね」

 その様子を見ていたキユとコゥがそう感想を述べる。

「ケン、いつまで寝たふりしてんだ、俺と勝負するんだろー」

「何だ、バレてたのか」

 ハヤトの声を聞いてケンが起き上がる。

「あ、気絶したふりだったんだ」

 キユがそう率直に言う。

「まー、何かありそうだったからな、あいつ」

「…クラスメートを気遣うのは良い事なんだけど、その格好はNGでしょ」

 コゥの意見にキユの後ろで気を取り戻したミユが大きく頷いていた。

「む、俺的には結構気に入ってるのになぁ」

 そのコゥの意見にケンはかなりマジに考え込む。

「まぁ、何だ、せっかくの海だ、みんなで楽しもうぜ」

 とにかく場が好転しているのでそれに水を指さないようにケンがそう提案する。

「その意見には賛成ー」

「…うん」

「同じく」

 キユ、ミユ、コゥも同意見らしくケンの提案に賛同する

「おーい、ハヤトー、泳ぎは止めだ、まずはビーチバレーからでもしようぜ」

「おー、いいぜ」

「じゃー、私ハヤトと組むー」

 こうして獣耳学園の波乱の合宿が始まった。

 だが、その後に待っている出来事を考えるならば、それは文字通り、嵐の前の静けさであった。


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