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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第02話「海へ、獣耳学園」
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一時限目『漂流、ハヤトとミア』

 〜 一時限目『漂流、ハヤトとミア』 〜


 ザザァァーーン

 波漂う浜で一人に少年が海を見ていた。

 泳いでいたのだろうか水着の上にサマージャンパーを着ているラフな格好であった。

 これといって外見的特長が無い普通の少年である。

「…海だな」

 少年は目の前に広がる光景を何の修飾もつけずに当たり前の言葉でそう言った。

「海ねー」

 それに反応するようにその隣で座っている少女が答える。

 少年と違って少女にはあきらかな外見的特長があった。

 猫の耳と尻尾。

 服装は少年と同じで水着にジャンパー。

 おそらく本来は学校のプールで使われるものであろうと思われる水着を着ている。

 その水着にはそれ専用の穴があいているのか、彼女の尻尾は動きを制限されることなく動いている。

「何でこうなったんだろうなぁ」

「さぁ、何でこうなっちゃったんだろうねー」

「…ミア」

「なぁに、ハヤト?」

「俺達さ、遭難しちゃったんだよなぁ」

「へー、そうなんだー」

 まるで三流コントのようなやり取りである。

 普段の二人であればこれ以上のボケとツッコミを見せてくれたのだろうが。

『……』

 まぁ、状況が状況である。

 ここらが限界だろう。

「…さて、とりあえず、日が暮れる前に水と寝床の確保をしようか」

 とりあえずである。

 冷静さが売りのハヤトは現状を認識し、現実逃避から復帰する。

「ハヤトってポジティブねー」

「こうしていても始まらない、事を理論的かつ合理的に進めるのが人族だ、とにかく現状では最善を尽くすのが懸命だと判断した」

「おー」

 時は遡る事数時間前。

 ハヤトとミア、獣耳学園の生徒達は林間学校に来ていた。

 何てことは無いどこにでもある合宿のようなものだ。

 本来、多種族複合学園とは種族間の交流を深めるために設立されたものであるために、こういった行事、イベントが多分に学園生活に組み込まれている。

 つまりその一環、『みんなで海に行って仲良くなろう』といった所だ。

 しかし、海について一時間もしない内に。

『ビッグウェーブだぁ!!』

 突如巻き起こる巨大な津波に偶然飲み込まれ、気がつけば偶然ハヤトとミアはこの小さな島へと漂流していたのだった。

 気がついた二人は自分達と同じ境遇の者がいないかと周囲を探索するが島には二人以外誰もおらず、一時間もしない内に無人島の太鼓判が押されてしまったのだ。

「水は湧き水があった、寝床もこのでかい葉をしけばなんとかなるか」

 無人島とは言っても人類未踏の地ではない。

 数日間我慢すれば救助が来るはずだ。

 要するにそれまで生き延びればいいだけの話。

「食べ物は?」

「魚をとるしかないだろ、そんなにでかい島じゃないから果物や獣の類がいるとも思えない」

「魚かぁ」

「猫人の主食なんだから文句はいうなよ」

「はーい、意義無ーし」

「じゃ、魚は任せた、俺は火を熾しておく」

 ミアはそう言って海に魚取りに、ハヤトは浜で火を熾したとさ、その様はまるでどこかの昔ばなしのようである。

 そしてどっぷり日は暮れ。

「まったく、こんな所でサバイバルするとは思わなかった」

「その割にはハヤトって随分手際良かったね」

「まぁな」

「流石ハヤト、私の未来の旦那様ー」

「勝手に決め付けるな!!」

 ミアの言葉にハヤトはそう抗議の声を上げる。

「(…はっ!!)」

 その声に反応するようにミアの脳裏に閃きが生まれる。

「(よく考えてみればこれは絶好のシチュエーション、無人島に流れ着いた一組の若い男女、言わば私達はこの島のアダムとイブ、愛の園、楽園、二人はその冷え切った肌をお互いの温もりで温め合い、そして男と女の禁断の一線を…)」

 グッ!!

「い、いける、いけるわ!!」

 小さくガッツポーズを取るミア。

「…てめぇ、何よからぬ事を考えてやがる」

 そんなミアの行動を一部始終見ていたハヤトは本能的にそれを感知する。

「ハヤトー」

 予感的中、何の前振りも無しにミアはハヤトへ向かってダイブ。

 サッ…

 しかしハヤトはそれを予め予測しいたため、スルーして回避する。

 ドシャァァ…

 見事、地面にヘッドスライディングをするミア。

「ふにゃぁ…」

 土に塗れて今にも泣きそうなミア。

「変な事考えてないで寝ろ」

 そんな彼女に対して、淡白にそう言うハヤト。

「えー」

 そんなそんなハヤトに対してミアは不満たらたらでブーイングする。

「いいか、こういう場合は消耗戦と相場が決まってる、余計な体力は消耗できない、だからお互い自重して我慢しないと生き残れないぞ」

「はーい、……ありゃ、我慢?」

 数秒遅れてミアがその単語に気づく。

「……」

 ハヤトは何も答えずに焚き火に木を放り込む。

「ねぇねぇ、我慢って何、何を我慢してるの」

 好機と言わんばかりミアはハヤトに対してゆさぶりをかける。

「うるさい、早く寝ろ」

「だってまだ寝るには早いもん、それにこう冷え込んでたらそうそう眠れないよ」

 夏とは言え夜の屋外、しかも水着と上着一着だけは流石に冷える。

「だったら、これでも羽織っとけ」

 ボフ…

「ふひゃぁ…」

 ハヤトは自分のジャンパーをミアに向かって粗雑に放り投げる。

「少しはましだろ」

「でもハヤトが寒いでしょ」

 上着を渡した今、ハヤトは海パンだけしか身につけていない。

「火の見張りしとくから大丈夫だ」

「じゃあ私も起きとく、ハヤトだけにさせる訳にはいかないもん」

「ちゃんと後で代わってもらうよ、だから交代で睡眠を取るんだ」

「…嘘、そういって、交代する気なんてないんでしょ」

「…そんな事ない」

「ハヤトはいつもそうだね、他人の代わりに自分を犠牲にして…」

「…うるさい、俺の勝手だ」

「ハヤトは…」

「もういい、…早く寝ろ」

「…うん」

 ミアはそう返事を返すとハヤトのジャンパーを掛け布団の代わりにして葉の上に横になる。

『……』

 かと言って、はいそうですかと眠れる訳もなく。

 沈黙の中、寝たふりをずっと続けるミアだった。

「(…ちょっと、眠たくなってきたかな…)」

 ようやく睡魔がミアの精神を眠りへと誘い始めたのか、彼女の意識は段々と眠りへと誘われていった。

「(何か今日は色々あったし、ちょっと疲れてるのかな、でも、ああ、…何かいい気持ち、何だろ、すごく、いい匂いがする)」

 薄れゆく意識の中でミアははっきりと感じていた。

「(…そっか、これ)」

 程なくして、その匂いの正体に気がつく。

「(ハヤトの匂いだ…)」

 彼のジャンパーが自分を寒さから守ってくれている。

「(えへへ…)」

 そう思う。

 それだけで少し幸せな気持ちになれた。

 そのまま眠れたらさぞ良い夢を見れただろう。

 だが…。

「ヘッ…クシュン!!」

 たった一回のそのくしゃみでミアの意識は夢の世界から引き戻された。

「ぁ…」

 眼を開けるとそこにはしまったと言った顔をして焚き火にあたっているハヤトがいた。

「あ、起こしちまったか?」

「…ハヤト」

「悪い悪い、何、ちょっとくしゃみが出ただけで…」

 ハヤトはそう言って笑うが、見れば解った、寒がっている。

「……」

「ほら、まだ交代の時間には早いから二度寝でもしろって…」

「ううん…」

 ミアは立ち上がりハヤトの側に歩いていく。

「…ミア?」

「こうすれば暖かいでしょ」

 ピト…

 寄り添うように、ハヤトの隣に座って体をくっつけるミア。

 肌と肌の触れ合う部分がほんのりと温くなる。

「よせ…」

 ハヤトは一瞬身を離そうと体を引くが。

「大丈夫だよ、何もしないから…」

 ミアは寄るでもなく、離れるでもなく、無抵抗にハヤトに身を預ける。

 ここで離れたらミアが倒れてしまいそうだった。

「ミア…」

「えへへ、温かいね」

「馬鹿言ってんじゃない、離れろよ」

「だってハヤト寒そうだったんだもん」

「俺はいいんだよ」

「良くないよ、ほら、こうしてくっついてれば二人とも温かいんだし、大丈夫だって私は何もしないから」

「…そうじゃ…ねぇよ」

「え…」

 そこでようやく気づく。

「ぁ…」

 自分がどれほど大胆な事をしているのかを。

 寝起きで寝ぼけていたのだろうか、それは完全な密着状態だった。

 その状態を解り易い言葉で言うならば、さながら抱き枕に全身で抱きついているような状態だ。

 付け加えるならば、水着同士で密着しているためその体温、呼吸、鼓動、全てが手に取るように解る。

「……」

 ハヤトは済ました顔をしているが顔を赤くして視線をできるだけそらそうとしている。

 対してミアもどうすればいいのか解らず顔を赤くして地面を見つめるだけだった。

 普段、あれだけのアプローチをしていてもそこはそれ、彼女とて年頃の少女なのである。

 羞恥心もあれば、緊張や、人並みの胸の高まりというものもある。

「…ミア、もう離れろ」

「ううん、もう少しだけこうしようよ…」

「駄目だ…」

「どうして…」

「これ以上こうしてたら、俺が…」

 これもミアに対してハヤトも年頃の少年。

 口で何と言った所でその本能を抑え続けられるほど、この状況は甘くない。

 いや、むしろ甘すぎると言おう。

「…いいじゃない」

「ミア…」

「我慢する必要なんてないんだよ、ハヤト、私は…」

「ミア、俺、俺…」

「ハヤト…」

「ミア…」

 月の光に照らされて映し出される二つの影。

 どちらからでもなく、同時に二つの影が重なり合い、一つになる。


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