第88話 能力タイプ:内政型
【前書き】
いつもお読みいただきありがとうございます。
異世界テンプレに裏切られたおっさんの物語をお楽しみください。
話を終えたシンジたちは、そのままローデンの湯場へ向かった。
建物へ入った途端、湿った熱気が肌へまとわりつく。
湯場の奥では、作業員たちがぬくみ石を載せた籠を運んでいた。
温め終えた石を湯場へ運ぶ者。
冷めた石を回収する者。
その間を、湯を使いに来た客たちが行き来している。
「一つずつ抱えていた時よりは、楽そうですね」
シンジは、作業員が二人で持っている籠へ目を向けた。
以前ここを訪れた時、ぬくみ石は一つずつ人の手で運ばれていた。
今は複数の石を籠へ入れ、二人で持ち上げられるようになっている。
「あんたが言ったとおりに作らせたよ」
マルタが胸を張った。
「最初は、籠へ入れる方が手間だと言う奴もいたけどね。何度か運ばせたら黙ったよ」
「腰への負担が違いますからね」
「ただ、別の問題が出た」
マルタが顎で通路の奥を示す。
温めた石を運ぶ二人と、使い終わった石を戻す二人が、狭い通路ですれ違おうとしていた。
どちらも重い籠を持っている。
簡単には避けられない。
その後ろでは、湯場へ入ろうとする客が足を止めていた。
「なるほど」
シンジは通路の端へ寄り、人の動きを目で追った。
「運ぶ量が増えた分、一度通路を塞ぐと、前より長く止まるのか」
「良くしたつもりで、別のところが詰まったわけだね」
「よくあります」
「元の世界でもかい?」
「一か所だけ良くして、全体が余計に悪くなることはありました」
「便利な世界でも、やることは同じなんだねえ」
「便利だからこそ、大きくやらかすこともありましたけどね」
シンジが苦笑した、その時だった。
視界の左端で、半透明のボードが開く。
【スキル:事象推測・初級 発動中】
その表示を見たセレーナが、わずかに眉を動かした。
「これは……スキルですか?」
「うん」
「体調管理のような、シンジが持っている能力の一つなのですか?」
「ああ」
シンジは、湯場を行き来する作業員たちを見ながら答えた。
「俺が元いた世界で身につけた経験というか、仕事で使っていた技術が、こっちの世界でスキルになったみたいなんだ」
セレーナの視線が、ゆっくりとシンジへ向いた。
「私、聞いていませんけど」
「あ」
「体調管理については報告を受けています。ですが、それ以外のスキルについては聞いていません」
「いや、聞かれてなかったし、その……」
「報告を」
「えっと……」
「報告を!」
「仕事モードのセレーナ、怖い」
【説明を代行します】
「待て。俺が説明するから!」
【現在確認されているスキルは三種です】
「聞いてない!」
ボードはシンジの抗議を無視し、表示を切り替えた。
【物品情報・中級】
【物品の用途、状態、損耗、危険性及び代替用途を整理します】
【エルストリアの記憶との接続により、現地一般情報の参照範囲が拡張されています】
「物品情報……中級」
セレーナが表示を読み上げる。
「世界の記憶へ接続した時に、この能力も成長していたのですね」
「どうやら、そうらしい」
【未知の物品を完全に解析することはできません】
【秘密情報及び根拠のない情報は取得できません】
マルタとルカには、ボードそのものは見えていない。
だが、セレーナが読み上げる内容を聞き、マルタは近くに置かれたぬくみ石へ目を向けた。
「つまり、物の使い道や傷み具合が分かるってことかい?」
「ある程度は。ただ、何でも見ただけで分かるわけじゃありません」
「それでも十分だよ」
【体調管理・特級】
「これは知っています」
「ちょっと待て。いつの間に特級になった!?」
【前回のスキル融合時に等級が上がりました】
「知らなかった……自分のことなのに知らなかった!」
マルタの笑みが消えた。
セレーナの声が、少しだけ柔らかくなった。
【身体状態を管理し、保持者の身体能力の範囲内で維持及び補助します】
【衝撃時には筋肉、姿勢、呼吸及び意識維持を自動調整します】
【防御反応を補助し、損傷の拡大及び致命的損傷の確率を低下させます】
【生存維持及び回復効率を向上させます】
「なんか地味に能力が上がっている気がする……」
マルタの笑みが消えた。
「待ちな。それは、身体が勝手に攻撃を防ぐってことかい?」
「防ぐというより、ダメージを逃がしたり軽減したりですね、あはは……」
シンジは、ボードに書かれている表示を見ながら答えた。
【痛覚遮断機能なし】
【損傷そのものを無効化することはできません】
【回復補助は保持者の身体能力の範囲内です】
「シュゼーレンで襲われた時、シンジが命を落とさずに済んだ理由の一つです」
セレーナが真剣な声で補足した。
「外傷は多かったのですが、内側の損傷は……ありませんでした」
「地味に命の恩人です」
「地味どころじゃないだろう」
マルタが呆れたように言った。
【事象推測・初級】
【知識、職務経験及び観察情報をもとに、改善案、必要条件、危険要素を候補として提示します】
【未来予知ではありません】
【未知の知識や根拠のない正解を生成することはできません】
「今使っているのが、この能力ですね」
セレーナが湯場を見回す。
「人や物の動きを整理して、改善できそうな箇所を探している」
「そう。元の世界でやっていた、現場を見て問題を探す仕事が、能力になったんだと思う」
マルタが腕を組んだ。
「物を調べる力。自分の身体を守る力。それに、現場の問題を見つけて改善する力か」
「並べられると、随分すごそうに聞こえますね」
「実際にすごいの」
ルカが横から口を挟んだ。
「どうして今まで黙ってたの?」
「黙ってたわけじゃないって!」
【能力傾向を分析します】
「まだ何かあるのか?」
【シンジの能力タイプ:内政型に分類されます】
「ゲームみたいな表記だなおい」
「内政型、ですか?」
セレーナが首をかしげる。
【調査、状況分析、問題解決、交渉、運用改善及び集団支援に適性があります】
【戦闘能力への直接的な補正は、ほとんど確認されていません】
「つまり、俺は戦闘型じゃなくて、内政型だったのか」
「今さらなの」
ルカが即座に言った。
「剣も魔法も使えないって、自分でずっと言っていたでしょ?」
「もしかしたら、隠された戦闘能力があるかもしれないだろ!」
【確認されていません】
「ボードまで即答するな!」
マルタが喉を鳴らして笑う。
「いいじゃないか。町を作るのに、剣を振る力はいらないよ」
「でも、異世界へ来た男としては、少しくらい戦える可能性が欲しかったんですけど」
【体調管理により、通常より生存能力は高いと推測されます】
「戦えるんじゃなくて、死ににくいだけじゃないか!」
「十分、大切な能力です」
セレーナが真面目な顔で言った。
「シンジは戦う人ではなく、戦わずに済む形を作る人なのだと思います」
シンジは一瞬、言葉を止めた。
争う前に、互いの話を聞く。
問題が起きる前に、危険な場所を見つける。
誰かが無理をしなければ回らない仕事を、無理をしなくても回る形へ変える。
「……そう言われると、内政型も悪くないな」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
次話もお付き合いいただければ嬉しいです。




