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異世界テンプレを信じた俺がバカでした  〜ステータスは出た。スキルもあった。だが、ほぼ履歴書だった〜  作者: 小森こもり
第一章 ~転移~

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第30話 神託板?

【前書き】


いつもお読みいただきありがとうございます。


「やはり、ここでいくつか確認させてください」


 教会から派遣されたシグルスが言った。


「ここでいいのか?」

「立ち話で確認できる範囲だけのつもりでしたが、気になる部分を先に確認させてください」


「分かりました」


 シンジは視界の左端を見る。


【待機中】


 いつも通り半透明の表示は、そこに浮かんでいる。


「まず、そのボードは今も見えていますか?」

「はい」


「位置は?」

「視界の左端。意識すれば前に出る感じかな」


「実際に空中へ存在している感覚ですか?」


「うーん……」

 シンジは少し考えた。

「目の前に板が浮いてるようには見える。でも、物としてそこにある感じじゃない」


「触れることは?」

「できません」


「私がその場所へ立っても?」

「たぶん関係ない」


 シグルスが、シンジの視線の先へ手を伸ばした。

 当然、何も起きない。


「今、俺にはあなたの手とボードが重なって見えてます」

「なるほど」


「不思議な絵面だな」

「私には、ただ手を出しているだけです」


「もっと不思議な絵面だった」


 セレーナが小さく笑った。

 シグルスは気にした様子もなく続ける。


「文字が表示されるとのことでしたね」

「はい」


「この世界の文字ではない?」

「俺が読める文字です」


「では、こちらの文字を覚える前から?」

「最初から読めました」


「内容は?」

「最初は俺の状態とか」


 シンジは指を折ろうとして、白い丸い手では折れなかった。


「……これ本当に不便だな」


「項目でしたら、口頭で結構です」

「はい……」


 気を取り直す。


「俺の身体の状態。能力。危険がある時の警告。それから、見たり聞いたりしたことを整理して、どうするか候補を出したり」


「未来を示す?」

「しません」


「知らない土地の情報を教える?」

「それも無理」


「人の心を読む?」

「無理です」


「では」

 シグルスは考えながら聞いた。

「シンジ殿が持っていない情報を、どこからか得てくるものではない?」


「たぶん、そうです」


「ボード」

 シンジが呼ぶ。


「今の認識で合ってる?」


【肯定】

【未知情報の生成:不可】

「ほら」


「何と?」

「【肯定】。それと【未知情報の生成:不可】」


 シグルスの眉がわずかに動いた。


「今、問いに応じたのですね」

「最近は、こういう簡単な返事をします」


「以前は?」

「もっと一方的だったかな。表示するだけというか」


「変化している?」

「少しずつ」


「…………」


 今度は、シグルスが明らかに考え込んだ。


「何か?」

「いえ。続けましょう」


 慎重だ。

 それが逆に、シンジには気になった。


          ◇


「危険を知らせることがある、と」

「はい」


「例えば?」

「森で魔獣に襲われた時とか」


 セレーナがシンジを見る。


「位置を知らせていたという話ですね」

「うん。ただ、何もないところを透視したわけじゃないと思う」


 シンジは補足した。


「俺が見たものとか、音とか、状況から分かる範囲を整理して表示したんだと思う」


【推測:概ね妥当】

「今、概ね妥当だって」


「つまり」

 シグルスが言う。

「神託のように答えそのものを与えるのではなく、シンジ殿が得た情報を整理する」


「そういう感じです」


「警告は?」

「危ない時とか、やっちゃ駄目なこととか」


【危険行動の抑制を推奨】

「……今なんか出た」


「内容は?」

「【危険行動の抑制を推奨】って、出た」


 セレーナがシンジを見る。


「心当たりが多すぎませんか?」

「そこ、今関係ある?」


「あります」

「ないってば!」


 シグルスが少しだけ口元を緩めた。


「応答だけでなく、シンジ殿の行動にも反応するのですね」

「はい。余計な時にも」


【評価:主観的】

「ほら、こういうところ!」


「今も?」

「【評価:主観的】と、表示してきた」


 セレーナが笑う。


「ボードにも言い分があるようですね」

「セレーナ、そっちにつくの?」


「まだ評価保留です」

「ボードみたいなこと言わないで」


          ◇


 シグルスは、しばらく黙っていた。


 やがて。


「シンジ殿」

「はい」


「先ほど、古い記録に似た記述があると申し上げました」

「うん」


「正確には、教会に残されている神代記録の一部です」

「神代……」


「現在使われている魔術体系よりも古い時代について記された文献です」

「どれくらい昔?」


「記録によって差があります。年代そのものが確定していないものもあります」

「そんなに古いのか」

「はい」


 シグルスはそこで一度言葉を選んだ。


「その中に、ごく少数ですが」

 シンジを見る。

「特定の者にのみ、文字を示すものについての記述があります」


「…………」


 セレーナの表情も変わった。


「名称は?」

 セレーナが尋ねる。


「文献によって異なります」

 シグルスは答えた。


「啓示板」


「神託板」


「あるいは、ただ『板』とだけ記されたものもあります」


「ボード……板」


 シンジが呟く。


「偶然でしょう」

 シグルスがすぐに言った。

「シンジ殿が、その記録を知って名付けたわけではありませんから」


「そりゃそうだ」


「そして」

 シグルスはさらに続ける。

「記録の内容も一定していません」


「というと?」


「神の言葉を文字として示した、とするもの」

「うん」


「持ち主へ危険を知らせた、とするもの」

「……うん」


「本人にのみ見える言葉によって、その者の状態や行いを示した、とするもの」

「…………」


 シンジの笑顔が少しずつ消えていく。


「似てない?」


「似ている部分はあります」

「だよな?」

「ですが」


 シグルスはきっぱり言った。


「同じものだとは言えません」

「…………」


「むしろ、違う部分もあります」

「違う部分?」


「神託板の記録には、持ち主が知り得ないことを示したとされる例があります」


「あ」


「シンジ殿のボードは、それを行えない」

「そうです」


「ですから――」

 シグルスは落ち着いた声で言う。

「現時点では、『神代記録に類似した記述が存在する』。それ以上ではありません」


「……よかった」


「安心されるのですか?」


「だって」

 シンジは苦笑した。

「突然、『あなたのそれは神様の道具です』とか言われても困る」


「私も困ります」


 セレーナが言った。


「セレーナも?」

「確認できていないことを、確定事項として記録できません」

「やっぱりそこなんだ」

「大切です」


 シグルスも頷いた。


「神代の記録は、事実と伝承が混在しています。慎重に扱う必要があります」


「じゃあ」


 シンジは視界の端を見る。


「本人に聞いてみるか」


「本人?」

「ボード」


「本人なのですか?」

「そこは俺もまだよく分からない」


 シンジは意識を向けた。


「ボード」


【はい】

「お前、神託板なの?」


 少し間があった。


【該当情報なし】

「知らないのかよ」


【自己由来情報:不明】

「自分が何かも分からないの?」


【肯定】

「……お前も大概だな」

 シンジが苦笑する。


「何と表示されました?」

 シグルスに聞かれ。


「【該当情報なし】」

「【自己由来情報:不明】」


「それで、自分が何なのか分からないのかって聞いたら【肯定】」


「由来を、自身でも保持していない……」

 シグルスが呟いた。


「珍しい?」

「少なくとも、私が読んだ神代記録には、そこまで具体的な記述はありません」


「じゃあ結局」

 シンジは肩をすくめる。

「分からないものが、ちょっと増えただけか」


「現時点では、そうなりますね」


【現状認識:概ね妥当】

「お前まで認めるな」


          ◇


 そのまま四人は、再び支所へ向かって歩き始めた。

 シグルスは、途中もいくつか簡単な質問を続けた。


「状態以外には、何が表示されますか?」


「能力とか」

「能力?」


「俺の場合は、魔法とか戦闘とか」

「数値で?」


「評価みたいなものですね」

「他には?」


「最近できた機能だと、物の状態を見たり、自分の体調を確認したり、考えを整理したり」


「なるほど」


「まあ」


 シンジは少し笑う。


「大体、俺が仕事でやってきたことの延長みたいな感じです」


「仕事?」

「元の世界での」


「それも支所で詳しく伺うことになるでしょう」

「また項目が増えた」

「必要事項です」


 セレーナが言う。


「はいはい」

「返事」

「うん」

「よろしいです」


 シグルスが二人を交互に見た。


「ずいぶん打ち解けておられるのですね」


「…………」

「…………」


 シンジとセレーナが同時に黙った。


「何ですか?」

 セレーナが先に聞く。


「いえ」

 シグルスは首を振る。


「続けましょう」


「何、その意味ありげな間」


「シンジ」

「はい」

「返事」

「うん」

「よろしいです」


「今の必要だった?」


 少し前を歩いていた支所のジャスパが、咳払いで笑いを隠した。

 シンジは納得いかない顔のまま歩く。


「ほかに表示される項目は?」


 シグルスが聞いた。


「他?」


「状態、能力、警告、補助機能。それ以外にです」


「うーん」


 シンジは考える。


「履歴みたいなのもあったかな」

「履歴?」


「あとは……」

 そこで、嫌なものを思い出した。


「…………」


 口を閉じる。


「シンジ殿?」


「いや」


「何か?」


「大したものじゃないです」


 セレーナがシンジを見る。


「何を思い出したんですか?」


「何も」


「その顔は何かありますね」


「ない」


「シンジ」


「本当にどうでもいいやつだから!」


 視界の左端でボードが反応した。


【追加表示項目を確認】

「待て」


【候補:称号】

「待て待て待て」


 シンジの足が止まる。


「何か表示されましたか?」


 シグルスが聞いた。


「いや……」


「シンジ?」


 セレーナが記録板へ手を伸ばす。


「その手を止めて!」


「何が表示されたのですか?」


「大したことじゃない!」


【追加表示項目:称号】

「お前ぇ……」


 シンジの声が低くなる。


「狙って称号を出し……あっ、ヒューピュッピュー」


 シンジは我に返って、口笛を吹いて誤魔化そうとする。


 シグルスの表情が変わった。


「今、称号と?」


「…………」


 シンジは遠い目をした。


「聞かなかったことにできません?」


「できません」


 セレーナが即答した。


 嫌な予感は、やっぱり当たっていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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