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異世界テンプレを信じた俺がバカでした  〜ステータスは出た。スキルもあった。だが、ほぼ履歴書だった〜  作者: 小森こもり
第一章 ~転移~

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第20話 馬車の中の小袋作り

【前書き】


いつもお読みいただきありがとうございます。

これは異世界テンプレに裏切られたおっさんの物語です。



 翌朝。


 バルトは車輪のそばにしゃがみ込み、縄の結び目を確かめていた。


「ローデンまでは持たせる」


 低い声だった。


「だが、その先は分からん」


 真司は、地面に描かれた簡単な道筋を見た。


 リーヴェ。

 ローデン。

 レグフォード。


 レグフォードへ行くには、まずローデンへ。


 だが、そのローデンまでも、簡単な距離ではない。


 歩きなら一日、馬車なら半日の距離。

 壊れかけの馬車なら、もっと神経を使う道。


 馬車があるから楽なのではない。


 馬車を壊さず進ませなければならないのだ。


 ガレンは荷台の奥で横になっている。

 足元の白札は、淡く光っていた。


 ルカは、昨日作りかけた小袋を荷台の端に置き直している。


 薬草。

 巻き布。

 紐。

 火打石。

 火口包み。

 蝋芯。

 油入り小瓶。

 針。

 糸。

 革紐。

 簡易留め具。

 大判布。

 油紙。

 包みやすい保存食。


 まだ全てが小袋にできたわけではない。

 だから、ローデンに着いたらすぐ売りに出せるよう、残りも小袋にまとめる必要がある。


「残りは移動中に、袋へ詰めよう」


 真司が言うと、ルカが顔を上げた。


「馬車の中で袋詰めしていくの?」


「ローデンに着いてからやる時間はない。今のうちに、買える形にする」


 ルカは荷を見た。


 真司は白い布で包まれた両手を少し持ち上げる。


「俺は触れない。だから口だけ出す」


「口だけ」


「便利だろ。いや、うるさいか」


 ルカは少しだけ笑いかけて、すぐに荷へ視線を戻した。


 笑っている時間はなかった。


 バルトが手綱を握る。

 若い護衛が荷台へ乗る。

 セレーナもガレンの札を確かめたあと、ルカの横に膝をついた。


 細かいものを扱う手つきは、ルカよりずっと慣れていた。


 真司も荷台に足をかけようとして、止まった。


 狭い。


 ガレンがいる。

 ルカが袋を広げる。

 若い護衛が荷を支える。

 セレーナが小瓶や油紙をまとめる。


 そこへ、黒沼に触れた両手を封じた自分が座る。


 邪魔だった。


 真司は足を下ろした。


「俺は外を行く」


 ルカが振り返る。


「外?」


「手伝えない。場所を取る。重さも増える」


 真司は馬車の横に立った。


「一人分でも軽い方がいい」


 ルカは何か言いかけた。


 だが、荷台の狭さを見て、真司の白い包み手を見て、口を閉じた。


 若い護衛も黙っていた。


 昨夜から、真司を見る目に硬さを残していた男だ。


 その護衛が、何も言わずに荷を奥へ寄せた。


 ルカとセレーナが作業する場所が、少しだけ広くなった。


 朝の空気がまだ冷たいうちに、馬車が動き出した。


   ◇


 朝のうちは、まだ歩けた。


 森の道は湿っていて、馬車も急げない。


 真司は荷台の横を歩きながら、口だけを動かした。


「その薬草と巻き布は一緒でいい。紐も入れる。ただし、薬草はセレーナ確認」


「これは?」


 ルカが小さな束を持ち上げる。


 セレーナが覗き込み、首を横に振った。


「煎じるものです。傷に使う薬草と、煎じて飲む薬草は、こうやって分けてください」


「はい」


 ルカはすぐに布の上へ置き直した。


 若い護衛が荷台の端で、揺れないよう箱を膝で押さえている。

 その横で、セレーナは小瓶を薄い布で包み、油紙と一緒に別の袋へ入れた。


「火打石、火口、蝋芯、油入り小瓶。それは同じ袋でいい」


「灯りの袋?」


「そう。夜に困る人向け」


「夜に困る人」


「火が切れたら困るだろ」


 ルカは頷き、小袋をひとつ作る。


 布を折り、紐を通し、結ぼうとして少し手間取った。


 若い護衛が横から無言で紐を引いた。

 強く結びすぎて、ルカが慌てて止める。


「開けられなくなります」


 若い護衛は少しむっとした顔をしたが、結び直した。


 真司はそれを見て、少し笑いそうになった。


 作業は、きれいには進まない。


 揺れる荷台。

 狭い場所。

 怪我人。

 危険物扱いの小瓶。

 相場を知らない真司。

 焦るルカ。

 細かいものに慣れたセレーナ。

 力加減が少し雑な若い護衛。


 それでも、進んでいる。


「次。針、糸、革紐、留め具、大判布」


「これも一緒?」


「道中で直すもの」


「修繕」


「そう。修繕」


 ルカが、針を小さな布へ包む。

 糸を丸める。

 革紐を折る。

 簡易留め具を小袋の底へ入れる。


 馬車が揺れ、留め具がひとつ転がった。


 若い護衛がそれを押さえる。


 セレーナが、針の包みをさらに小さな布で巻いた。


「針は外へ出ないようにしてください。袋の中で刺さります」


「それは確かに怖い」


 真司は荷台の横から言った。


「針が刺さる商品は売りたくないな」


「そんな商品、誰も買いません」


 セレーナが当然のように返す。


「ごもっとも」


 ルカは真剣な顔で針の包みを結び直した。


   ◇


 道は少しずつ悪くなった。


 踏み固められた土の道。

 ところどころに石があり、木の根が浅く張り、雨の名残らしいぬかるみが小さく残っている。


 荷馬車は進むたびに、ぎしり、ぎしりと鳴った。


 バルトは無駄に喋らなかった。


 馬の歩幅。

 車輪の沈み方。

 荷台の傾き。


 必要な時だけ、短く指示を出す。


「右へ寄せろ」


 若い護衛が荷台の後ろで荷を押さえる。


「しばらく跳ねるから、注意しとけ」


 ルカが作りかけの小袋を抱え直す。


 真司は馬車の横を歩きながら、それを聞いていた。


 小袋作りは、馬車の中でも続いていた。


 ルカが布袋を結び、セレーナが小分けを確認し、若い護衛が紐を切った。


 真司は横から口を出す。


 手は出せない。


 だが、口は出せる。


 口だけ支援。


 情けないようで、今できることはそれだった。


【行動評価:支援行動】

【補足:直接作業不可のため、指示補助が有効】


「口だけか」


【口頭支援】


「やっぱり、口だけだな、俺」


 ルカが少し笑った。


 ローデンはまだ先だった。


   ◇


 馬車の中で、小袋は少しずつ形になっていった。


 薬草と巻き布と紐。

 火打石と火口包みと蝋芯と油入り小瓶。

 針と糸と革紐と留め具と大判布。

 紐類と大小の布、油紙、包みやすい保存食。


 ルカの指は、何度も紐を結び直して赤くなっていた。


 セレーナは膝元で、手際よく小分けにした品々を袋に入れていく。


 若い護衛は、できた小袋を箱に詰めていく。


 真司は外から見ているだけだ。


 それでも、ひとつ袋ができるたびに、荷台の中の空気が少しだけ変わる。


 ばらばらの荷物が、旅人がそのまま買える形になる。


 ローデンに着いてから、初めて考えるのではない。


 道の上で、もう商品になり始めている。


 ルカは何度も袋を見た。


 不安そうに。

 確かめるように。

 そして少しずつ、自分の商品を見る目で。


 真司は、その変化を見逃さなかった。


 道の先は、まだ長い。


 けれど荷台の中では、ローデンで売るための小さな準備が、ひとつずつ形になっていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


真司の異世界生活は、まだまだ手探りです。

少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


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