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異世界テンプレを信じた俺がバカでした  〜ステータスは出た。スキルもあった。だが、ほぼ履歴書だった〜  作者: 小森こもり
第一章 ~転移~

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第18話 灰線の内側の商売

【前書き】


いつもお読みいただきありがとうございます。

これは異世界テンプレに裏切られたおっさんの物語です。



 このまま荷と一緒にレグフォードまで移動するのは無理だ。

 バルトはルカへそう告げていた。


 本来、行商中に売れ残った物は、そのまま商会へ持ち帰るものなのだろう。

 だが、今の状況では持って帰ることはできない。


 いっそ、この村で無料で荷を渡したらと提案をされた。


 だが、無料配布は商品の価値と商会の品位を落とす行為としてご法度だと、

 ルカは小さく説明した。


 組合倉庫のあるローデンまで行き、

 その場で売れなければ倉庫組合に無償引き取りをしてもらうことも考えているらしい。


 有料で保管したところで、荷の価値と引き取り費用を考えれば、そちらの方が大赤字になる。


 ルカは悔しそうに荷を見つめながらバルトと話をしていた。


 真司はそれを見ていた。


 状況は分かる。

 ルカの悔しそうな顔を見て、

 バルトはローデンまでは何とか持たせるとルカに約束をしていた。


 何とかしてやりたい。


 どこで売るのか。

 誰が買ってくれるのか。

 どうやって選んでもらうのか。


 考えはいくつも浮かぶ。


 けれど、まずは商品を見極めないといけない。


 そのために必要なことを、真司は頭の中でまとめてみる。


 ここはリーヴェの門外だ。

 灰線の内側だ。

 黒沼事故の直後だ。


 今この場で必要なのは、ここで売上を伸ばすことではない。


 今からできること。

 知らなければいけないこと。

 ローデンまでに準備すること。

 そして、ローデンに着いた時、すぐに動ける形にしておくこと。


 売るのはローデンだ。


 ならば、その前にやるべき仕事がある。


   ◇


 御者は、車輪のそばにしゃがみ込み、縄の結び目を確かめていた。

 手で車軸に触れ、少しだけ動かし、音を聞く。


 馬車を知らない真司にも、その顔が明るくないことだけは分かった。


 セレーナが御者を呼んだ。


「バルト」


 御者が顔を上げる。


 真司も思わずそちらを見た。


「バルト?」


 御者は短く頷いた。


「ああ。俺だ」


「名前、バルトっていうのか」


「今さらだな」


「今さらだな」


 真司は素直に頷いた。


「俺はシンジ」


「知ってる」


「だよな」


 バルトは短く笑った。


 昨日まで言葉が通じなかった。

 互いの名前を確認するだけでも、十分に前進だった。


 バルトはすぐに車軸へ視線を戻した。


 名前が分かったからといって、馬車の状態がよくなるわけではない。


 添え木。

 縄。

 底板。

 荷の偏り。


 バルトは村人が差し出した木片や縄を使い、馬車の傷んだところをひとつずつ押さえていった。


 大がかりな修理ではない。

 壊れかけたものを、次の宿場町までどうにか持たせるための処置だ。


 真司には手が出せない。


 封止された両手では、縄を握ることも、木片を押さえることもできない。

 近づきすぎれば、誰かが止めるだろう。

 何より、真司自身が怖かった。


 だから、見るしかない。


 見て、考える。


 自分にできることは、別のところにある。


   ◇


「ルカ」


 真司が呼ぶと、ルカが顔を上げた。


「何?」


「ローデンで売るなら、準備しておいた方がいい」


「準備?」


「荷をそのまま広げても、たぶん時間がかかる。ローデンに着いたら、ガレンのこともある。馬車も見てもらわないといけない。売るなら、すぐ出せる形にしておく」


 ルカは荷を見た。


 布袋。

 小瓶。

 薬草。

 紐。

 針。

 糸。

 油紙。

 火打石。

 乾いた果物。

 小さな金具。

 旅道具。


 それぞれは軽い。


 けれど、まとめれば重い。


 そして、ばらばらのままでは、欲しい人が見つけにくい。


「分けるんですか」


「そう。用途ごとに」


「用途?」


「何に使うかだ」


 真司は荷を指で示そうとして、白い布に包まれた手を途中で止めた。


 触れない。


 だから、顎で示した。


「薬草と巻き布と紐。怪我や体調不良に備えるもの」


 セレーナが顔を上げる。


「薬草は効能や組み合わせがあります。単体で売ってよいものと、そうでないものがあります」


「そこは頼む」


「確認します」


 セレーナはガレンのそばから離れすぎない位置で、薬草と小瓶を確認し始めた。


 治療だけではない。

 検分。

 記録。

 危険確認。


 セレーナは、そういう仕事の人間なのだと改めて分かる。


 真司は少し安心した。


 自分だけで勝手に判断してはいけないものが、この世界には多すぎる。


「火打石、火口、蝋芯、油入り小瓶。これは火のもの。夜や朝に必要になるかもしれない」


 ルカが頷く。


「針、糸、革紐、小さな留め具、布。これは直すもの」


「袋とか、服とか、革紐とか」


「そう。道の途中で壊れたものを直す」


 真司は言いながら、荷を眺めた。


 現地の相場は分からない。

 どの品が高く、どの品が安いのかも分からない。

 だから値段は決められない。


 だが、分け方なら考えられる。


「値段はルカが決める」


 真司は言った。


「俺は相場を知らない」


「シンジ、値段は分からない?」


「分からない。俺が分かるのは、分け方と見せ方くらいだ」


 ルカは少し考え、それから小さく頷いた。


「わたしは値段を決める。シンジは売り方を考える」


「そうだ。ローデンで売って、荷を軽くするんだ」


 ルカの目が一瞬潤んだ。

 そして、小さく笑った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次話もお付き合いいただければ嬉しいです。


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