第12話 俺、いらない子じゃね?
お読みいただきありがとうございます。
真司の異世界実務サバイバル、続きです。
ついに真司のステータスが仕事………するのでしょうか?
最後までお楽しみください。
翌朝。
「よし」
バルトが馬の具合を確認する。
荷馬車も、昨夜のうちに出発できる形まで整えてある。
あとは乗るだけ。
ルカも荷台へ上がり、小袋と商品の位置をもう一度確認していた。
「シンジ、こっち大丈夫」
「了解」
アースも剣を腰へ下げる。
セレーナはガレンの状態を確認し終えたところだった。
「問題ありません。容態は安定しています」
「出発準備が終わったら声をかけてくれ」
シンジが荷馬車へ近づいた。
その時だった。
村の外が急に騒がしくなる。
何台かの荷車。
見慣れない装備を持った人間たち。
セレーナが振り返った。
「来ました」
「何が?」
「浄化班です」
「……今!?」
シンジは思わず荷馬車を見る。
まさに今、出ようとしていたところだった。
「三日前の報告で、すでにこちらへ向かっていた班ですから」
「ああ。そういやそうだった」
昨日、聞いている。
本街道側に最初の黒沼が見つかったのが三日前。
その時点で浄化班は派遣されていた。
昨夜の灯文鳥は、旧街道側に見つかった二つ目の黒沼を追加報告しただけだ。
「分かってはいたけど、本当に朝一で来るとは」
◇
浄化班は到着すると、すぐに動き始めた。
器具。
箱。
薬品らしき容器。
シンジには用途の分からない物が、荷車から次々と降ろされていく。
セレーナも表情を切り替えた。
「本街道側は、三日前に報告された場所です。確認時点では小規模で、拡大もほとんどありませんでした」
「はい」
「旧街道側は昨夜報告した通りです。規模はこちらの方が大きく、拡大も確認しています」
「凍結してある場所ですね」
「はい。私が維持しています」
一人が難しい顔をした。
「二か所となると、人員を分ける必要がありますね」
「本街道側を先に確認してください。状態が変わっていなければ最低限の人数を残し、残りを旧街道側へ」
「分かりました」
「旧街道側の凍結解除は、そちらの準備が終わってから行います」
短い。
迷いもない。
次々に決まっていく。
シンジは少し離れた場所で、その様子を見ていた。
「……やっぱり、仕事してる時は雰囲気違うな」
巡回書記官。
未だにシンジの知る『書記官』とはだいぶ違うが。
少なくとも、セレーナがこういう現場に慣れているのは分かった。
◇
引き継ぎが一段落したところで、セレーナが浄化班へ尋ねた。
「一つ確認があります」
「何でしょう?」
「馬を一頭、お借りできますか?」
男は困った顔をした。
「申し訳ありません」
即答だった。
「二か所へ分かれることになったので、こちらも移動手段を全部使います」
「荷馬車は?」
「予備はありません。器具を降ろした後も、二か所を往復させる必要があります」
「分かりました」
セレーナはそれ以上求めなかった。
シンジは横で聞きながら、頭の中で整理する。
セレーナの馬は、昨日の戦いで失った。
浄化班にも余裕はない。
代わりの馬なし。
馬車もなし。
つまり。
セレーナも自分たちの荷馬車へ乗る。
ガレンも乗る。
ルカも作業する。
アースも手伝う。
商品もある。
小袋もある。
完成した荷を置く場所も必要。
「…………」
シンジは荷馬車を見る。
◇
浄化班への引き継ぎが終わった。
「では、行きましょう」
セレーナが戻ってくる。
「はい」
シンジは荷馬車を見る。
御者台。
バルト。
荷台奥。
ガレン。
その近くにセレーナ。
ルカは作業場所。
アースも荷台と外を行き来する。
商品。
袋。
完成品置き場。
「…………」
次。
自分を見る。
真っ白な両手。
「……あれ?」
「どうしたの?」
ルカが首を傾げた。
「俺、いらない子じゃね?」
「え?」
シンジはもう一度、自分を見る。
「俺が馬車に乗る」
「うん」
「一人分、場所を使う」
「まあ、そうだね」
「でも袋詰めできない」
「その手じゃ無理だね」
「商品も触れない」
「うん」
「ローデンに着いてから俺に必要なのは?」
ルカが考える。
「シンジが考えた売り方を教えてもらう」
「つまり頭と口」
「……そうなるかな」
「腕力いらない」
「うん」
「体力もいらない」
「たぶん?」
シンジは、何か思いついたように告げる。
「よし!」
「何?」
「走るか」
「…………」
ルカが止まった。
「え?」
「俺が馬車に乗らなきゃ、その分広く使える」
「いやいやいや!」
「一人分空けば、袋詰めしやすいだろ」
「そういう問題じゃないよ!」
「でも、他に場所増やす方法ある?」
「それは……」
ルカが詰まる。
アースも荷台を見る。
シンジ一人分。
確かに大きい。
「俺が外にいる時間、その分だけ作業できる」
「シンジ、本気?」
「本気」
「ローデンまでだよ!?」
「だから頑張る」
シンジは自分の胸を軽く叩いた。
「頑張れ、俺の身体C」
「しんたいしー? 意味わかんないよ!」
「いや、こういう時に体力使わないでいつ使うんだよ」
セレーナが困った顔で近づく。
「シンジさん。無理をする必要はありません」
「無理だったら途中で乗るよ」
「最初から乗ればいいのでは?」
「それだと袋作れないだろ?」
「それはそうですが……」
「今必要なのは、ローデンまでにできるだけ準備を終わらせること」
シンジは荷台を見る。
「俺は商品に触れない。ローデンに着けば、売り方の説明はできる」
そして街道を見る。
「なら、今の俺が一番使える場所は外」
「人を置き物みたいに言わないの!」
「自分だからいいの」
ルカが頬を膨らませた。
「よくない!」
「大丈夫だって。疲れたら乗る」
「本当に?」
「ホント、ホント」
「昨日も疲れてたよ?」
「…………」
「夜中に一人で喋ってたし」
「それは疲労と関係ない!」
セレーナが不思議そうな顔をした。
「誰と喋っていたのですか?」
「そこは今度説明します」
シンジは話を切った。
「とにかく」
軽く足踏みする。
「いけるところまで行く」
「もう……」
ルカは納得していない。
だが。
荷馬車の中が狭いことも事実だった。
「分かった。でも絶対、無理したら乗って」
「了解」
「絶対だよ」
「はいはい」
「返事が多いの!」
「はぁい」
「今度は軽いの!」
シンジは笑った。
「じゃあ出発しよう」
そして、ふと思う。
「なんなら、頭だけローデンに持っていければ一番効率いいんだけどな」
「やめて、こわい!」
「ん? そういえば、なんかいたろ。頭を取り替える食べ物のヒーロー……」
「し、知らないよ!」
「愛と勇気……」
シンジが空を見る。
「あんぱんま――」
【危険ワード検知】
【発言禁止】
「……なんか、ごめん」
「何に謝ったの?」
「目に見えない何か」
「謎すぎる!?」
セレーナが口元を押さえた。
「ふふっ」
「セレーナさんまで笑うし」
「すみません。でも……」
少し楽しそうに目を細める。
「本当に、不思議な人ですね」
「それ、褒めてる?」
「どうでしょう」
「そこは褒めたことにしといて」
バルトが御者台から声を上げた。
「出るぞ!」
「おう!」
荷馬車がゆっくり動き始める。
ルカが荷台へ座る。
アースも乗った。
セレーナが最後にシンジを見る。
「本当に無理はしないでくださいね、シンジさん」
「分かってるよ」
さん付けって、なんかむず痒いなあ。
「じゃあ行くか」
シンジは動き始めた荷馬車の横へ並ぶ。
目的地はローデン。
荷馬車の中では、昨夜準備した小袋作りが始まる。
そしてシンジは、
異世界へ来て二日目の朝から、荷馬車の横を走ることになった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
真司のステータスはやっぱり、履歴書でした。
ですが、これからです。
今後の展開にご期待ください。
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