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異世界テンプレを信じた俺がバカでした  〜ステータスは出た。スキルもあった。だが、ほぼ履歴書だった〜  作者: 小森こもり
第一章 ~転移~

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第9話 商人として

お読みいただきありがとうございます。


真司の異世界実務サバイバル、引き続きお楽しみください。


「それで、これからどうなるんだろ」


 セレーナがシンジたちへ向き直る。

 ガレンも身体を起こさず、顔だけをこちらへ向けている。


「ガレンさんとシンジさんは、領都レグフォードまで行ってもらいます」

「領都?」


「ここからでは十分な治療ができません。ガレンさんの黒沼汚染も、シンジさんの両手も、進行を抑えているだけです。特にガレンさんは汚染深度が深いので、早く領都で本格的な治療が必要です」


 ルカが不安そうにガレンを見る。


「領都なら、本当に治るの?」

「はい。治ります」


 はっきりした返事だった。

 ルカの肩から少し力が抜ける。


「それから、シンジさん」

「はい」

「あなたについても、領都で確認が必要です」

「……俺?」


「どこから来たのか。身元も分からない。こちらの文字も読めず、この辺りのことも何も知らないのでしょう?」


「はい、その通りです」


 反論の余地がない。


「そういった確認をした後、正式に保護という形で、生活基盤を整えてもらいます」

「そうだよな。俺、異世界で迷子みたいなものだしな」


 デパートの迷子センターに連れて行かれる52歳のおっさん……。

 想像したら、すごく情けなくなってきた。


「私が同行します。領都へ着いたら、私から状況を説明して引き継ぎます」

「セレーナさんも?」

「はい」


 シンジは一瞬、彼女の馬を思い出した。


「あ……」

「何です?」

「いや。馬……」


「ああ……」

 セレーナが目を伏せ黙る。


「ごめん」

「シンジさんが謝ることではありません」

「でも、俺たちを助けたせいで……」

「私が選んだことです」


 セレーナは静かに言った。


「それに、あの時はあれが最善でした」

「…………」

「ですから、気にしないでください」

「分かった」


 それ以上は言わなかった。


 ただ。

 シンジは心の中で、もう一度だけ。

 ありがとう、と呟いた。


          ◇


「……これは、厳しいな」


 少し離れたところから、バルトの声がした。


 荷馬車だ。

 村から借りた道具と材料で、応急処置を続けていた。

 シンジたちも集まる。


「そんなに悪い?」


 ルカが尋ねる。

 バルトは傷んだ車輪の付け根を指した。


「車輪だけじゃない。軸までやられてる」

「直せないの?」

「ここでできるのは、走れるように持たせるだけだ」

「領都までなら?」


 バルトはすぐには答えなかった。


「大丈夫とは言えん」


 ルカの顔が曇る。


「ただ、ローデンまでは持たせる。そこで、もう一度補強する」

「ローデンでちゃんと直せない?」

「無理だ」


 バルトの返事は早かった。


「これは車輪を付け替えれば終わりって傷じゃない。軸ごと交換して、全体を見直さなきゃならん。馬車を専門に扱う工房じゃないと無理だ」


「ローデンには?」

「応急処置ならできる。だが本修理は領都だ」

「……そっか」


 ルカが荷台を見る。

 積まれている商品。

 袋や木箱に入れられている様々な日用品。


 そして、ガレンを乗せた今。

 それらは、ただの荷物ではなかった。

 傷んだ馬車へかかる負担でもある。


「荷を減らさないと駄目?」

「減らせるなら、その方がいい」


 バルトは隠さず答えた。

 ルカが俯いた。


          ◇


 その日のうちに。

 村の者たちは、必要な商品をいくつか買ってくれた。


 もちろん全部ではない。

 村で必要になる量には限界がある。

 荷台には、まだかなりの商品が残っていた。


「……もう、置いていこう」


 ルカがぽつりと言った。


「え?」

「ガレンを早く領都へ連れていかないといけない。馬車も傷んでる。それなら荷なんて……」


 ルカが顔を上げる。


「全部ここへ置いていけばいい」


 それを聞いていた村長が静かに首を横へ振った。


「それは受け入れられない」

「でも……」

「ガレン殿を優先したい気持ちはわかる」


 老人は荷台を見る。


「だからといって、商人が自分の荷を簡単に捨てるものじゃない」


 ルカが黙った。


「この村で必要な物は買わせてもらった。だが、これ以上は必要ない物になる」

「お金はいらないよ」

「それなら、なおさらだ」

「タダだからと必要以上の物を置いていかれても、村では管理出来ない」


「……」


「商人が売り物を『いらないから置いていく・捨てる』なんてことをしてはいけない」


「商人としての生き様を、もう少し考えて見なさい」


 きつい口調ではなかった。


 だからこそ。

 ルカには刺さったようだった。

 涙が溢れ、頬を伝って落ちる。


「…………」


 ガレンの命と荷物、比べるまでもない。

 ガレンだ。

 そんなことは最初から決まっている。


 でも。

 だからといって。

 自分は荷を最後までどうにかしようとしただろうか。

 売ろうとしただろうか。

 考えただろうか。


 ただ。

 捨てればいい。

 そう決めようとした。


「……私、商人なのに」


 しばらく荷を見ながらルカは考えた。

 ガレンが荷台からルカを心配そうに見る。


「ルカ……」


「大丈夫」


 ルカは顔を上げた。

 もう泣いてはいなかった。


「バルト」

「なんだ」

「ローデンまでは、持たせて」

「ああ」

「そこで売れるだけ売る」

「……」

「残った荷は、もう商会へ持ち帰らない」


 アースがルカを見る。


「いいのか?」

「うん」

「商会から何か言われるぞ」

「分かってる」


 ルカは荷台を見上げた。


「私が決める」

 声は少し震えていた。


 それでも。


「ローデンまで持っていく。そこで最後まで売ってみる」

「ルカ」

「そこで売れ残ったら、倉庫組合へ荷を無料引取り処分をしてもらう」


 ルカは、ガレンたちに自分の考えを詳しく説明した。

 それを離れた場所で、シンジも耳を傾け、ルカの話を聞いていた。

 

 ローデンには有料で荷を中継する倉庫組合がある。

 現代で言えば、長距離トラックの中継倉庫みたいなものだな。


 商品価値の高い荷や大量の荷はそこに預けるが、荷馬車一台程度の半端な量と、日用品という価格が低い商品では、有料預入したところで、コストだけで赤字になるという。


 だから、そこで荷を無料で引き取ってもらうと。

 お金にはならないが、商会の荷を諸事情で処分という形で引き取ってもらえる。

 少なくとも無料配布や途中で破棄という無様な荷の扱いにならないと説明した。


「商会で怒られるなら、私が怒られる」


 ガレンが何か言おうとする。

 ルカは先に首を振った。


「これは、私の責任で最後までしないといけないの」

「…………」

「私がこの行商隊の荷を任されてるんだから。最後まで私が決める」


 シンジは黙って聞いていた。


 若い。

 まだ少女だ。

 さっきまで、女の子だと分からなかったくらいには。


 けれど、今の顔は商人だった。


「……ローデンで売る、か」


 シンジが荷台を見る。


 残っている商品。

 量。

 種類。


 傷んだ馬車。

 限られた時間。

 使えない自分の両手。

 ガレンは早く領都へ運びたい。


 でも。

 ルカは最後まで商人として荷物の、いや、商隊の責任を取ろうとしている。


「…………」


 シンジの頭の中で、一つずつ、課題が並び始めた。


 何が問題なのか。

 何なら変えられるのか。

 何を先にやればいいのか。


 そして。


「その荷」


 シンジがルカを見る。


「まだ、諦めるのは早いかもしれないぞ」

お読みいただきありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次話もお付き合いいただければ嬉しいです。


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