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番外編08 元王女の始末【sideカーチャ】

 私はカーチャ・ビルング。

 ノルトハルムの女王、マティルデ様の側近となって5年になる。


 貧しい男爵家の4女に生まれ、貴族学院を奨学金で通い、必死で勉強して官僚になった。

 持参金なんて用意できないから、結婚ははなから諦めていたし、仕事にまい進していたら、側近に引き上げてもらえたのだ。




 マティルデ陛下は~~~


 本当に素晴らしい方っ!




 エルフを体現されたような美しさと、優雅な仕草、柔らかな微笑み。

 もおぉ~側にいたらうっとりして、いつまでも見つめてしまうの。


 またあのクロノス陛下と並んだお姿は~~~



 ぐふっぐふっ!




 見つめすぎて目が乾いて、涙が出ちゃうくらいイイのよ~~。




 しかも美しいだけじゃなく、勉強熱心で経済、経営、農業、土木、あらゆる専門家をお呼びになって日々学習されているのよ。

 初めは年若い女王を侮っていた官僚たちも、その真摯な態度にもうメロメロ。

 女王の頼みとあらばって、みんな必死にお仕事しているわ。





 そして今日、私が命ぜられたのは『旧王族の後始末』だ。



 バーテン王国に入国して馬車を走らせること10日。

 北のはずれにある穀倉地帯にやってきた。



「こんなところに元王女がいるんですか」

 私の秘書のマーカスがつぶやく。


「ええ」


 本当に麦畑と畑しかないド田舎だ。

 そこにポツンと小さな屋敷があった。




「お待ちしておりました」


 痩せぎすの初老の男が出迎えてきた。

 この男が農場主らしい。

 側には青い顔をしたひょろりとした男が立っていた。

 これが農場主の息子でゾフィー元王女の新しい男か。



 応接間に通されると、そこには一人の女が座っていた。

 私たちが入ると座ったままでいいのか、立ち上がったほうがいいのかと一人でバタバタしている。




「そなたがゾーラか?」



 王族を離れた平民だ。

 しかも戸籍は偽名。

 私の方が身分が高いので、敬称や敬語を使う必要はない。


「…はい」


 農民になったと聞いていたが、思ったより小綺麗にしていた。

 愛人だからもう農作業をしていないのか。


「ゾーラに話しがある。そなたらは出てくれ」


 農場主親子を応接室から追い出した。






「そなたがゾフィーだな」


 情報どおりの小柄な体躯に、赤毛、『王家の色』の紫の瞳。


「はい」


「今回、旧王朝派の残党が、そなたを旗頭に謀反を企んだことに、マティルデ女王陛下は大変ご立腹だ」


「あたしは断ったのよ!? 女王になんてなりたくないし、ノルトハルムにも帰りたくないもの!」


「だがお前には王族の青い血が流れている。国を出たって、駆け落ちしたってその血から逃れられない」


「…」



「死ぬまで」




「……お願い。あたしはただここで静かに暮らしたいのだけなの。ただそれだけなの」

 ボソボソと弱弱しく元王女が言う。


「今回は事前に捕縛し事なきを得たが、今後また残党が現れ、同じようなことが起きるのではないかと女王は非常に憂慮されておる。そこで忍びないが、そなたを捕縛し毒杯を…」


「絶対なびかないから! 絶対ノルトハルムに行かないから! お願い、助けて下さい」


「死ぬのは嫌だと?」


「はい! どうか許して下さい」




「……そなたが死を免れたいなら二つの道があると、女王陛下は示しておられる」



「……」



「一つ目の道は、娘アンナを捕縛、毒杯を賜らせ、ゾフィー元王女は修道院に入ること」


「…ど、どうしてアンナを? あの子こそ何の罪もないわ!」



「二つ目の道は、娘アンナを修道院に送り、ゾフィー王女は目をつぶし、子袋を切除すること」


「子袋?」


「子どもを作る臓器だ。ここをなくせば子はできない」


「目…目をつぶすって」


「本当につぶす訳ではなく、薬で焼くのだ。紫の瞳はなくなる。視力は多少残るだろうが……」






 元王女には簡単に荷作りをさせて、別の馬車に乗せた。


 これから一緒に、バーテン国の王都に向かう。



 王都で一番大きな病院に、アンデクスから連れてきた医者が待機している。

 アンデクスは医療でも先端をいっており、外科手術が頻繁に行われている。

 身体を切ったり、縫ったりするなんて正直ゾッとする話だが、これが時代の最先端だという。

 そこで元王女の目と子袋の手術をする。




「しかし、上手い手ですよね~。一つ目が最悪な条件なら、二つ目を選ばざるを得ないし、それを自分の選択だと勘違いする」


 マーカスが鼻息荒く話しかけてくる。


「そりゃ、マティルデ様のお考えですもの」


 私の鼻息も荒い。



「でも一つ目を選んでいたらどうなっていたんでしょうね」


「即、捕縛し移送するように言われていたわ。で、残党共と一緒に首を並べていたわね」


「ですよね~。でも王女、あっさり二つ目を選びましたよね。あれが母の愛? でもなんかあの元王女、何にも考えてない気もするんですけど」


「そうかもね」



 王宮の鳥かごで暮らし、国を出てからはフェルディナントに守られ、今は農場主の息子の愛人。

 人任せ、他人任せな人生。




 でもある意味、可哀想な人かも。


 生まれてからずっと王宮に閉じ込められ、教育も与えられず、一人の人間として自立する機会を奪われてきたんだもの。


 だけど、この先の人生の想像は出来ているのかしら。



 目が不自由な人の生活の大変さは?



 農場主には金を握らせて今後も面倒をみるよう依頼したけれど、将来、年老いた時の愛人生活を想像できているのかしら。




「娘は修道院に逃げて正解かもね」


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