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番外編06 ようやくエサに食いついた【sideマックス】

 俺はマックス・デーンホフ。

 ノルトハルム女王の王配であられる、クロノス・ヴァン・ベルンシュトルフ・ノルトハルム陛下の側近だ。


 生まれ故郷のアンデクス国で、13才から戦場に出ておられたクロノス様の小姓を務め、このノルトハルムで王配になられてからもお側に着かせて頂いている。

 一応、最側近を自負しているが、表向きの仕事は5人いる部下に振っており、俺が直接手がけるのは、裏の仕事だ。


 諜報。

 暗殺。

 脅迫。

 裏工作。


 俺はクロノス陛下の命令で、獲物を狩る犬だ。




 そして俺のような犬をクロノス陛下は他にもたくさん飼っている。

 それぞれの得意分野に振り分けるためでもあるが、真の理由は俺たちを信用しておられないからだ。


 こと重要な仕事にあたる際は、クロノス陛下は複数に諜報活動をさせる。

 全員の報告を聞き、誤報をつかまされていないか、整合性は取れているか……嘘の報告をする裏切り者はいないか。

 暗殺命令を出せば、暗殺者に監視者が、そしてその監視者を監視する監視者もつける。


 信用して頂けないのは辛いが……


「それがあの方の凄いところなんだよな」


 一見ムダなようで、合理的でミスがない。



 今日はその犬のリーダーの一人が、陛下に報告に来たと聞いた。

 執務室のドアをノックし、入室する。


「マックスです。お呼びと伺いましたが」


 執務室にある大きなウォールナットの机を前に、クロノス陛下がお茶を飲んでいた。


「あぁ来たか。やっとエサに食いついたぞ」


 陛下の片頬があがり、大きめの口が笑みをうかべる。


「旧王朝派の残党ですね」


 犬が来たのはその報告だったのか。


 アンデクスと戦争が始まり、国外逃亡しようとしたノルトハイムの王族は全て殺した。

 その王族におもねっていた主要貴族も子どもまで全て殺した。

 だが、取り逃がした者もいたのだ。


 すぐに資金源を断ったのだが、奴らは国外に逃亡し、それをモルトケ帝国が匿ってしまった。

 モルトケ帝国とアンデクス帝国は犬猿の仲で、お互いけん制しあう軍事国家同士だ。

 暗殺者を送り込み、殺害しようとしたが、モルトケの諜報員の返り討ちにあい、何人もが命を落としてしまった。



 そこで一旦、作戦を変更しようとしたところで、思い出されたのはノルトハルムから家出したまま放っておいたゾフィー王女だ。


 愛妾が産んだ姫で庶子、王位継承権もなかったが、のちの火種になってはと適当なところで暗殺する予定だった。


 だがクロノス陛下が待ったをかけた。


「ちょうどいい。王女をエサにしよう」



 残党どもは金と人員を集め、いずれ王位簒奪を狙ってくるに違いなかった。

 だが、そのためには『冠』が必要だ。

 王族の血を引くもので残っている者のトップは新王朝の女王だし、その家族のエッケハルディン侯爵家はもちろん新王朝派だ。

 旧王朝の威信を利用し旗印にできるのは、ゾフィー王女とその娘アンナしかいない。



 そしてとうとう先日、奴らはモルトケ帝国から出てゾフィー王女に接触を図ってきたのだ。





「しかし長かったなぁ。奴らが王女(エサ)に食いつくまで8年もかかったぞ」


「資金源を断ったのがマズかったですね」


 王女を使って人員や金を集めるにも元手はいる。

 モルトケの奴ら、意外にケチなんだな。

 そのくらいの資金援助はすると思っていた。



「全員捕縛してこっちに護送中だ。公開処刑にしてやる」


「同じようなバカが出ないように、派手なショーにしましょう」


「誰名義で処刑をやるかだな……『首狩り公爵』じゃありきたりだし、ひよっこ女王にしとくか」


「マティルデ陛下名義でですか!?」


 残党20名の首を次々と落とすショーを?



「歌のせいで清廉な女王のイメージが付きすぎただろう? そろそろ女王として畏怖されてもいいんじゃないか?」


「……あの歌は貴方の命令で作ったんじゃないですか」


 女王を神の化身のように扱うあの歌。


「大流行したな。俺の歌詞は良かったろ?」


「陛下の言葉をきちんとした歌詞にしたのは詩人のバッカスです」


「曲も良かったじゃないか」


「……」


 子どもたちを集めて意見を聞き、吟遊詩人と作曲家に手遊び歌として良い感じに作らせたのは俺ですが!?




 元々は新王朝に親しみを持ってもらうために流行らせた歌だった。


 街かどでお菓子を餌に、子どもたちを集めての吟遊詩人に歌わせ、酒場では役者と娼婦に歌って踊らせた。


「ノルトハルムだけじゃなく、周辺諸国でも流行ったみたいですね」



 あれはゾフィー王女への警告を含めていた。


 こんな曲が流行っているノルトハルムには近寄るな、戻れば殺すぞと。

 大人しくエサになって、とどまっておけよと。


 だが、バーテン国でも流行ったみたいで奴らは苦労したようだ。


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