64 フェルディナントを愛妾に!?【sideマティルデ】
「お前がベッドの上でウンウン唸ってる頃、結局よろしくヤっていたんだよあの二人は」
「……それは確かに胸糞悪いわね」
クロノスがじっと私の顔を見る。
「ショックを受けたか?」
「ショック? 確かにショックを受けたかも」
「……」
「自分の男を見る目のなさに」
「カハッ!」
クロノスが酒を噴き出した。
汚いわね。
「ハハハハ! 嘘だ嘘だ」
「嘘?」
「いや、子が出来たのは嘘じゃない」
笑いをおさめた彼の灰色の瞳が、私の心を量ろうとしている。
「死を覚悟した王女に、最期に抱いて欲しいと頼まれて折れたんだよ、あの男は」
「……」
「甘いというか、何と言うか……間が悪い男だな、お前の婚約者だった男は」
「間が悪い…」
確かに。
それで王女が妊娠するなんて。
でも、実にフェルディナントらしいと思った。
か弱きものを無条件で守ろうとする、私の騎士だった優しい男。
病みやつれた王女の最期の願いを、叶えずにはいられなかったのだろう。
「その時はまだヤツはお前の婚約者だった。なのに同情して結局、お前を裏切ったんだ」
「……そうね」
「そうねってそれだけか?」
「それだけよ。確かにあの頃のわたくしが聞いたら泣いたかもね」
初恋を温めていた、純粋な少女の頃の私が少し可哀想。
でも駆け落ちじゃなかったのなら、慰めにはなったのかも。
「でもね。今はそんな話を聞いても何とも思わないわ」
駆け落ちじゃなかった、誤解だったと言われても、7年間1度も思い出さなかった男の話なんて、古い肖像画を眺めているかのよう。
ただ、懐かしいと思うだけ……。
それは、もう戻れない過去のことで、今の私たちの道は完全に分かれてしまったのよ?
バーテンの親書で、名を見ても全く心が動かなかったことを自覚したところだったし……って、ちょっと薄情かしら。
ふぅ~とクロノスが大きなため息を吐いた。
「それで、二人の子はどうなったの?」
「…無事生まれた。女だ」
「それは良かったわ。二人は結婚したの?」
「いや、一緒に暮らしてはいるが籍は入れていない」
「まぁ、子どももいるのにどうして……」
「夫婦仲は上手くいっていないようだ。元々王女はヤツの恋愛対象じゃなかったようだし、王女は王女で子どもでヤツを縛り付けたようなものだから、罪悪感で遠慮がちらしい」
「……上手くいかないものね」
結局、私とフェルディナントは『縁』が無かったのだろう。
お互い気持ちはあったのに、すれ違うばかりで……
王女とフェルディナントには『縁』があって子を授かり、一緒に暮らしているのに。
「助けてやるかヤツを? バーテンから提案されたんだろう?」
さすが耳が早いわね。
「ヤツを愛妾に迎えてもいいぞ」
「は?」
「女王なら愛妾は認められる」
「ちょっと、冗談じゃ…」
「さすがに元戦犯を第二夫にはしてやれないが、秘密の恋人なら……」
「やめて! 貴方、正気!?」
「もちろんだ。だが断種はしてもらうぞ。子はアンデクス帝国の血を引く子でないと……」
「黙って!!!」
喉から血が出るかと思うくらい大声を出した。
クロノスが大きく目を見ひらいたまま、私を凝視して固まった。
彼のびっくり顔なんて初めて見た。
「「「何かございましたか!」」」
廊下に控えていた衛兵たちの切羽詰まった声が聞こえてくる。
「何でもないから入って来ないで!」
また大声で叫ぶ。
そして振り返り、ギッとクロノスを睨みつける。
彼の肩がちょっとだけ揺れた。
「貴方はわたくしを何だと思っているのですか!!」




