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59 グリフ家の崩壊【sideフェルディナント】

 まずは王都行きの乗合馬車に乗った。

 前と同じく7時間ほどで王都に着いた。


 王都は以前とあまり変わらなかった。

 王城もわずかに崩れているだけで、圧倒的な戦力を前に、すんなり城を明け渡したのが分かる。


 外国人の商人の姿も多数見え、市場は物であふれていた。

 市民たちは笑顔で、むしろ今の方が活気がある。


 土産物屋にはマティルデの姿が描かれた陶器の絵が並び、皆こぞって買い求めていた。


 こんな絵より彼女はもっと美しい。

 もう手の届かない遠い人になってしまったけれど。



 何においてもまず、家族の無事を確かめるためにグリフ領に行くことにした。

 馬車で3日はかかる行程なので、身重の王女が心配で声をかけた。


「もう安定期だから大丈夫。心配してくれてありがとう」


 自分のせいで子が出来てしまったことに引け目を感じているのか、彼女は俺に常に気を使っている。

 それが分かっているけれど、俺にはどうしたらいいか分からなくて何も言えないままだ。




 3日かけてグリフ領についた。


 領地自体は戦火を逃れていたが、伯爵家のタウンハウスは打ち壊され、火が放たれたのか黒く焼け焦げていた。

 思い出ある屋敷の見るも無残な状態を呆然と見つめるしかなかった。

 室内は荒らされ、家具、花瓶、絵…何もかもなくなっていた。

 略奪されたのかカーテンや絨毯すら無かった。


 父上、母上、兄上は無事なのか。


 何か手がかりはないかと探し回ろうとしたところに、割れたガラスを踏むパキパキという音がした。

 略奪者かと身構えると、現れたのは年配の女性。



「…母上…」


 それはグリフ伯爵夫人。

 母の姿だった。


 俺を見るその目は大きく見開き、次に涙があふれる。

 そして俺に近づき……


「この! この! お前のせいで! お前のせいでぇえええ~~!!」


 持っていた布で、俺を叩き始めた。


「お前のせいでわたくしたちは全てを失ったわ! エルンスト様も…死んでしまった……!」


 母上は泣き崩れ地面に膝をつく。

 エルンスト…父上が死んだ!?

 一体なぜ?


「母上、どうされました!?」


 そこに飛び込んできたのは兄上。


「……フェル…お前…!」


 兄上は足を引きずりながら、俺に突進してきて拳を振り上げた。



 ガツッ!


 軸足が覚束ないのに、渾身の力をふり絞ったのだろう。

 兄上は殴りながら俺と一緒に倒れ込んだ。


 そして俺の襟首をつかんで、ガツガツと頭を床に打ち付ける。


「なぜだ! なぜ駆け落ちなんてした! ティルデを裏切って、貴族としての義務まで捨てて! お前は次期領主だったんだろう!?」


 そこでゾフィー王女が大きな声をあげた。


「違うんです! あたしたちは駆け落ちなんてしていないんです! フェルはバーテン国に逃げたあたしを心配して、ついてきてくれただけで…」



「は…? ……はぁあ? ……なに?…お前はついて行っただけ? 王女について行っただけ? 駆け落ちじゃないのか!?」


「……ああ」


「何だ!? それが真相? ついて行っただけ……」


 殴られたのは俺なのに、兄上こそが殴られたような表情で俺たちを見つめた。


「あたしのせいなんです! ごめんなさい!」


 身体を縮こませた王女が、勢いよく頭を下げた。

 すると兄上の顔色が、怒りでみるみる赤く染まって行く。


「……そうだな殿下の……いや、もう王家は無くなったから平民になったお前のせいだな!」


 兄上がぎっと王女を睨みつける。


「不治の病で余命宣告されていたのは同情する。だがな、お前は王女だったんだ! いくら虐げられていたとはいえ、国民の税金で腹を満たし、暖かい部屋で眠っていたんだろう? そんなお前は国民を守る義務があったんだ! だからこそ労働もせず、平民より恵まれた生活をしていたんだ! 王女として国民を置いて逃げるなんて許されなかったんだ!」


「ご…ごめんなさい…」


「それとフェル。何が付いて行っただけだ! じゃあ王女のこの腹はなんだ!? そんな言い訳が通用すると思っているのか!」


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