58 女王マティルデの結婚【sideフェルディナント】
王女と顔を突き合わせたくなくて、危険を承知で街を出歩く。
ふと、目の端に屋台に置かれた新聞の文字が目に入った。
『ノルトハルム』『結婚』
新聞に載るほど、誰が結婚したのかと知りたくてそれを買った。
新聞を広げると、1面の文字が躍る。
『ノルトハルム王国 新女王マティルデ陛下 御成婚』
「マティルデ!?」
新聞を食い入るように見て、必死に文字を追う。
「エッケハルディン侯爵令嬢であられたマティルデ嬢が、ノルトハルムの女王としてご即位された。即位式は厳かに行われ、バルコニーに現れた若く美しい女王の姿に、国民は歓声をあげ、熱狂した。また即位式と同時に女王の結婚式も行われ…」
マティルデが女王!?
結婚式!?
そんな…!
「アンデクス帝国、帝国軍最高司令官クロノス・ヴァン・アンデクス・ベルンシュトルフ公爵が王配となられた」
『漆黒の悪魔』
『首狩り公爵』
ゾフィー王女が輿入れするはずだったアンデクスの王弟が、マティルデの夫!?
「そんなバカな…!!」
ベルンシュトルフ公爵がノルトハルム王国をスムーズに支配するために、王族の血の濃いマティルデを担ぎ出したのだろう。
アンデクスの属国になったノルトハルムの女王。
傀儡の女王……。
「俺たちの尻ぬぐいを君にさせるなんて…! ごめんマティルデ」
後悔してもしきれない!
何故俺はあの日、検問所でゾフィー王女を助け、出国してしまったんだ。
あのまま王女が捕まっていたら、王宮に引き戻され、そのままベルンシュトルフ公爵に輿入れしたはずだ。
そうすれば戦争も起こらなくて、王室病の薬もアンデクスが開発していたんだから、王女も治療を受けて助かったはずだ。
そして俺はマティルデと結婚して領地で暮らして……
そうして何もかも丸く収まったはずだったのに――――!!
記事の一番下の小さな文字が目に入る。
「恩赦…この慶事にあたり以下の恩赦が出された」
軽犯罪の収監者や政治犯たちの名が並ぶ一番下に……
「先の戦争の原因とされた第2王女ゾフィー・シリス・ノルトハルムとフェルディナント・フォン・グリフ伯爵令息を不問とする。それに伴い捕縛命令も解除する……」
捕縛命令も解除する……
もう捕まることはないんだ。
宿に戻り王女にこの事を話した。
「俺はノルトハルムに戻って、家族の様子を確かめたい」
「……ならあたしも行く」
「え?」
「あたしも王女として自分のしでかした事を見なきゃ…」
「捕まることはないが、恨まれているだろうから危険だぞ」
「それでも行かなきゃ……」
王女はスカーフで赤毛を隠し、埃まみれの外套ですっぽりの身を隠した。
俺は金髪を短く切り、帽子をかぶり口元をクラバットで隠す。
行商人に金を握らせ、連れのふりをして検問所を越える。
ここを越えるのをどんなに待ち望んだか……!
半年ぶりに故郷の土を踏んだ。




