54 ひよっこ女王【sideマティルデ】
「お前が色々調べて配分したのは分かってる。俺はお前より12も年上で色々経験があるから口出ししているだけだ。今はな」
今は?
「お前が大人になり経験を積み、真の女王になった時、お前が考え、決めたことで国が動くことになる。
俺たちはただの人間なのに、自分が決めた事で国が動くんだ。民の命をこの手で握っているんだ。どうだ、恐ろしいだろう?」
「……ええ。すごく恐ろしい」
「だが、その采配に正解はないんだ。俺は農地改革の予算を削れと言ったが、その農地改革で画期的な農法が発見され爆発的に豊かになるかもしれない。そして攻め込んでくる国もいなかったとしたら、100年後の歴史学者はお前を賢王と称え、反対した俺に愚か者の烙印を押すだろう。…まぁ、この戦乱の時代にそんな未来はないだろうが……つまり何が言いたいかと言うと、今の正解が長い目でみれば失敗になる場合もあるし、愚策と言われた采配が未来の民を助ける可能性もあると言うことだ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「学んで悩め。それしかない。専門家の知恵を借り、官僚に情報を集めさせ、側近の意見を聞き、場合によっては自分で調べて学習し、決定しろ。間違ったり、時間経過で事態が変わったのなら修正すればいい。今考えうるベストの決断を自分を信じて下せ」
「……分かった」
この男の側にいると背筋が伸び、何も怖いものがなくなる気がした。
「まぁ、とにかくあと2年は勉強に励め、ひよっこ女王」
そう言って彼は、私の身体を上から下まで眺めた。
「大病の後だし、10代では身体が出来上がっていないから出産のリスクが高いと聞く。2年たったら子を産んでもらう。そうだな~~~3人は欲しいところだな」
またニヤニヤ顔だ。
「それまでしっかり勉強……閨のお勉強もしておけよ、ひよっこ女王」
『ひよっこ女王』
彼は臨終までその名で私を呼んだ。
議会で私の復興支援案を元に予算会議が行われた。
「平民のための学校など必要ないのではありませんか」
「しかも今じゃなくてもいいでしょう」
議員が意見を出してきたので、私が答えることにした。
「国が落ち込んでいる今こそ、明るい未来を指し示す事業も必要なのです。教育は国の屋台骨です。国民の95%は平民なのですから、彼らが学を得て商人や職人などになって稼げば、税金も徴収できますし、外貨も稼いできてくれます。そして街に活気が戻り、他国の商人たちも我が国で商売を始めてくれます。現にフラウ国ではその実績があって…」
「他国の商人などと言って、ならず者が入ってきたらどうするんですか!?」
「論点がずれています。平民の教育の話をわたくしはしているのであって…」
「平民に教育…平民へのご機嫌取りですか? さすが国民のアイドル女王は違いますなぁ~~」
ドガン!
大きな音が会議場に響いた。
クロノスが自分の前に置かれていた机を蹴り上げたのだ。
「この予算案は各識者の意見をもとに、マティルデ女王が決めたものだ。女王が決めたこと、すなわち決定だ」
会議場がしん…と静まり返る。
審議が終わり、議場を去る議員からは『アンデクスの犬』『女王を操る暴君』などとひそひそ話が聞こえる。
この人はこの復興支援案を通すため、悪者になってくれた。
敵国からは『漆黒の悪魔』『首狩り公爵』と恐れられていた人だけど、アンデクス国民には人気があったのもうなずける。
特に兵士には慕われていて、戦後、駐留していた兵士の4/5は国に帰ることになったのだが、皆クロノスの元に残りたがり選別するのが大変だったと聞く。
クロノスを見る兵士たちの目はキラキラと尊敬のまなざしの者ばかりだ。
その最たる者が、クロノスの側近マックス卿だ。
「マックス」
「はっ!」
「今、俺の悪口を言った議員を辞めさせて、家は没落させろ」
「ただちに」
執務室に戻りながら尋ねてみた。
「あの議員も国民よ? 貴方は奴隷じゃないの?」
「俺は俺に従う国民の奴隷ではあるが、俺に敵対する国民には処刑人になる」
やっぱり暴君みたいだわ、私の夫は。




