50 2つの道【sideマティルデ】
「…御冗談を」
笑い飛ばそうと思ったが、目の前の男の顔は真顔のまま。
冷汗が背を走る。
「冗談ではない。俺が王族を全員殺したのを知っているだろう? 王家の血を引いていて俺と結婚できる未婚の女はお前だけだ」
「貴方自身がこの国の王になるのではないのですか」
「始めはそうしようと思っていたのだが……下手をしたら兄上に目をつけられそうだからなぁ」
兄上とは現アンデクス帝国の皇帝のことだろうか。
「こう見えて俺はアンデクスの国民には人気があるんだ。それを兄上は警戒していて、俺を国外に出したくて、ここの統治を命令したんだ。だがな、もし俺がこの国の王になったらなったで、きっと良い顔はされない」
思案顔が、いやらしい笑顔に変わる。
「そこで、お前の出番だ。若く美しい、『王家の色』を持つエルフの女王。看板としては最高だ。国民からも人気が出るぞ。王家の血を引くお前が女王になれば、高位貴族たちも従うだろうしな」
「……女性は王になれません」
「新生ノルトハルムの法を定めるのは、支配者の俺だ」
「……貴方には妻が二人いると聞きました」
「あぁいるな。だがアンデクスでは重婚が認められている。艶福家の兄上が法律を変えたからな。そしてお前が女王になるなら、俺を必ず王配にしなくてはいけない。俺たちの子が次のノルトハルム王にならなければ、アンデクス側が納得しないからな」
この人との子ども?
どこまで話が飛躍するの?
「二つ目はこのまま過ごすことだ」
「……」
「だが、予言してやる。お前の美貌はすぐに兄上の耳に入るだろう。そして兄上の後宮に召し上げられる……100人妻のいる兄上の後宮にな」
「100人?」
「兄上は無類の女好きだ。敗戦国の美女を未婚既婚問わず後宮に入れる。そして100人いる妻たちは兄上の寵を得ようと常に争っている。重婚が許されているから正妻や第二夫人とかの肩書がなく、皆平等だから争いを抑える上の者がいない。だから無秩序に争い毒殺が横行している。1年で20人ほど死ぬが、兄上が毎年新しい妻を迎えるから支障がないので、放置したまんまだ」
唖然としていると、大きな口がにたりと笑う。
「そこにお前は入ることになるだろう。しかし脅すような事を言ったが、兄上の妻になれば贅沢三昧だ。山海の珍味は食べ放題、豪華な絹のドレス、大粒の宝石まで手に入れ放題だ。上手く立ち回って生き残る才覚はお前にはあるだろう?」
そして話は終わったとばかりに立ち上がる。
「どちらにするかお前に任せる。1週間やる。また来るからそれまでに決めろ」
まるでハリケーンのようにやってきて選択を突き付け、私の心をかき乱したまま去って行った。
心配していたお父さまに閣下が話した内容を告げるが、うーんと唸ったままで答えが出ないよう。
1週間悩んだ。
いや、悩んだつもりでいたが、私の心はすでに決まっていた。




