49 漆黒の悪魔との再会【sideマティルデ】
ドカッ!
「「「きゃぁ!」」」
一緒に玄関先で出迎えた侍女たちが悲鳴をあげる。
彼女たちの前に放り投げられたのは、首を切られた血まみれの鹿。
「王都の周りには良い猟場があるな。こいつと蜂蜜も持ってきたから、これで滋養をつけると良い」
そこには黒衣の軍服に肩にかかるマントも黒、黒い短髪に浅黒い肌を持つ大男が立っていた。
「……ベルンシュトルフ公爵閣下にご挨拶申し上げます。わたくしは……」
「挨拶はいらん。初対面ではなかろう? ベッドで顔を会わせた仲ではないか」
公爵の隣に立っていたお父さまが、ぎょっとして私を見る。
「誤解を招くような発言はご容赦下さい閣下。その節は、わたくしの命を救って下さりありがとうございました」
予想どおりあの日、口移しで薬を飲ませたのはアンデクス帝国の王弟、『漆黒の悪魔』クロノス・ヴァン・アンデクス・ベルンシュトルフ公爵だった。
彼は鷹揚に頷き、私に指示をする。
「マティルデ。お前に話がある。私室に案内しろ」
「…か…閣下。応接室にご案内いたします」
慌ててお父さまが声をかける。
「大切な話だから私室で話すと言っているんだ。2度言わせるな」
「……賜りました」
私は深くお辞儀をし、部屋に案内した。
「ご案内しなくても、わたくしの部屋はご存じでしょう?」
「くくっ……言うようになったな。死にかけだったのに、しぶといものだな」
「お陰様で」
そうして部屋に着くと彼は、まるで自分が部屋の主かのようにドカリと椅子に腰かけた。
「二人きりで話す。出て行け」
「はっ」
着いて来ていた公爵の側近はあっさり退出するが、お父さまはそうはいかない。
「娘は未婚の令嬢です。閣下とはいえ、二人きりにするのは……」
「邪魔だと言っているんだ。出ていけ!」
「お父さま大丈夫です。婚約者に駆け落ちされた私に、守る名誉などもうありませんわ」
そう言いながら腰かける私を、奇妙な生き物を見るような目で見る公爵が面白かった。
「それでお話とは?」
「……お前は随分と生意気だな。俺が怖くないのか?」
「…一度死を覚悟してから、そういう感情に疎くなりましたの。それに閣下には命を助けて頂きました。きっと私を何かに利用できるとお考えになったから助けたのでしょう? でしたら閣下は、まだ私に危害を加えたりなさらない」
「……そうだな。その通りだ。話が早くていい」
男らしい美貌に灰色の瞳だけがギラギラと輝いていて、見つめられるとものすごい威圧感だ。
「お前には選択肢が二つある」
大きな彼の手の指が、二本立つ。
「一つ目はこの国の女王になること」
「……は?」
「そして俺を王配にする」
女王になって王配?
この男を私の夫に?




