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48 戦争終結【sideマティルデ】

 毎日朝、昼、寝る前、黒い大男から渡された薬を飲み続けた。

 効果はてきめんだった。


 まず、身体の内側が絞り出されるような強烈な痛みが無くなった。

 次に熱が下がり、呼吸が楽になる。

 そうすると食べ物も口のできるようになり、起き上がれるようになった。



「ティルデ!」


 いつも優雅なお母さまが、走って私に抱き着いてきた。


「良かった! 良かったわ」


 お母さまの後ろにはお兄さまもいて、同じように号泣している。


「お…おまえ…よく…がん…ばった…」


 そしてその奥にはお父さまがいて、お父さまは後ろを向いて肩を震わせていた。

 お父さまが泣いている姿なんて初めて見た。


「お母さまとお兄さまは、なぜ領地からお戻りになったの?」


「…マティルデ。戦争が終わったんだ。我が国は大敗した。この国は今アンデクス帝国の支配下にある」


 お父さまの言葉に納得する。

 勝てるはずのない戦争だった。



「これからどうなるのかしら」

 不安げにお母さまがお父さまを見る。


「アンデクス帝国の軍は統制されていて、略奪も婦女たちに暴行もしなかった。思ったより悪い事態にならないのかもしれん」




 現在、王宮はアンデクス帝国軍が駐留しており、その最高司令官のベルンシュトルフ公爵が我が国の高位貴族や文官、大臣等を呼び出し、この国を支配する準備をしているらしい。


「王族は全員殺された」


 戦争が始まってすぐ、王たちは国外に逃亡しようとしたのだ。

 それを知ったベルンシュトルフ公爵はすぐに捕縛し、その場で首を切り落としたという。


 付け焼刃の平民軍を戦わせて時間稼ぎをし、自分たちは逃亡するなどと執政者として許しがたいと、公爵は火を吐くのではないかと言うほど激高したという。

 王、王妃、ゲオルグ王太子はもちろん、未婚女性であるアデラィーデ王女も首を落とされた。

 また国王派の貴族たちも多数逃亡しようとしていたので、同じく女子供関係なく全員処刑された。


「さすが『首狩り公爵』だな」

 お兄さまが苦々しい表情でベルンシュトルフ公爵の通名を言う。


「明日、王宮に出仕するように言われている」



 現在、戦争で荒れ果てた国を復興するため、ベルンシュトルフ公爵は王都に残っていた主要貴族や高官を集めて新体制を作ろうとしているそうだ。

 お父さまもそのために呼ばれている。


「自分でこの国を壊しておいて、偽善者め」

 お兄さまの言葉をお父さまが遮る。


「やめろ。反抗心を見せるな。今やベルンシュトルフ公爵がこの国の最高権力者であり、王なんだ。このまま我が国をアンデクス帝国の属国にするのも、また潰してアンデクス帝国に併合するのも、彼の胸ひとつなんだ。色々な政策を打ち出して我々の出方を、忠誠心を見ているところなんだろう」



 お父さまは毎日のように王宮に呼ばれ、時おりお兄さまも出仕している。

 逃がした使用人たちも戻ってきて、屋敷は以前のような活気に戻った。


 だが夜会や茶会はないため、暇を持て余したお母さまとお茶をし、刺繍をする。


 あの薬を2週間飲み続け、療養すること1カ月。

 先日床上げをした。


 まだまだ万全とは言えないが、日常生活に支障がないほどには回復した。



 そうなると気になるのはフェルディナントのこと。


 戦争の切っ掛けとなった王女との駆け落ち……戦犯として指名手配をし、探しているというが、まだ見つかったとの報告はない。


 裏切られ、駆け落ちされた事など、死を覚悟し乗り越えた今となっては何だか遠い過去の出来事のようだ。


 あの頃は惨めで怒りも感じていたが、今はなんの感情もわかない。

 彼とはそういう縁だったのだと、他人事のように思い、心は凪いだまま。


 だが、そんな心穏やかな日々は、長くは続かなかった。



「旦那様がまもなくお戻りになるそうです。客人をお連れするので、お嬢様にも出迎えるようにと」



 侍女の言葉に何かが始まる予感がした。


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