47 俺たちのせいで戦争が始まる【sideフェルディナント】
「……フェル助けてくれてありがと。でもいいの? 国を出ちゃって。結婚式はもうすぐなのに」
「乗りかかった船ですから、ここまで来たら王女をブルノン地方まで送ります。結婚式までは1カ月ありますし、必ずその日までに帰りますから大丈夫です」
「……そう…」
「地図を見せて下さい」
グレタ嬢から王女は地図を受け取っていた。
地図によると、母君の墓があるブルノン地方はここから馬車で10日ほど。
王女をそこに送り届けたら馬車ではなく、馬で走れば5日ほどでここに戻って来られる。
問題ない。
結婚式に充分間に合う。
「10日ほどの旅になります。必需品の準備をしましょう。それと馬車を借りて…」
そこでぐらりと王女の身体が傾いた。
「ごめ…」
病人が7時間馬車に揺られたのだ。王女は限界だ。
「検問を越えられたから、ほっとしちゃって…」
「大丈夫ですか。今日はもう宿を取って休みましょう」
ここでも安宿を取った。
王女がどれくらい金を持っているか知らないが、まさか旅をするなんて思っていなかった俺の手持ちは少ない。
節約をしなくてはいけない。
宿につくと、王女はすぐに寝込んでしまった。
熱も出てきたみたいだ。
「仕方ない。数日休ませるか」
王女が寝ている間に手紙を書くことにした。
訳があって旅に出ていること。
結婚式までには必ず戻るということ。
心配しないでいいこと。
1通はグリフ伯爵領のカントリーハウスへ。
もう1通は王都のエッケハルディン侯爵家の屋敷にいるマティルデへ。
ノルトハルム王国に行くため、検問を通ろうとしている商人を捕まえて金を出し、郵便局に出してもらうように頼んだ。
「これでとりあえずはいいか」
だが、思わぬ臨時収入に喜んだその商人がノルトハルムに入国したとたん酒場に行き、すっかり酔っぱらって手紙を無くしてしまうなど、俺は想像もしていなかった。
2,3日様子をみたが、王女の熱はなかなか下がらない。
そこで食欲のない王女のため、果物を買おうと街に出た。
このバーテン王国は、我がノルトハルム王国の約2倍の大きさの国土を持つ豊かな国だ。
「活気があるな」
そしてここはノルトハルムとの国境の街ドーナ。
国境の街だけあって、商人が多く、商店がひしめき合っている。
他国からの輸入品の店や、海からの海産物も店先に並ぶ。
古代の砦跡や神殿など史跡も多く、観光地としても人気のようだ。
「マティルデを連れてきてもいいかもしれない」
王都からは7時間で来られる町だが、グリフ領からは馬車で4日はかかる。
「王都で結婚式を挙げたあと、グリフに帰る前に遊びに来てもいいかもな」
果物を買い、宿に戻ろうとしていると広場で新聞屋が叫んでいた。
「号外! 号外! アンデクス帝国とノルトハルム王国が戦争だぁ!」
まさか!
市民と共に号外を奪い合い、何とか手に入れたそれを路地で読み始める。
「アンデクス帝国がノルトハルム王国に宣戦布告…」
本当なのか。
いったいどうして!
小声で新聞内容を読む。
「第2王女ゾフィー・シリス・ノルトハルム王女と、アンデクス帝国、帝国軍最高司令官クロノス・ヴァン・アンデクス・ベルンシュトルフ公爵との成婚を間近にして、ゾフィー王女が以前から噂になっていた護衛騎士フェルディナント・フォン・グリフ伯爵令息と王宮から出奔したとのこと。駆け落ちと思われる……」
駆け落ち!?
俺と王女が!?
「その駆け落ちに面子を潰されたアンデクス王が激怒。再度ノルトハルム王国からの休戦要請に聞く耳を持たず、宣戦布告。アンデクス王弟でもあるベルンシュトルフ公爵自身が兵を率いノルトハルム王国を攻撃。多数の死者が出ている模様……」
嘘だ…!
嘘だ…!
「王女らしき女性を連れたグリフ公爵令息がバーテン王国に入国したとの情報があり、二人が一緒に逃亡していることは間違いない。アンデクス帝国は捕獲を急いでおり、広く情報を求めている」
新聞で顔を隠し宿まで走る。
部屋に戻ると王女は変わらず眠っていた。
「良かった…まさかこんな安宿に泊まっているとは思っていないんだろうな。だが時間の問題だ…」
逃げなくては!
再度顔をフードで隠して、水や食料を購入。地味な平民服も手に入れた。
馭者付きの馬車を貸し切る契約をし、金を払う。
宿に戻ると王女が目覚めていた。
額にふれると、微熱まで下がっている。
「詳細は行きながら説明します。服を着替えて下さい」
日が暮れると馬車に乗り込み、闇に紛れて母君の墓があるブルノン地方に出発した。




