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44 成り行きで国境の街まで【sideフェルディナント】

「何故こんなところに…」


 当たり前だが、この乗合馬車に護衛の姿はない。


「……とにかく戻りましょう!」


 本当は今日、王女はアンデクス帝国に出発する予定だった。

 だが、あいにくの大雨で明日に延期になったのだ。



 王女の手をひっぱり馬車から降ろそうとするが、座り込んで抵抗する。


「フェルお願い! 見逃して!」


 そんなこと、できる訳ない!


「とにかく馬車から降りて下さい!」


 抱き上げて降ろそうとするが、王女は手足を振り回し必死に抵抗する。

 そこにグレタ嬢もしがみついてくる。


「待って! どうか話を聞いて!」


 揉み合う俺たちに、前の馭者席から男の怒鳴り声が聞こえた。


「おいあんた! 乗るのか? 乗らないのか? 乗らないならさっさと降りろ!」



 その声に冷静になる。


 これは乗合馬車だ。

 同乗していた数人の平民たちが、迷惑そうに俺を見つめていた。


「…乗る……」


 ポケットから金を出し、小窓から馭者に渡すと馬車は走り始めた。


 王女の隣に座り込むが、同乗者がいる中では詳しい事情は聞けない。



 途中休憩をはさむが、黙ったまま7時間。

 馬車は西の端、隣国バーデンとの国境の町ポルトに着いた。


 まさかこんな長距離の乗合馬車だったとは思わなかった!



 とにかくすぐに引き返す馬車を探さないと日が暮れるまでに王宮に戻れない。


 王女の手首を掴み、歩き出すと彼女は暴れ出した。


「嫌! 絶対王宮には帰らない! あんな所に戻りたくない!」


「王女の貴女がどこに行くと言うんです!? 明日アンデクス帝国に出発するんですよ?」


「そうよ! あたしは王女よ! 『王家の色』を持つ誰よりも正統な王女なのよ! でも生まれた時から意地悪ばかりされて、王家はあたしを王女として扱ってくれなかった!  なのに、王女としてアンデクスの悪魔に嫁げって……! こんな時にだけ良いように言って押し付けてくるなんて、もう我慢できないの!」


 初めて王女が負の感情を見せた。


「どうしてあたしだけがこんな目にあわなきゃいけないのよ! あたしもうすぐ死ぬのよ? まだ18才なのに死んじゃうの! なのに、敵国で一人淋しく死ぬしかないなんてひどいじゃない!」


 ぼろぼろと涙が流れるアメジストの瞳が、すがるように俺を見つめる。


 震える両手が、俺の服を握りしめる。


「お願いフェル。一人で死ぬのは怖いの。だからお母様の側で死にたいの。お願いだからせめてお母様のお墓の側で死なせて!」


「……」


 何も答えられなかった。


 王家の非道には俺も憤りを感じている。


 王女のことも可哀想だと思う。



 でも…

 いったいどうしたら……!




「これ以上は王女様のお身体が持ちません。とにかく宿を取って休ませて差し上げましょう」


 グレダ殿の言葉に、王女を見ると足元がふらつき、顔色も悪い。

 7時間も馬車に揺られたのだ。

 もう王女の身体は限界のようだった。


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