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43 王女の家出【sideフェルディナント】

 王女の輿入れは2か月後の3月10日に決まった。


「フェル、今までありがとう。もうお義姉様たちは来てないから一日中側にいてもらわなくても大丈夫よ」


 一回り痩せてしまったゾフィー王女が俺に言った。


「しかし、お身体が…」


 アデラィーデ王女たちの襲撃がなくなっても、王室病であることは変わりない。

 支えたり、体調の良い日には連れ出したり俺にできることはたくさんある。


「最近調子がいいのよ? 熱もないし。それにグレタと輿入れの準備を進めるのに忙しいの」


 王家は最低限の輿入れ準備はする気のようで、仕立て屋や靴屋、宝石商が引っ切り無しに王女の部屋に出入りしていた。


「…分かりました」


 以前、自分から王女の元を離れたくせに、今度は逆に突き放されたらショックを受けるなんて、俺は愚かだな。


「俺の役目も終わりか」


 ゾフィー王女、グレタ嬢、俺。

 俺たちは王宮に取り残された、小さな家族のようだった。


 案外、アンデクスはゾフィー王女を大切にしてくれるかもしれない。

 少なくともここにいるよりは、幸せになれるのではないか。


 王女が輿入れの日に、グレタ嬢は王宮侍女を辞するそうだ。

 故郷には婚約者もいるから結婚するらしい。

 先日の里帰りで結婚式の準備を進めていた。


 俺もあと3カ月でマティルデと結婚する。


 みなそれぞれ、別の道に歩んで行くのだ。



「俺も王女の輿入れ日に退団するか」


 正式な退団日を決めていなかったが、王女がアンデクス帝国に行けば護衛騎士の仕事は終わる。

 王女が心配だったから、結婚式ギリギリまで勤務しようと思っていたが、潮時だろう。


「他の王族の護衛など反吐が出るしな」


 これからはマティルデと家族、領地のことを考えて生きていこう。






 3月10日、ゾフィー王女がアンデクス帝国に輿入れする日。

 早朝から土砂降りだった。


 朝いちばんに、近衛騎士団の事務室に退団の挨拶に行った。


 事務方の兵士から何の労いの言葉もなく、素っ気なく『退団証明書』を渡され、4年半の俺の近衛騎士としての日々は終わった。


 ゾフィー王女への挨拶は午後からだと言われている。

 少し体調を崩したそうで、午前中は休むことにしたそうだ。


「まだ6時間以上あるな」


 暇だしメシでも食おうと王都に降りることにした。


 馴染みの店に入ろうとした時、ふと対向の道路に止まっていた乗合馬車が目に映った。


 ちょうど二人組の女性が乗り込もうとしているところだった。



 ドクン。

 嫌な予感に心臓が跳ねた。



 大雨で見にくいが、ひと際小柄な女性の外套のフードから、見慣れた赤毛がこぼれている。



 ドクン。


 ドクン。



「まさか……!」


 まさか。

 まさか。

 こんな場所にいる訳がない!


 彼女は王宮で休んでいるはずだ!



 確かめようと行きかう馬車の間をすり抜け、乗合馬車に近づく。

 馬車の中を覗き込み目を凝らすと、二人組の女性が身を寄せあって座り、小声で話し合っていた。


 フードから見える口元、手の仕草、疑いが確信に変わって行く。


 馬車に乗り込み、その女性の肩を掴むとびくりと震えたあと、顔をあげた。


「…王女」


 外套を着た小柄なその顔は間違いなくゾフィー王女で、側にいた女性はグレタ嬢だった。


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