40 酷くなった王女への虐待【sideフェルディナント】
ホールに急ぎ戻ると、マティルデはもちろん、エッケハルディン侯爵家全員が帰ってしまっていた。
『今日はきっと素敵な夜になるわ。楽しみましょうね』
そう言ってたのに、俺を置いて帰ってしまうなんて。
やはりニコラウスの言う通り、不味い行動をしてしまったんだろうか。
「……謝りに行こう」
すぐにエッケハルディン邸に向かおうと思ったが、乗ってきた馬車でマティルデが帰ったようで、それが戻ってくるまで足が無かった。
今日は建国記念式典の最終日で道は混んでいるから、戻ってくるのに40分以上はかかるだろう。
「仕方がない。とりあえず王女の様子を見に行くか」
そうして王女の私室に向かうと、グレタ嬢がドアから飛び出してきた。
「あぁ良かった! フェルディナント卿!」
「どうした!」
「夜会から戻られた王女様が倒れられて…」
急いで王女の枕元に行くと、青い顔で荒い息を吐き、潤んだ目でこちらを見てきた。
「…フ…フェ…ル」
「王女。大丈夫ですか」
「ふふ…フェル…素敵な服ね…。かっ…こいい…。マテ…ィルデ…さんも…すごく綺麗な人…お…お似合い…ね…」
王女の目じりから涙がこぼれる。
「ごめんね…迷惑…ってわか…てる。でも…もう少しだけ……もう少し……だけでい……いから側にいて…フ…ェル…お願い……」
「…わかりました」
王女が浅い眠りに着くと、グレタ嬢に詳細を聞いた。
「アデラィーデ王女たちの暴力はどうなんだ」
「…酷くなっています。昨日も夜半に押しかけて来て、30分以上も叩かれていました。最近は王女様も抵抗するようになったんです。でも王太子様に床に押し付けられてしまって…」
「誰もこの暴挙を止めるものはいないのか…」
「王女たちの母君の王妃様のご実家は権勢を誇る公爵家です。王すら逆らえません」
「そうだな…」
「それに気になることがあって…」
「どうした」
「最近王女様の体調がすぐれないようなんです。始めはフェルディナント卿に距離を置かれて、ふさぎ込んでおられるだけだと思っていたんですが、食欲も落ちていらして。何だか嫌な予感がするんです」
「……しばらく様子をみて、改善しないようなら医師に見せよう」
「でもお医者様を王家の方が呼んで下さるでしょうか」
「…それは俺が何とかする。グレタ嬢は王女の体調に充分注意してくれ」
そうして話を切り上げ、王女の顔を見てから帰ろうとすると異変に気付いた。
「王女が吐いている」
「え!?」
「吐しゃ物で窒息するから横向きにして!」
「はい!」
グレタ嬢が王女の身体に触れると叫んだ。
「熱い…ものすごい熱です!」
「横向きには俺がする。グレタ嬢は氷と水をもらってきてくれ!」
朝までつきそい、様子を見たが一向に熱は下がる気配はない。
嫌でたまらないが、以前俺をいじめていた近衛の上司に頭を下げて、医者を紹介してもらった。
やってきた医師は元王宮医師で、現在軍医を務める初老の男だった。
「おそらく流感でしょうが、熱が高いのはお辛いでしょう。解熱剤をお出ししますので、様子をみてください」
そう言われて薬を飲ませると次第に効果があらわれ、3日目には熱は下がり始めた。
1日中部屋に詰め、王女の看病をしていた俺とグレタ嬢はようやく安堵の息を吐いた。
だが、熱は下がったのに王女の容体は芳しくない。
顔色も悪いし、食欲もない。何とか食べれても全部吐いてしまう。
ずっと身体がだるそうで寝てばかりおり、時おりお腹が痛いと訴える。
「もう一度お医者様に見てもらった方が…」
グレタ嬢がそう口にした時、件の医師が様子を見に来てくれた。
王女の状態を見て、慌てた医師はすぐに診察を始める。
「熱が下がったのにこの症状は…何か別の病かもしれません。お腹が痛いと仰っていたのですね?」
そう確認を取りながら長い時間考えこんでいたが、王女の顔をじっと見て急に顔を上げた。
「この症状に一つだけ心当たりがあります。採血をしてもよろしいか」
最新の治療では、血を調べて病気を発見することができるそうだ。




