39 訳の分からない叱責【sideフェルディナント】
王宮に到着すると、マティルデは興奮で顔を紅潮させながら、辺りを見回していた。
いつもは年よりも落ち着いているのに、今日は子どもの頃のようだ。
「可愛いな」
会場に入ると、みなマティルデにくぎ付けだ。
その美貌に目が離せなくなって固まっている男。
羨ましそうに俺を睨む男。
ため息を吐いて憧れの目で見る令嬢。
実に気分が良い。
だが、その高揚した気分も王族の登場で、一気に吹き飛んでしまった。
最後に登場したゾフィー王女の様子は、明らかにおかしかった。
いつもよりひどい暴行を受けたのか、完全に足を引きずって歩いている。
ふらふらと覚束ない足取りで、痛みに顔を歪めている。
そして壇上に上がる階段に差し掛かった時、上がり切らない足が引っかかって大きく身体ゆれた。
あ! こける!
思わず助けに行こうとすると、左側の腕が引っかかって動けなかった。
その腕にはマティルデの手が添えられており、驚いた表情の彼女が俺を見ていた。
しまった!
今はマティルデをエスコート中だった。
こんな公衆の面前で王女に駆け寄るところだった。
曖昧に微笑んで誤魔化すが、王女の状態が気になって仕方がない。
なんとか王女はこけずに壇上に上がり着席したが、大丈夫だろうか。
くそ!
俺が急に距離を取ったせいで……!
今まで俺が止めていた分、余計に酷く痛めつけられたのかもしれないと思うと、居ても立っても居られない。
どうして王女はそんな状態で夜会に来たんだ。
もし公衆の面前でこけていたら、王族としては大失態だ。
彼女のプライドも酷く傷ついただろう。
マティルデとダンスを始めたが、視界に時おり王女の姿が入る。
なんとなく、彼女の顔色が悪いような気がして、何度か見て確かめる。
すると俺に気が付き、満面の笑みを浮かべ小さく手を振って来た。
その笑顔を見てほっとした。
とりあえずは大丈夫なんだなと、頷いて返した。
しかし、ちょっと距離を置いただけでこんなことになるなんて、これからはどう対応しよう。
何か良い方法はないかと考えていたら、いつの間にかダンスは終わっていた。
とにかく後で王女の状態をグレタ嬢に聞きに行こう。
そう思いながらマティルデと共にホールの端に寄ると、ニコラウスが俺の腕をいきなり掴んできた。
「お前、この期に及んでその行動はどういうつもりだ」
周囲に聞こえないように押し殺した低い声に、何のことか分からずに呆けていると別室まで連れていかれた。
休憩室に入るとニコラウスは乱暴にドアを閉め、怒鳴りつけた。
「お前、いったい自分が何をしたか分かっているのか!」
「な、何を怒っているんだ?」
「お前なぁ!側に婚約者のティルデを連れているのに、ずーっと王女を見たまんまだったんだぞ! ダンス中もチラチラ見て、挙句の果てに目と目で合図しあって、笑顔で手を振る王女に満足そうにうなずき返して……公衆の面前で二人の仲を見せつけるなんて…! お前はエッケハルディン侯爵家を、ティルデをバカにしているのか!」
「そんなことしてな…」
「してたんだよ! 噂の3人が揃ったんだ! ホール中のやつらが注目している中で、お前はそんな事をやったんだよ! バカが!」
「そんなつもりじゃ…ただ王女の体調が心配で…」
「うるさい! もういい!」
ニコラウスは大声で叫んで、聞く耳を持ってくれなかった。
「お前には心底がっかりしたよ」
そう捨て台詞を吐いて、出て行ってしまった。
「……そこまで怒ることはないだろう?」
何度も自分の行動を思い返してみるが、ニコラウスが言うようなあからさまな事はしていないはずだ。
しばらく放心状態でいたが、とにかくホールにはティルデが待っている。
もし気を悪くしているなら謝らなくてはと思い、戻ることにした。




