38 建国記念式典の夜会【sideフェルディナント】
俺は少しずつ王女と距離を取るようにした。
これ以上大切なマティルデを苦しめたくなかったし、両親の信頼も失いたくなかったからだ。
「それでは時間になりましたので、失礼いたします」
日が暮れ、勤務時間が終わると速やかに退出する。
切なそうにアメジストの瞳をゆらす王女が、視界に入るが視線は合わせない。
あれだけ色々手を貸しておいて、いきなり放り出すなんて我ながら薄情だと思う。
「すまない」
だが22才の若造が守れるものなど、たがが知れているのだ。
社交シーズンが終わる晩秋、建国記念式典が開催された。
そして今夜の王宮での夜会でクライマックスを迎える。
本来夜会には社交界デビューした成人しか参加できないが、この夜会は16才以上の子女も参加することができる。
17才のマティルデは今夜が初めての夜会。
もちろんエスコートするのは婚約者の俺だ。
エッケハルディン侯爵邸に彼女を迎えに行くと、螺旋階段を降りて来る銀色の妖精がいた。
母上とエッケハルディン侯爵夫人が選んだ俺たちの衣装は、俺の瞳のスカイブルーと彼女の髪色である銀色で揃えられていた。
淡い青色のグラデーションが美しいボリュームあるドレスがキラキラと輝いていて、まるで雪の女王のよう。
濃いめに施された化粧がそれをさらに引き立てて、見惚れるような美しさだ。
「すごく綺麗だ」
口下手な俺でも自然に賞賛の言葉が出てきた。
手を差し出し、馬車までエスコートする。
何だか手を離したくなくて乗り込んでからもずっと握り続ける。
そして手の甲に口づけを落として、俺の決意を告げる。
「俺は3月になったら近衛を退団する予定だ」
それが俺のけじめ。
あんなに憧れていた近衛騎士団だったけど、クソみたいな集団だって分かったし、忠誠を誓った王も碌な人間じゃなかった。
だから退団することに何の躊躇もない。
ただ、ゾフィー王女のことは心配だが、マティルデを悲しませてまで守るものじゃない。
「元々5年で退団するつもりだったが、1年早めることにした。結婚式が終わったら領地に帰って、本格的に父上から領地運営を学ぶつもりだ。
だから……今までごめん。結婚したら夫として次期領主としてきちんとするって約束する」
そう言うと、マティルデは花が咲くような笑顔を見せた。
「今日はきっと素敵な夜になるわ。楽しみましょうね」
こんな笑顔は久しぶりに見た。
俺は今まで、どれだけ彼女を不安にさせていたんだろう。
今日は思い出に残る、夜会デビューにしてあげよう。
そう意気込んで王宮に向かった。




