36 王女の欠点【sideフェルディナント】
「……字がお書きになれないのですか…?」
侍女が一人きりの王女に、教師など付けられているはずがない。
かろうじて読むことはできたが、文字は書けないし、地理、外国語など王女として必須の知識は全く無く、マナーも下位貴族以下のことしか身についていない。
「出来るだけお教えようとしたのですが、時間がなく…」
グレタ嬢は一人で王女の世話をしているから当たり前だ。
いくら『はずれ王女』として冷遇されているとはいえ、将来は他国の王族かこの国の高位貴族に嫁ぐことになるだろう。
そんな王女が字が書けないなんて――――!
それからは学生時代の教科書を引っ張り出し、俺が教えることにした。
俺は元劣等生。初歩から教えることができる。
意外にも王女は飲み込みが早く、教える方にも熱が入った。
時には深夜まで教えることもあり、3人とも寝不足気味だ。
だが、そこで連帯感が生まれ、俺たちはいつしか兄妹のような気安い仲になっていった。
「フェールー!」
王女は俺を愛称で呼ぶようになった。
「それはマナー違反です。異性を愛称で呼べるのは家族と婚約者だけで…」
グレタ嬢の小言も聞こえないようで、久しぶりの王都に王女ははしゃいでいた。
勉強ばかりじゃ煮詰まるからと時々、市井に息抜きに連れて行ってやっている。
「フェル、フェル。あのキラキラ飴食べたい」
ゾフィー王女は屋台の七色飴がお気に入りだ。
「はいはい」
お金を持っていないから、いつも俺のおごりだ。
「ん~美味しい!」
大好きな飴を頬張る姿は子どもみたいだ。
これで17才か?
「ありがと~フェル大好き!」
「はいはい」
いつしか子猫が懐いて、子犬になっていた。
こんな日々が続いたため、王女と俺の噂はまだまだ消えることはなかった。
だからなるべく時間を取ってエッケハルディン侯爵邸に通うが、王女が心配で長時間いることができない。
王女が体罰を受けている事や勉強を教えている事を言えば、優しいマティルデなら理解してくれるだろう。
だが、それでは王女のプライドを傷つけてしまう。
あんなに虐げられても、王女として立とうとしている彼女の心を守ってやりたい。
どうせ俺はあと2年で退団するし、王女もそろそろ婚約者が決まるだろう。
それまでの事だから、どうか見逃して欲しいと思っていた。
ところが最愛の娘の心無い噂に、とうとうエッケハルディン侯爵が我慢できなくなったようだ。
領地から両親を呼び出し、侯爵邸でこの事態について話し合いをすることになった。




