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34 ありえない失態【sideフェルディナント】

「庭に花を見に行きたい」


「その足ではお辞めになった方が…」


「嫌! 行きたいの!」


「…私がお連れいたします」


 王女を抱き上げようとすると止められた。


「やめて。ケガをしている事を知られちゃう」


「……分かりました。では私の腕に掴まって下さい」



 初めはエスコートのように腕に手をかけるだけだったが、痛いのだろう、段々と身体が寄りかかってきた。


「もっと寄りかかっていいんですよ」


「…ありがと」


 小柄な王女の小さな頭を見下げて見えるのは、恥じらって真っ赤に染まった頬。

 ようやく子猫が慣れてきたかと嬉しくなった。



 だが、俺の休日を狙った王女への暴行は止むことはない。

 だから、休日も王女の部屋に詰めることにした。




 マティルデが貴族学院に入るため王都にいることは知っている。

 婚約者として早々に挨拶に行かなければならないことも分かっている。


 だが、目を離すと王女のあの細いふくらはぎに痛々しい傷が増えるのだ。

 俺はマティルデに『今は仕事が忙しい』と手紙を送り、時間稼ぎをすることにした。



 だが、春になってとうとう痺れを切らしたマティルデの兄、ニコラウスに呼び出された。


「婚約者が王都にいるのに、3カ月も訪ねてこないとはお前はどういうつもりだ」


 もっともな言葉に反論の余地もない。


「すまない」



 エッケハルディン侯爵家のタウンハウスの応接室には趣味の良い美術品が飾られ、名のある職人が作ったであろう花瓶には、大輪の花々が生き生きとした姿で生けられていた。

 そこに春の女神のように美しい14才のマティルデが銀の髪をゆらし、手入れの行き届いた指先でティーカップをつまんでいた。


 ろくな調度品もないゾフィー王女の部屋と大違いだ。

 侍女が一人しかいない王女の指先は磨かれてなどいないし、こんな高級茶葉など与えられてもいない。


 同じ王家の血を引く同い年の二人なのに、この落差は何なのだ。



 ニコラウスの非難が続くが、こうしている間にも王女が傷つけられているかもしれないと思うと早く帰りたくて仕方がない。



 だが、そこでニコラウスから驚くべき話を聞かされた。




「お前とゾフィー王女の仲が社交界で噂になっているのを知らないのか?」


 そんな話がどこから生まれるんだ!?


 俺はただの護衛騎士だぞ!?



「王女の側にいるのに忙しくて、ろくに夜会にも出ていないから噂話に疎いんだな。今一番の話題の人物だぞお前は」


「そんな! ……誤解だ! 俺と王女はそんな関係じゃない!」


 ただ護衛のために側にいるだけだ!


 王女は俺にとって、庇護すべき子どもみたいなもので……



「誤解や信じる信じないの話じゃないんだ! その噂のせいで婚約者のティルデに瑕疵がつくから何とかしろと言っているんだ!」


「……すまない」


「早急に対処しろ」


「……分かった」


 いったい噂の出所はどこだ。


 まさかアデラィーデ王女の仕業じゃ…!




 とにかく今は早く王宮に戻ろうと身支度をしていると、マティルデに花束を持ってきた事を思い出した。


「長い間、放っておいてごめん」


 そう言って用意していた花束を差し出したのに、彼女の指先は止まったままだ。


「お前、今日が何の日か知らないのか。今日はティルデの15才の誕生日だ。婚約者の誕生日に小さな花束だけとは……! お前、我が侯爵家を侮っているのか!?」」



 ニコラウスの冷え切った声に血の気が引く。


 ゾフィー王女を守るため休日を返上して詰めていたから、すっかり日付感覚を失っていた。




 大きな失態に愕然とし、その手から花束が滑り落ちた。


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