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33 虐げられていた王女【sideフェルディナント】

 そんな穏やかな日々が続いていた午後、昼休憩を終えて王女の部屋に戻ろうとすると、ドア越しに小さな悲鳴が聞こえた。


「どけ!」


 前には一人の騎士がいたが、押しのけてドアを開けた。




 薄暗い王女の部屋には、煌びやかな衣装を着た王女の義兄弟、アデラィーデ王女とゲオルグ王太子殿下がいた。


 アデラィーデ王女の手には小振りのムチがあり、床には四つん這いのゾフィー王女がいた。

 王女のドレスの裾はめくれ、そのふくらはぎには無数のムチの跡が血に滲んでいた。


「許可なく部屋に入るなど無礼なヤツだな! 何者だ!」

 王太子が怒鳴りつけてきた。


「……ゲオルグ王太子殿下、並びにアデラィーデ王女殿下にご挨拶申し上げます。わたくしはゾフィー王女殿下の護衛騎士を務めておりますグリフ伯爵家嫡男フェルディナントと申します」

 跪き騎士の礼をする。


「伯爵子息風情が邪魔するな。とっとと出て…」


「おやめなさいゲオルグ。……グリフ伯爵家の後継者の近衛騎士って…エッケハルディン侯爵令嬢の婚約者の…?」


「……さようでございます。エッケハルディン侯爵家のマティルデ嬢はわたくしの婚約者でございます」


 俺のその言葉を聞いて、王太子と王女は何やら小声で話し合い始めた。



「…今回は許します。今後は許可なく部屋に入らないように」

 そう言って二人は足早に部屋から出ていった。


「大丈夫ですか王女殿下!」


 駆け寄り立ち上がらせようとすると、王女が俺の身体にしがみついてきた。

 強く強くしがみついて、身体を震わせている。



 声も出さずに泣いていた。




 手当をした王女は、ベッドで泣きながら眠ってしまった。


「このようなことはよくあるのですか?」

 俺はグレタ嬢に聞いた。


「ええ。ずっと昔から。訴えても王も王妃も見ぬふりで、誰も止める者はおりません。気まぐれにやってきて難癖をつけて、年長者からの教育だと言って王女に体罰を加えるのです。何度か止めようとしましたが、王女に『そんなことをしたらグレタが罰を受け、辞めさせられてしまう。あたしは一人ぼっちになってしまう』と泣かれてしまって……」


「そんな! どうにかならないのか……!」


「フェルディナント卿はエッケハルディン侯爵令嬢の婚約者だったのですね。だから……」


「?」


「エッケハルディン侯爵夫人は王が溺愛している妹姫。そのお子様で姪のマティルデ様は『王家の色』を持つご令嬢で、同じく王が格別に可愛がっておられる方だと聞いております。その方の婚約者ですから、王女方もフェルディナント卿には強く出れないんでしょう」



 と言うことは……

 もしかすると、俺がいると王女たちは暴力をふるえないのか!?

 それなら……!



 俺はなるべく王女の側にいるようにした。



 だが俺が休日等でいない時に、王女たちはやってきて、ゾフィー王女を痛めつける。


「これは立派な暴行事件です。王が止めないなら議会に訴えて…」


「やめて! こんな事、誰にも知られたくないの。あたし王女なのに。『王家の色』を持つ王女なのに……」


 冷遇されているのは、貴族たちも知っているだろう。

 だが、体罰まで加えられている事までは知らないだろう。



 そしてそれを実の父親である王が黙認しているなんて。



 自分がいじめを受けている事を、知られたくない気持ちは痛いほど理解できる。




 俺だって誰にも言えなかった……。


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