32 はずれ王女の事情【sideフェルディナント】
ゾフィー王女の護衛騎士になって1カ月。
色々知ったことがある。
王女なのに、専属侍女は一人しかつけられていない。
だから侍女のグレタ嬢は、休みを返上して王女の世話をしている。
「こう言ってはおこがましいですが、王女は私の妹みたいな存在なのです。元々王女の母君であるユーリヒ男爵令嬢と私の母は幼馴染で、姉妹のように育ったのです」
その後、大人になったユーリヒ男爵令嬢は王宮で働く事になったそうだ。
王宮で働くことは行儀見習いのようなもので、下級貴族の令嬢には一種のステータスとなり、好条件の結婚相手を見つけるのに有利になるからだった。
「でもそこで……王にむりやり関係させられ…」
グレタ嬢の声が小さく低くなった。
「…強姦されたと?」
「…はい。綺麗な方でしたから」
足元から崩れるようなショックを受けた。
俺は幼少から王を守る近衛騎士に憧れていた。
大人になり実際に近衛騎士になると、イジメがはびこる内情に絶望したが、忠誠を誓う王までもがそんな低俗な人物とは……!
「王女を産み落とした男爵令嬢は冷遇され、王女が2才の時に亡くなられました。私が侍女として王宮に上がった時には、乳母すらろくに付けられていない状態で……。母も王女の事を心配しておりましたし、強引に王女の専属侍女になったのです。
でもたった一人でお世話するのは大変で……今回フェルディナント卿が専属騎士になって下さって助かります。」
嫌がらせで『はずれ王女』に配属されたことに憤っていたが、王女なのにこんな境遇とは……。
どうせ5年で領地に帰る身、嫌がらせで出世も望めない身だ。
それまではできる限り彼女たちの力になりたい、そう思った。
「護衛が付けば外にも出られます」
グレタ嬢が弾んだ声で王女を見た。
「護衛がいないので、王女様はこの部屋からほとんど出たことがないのです。夜会の出席は強要されているので、その往復だけ……王女様、どこに行きたいですか?」
「……お庭に…お庭にお花を見に行ける?」
王女の言葉にグレタ嬢が俺を見てきたので、頷いて言った。
「お供いたします」
それからは王宮内の色んなところに出かけた。
庭園の木々や花、廊下に並ぶ絵画、美術品。
あらゆる物に驚き、目を見開く小柄な王女。
「まるで子どもだな」
だが俺にはまだ、警戒心丸出しで近づいて来ない。
「いや、子猫だな」
今にもシャーっと声を出して後ずさりしそうだ。
こうして外に出歩くと無表情だった王女の顔に、少しずつ笑顔が浮かぶようになってきた。
そんな王女をもっと驚かして、笑顔にしてやりたい。
そう思って俺は許可を取り、王女たちを市井にも連れて出してやった。
行きかう馬車、市場、屋台、洋服店、菓子店。
平民たちの生き生きとした姿に、活気ある街並み。
目を丸くして、ふだん無口なその唇から、たくさんの感嘆の言葉が紡がれる。
はじける笑顔に、せわしなく動くその身体。
楽しそうにグレタ嬢とおしゃべりする王女を、俺は微笑ましく眺めていた。




