02 優しいフェルとの思い出【sideマティルデ】
優しいフェルディナント様との思い出はいろいろある。
ある日、私はお兄さまたちに鬼ごっこに誘われた。
すごく嬉しくて、はしゃいでいたけれど、あっという間に捕まって鬼になってしまった。
そしてそのまま何十分もずっと鬼のままにされていた。
「ほらほら頑張ってここまで来いよ~」
下級貴族の少年たちが、はやし立ててくる。
小さな頃の4才差は大きい。
いくら一生懸命走っても追いつけないままで……
「ふ…ふええええ」
もう走れなくて、くやしくて泣いてしまった。
「せっかく遊んでやってるのに泣くなよ。僕たちが悪いみたいじゃないか、なぁ?」
そう言いながらも、彼らはせせら笑っている。
「ティルデをいじめるな!」
木の陰から飛び出してきたのはフェルディナント様だ。
彼は大人の教師をつけてもらい、毎日剣の稽古をしている。
今日もその稽古の後なのか、手には木刀を握ったままだ。
「女の子をいじめるな! 僕が鬼になってやる!」
そう言って木刀を振り回しながら、彼らを追いかけまわした。
フェルディナント様は年よりも大柄で、運動神経も良かったからすぐに彼ら追いつき、『タッチ』と言いながらその背中を思いっきり叩いた。
そして、そのあまりの痛さに、彼らは泣きながら大人に告げ口をした。
大人たちは事の顛末を知り、お兄さまたちと暴力を振るったフェルディナント様に罰が与えた。
お尻を20回ムチで打つ罰だ。
彼は私を助けただけだと説明したいけれど、嗚咽で声は出ないし、4才の語彙力では上手く説明できなくて……だから罰を終えたフェルディナント様に謝りに行った。
「ごめんなさい」
「騎士は女の子を守る者なんだと父上に教わった。僕は騎士だから当然だ。だからありがとうだろ?」
痛むお尻をさすりながら出たぶっきらぼうな言葉と、赤く染まった頬。
今思い出しても女の子なら、ときめかずにはいられない状況ではないだろうか。
そしてある日には、差し出されたのは青い帽子。
布製の帽子の中には、漏れ出しながらも1/4ほど水が溜まっていて、そこには摘まれた大量の青い小花。
「?」
不思議に思ってフェルディナント様を見ると
「あれ? この前枯らしたって泣いてた花は、これじゃなかった?」
先週、野原に行った時、アルリオの花を摘んで日陰に置いていたのに、遊んでいるうちにしおれてしまって、泣いてしまったのを覚えていてくれたのだ。
「こうして水を吸わせれば枯れないと侍女が言っていたんだけど……違う?」
アルリオの花はピンク。色も違うし、もっと大きな花だ。
「じゃ、いいや!」
そう言って地面に捨てようとしたのを慌てて止めた。
「そのお花がいい! フェル、そのお花ちょうだい!」
「……いいけど」
今度は彼が不思議そうな顔をして、水浸しになったその帽子ごと渡してきた。
その帽子はフェルディナント様のお気に入りではなかったか。
部屋に帰って侍女に花瓶を用意してもらい、その青い花を飾った。
「この花の名前知ってる?」
「ミミルですわお嬢様」
「ミミル…」
小さな花弁、名前まで可愛い。
元気でちょっとやんちゃで優しいフェルディナント様……その日からミミルが私の一番好きな花になった。
またある日は、護衛を連れて二人でグリフ領の町を散策している時の事。
「ほら、僕が持ってやる」
不自由なのか足を引きずって歩く平民女性の荷物を、フェルディナント様は持ち上げた。
「若様!」
彼を見てその女性は驚き、頭を下げようとする。
「いいからひざまづくな。これはどこに運べばいいんだ」
「フェルディナント様! 私が持ちます!」
護衛がその荷物を代わりに持とうとするが……
「やめろ。お前の手がふさがったら、僕とマティルデを誰が守るんだ」
そう言いながら彼はその荷物を女性の家まで運んだ。
「僕は丈夫で力もあるんだから何てこともない」
少年の頃から彼は、か弱きものに優しく、己を捨てて他人を救おうとする人だった。
それは大人になってからも変わらなかった。
それで彼は全てを失ったが――――。
この頃の私はそんな未来も知らず、彼の優しさと行動力を尊敬のまなざしで見つめていた。




